マホーのチカラ
3.実習は最恐でした。
脚力強化の魔法を使って、できるだけ急いだ。
遅刻は確定だったけど魔法実習は休めない。
急いで着替えて、急いで実習場に向かう。
よく杖を持ってくる人がいるけど、僕はそれをしようとは思わない。
女の子はひらひらふりふりの服を着て、可愛らしい杖を持ってきたりしてる。
往年の憧れを自分で体現してるんだろうと思う。
六年前から魔法少女がブームで、本当になれるからそれを目指して頑張る人が増えてきた。
でも、僕は魔法の起こす奇跡に憧れてこの道を進むと決めたから。
ちなみに、ユミあたりはやる気のない人の筆頭だったりする。
とは言っても、ユミは武道の道を一直線に進んでる。
目指すものの違い、という奴だろう。
それから、実習は戦ったりすることもある。
それが今日だ。
「えー、本日は特別講師を招いております。
くれぐれも、失礼のないように」
嫌な予感がした。
「アッキラく〜ん」
戸を開けて入るなり、僕に向かって手を振る“特別講師”。
周りの誰もが騒ぎ始める。
冗談にしても質が悪い。
「みんな知ってるよね?新人類評議会最高議長ク・アルフィニス・ミシです。
そこにいる竹内アキラくんのホストファミリーになりました」
ユミですら驚きで固まっていた。
「悪いんだけど、アキラくんと模擬戦させてね?」
ある意味、死刑宣告だった。
「竹内。頼むから怪我だけはさせてくれるなよ」
それより僕が生き残れるかが問題なんですけど。
「ほら、早く来て」
ミシさんに催促されて魔法障壁内に入る。
「始めるけど」
ミシさんがニヤリと笑った。
「二発ぐらいは入れさせてほしいなって思うんだけど」
「丁重にお断わりします」
笑顔が何より恐かった。
下手をしたら死にかねない一撃を入れてきそうだ。
「ランザ・ゴ・ペクト」
「イグゼクション・ゴ・ペクト」
まるで、それが約束であるかのように、ミシさんは冷気で、僕は炎で腕を包んだ。
「ふふ……昔を思い出すわ、こうしてるとね」
あなた昔何やってたんですか?
「いくわよ」
ミシさんが駆けてくる。
そのスピードは明らかに異常。
魔法で加速してる!!
「うぁあああっ!!」
僕はその進路上に左拳を叩き込んだ。
「甘いのよ」
ミシさんが紙一重でかわす。
「アッガ!!」
「っ!?」
炎が爆発を起こした。
二段構えの戦法。
何段にも保険を掛けておくこと。
そして、それを気付かせないようにしながら全力を出しているように装うこと。
それが僕のやりかただった。
「エーユ」
散った炎を掻き集める。
「中々に癪な真似するのね。嫌われない?」
無傷のミシさんが問い掛けてくる。
「気付かせてないんで」
言いながらミシさんの両腕を注視する。
そこにあるのは冷気なんて生易しいものじゃなかった。
「絶対…零度」
“存在”を許さない温度。
炎だって例外ではない。
「よくわかるわね。初めてよ、自分の娘と同年代の、それも異人種に本気を見せるのは」
背筋が震えた。
それでも、僕は僕にできる全力でやる。
「エーユ・ヌ・ペクト」
全部の炎を右腕だけに集めた。
「ランザ・グラッド・レット」
巨大な氷塊が向かってくる。
「グラッド・シューフェ・アッガ!!」
氷塊に拳打を叩きこんで水に変えた。
「ランザ・フルーノ」
僕は左腕に全てを賭けた。
このままじゃ確実に氷に捕まる。
「アルド・グラッド・コーヌセ・ウラッダ!!」
蒸発させずに水に変えたことも全てが攻めのための布石。
「なっ!?」
僕は左拳を地面に叩きつけていた。
直後に大きく地面が揺れ、浮かんだ水――ミシさんの魔法の対象――が全て凍り付く。
それと同時に僕は反動で跳躍する。
「イグゼクション・レット」
炎を量産して、全てミシさんに向けて放った。
絶対零度でも消せないものはいくつかある。
それは重力。
そして、
「アッガ!!」
慣性。
炎が爆発を起こし、魔法障壁内を爆風で揺らす。
それに伴い、ミシさんが浮く。
「イグゼクション・レット」
浮いているところを狙い、炎を放つ。
「イグゼクション・ネセッド・オランギード・フログジード・エルネ・フレズ・コーヌセ・レット!!」
クロヌは多分、通用しない。
だからこそのエルネ(A)。
最初に思い付きから考えだしたもので、後々の参考にしてきたものだから、凶悪極まりなかった。
不規則に動くもの、直線で動き、壁か何かにあたる前に突然折り返すもの。
とにかく、全てがランダムに動く。
重ねて言おう。
閉鎖空間における対個人戦闘において、これ程凶悪なものはない。
結局、授業が終わる前に僕は職員室に連行された。
仕方ないだろう。僕が負かした相手は新人類の最高議長なのだから。
そういうことで、担任、教頭、校長に絞られていた。
ミシさんは笑って許してくれたけど。
「まぁいい。もうこんなことするなよ」
そんな言葉とともに僕は解放された。
「アキラ!!」
廊下にはクラスの連中が待っていた。
「お前新人類にも勝てるのかよ」
などとみんなが僕を囃立てる。
でも、ある男の登場で空気が変わった。
「カ…カズキ」
手塚カズキ。
僕の友人で無類の女好き。
そこまでくれば何を言いたいかはわかる。
「この男の風上にも置けん奴め」
予想どおりだった。
「あんな小さな女の子にあんな魔法を叩き込みやがって…」
「フェリス・レット」
別に使えないわけじゃない。
ルンには劣るけど。
とりあえず、カズキを眠らせて。
「ユミ!帰ろう」
少し離れたところにいたユミを呼ぶ。
「うん」
「昼食べてないし、どっか寄ってかない?」
「いいわよ」
二人で駅前の繁華街まで来ていた。
「どこにするの?」
ユミの言葉に僕は考え込んだ。
「晩ご飯あるからなぁ」
「あんたは平気な顔して食べるでしょうに」
「し、失礼な!!」
などと、多少馬鹿なやりとりをしながら僕らは歩いた。
「で、結局ここに落ち着くわけね」
僕らが入ったのは芳乃屋(豚丼屋)だった。
「いいじゃん、別に。安いし、量もそんなに多くないし」
「ま、そうだけどさ」
窓側の席を陣取って、お茶を飲みながら外を見る。
「あ、新人類の子だ。いいなぁ…私もあれぐらい可愛くなりたいなぁ」
「魔法嫌いのユミでも憧れるんだ?」
「それとこれとは別だもん」
僕は少し笑って外を見てユミの言う新人類の子を探して、固まった。
そこには魔法を使おうとしているルンとノルの姿があった。
「何で!?」
「きゃっ!?」
僕は叫んでルンとノルの視線の先を見た。
「ちょっと、いきなり何なのよ…」
非難の声を上げ、僕の視線の先を見たユミも固まった。
そこには今日僕が負かした最高議長をそうであることを忘れて、ミシさんをナンパしているカズキの姿があった。
「若年性健忘症…」
「違うと思う。多分、可愛い子の前でその事実しか認識できなくなってるんだよ」
言いながら、僕は泣きそうになった。
きっとここも無事じゃ済まないんだろうなぁ。
「ユミ。僕から離れないで」
「え?何で?」
僕は自分にできる範囲で最高の防護壁を張った。
「って!何で誰もいないのよ!!」
「カズキ…冥福を祈るよ」
直後、カズキに向けて放たれたルンとノルの魔法が直撃する。
その余波で地下のガス管が破裂、ルンの雷が引火、大爆発を起こし、ノルの風がさらに炎を遠くへと運んでいく。
繁華街は一瞬で廃墟になった。
「な…」
「カズキの馬鹿」
元々は芳乃屋だったところにいた(爆心地近く)僕とユミは何とか無傷でいた。
「も〜嫌。動きたくない」
僕はぐったりとユミにもたれかかった。
次回予告
「あれ…アキラがいない。
ま、今回は私、向原ユミが簡単に説明するね。
取り敢えず、家に帰ったらアキラの家がすごく立派になってて…
て…あれ?私の家は?
何なの、この状況…
と、いうわけで…次回、マホーのチカラ
4.家は直しちゃいました。
私の家…」
用語
若年性健忘症…女の子を前にしたときにカズキが陥る症状。ユミの場合では発生しない。
言語
ランザ…氷
ゴ…両方
アッガ…爆発
エーユ…収集
ヌ…右
シューフェ…収束
フルーノ…床
アルド…大地
ウラッダ…振動
後書き
セナ「デュエルセイバーに見事にはまりました」
ユミ「移植版だけどね」
セナ「リリィに容赦なく連れていかれました」
ユミ「あんた…ツンデレ大好きなんだ?」
セナ「まぁ、七瀬が好きだって時点でわかってたけど」