マホーのチカラ

4.家は直しちゃいました。
















「芳乃屋はもう行けそうにないなぁ」

帰り道、ポツリと呟く。

「魔法もあそこまでいくとテロだよ」

「だよなぁ…使った本人はあそこまで被害が大きくなるなんて思わなかっただろうけど」

僕もユミもカズキについては触れない。

黒焦げになってピクピクと動く”何か”を見ていたからだ。

「で、今日はウチ来るんだよね?」

「うん。荷物取ったら…すぐ……」

家の前に辿り着いた僕等は絶句した。

まず、僕の家が見たこともない豪邸になっていた。

何…コレ?

「…あたしの家……どこ?」

ユミの家がなくなって、そのスペースで僕の家が増築されてた。

「アキラ……これ、夢?そうだよね、夢だよね。家がなくなっちゃうなんて、夢だよね」

ショックでユミが壊れた。

ていうかホント何があったわけ?

「あ、お帰りなさい。アキラさん」

その声と共に、テロリストB(ノル)の姿が目に止まる。

「どうですか?わたしとフロウンで家をこんなに立派にしてみました」

ああ、そうなんだ。

テロリストがここまでやっちゃったわけだ。

うん、制裁決行、だな。

「………」

「な、何で無言で詰め寄ってくるんですか?何か目が怖いですよ?」

ゆっくりとノルに歩み寄る。

「……ゴ・ペクト・フルバー」

ボソ、と呟いてみる。

使った魔法の効果は腕力の異常強化。

「えっと……その腕力でわたしをどうするのでしょうか?」

「言わなきゃわからない?」

「えっと……」

ノルが何かを思い出そうとしている。

「朝ごはんを食べ逃した事…でしょうか?」

「そんなことでここまで怒るかぁああああああああああああああああああ!!!!!!」

その腕力でノルをお空の星に変える。

「じゃあ何で怒ってるんですかぁぁぁぁぁぁぁ………」

悲鳴を残しながらお空に消えていくノル。

「ふぅ」

一仕事終えて汗を拭う僕。

「さ、取り敢えず行こうか」

ユミの方を見て家に入るよう促すと、コクコクと必死に頷いて同意を示すユミ。

何か小動物みたいで可愛い。

閑話休題。

「お帰りなさいませ、アキラ様」

「お隣さんの家を勝手に合体させるなぁぁぁああああああああああああああああああ!!!!!」

ドアを開けて出迎えに出てきたルンをお空の星にする。

「空家じゃなかったんですかぁぁぁぁぁぁぁ…………」

「皆出かけてるだけだって」

お空の星たちに届かない忠告をする。

「ただいま〜」

「あ、先生っていうか、議長。今は……」

ミシさんが帰ってきたらしい。

で、ユミが何とか引きとめようとしてるけど…

「娘にどういう躾してるんですかぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

最後に親を空に放り投げる。

ふぅ、仕事終了。

「アキラ…これってただの問題先送りなんだけど」
























「えー、では。第1回、竹内家並びに向原家、ついでにアルフィニス家の合同家庭裁判を始めます」

皆が並んだ食卓で僕はガンガン、と金槌をテーブルに打ちつけた。

「…普通、木槌じゃ」

「被告人は許可を得てから発言をしてください」

何か言おうとしたノルに一言。

「じゃ、はい」

「もう聞いたから言わなくていいです」

手を挙げたノルをスルー。

「さて、判決を言い渡します」

「「「早過ぎ!!ていうか被告人から何も聞いてないですよ!!」」」

アルフィニス家の面々が一斉に突っ込みを入れるが無視。

「では、原告の向原ユミさん。判決をどうぞ」

「原告が判決決める時点で裁判じゃないんだけどね」

言いながらユミは自分で用意した紙を取り出し、ルンたちの方を向いた。

「えー、家を元通りにする事は可能ですか?」

まずは確認。

実はこの内容によっては判決の内容まで変わってくる。

「一度解体してから元の図面の通りに建てれば…」

ノルが言い難そうにしながら言った。

「却下」

無論、そんな何ヶ月もかかるような事させたらユミだけじゃなくて僕までホームレスの仲間入りだ。

「えーでは、判決です。竹内家、向原家、アルフィニス家がこの家で一緒に暮らします。以上です」

「「「は?」」」

まぁ、妥当だと思う。

何せ、解体した日には皆ホームレスだ。

僕は親が中々帰ってこないような仕事だからあまり問題ないけど、ユミの両親は普通のサラリーマンとパート。

ホームレスにしちゃまずい人たちだ。

そして、アルフィニス家の面々。

この人たちをホームレスにしたらかなりやばい事になる。

「と、いうわけで勝手ながらも部屋割りを決めちゃいました」

言いながらユミが家の図面を持ち出す。

いつそんな物を用意したんだろう?

「A棟、B棟、C棟の三つに分類してありますが、A棟は本来竹内家だった箇所です。ここには勿論アキラが住むことになります。いいよね、アキラ?」

ユミの言葉を受け、僕は頷く。

「次に、B棟。ここはあたし、向原ユミを含めた向原家で使用します。で、C棟は竹内家と向原家の庭部分…つまり、この家に於けるある種のデッドスペースの塊ですが、こちらは議長一家で使用してもらいます」

「はいはいはいはーい」

ミシさんが年に似合わない発言をする。

いや、見た目はぴったりなんだけどね。

「何か、議長官邸としては機能しないように思えるのですが…」

「当たり前です。元々あたしたちの家があった場所で、未だに土地もあたしの親とアキラの親のものです。その二人から許可も取っていない、土地も買い取っていない。それで勝手に議長官邸に使用なんて事自体が間違ってるんです」

「あぅ…」

ユミの正論にミシさんは何も言えなくなった。

それはそうだ。

僕だって住むのは了承したけど自宅の改造までは許可してない。

「さて、それはさておき。アキラ、お風呂はそっちにしかないから。絶対に覗かないでね」

「覗かないよ」

僕だって命は惜しい。

「何か言った?」

「言ってません」
























取り敢えず、地下室を増築する事になった。

「そういえば、アキラの言ってた通りだったね」

「何の話?」

僕は本当に何だかわからなかった。

「ホストファミリーが有名人だって話」

あぁ、と納得して、とても1日の事とは思えない、濃すぎる今日一日を思い返してみる。

朝起きたらルンに刺されて、ミシさんが襖の中から登場して、とんでもない事を教えられて、親子喧嘩が始まって、魔法を撃って。ノルが転落して。

起き抜けだけでこれだ。

でも……

「悪くはない、かな」

口に出してみる。

「何が?」

「ユミと一つ屋根の下」

「えぇっ!?」

顔を真っ赤に染めて、ユミ。

こういうの見てると可愛いな、と思える。

はっきり言って、自分の身の回りで女の子だと意識してみたら一番好意を持てるのはユミだ。

ルンは…多分、ちょっと怖い。

でも、普段の僕とユミは男同士みたいな付き合い方をしてきた。

それが僕等のスタイルだった。

「だって、ユミみたいな可愛い女の子と一つ屋根の下だよ?悪くないに決まってるじゃないか」

だけど、ユミはやっぱり女の子だ。

ずっと僕と一緒にいた女の子だ。

「か、可愛いって…」

ユミの顔は更に真っ赤になる。

こういう反応してくれるから可愛いっていうんだよ、ユミ。
























えっと、どうも。向原ユミです。

って…あたし、誰に向かって自己紹介なんてしてるんだろ?

『だって、ユミみたいな可愛い女の子と一つ屋根の下だよ?悪くないに決まってるじゃないか』

あの時のアキラの言葉が頭の中でリフレインして……多分、あたしは今百面相してると思う。

正直なところ、あたしはずっと昔からアキラのことが好きだった。

そんなだから、あたしの中には男なんてアキラぐらいしかいなかった。

カズキはアキラとの付き合いがあるからそれなりの関係でしかない。

だから、あたしの中ではっきりと男として定義されているのはアキラだけだ。

今だって、目を閉じればアキラとの楽しい思い出が…

『ねぇ…ユミ。お願いだからそれ以上近付かないで』

『何で?ウチのニシキ、可愛いでしょ?』

『錦蛇じゃんか!!』

アキラとの楽しかった思い出が…

『ユミ…練習したいのはわかる。わかるよ。でもね…』

『問答無用!!』

『僕をヌンチャクの練習台にするのは止めて!!』

楽しかった思い出が…

『ユミ!?何で今来るの!?』

『あんた!!女の子に何見せてるのよ!!』

『お風呂上りに勝手に脱衣所に入ってきたのはユ…けぱーっ!!!!』

思い出が…

『どうして僕がユミの宿題をしてるの?』

『アキラなら手伝ってくれると思ったから』

『だからって白紙の宿題を8月31日の真夜中に持ってこないでよ!!』

………

これって、まさか男の子特有の好きな子ほど苛めたくなるっていうやつ?

まぁ、あたし個人としては楽しい思い出ではあるけど、アキラはどうなのかな?

最近は結構一緒にいるけど……アキラは魔法が大好きで、あたしは嫌い。まぁ、食わず嫌いだけどさ。

きっと、アキラは魔法の道を一直線に進む事だろう。

その時、あたしに傍にいる事はできるのかな?

見放されたりしないかな?

あ、でも有名になったら護衛とかにつくのもいいかも。

「アキラはどうするのかな?」

「僕がどうかした?」

「うきゃあっ!?」

アキラが何であたしの部屋に!?

「いや、面白かったよ。廊下で百面相してたかと思ったら腰をくねくねしてたり。僕じゃなかったら精神科に送ってたと思うよ」

廊下!?

「ずっと…見てたの?」

「うん」

終わった……きっと、何もかも。
























次回予告

ルンとノルが転校してきて、僕がハーレムを作ったとかいう噂が流れ始めた。

そんな噂が流れて数日。

「師匠と呼ばせてくれ!!」

馬鹿な事を言い始めたカズキを燃やして、

「お前こそ男の中の男だ!!」

何故か僕を褒め称えるカズキをユミが殴り飛ばして、

「あたしもハーレムの一員かな?」

ユミが壊れた!?


次回、マホーのチカラ

5.人生色々あるのです。

親子丼?知るか!!姉妹丼?だから何でそっちに走るわけ?
























言語


フルバー…強化






用語

お空の星…アキラに投げられた人間の状態。

空家…ルンやノルにとっての無人の家の総称。

楽しい思い出…ユミがアキラを甚振った記憶の呼び方。


















後書く

セナ「暫く色々あってコメディから離れてましたがここらで復帰」

ユミ「でも、ちょっとシリアスにギャグパートが書かれてない?」

セナ「うーん…まだ感覚が戻ってないって言うか、元々これって僕にとっては初のコメディみたいなもので巧く書けないんだよね」

ユミ「難しいね。自分が笑わないから笑いどころが掴めないんじゃない?」

セナ「多分そうだろうね」