マホーのチカラ
1.朝起きたら刺しちゃった。
「何?どういうこと?」
僕は隣で眠っている新人類の女の子を見て考えた。
ウチは生憎とホストファミリーじゃあない。
旅館とかでもない。
近所に住んでるわけでもない。
じゃあ、何?
一人でうんうん唸ってたら、
「あ、おはようございます。ご主人様」
目を覚ました彼女の爆弾発言と、
“ザクッ!”
何かの刺さった音。
って、彼女の角が刺さってんじゃん!!
「痛い痛い痛いっ!!」
血がドックドク溢れてくる。
「ご、ごめんなさい!!」
女の子は慌てて角を引き抜いた。
「っ!!」
勢いで傷が広がった。
丸い、綺麗な穴が…
じゃない!!
やるんだ。痛いけど、集中するんだ。
「ラスピュール・ペクト……」
大気中に存在する魔粒子とM2粒子を掻き集める。
そこに、言葉―命―を吹き込む。これが魔法の正体。
とにかく、それを自分に向ける。
「パス・コルナム!」
で、これは欠損箇所の再構成の魔法。
ラスピュールが自分、ペクトが腕、パスが欠損、コルナムが再構成という意味。
頑張れば日本語詠唱でも使えるようになるらしい。
「ご主人様は才能溢れる方なんですね♪」
…やっば……この子がいるの忘れかけてた。
「それより、さ…」
失礼だと理解したうえで彼女を指差す。
「君……誰?」
「申し遅れました。私、ラ・アルフィニス・ルン、と申します。意味は運命を越える翼です。以後お見知りおきを」
それで、もしよれしければ」
女の子はパン、と両手を合わせて、
「ルン、とお呼びください」
「えっと…」
「ではご主人様。お着替えいたしましょうか」
彼女――ルンが僕に迫った。
「いや、それは自分でするから……じゃない。いや、そうなんだけど、それよりも、ご主人様って何?どゆこと?」
「ご主人様のベッドの下の本でお勉強させていただきました」
と、顔を真っ赤に染めてルン。
何ですと!?
「服と道具の手配も急がせておりますので、どうぞご安心ください」
それを聞いて何に安心しろと?(滝汗
安心しちゃったらもう生きていけない気がするんだけど。
ってか、この状況は何?
「ここ、僕の部屋だよね?」
「はい。殿方のお部屋で一夜を明かすのは初めてのことでしたのに、あんなに激しく…」
「嘘っ!?」
「はい、嘘です」
………
心臓に悪いなぁ…
「次の質問だけど、何でいるの?」
「あれは路地裏でした…ご主人様がまるで獣のように…」
「もちろん、嘘だよね?」
「はい、嘘でございます」
ルンはにっこりと笑った。
この上ないほどの、極上の笑顔だった。
「それで、真相は?」
「………」
ルンは無言で目を逸らした。
「一応、世界規模の最高機密、“存在しない事実”なねで、内容が漏れた時点で肉体的にも社会的にも完全に抹殺されるので、その辺りを覚悟していただかないと…」
「何ですとぉ!?」
「まず、夜道を散歩していましたら、アキラ様のお姿を見つけたのです」
取り敢えず、名前を教えてご主人様をやめてもらった。
「それで……その、お恥ずかしい限りなのですが、アキラ様に一目惚れをしてしまいまして…」
そこで顔を朱に染めて俯くルン。
「…マジですか?」
「はい……それで、こちらもお恥ずかしい限りなのですが、私、キス魔なんです」
「は?」
「大好きなものにはそれが何であれキスしてしまうんです」
それで何度死にかけたことか、とルンが漏らす。
「と、とにかく、キスしようとして…この角が刺さってしまいまして……」
わかった。
何が起きたのか、とかは。
そして、“アレ”が夢じゃなかったということも。
「それで、僕が死んでしまって慌てて蘇生した、と」
「はい」
ルンは頷いた。
」まあ、事情については理解したよ。でも、何で最高機密?」
彼女は僕を蘇生させ、その後の経過を見るためにこうして傍にいてくれた。
まさしく、この上ないほどの責任のとり方のはずだ。
“スパァン!!”
突然物凄い勢いで押し入れの襖が開いた。
そこから一人の女の子が出てくる。
いつからそこにいたのだろう?
「そのことについては私から説明しましょう!!」
そして、やっぱり女の子の額には角があるわけで。
「フェルク!?」
ルンが叫んだ。
たしか、フェルクって、彼女達の言葉で…
「お母さん!?」
そう、フェルクとは“母”という意味だった。
「えぇ。私はルンの母です」
言いながら彼女は僕を見つめた。
「妹ではありません」
とてもじゃないけど一児(?)の母には見えない。
「全人類の命運がかかっていると言っても過言ではありませんので心して聞いてくださいね?」
僕とルンのことが世間に知られた場合、新旧両人類に今でも存在する共存反対派が台頭し、どちらかが滅ぶまでの戦争になるという。
その理由も至ってシンプルだった。
ク・アルフィニス・ミシ。
運命に抵抗する刃という意味の名を持つ新人類側の“最高議長”。
もしも、その娘が在来種を殺してしまったと知れたら。
想像もしたくない。
つまり、共存を望む以上、僕は彼女らに協力しなければいけない。
「協力します。ぞっとしないことになる、というか、魔法で殺し合いなんて見たくもないしやりたくもないですから」
「話が早くて助かるわ。あ、それから…」
ミシさんが口元に手を添えた。
その仕草を見てると子供のように見えてくる。
「私、未亡人なのでルンに飽きたらいつでもどうぞ」
発言はとても危険だけど。
「フェルク!!」
ルンが叫んだ。
「あら、身内ごととして処理するなら誰でもいいのよ?ルンじゃなくても、私でも、ノルでもね」
ノル?誰だろう。
「あ、愛がないといけません!!」
ルンの体が帯電していた。
「あら…愛なんてこれから育めばいいのよ。あなたと違って経験豊富だから簡単に落とせるわよ?」
一方のミシさんの周囲の気温が下がる。
いや、空気中の水分が凍り付いていた。
僕の魔法学の成績はかなりいいほうだけど、ここまでの精度で雷や氷を操ることはできない。
というより、雷と氷は扱いが難しい。
「フェリス・レット・フェルク!!」
ルンが叫ぶ。
フェリスは雷という意味で、レットは行けという意味。
グラッド(大きく)とか、コーヌセ(勢い良く)とかがないぶんだけ手加減したのだろう。
“ビシャアアアアアアアアアアンッ!!!!!”
前言撤回。
手加減して尚十分なのだ。
「ちょっとルン。それ攻城野戦級の構成じゃないの?」
直撃したはずのミシさんが無傷で立っていた。
「大丈夫。反抗期の頃に作った対“フェルク専用”に作ったのだから」
「あら、なら今でも反抗期かしら?」
ルンは笑った。
「うぅん。今度、対“恋敵”用の構成編んどくから」
これ以上好きにさせたらこの家、もとい、ここら一帯が消えてなくなるんじゃなかろうか。
その前に僕が死ぬだろうけど。
僕にアレを破る攻撃力はあっても、アレを防ぐすべはない。
偉大なる先人よ、感謝します。
攻撃は最大の防御である、という言葉を残してくれて。
「イグゼクション…」
両腕を掲げる。
「ネセッド…」
「あ…アキラ様?」
「ちょ…本気?」
「グラッド…コーヌセ」
もうここまできたら止まらない。
だって、僕は今巨大な火球を掲げてるから。
「レット!!」
イグゼクション(炎)・ネセッド(球)・グラッド(大きく)・コーヌセ(勢い良く)・レット(行け)。
僕が誇る単発系最強の構成。
対“一個師団用”の攻勢魔法。
「ふう…静かになった」
壁に丸い穴ができたけど。
「ま、オッケでしょ?」
というわけで、早く着替えてしまおう。
寝巻を脱いで、制服を着る。
いつもの風景だ。
“バンッ!!”
「フロウン!!」
女の子――やっぱり角がある――が飛び込んできた。
フロウンは姉という意味だからどっちかの妹でしょ。
まぁ、邪魔だろうから退くとしよう。
ひょい、と立ち位置を変えてみた。
「「あ」」
声が重なった。
穴と女の子の間にあった障害物(僕)がなくなったので、彼女を阻むものは何もない。
「裏切り者ぉぉぉっ!!」
穴から落ちていく女の子の断末魔の叫び(マテ)を聞きながら僕は苦笑するしかなかった。
次回予告
どうやら、最高議長一家が全員で我が家にきたらしい。
まぁね、一人で住むには少し広い家だから賑やかなのはいい。
いいんだけどね?
「はい、竹内です」
「タケウチ?議長官邸ではないのですか?」
ミシさん、ウチで仕事する気ですか?
ここを有事の際の拠点にするつもりですか?
「アキラ様アキラ様」
「アキラさんアキラさん」
平穏なんて、もう帰ってこないんだろうなあ…
次回、マホーのチカラ
2.学校には遅刻しました。
これって、災難だよね?
あとがき
セナ「思い付きから始まり、設定を立ち上げたらすぐに書けました」
ルン「そうですよね。Innocentは凄く時間かかってますからね」
セナ「あれは迂闊な真似ができないからって、何で知ってるの?」
少女「私がバラしたから」
セナ「なんでいるの?」
二人「「召喚」
セナ「マジっすか?」
二人「「マジっすよ」」
セナ「いや、でもさすがに涼夜はきてないよね?多分足ないだろうし」
涼夜「足はありませんがきてますよ」
セナ(殺される…)
涼夜「よくもあんなものを書いてくれましたね」
セナ「いや…あの、そのぉ…」
涼夜「何か言っておきたいことは?」
セナ「えっと…話せばわかる?」
涼夜「それを言った人は殺されてます!!」