マホーのチカラ


2. 学校には遅刻しました。







いつもの朝食、じゃなかった。

「フェルク、ジャムとって」

「いつもの?」

「うん」

まずはルンとミシさん。

あれをくらって無傷で僕より先に朝食をとってる二人。

絶対、何かが間違ってる。

「フロウン、そっちのサラダちょうだい」

この人だけは傷だらけだった。

多分、ルンの妹だと思う。

でも、あの勢いで二階から落ちて軽い打ち身だけってどういうことなんだろう?

「って…何で人の家で普通に朝ご飯食べてるの?」

言いながら、無駄だということを悟っていた。

“Prurururu”

電話が鳴った。

「はい、竹内です」

「タケウチ?議長官邸ではないのですか?」

何も言えなかった。言えなくなった。

ギチョウカンテイって何?

……

「議長官邸!?」

ようやく理解できた。

「ああ、アキラ君。変わって」

ミシさんがやってきて、僕から受話器を引ったくった。

「アキラ様、アキラ様」

ルンが呆然としてた僕の腕を引っ張った。

「あちらにアキラ様の為の朝食をご用意致しました」

ルンが指差した先には明らかに何かが間違ったものが。

「あ、朝から満漢全席が…」

昨夜仕込んだものじゃないだろう。

だって、昨日散歩にでた時間は午後十一時を過ぎていたから。

こんなもの、どうやって用意したんだろう?

「アキラさん」

ルンとは反対側の手を引っ張るルンの妹。

「私、ユ・アルフィニス・ノルっていいます。それで、朝からこんな重たいものを食べるような変人ではないと思って用意してみました」

ノルが指差した先には典型的な日本人の朝食が並べてあった。

「ノル。どうしてあなたがここにいて、アキラ様のお食事を用意しているの?」

「フロウンこそ、時空間転移まで使って食べてもらえるわけのないものを用意して」

気温が下がったような気がした。

「アキラ様のお世話は私がします。お望みになるのでしたら夜伽のお相手でも」

何の恥じらいもなく言い切るルン。

「フロウン」

ノルがルンの肩に手を置く。

「略奪愛万歳、なんてね」

ニヤリ、と笑いながら爆弾を投下した。

「そう…そうなの。そんなに私の折檻が受けたいのね?いいわよ。消し炭に変わるまでお仕置きしてあげる」

人はそれを殺人といいます。断じて折檻などではありません。

「真っすぐにしか進まないんだから、簡単に避けれるもん」

お願いです。挑発しないでください。

帯電するルンと、凝縮された空気の塊を風で動かして床を切り刻むノル。

ノルの風に対し、ルンの雷は優位に立てる。

雷は、超高圧電流が空気中で放電、空気を焼いて閃光となる。

つまり、風の媒介となる空気を焼き尽くすことができるわけだ。

ただ、雷を曲げることは難しい。どれだけ実力があっても、精々電気の球体を爆発で軌道変更する程度。さらに威力も落ちる。

「オリッド・ク・レット」

ノルは風の魔法で唯一雷に対抗できるオリッド(真空)を使った。クは刄。

でも、ルンはニヤリ、と笑うだけだった。

突如としてルンの姿が消え、気付けばノルの背後にいた。

「フェリス・レット」

「オリッド・ナム」

ルンが悠々と雷を放ち、ノルは転がってオリッド・ナム(矢)を放った。

そこで、僕はルンが何をやったか理解した。

時空間転移。

ルンが満漢全席を用意するために使ったもの。

そこからわかることはルンが間違いなく『希代の天才』であるということ。

時空間転移は理論こそ確立しているけど、実際に使える人は殆どいない。

もっとも、ルンのお陰で目立たないけどノルだってすごい。

風使いにとって、真空を扱うというのは憧れの領域で、ノルはそれを当然のように使いこなしている。

これが種族の差なのかもしれない。

でも、でもね?

そろそろ止めなきゃまずいと思うのですよ。

「フェリス・レット」

「オリッド・ク・レット!!」

そろそろ家が壊れてもおかしくないと思うのですよ。

漁夫の利を狙ってるミシさんは何もしないし。

魔力追跡プログラムを構成。ランダムパターンをCで決定。

「イグゼクション…」

ルンとミシさんがビクッと震えた。

「ネセッド…」

両手を広げる。

「オランギード・フログジード・クロヌ…」

ここでノルも震えた。

「フレズ・コーヌセ・レット!!」

イグゼクション・ネセッド・オランギード(追跡)・フログジード(パターン)・クロヌ(C)・フレズ(たくさん)・コーヌセ・レット。長い。

でも、“三人”まとめてならこれが一番いい。

集中力は必要になるけど、それでも、だ。

とにかく、放たれた数えきれないほどの火球は不規則に進み、三人の防御を掻い潜って直撃していた。

時空間転移で逃げようとしていたルンも魔力追跡プログラムで出現地点を割り出されて逃げ切れなかった。

「ちょ、ちょおっ!?」

「ウソでしょ!?」

「反則!!」

三者三様の叫びを残しながら、三人の姿は消えた。

自宅半壊という、大きすぎる犠牲を払って。










「はぁ…」

ボロボロで、やけにすっきりした我が家でトーストをかじった。

ユンわノルが用意した朝食は当の二人の喧嘩で消し飛んでいた。

「引っ越しが妥当かな…」

このままだと容赦なく雨風が吹き込んでくるだろう。

引っ越すにしても、気心の知れた友人宅に転がり込むくらいしか思い浮かばない。現役の高校生にはそれが限界だから。

「カズキはパスだな」

思い浮かんだ男友達筆頭を速攻で却下する。

理由を話したらコンクリ詰めで海にドボン、だ。

てゆーか、男は却下だな。

「とすると、ユミか」

そこで思い浮かぶのは、男女問わずに最も気心の知れた女友達の名。

家、隣だけどね。

「アキラーッ!!」

あれ?まだ学校に行ってないのか。

僕は既に消滅してしまっていた玄関へ向かう。

そこには見慣れない風景(惨状)と、見慣れた制服姿の人物。

「何やってんの?」

そいつ、向原ユミは何故か宙吊りになっていた(逆さ)。

「何か、色々あったみたいだから様子を見にきたらこんなことになっちゃった」

「器用な態勢だよな」

ユミは何故か埋設してあったトラップに引っ掛かってこうなってしまったらしい。

で、藻掻いているうちに見事に逆さまに。スカートを押さえなきゃ下が丸見えな状態になる。

ここだけの話、実は淡い緑の下着が少しだけ見えてたりする。

「降ろしてあげるけど、受け身はとってよ」

「わかってるわよ」

このままユミが疲れるのを待ってみるのもいいかもしれないけど、後で殺されるのが目に見えてるからやめとく。

「イグゼクション・レット」

僕の放った炎がユミの足に巻き付いていたロープを焼き切る。

「っ!!」

落下の衝撃も何のその。うまく受け身をとれたらしく、すぐに立ち上がってスカートについた埃を払った。

「ふぅ…で、ホントに何があったわけ?」

「うん…まぁ、うちがとんでもない家族のホストファミリーになったってことかな?」

「ふぅん。ま、遅刻確定だけど行こっか?」

「そうだね」










いつもの通学路をユミと歩く。

「にしても、町内のホストファミリー第一号が慢性一人暮らしのアキラの家かぁ」

「そうなるんだよなぁ…しかも有名人ときた」

僕は溜め息を吐いた。

「何?有名な魔法学者?」

それだったら大歓迎してたと思う。

「って、それだったらアキラが溜め息吐いてるわけないか」

さすがはユミ。だてに幼なじみやってるわけじゃないね。

「多分、今日か明日にはわかると思うよ」

きっと、今の僕は遠い目をしていることだろう。

「アキラ…枯れてる」

うるさい。

「取り敢えず、一晩泊めてくれるとうれしいんだけど」

「いいわよ。あたしとアキラの仲じゃない」

「そうだね」

互いに遠慮はいらない。

僕らはそんな関係だった。

友達と呼ぶには近すぎて、恋人と呼ぶには遠すぎる。

「それで、どうする?急ぐ?」

「ゆっくり行こうよ。二時間目、魔法実習だよ」

「さ、急ごう」

「あ、ちょ…ちょっと待ってよ!!」










次回予告


どうやら、学校すらも安息の地ではないようだ。

「本日は特別講師を招いております」

「アッキラく〜ん!!」

だからどうしてあなたは無傷なんですか?

「あ、新人類の子だ」

みんなして家は放置ですか。

「カズキ…冥福を祈るよ」

絶対死ぬから。


次回、マホーのチカラ

3.実習は最恐でした。

お願い。誰でもいいから僕を助けて。










言語


ラ…翼

ク…刄

ユ…風

オリッド…真空

ナム…矢

オランギード…追跡

フログジード…パターン

クロヌ…C

フレズ…たくさんの、大量の



用語


ホストファミリー…新人類との壁をなくすために設けられた制度。

時空間転移…対象を粒子化し、時間ごと空間を跳ぶ魔法技術の最高峰。









後書き

セナ「ただいま〜」

ユミ「わ、何か普通に帰ってきた」

セナ「まぁ、それは置いといて」

ユミ「第二話ね」

セナ「アキラは割と天才だったりします」

ユミ「そうよね」

セナ「ルンは別格だけど」

ルン「はい?」

ユミ「何で!?今回は呼んでないよ!!」

ルン「ボソ○ジャンプって便利ですね」

セナ「お願いだから版権を持ち出さないで」