守りたい人がいる。
CASE1 Revengeの誓い
ある秋の日、私――近江 涼夜の平凡なはずだった人生は180度向きを変えた。
「ひ…ぁ……」
喉の奥から言葉にならない声が漏れた。
それは恐怖ゆえの反応。
「思い知りましたか?これに懲りたら、白兎に干渉するのは止めなさいね」
嫌です。
そう言いたかった。
「これで終わり…と言いたいところだけど、中途半端は彼らが納得しないのよ。折角ロリコンの連中ばっかり集めたものでね」
それは、胸も小さくて、背も低い私への当てつけの言葉。
「だから、最後まで相手してあげてね」
怖いくらいの笑顔だった。
そして、彼女の後ろに控えていた男の人が私の服に手をかけ、
”ビリィィ!!”
一気に引き裂いた。
「お嫁にいけない体にしても何してもいいわ。私が許します」
それは、ある種の死刑宣告だった。
何をされるかわかるから怖い。
何も出来ないから怖い。
あぁ、全てがここで終わるんだ。そう思った矢先の事だった。
「礼、何をしている」
その声は、神様の声にも聞こえた。
同時に体にかけられる布のようなもの。
「しばらくそれでも着ていろ」
声の主の男の子、因幡 白兎さんの制服のベストでした。
「…白兎。あなたは、この私に逆らうというのですか?」
「そう言うお前こそ。俺との契約を無視するとは見上げた根性をしているな」
契約…?
「なら、今日限りで破棄ね」
「今日まで有効ということにしてさっさと帰れ」
「いいわ。でも、明日から、ということを覚えておきなさい」
終わった。
そう思ったのと、安心感から、私はあっさりと意識を手放してしまった。
暗転していく視界の中、因幡さんの背中だけがはっきりと見えていた。
目を覚ましたとき、私は因幡さんのベストを着て、その背中にいました。
「目が覚めたのか?」
一番聞きたくて、聞きたくなかった声が聞こえた。
「はい…」
私は何も考えずに、その声に返事をしていた。
自分がどうしてここにいるのか。自分が何をしていたのか、はっきりしない。
「歩けるか?」
その問いに対し、私はYESと答えることは出来なかった。
足に全く力が入らない。
「駄目です…」
「そうか」
因幡さんは私を背負ったまま歩き出した。
「あの…どこへ?」
「俺の家だ。そのままの格好で帰るつもりか?」
言われてようやく、私は自分が何をされようとしていたのかを思い出した。
いっそ忘れてしまいたい。
「今日という日を忘れるな」
「え?」
「忘却というのは、反省すべき事すらも消し去ってしまう事でもある。だから忘れるな」
忘れてしまいたいのに、その行為を止められた。
「しかし、反省し尽くしたら…忘れてしまってもいい。嫌な事は、忘れてしまえ」
その厳しさと、些細な優しさが身に染みる。
涙が出そうになった。
嫌だ。泣きたくない。弱いところなんて人に見せたくない。
そう思ったけど無駄だった。
気付けば涙は溢れていて、声も嗚咽が混じり、言葉になっていなかった。
因幡さんはただ、黙って歩き続けていた。
何も言わないでいてくれることに感謝しながら、私は声を押し殺しながら泣き続けた。
今日という日に後悔しながら泣き続けた。
「…どうも、ご迷惑をおかけしました」
因幡さんの家で服を貸してもらって、私は帰ることになった。
でも、大きい。
女の子としても小柄な私と、180位はあろうかという因幡さん。
服はずり落ちないように、借りたベルトで固定してある。
「さっきの言葉は、こちらが迷惑だと思って初めて意味を持つのだがな」
「なら、因幡さんは迷惑に思っていないのですか?」
「これから俺がやろうとしていることに比べたらな」
何をやろうとしているのでしょうか?
「取り敢えず、だ。ますはあの会津礼に代わって、先程の非礼を詫びておこう。
すまなかった」
そう言って、因幡さんは頭を下げた。
「い…いえ」
同じクラスで、一緒に風紀委員をしていてもこんな一面を見ることはなかった。
だからこそ戸惑ってしまった。
彼はこんな人物だったろうか、と。
「さっき、言ったと思うが…」
「はい」
「俺がこれからやろうとしていることに比べたら、君の言う迷惑など微々たるものだ」
この言い方…まるで、私に迷惑がかかるといっているように聞こえる。
いえ、私の認識は甘かった。
聞こえる、というレベルではなかったのだから。
「お前…俺の恋人になれ」
to the next case ……
「本気で言っているわけではない」
クラスメイトで、一緒に風紀委員をしていて、勝手に好きになって…
「お前に拒否権はない」
それだけの関係だった。
「例の件…俺の胸の内にだけに留めておいて欲しいなら、俺に従え」
それがこの日…崩れてしまった。
――CASE2 一方通行なNegotiation
セナ「この作品、モチーフになったものがあるけど、それについては絶対に語れないね」
涼夜「そうでしょうね。あれですから」
セナ「うん。誰にも言えないと思うからね」
涼夜「それはそうと…」
セナ「あ、はい。次回は白兎の視点でお送りしますが、一人称が『僕』で、口調も穏やかですので違和感を感じてもクレームをつけないでください」
涼夜「つまりは、バグではなく、仕様であると言い張りたいんですね?」
セナ「どっかで聞いたような文句だな、それ」
涼夜「ここからの抜粋です」
セナ「…まぁ、参考書だからさ、高校生の君が持っててもおかしくないけどさ……」
涼夜「何か問題でも?」
セナ「それ、参考書って言うよりも、ただのネタ帳だよ?その英単語帳…」