「おめでとうございまーーーーーす! ハワイ旅行です!!」

 甲高いベルの音と共に伝えられる結果。

 こんな所で大当たりが出るとは………

 そもそもどうしてこんな事になったかというと………








































                        たまにはこんなエイプリルを







































「いつもの事とはいえ、すぐに米が尽きるよな………」

 秋子さんに頼まれたお米を抱えつつ帰路につく。

 ここ最近で水瀬家の人口が急激に増えたからである。

「まあ、代わりに福引き券貰ってきたから………これで19枚か」

 取り出した財布の中には福引き券がびっしりと詰まっていた。

「いらっしゃいませー、福引き券をどーぞ」

 とりあえず財布の福引き券を全部だす。

「では、数えますので少々お待ち下さい」

(19枚………ちょっと微妙だな。ここは一つ………)

「1、2、3『今何時ですか』………えっと、4時ですね…5、6………20、はい、20回回してください」

 そう言われて新井式廻轉抽籤器(正式名称)を回し始める祐一。

 そして大量に出てくる青玉。

「えーと、19回回して出てきたのは全部青玉ですね。こちらはティッシュです」

 目の前に並べられる19個のポケットティッシュ。

 正直どうして良いか分からない。

「最後の、一回し!」

 渾身の気合いを込めてゆっくりと新井式廻轉抽籤器(愛称はガラポン)を回す。

 その口から出てくる玉の色は………

「赤色………?」

「おめでとうございまーーーーーす! ハワイ旅行です!!」

 甲高いベルの音と共に伝えられる結果。

 祐一は19個のポケットティッシュとお米を持ったまま、その場に立ちつくしていた。











「で、危うくお米を忘れそうになったの?」

「そういうことだ」

 居候に来た頃とはだいぶん人数が変わった食卓でご飯を食べる。

「うぐぅ、真琴ちゃん…それボクの唐揚げだよ」

「気にしない気にしない」

「少しは気にしろ」

 真琴の頭を軽くチョップする。

「あぅ〜………」

「おかわり、たくさんありますからね?」

 二人が笑顔で頷きつつ食事に集中する。

「それで祐一、いつからの日程なの?」

 福引き所で聞いた日程を思い出す。

「4月1日出発だと。丁度学校も休みだし行ってくるよ」

「いいなぁ、お土産なにか買ってきてね?」

 その言葉に、

「真琴はリトルグレイだったら嬉しいな!」

「じゃあボクはチュパカブラを」

 水瀬家お子様ズが反応するがどうも回答がずれている。

「なんでハワイに行くのにUMAを持って帰らなくちゃいけないんだ! あと、リトルグレイは土産物じゃなくて宇宙人だ!」

 祐一のツッコミが今日も水瀬家を駆け抜けていった。











「おはよう、香里」

「おはよう、相沢君。珍しいわね、二人が登校時間に間に合うなんて」

 軽く驚いた表情を浮かべる香里。

「私だって、たまには早起きするよ」

「ごくまれにだけどな」

 祐一の一言に、

「酷いよ、祐一………」

 頬を膨らませながら抗議する。

「だったら毎日早起きしてみろ」

「おはよ、相沢」

「毎日ちゃんと起きてるよ〜」

「お前のちゃんとはあてにならない。現に昨日は俺が起こさないと朝食も食べられなかった」

「おはよう、相沢」

「あれは起きようと思ったら祐一が声を掛けてきただけだよ」

「だったら『けろぴーがエアーズロック登頂』なんて寝言を言うな」

「おーはーよーう、相沢」

「まったくあなた達って何時までも変わらないわね」

「それが良いんじゃないかな?」

「お前は少し早起き出来るようになれ」

「おいーーっす、相沢」

「それは確かに言えるわね」

「だろう?」

「酷いよ二人とも………」

「だーーーーー!!!!」

 突然北川が奇声を上げる。

「なんだようるさいな」

「無視するなーーー!!」

「ああ、居たんだ」

「最初からな」

 呆れたようにうなだれる北川。

「相変わらずだな」

「おはよう、斉藤君」

「相変わらず影が薄いな」

「ほっとけ」

 そんなこんなしている内に予鈴が鳴り響いた。












 眠気もましてきた授業中、不意に後ろから紙片が飛んできた。

 折りたたまれた紙片を開くと、

『相沢、お前、誰とハワイへ行くんだ?』

 と書かれていた。

(しょうがない奴だ)

『その発言に答えるとお前への土産は無くなるが? それとどこで知った?』

 後ろにトス。

 何となく、北川の顔が苦悶の表情に彩られているのが分かった。

 一分くらい経ってから紙片が飛んでくる。

『福引き所に相沢様って書いてあった。
 ここの生徒が当てたっていう噂自体は広まってるから静かにしていれば問題はない。
 誰と一緒に行くかは俺の土産の為に聞かないでおく。まあ、健闘を祈る』

 ………北川は絶対誰と行くかを確信している。

 そう思いつつ夢の世界へと旅立っていった。












「え、祐一さんが当てたんですか?」

 春も断然近づいたとはいえ北国の雪解けは4月下旬に近い。

 中庭にも泥を被った雪が点在している。

 おまけに風も吹きさらしで寒い。

 そんな中、栞はバニラアイスを食べていた。

「ああ、20回引いたら当たった」

「福引き券が20枚………凄まじいですね」

 確かに、財布がぱんぱんになるほどの厚さだ。

「で、日付は何時なんですか?」

「4月1日出発。ホテルまでは準備されてるけどそれ以降は自分で、だと」

 それを聞いた途端に、

「楽しみです………」

 栞は目を輝かせていた。

「あれ? 俺、栞を連れて行くなんて言ったっけ?」

「恋人さんに向かってそんな事いう人嫌いです」

 いつものように拗ねた態度を取る栞。

「冗談だって。俺個人としては栞の水着も楽しみだな」

「そ、そんなに期待されても………ドレスの時と同じ理由で似合わないですよ…………」

 そんな事を言う栞がとてもかわいらしく感じられ、思わず抱きしめる。

「ゆ、祐一さん………ひ、人が、見てます………!」

「おう、見せつけてやれ」

 腕を振り回して祐一から離れる栞。

「も、もう………そんな事する人『嫌いです』って真似しないでください!」

 顔を真っ赤にしながら抗議する栞を見つつ、昼休みが過ぎていった。











 帰り際に福引き所の前を通ると、確かに相沢様と書かれていた。

 これは明日以降も噂になっているだろう。

 まあそれも土曜日までの辛抱だと言い聞かせながら頼まれた買い物を済ませていった。












 そして、3月30日。

「祐一さん宛に手紙が届いていますよ」

 秋子さんから手渡された封筒には商店街組合と送り主が書かれていた。

「ありがとうございます。電話借りますね」

 意気揚々と電話の前に立ち、手慣れた手つきでダイヤルを押す。

 程なくして電話口から聞き慣れた声が聞こえてくる。

「はい、美坂です」

「おう、香里か? 相沢だ」

「はいはい、栞でしょ? 今変わるから」

 受話器を置く音と香里の歩く音が聞こえる。

『栞、電話よ』

『えっ、誰からですか?』

『相沢君から』

『えっ! 今行きます!!』

 すぐに走る音が響き、受話器が持ち上げられるのと同時に、

「もしもし! 祐一さんですか!?」

 半ば怒鳴りつけるような栞の声が響いた。

「あ、ああ、祐一さんだぞ」

「すぅ〜………はぁ〜………所で、なんのようですか?」

「ああ、チケットが届いたんで明日の予定の確認をな」

「福引きで当たるなんて普通思いませんよね?」

「まあね」

「それはそうと、祐一さん」

「どうした、栞?」

「水着、楽しみにしていてくださいね?」

「………ああ、凄く楽しみにしてる」

 それからしばらく、日程の事やどこを回るか等を話し合い、鞄に荷物を詰め込んで眠りについた。













 まだ人もまばらなホームに二人、旅行鞄を抱えて立っていた。

「皆さんには悪いですけど一足早いバカンスですね」

「そうだな。思いっきり日焼けして帰ろう」

「私、医者に日に当たり過ぎるなって釘刺されてるんです」

 しゅんとした表情で手荷物バックを抱える栞。

「じゃあ、日焼けしない程度に遊ぼう」

「そうですね」

 ホームにやってきた快速列車に乗り、二人は空港に向かった。













「あっ」

「と言う間に空港ですね」

 快速に揺られる事数十分、列車は空港に到着していた。

「さてさて、搭乗口は何番かな?」

 早速二人で封筒からチケットを取り出す。

 そして、翌日………









































「してやられた………」

「やられましたね〜………」

 二人はあんま機に座りながら身体をほぐしていた。

 二人の現在位置は水瀬家から歩いて数分にある健康ランドだった。

「第一あんなの有りか?」

「確かに酷いですね」

 二人揃って昨日の空港での出来事を思い出す。




















 封筒の中には一枚の手紙。



『相沢様へ。

          このたびは商店街組合4月1日フール福引き抽選会での一等当選おめでとうございます。

      さて、相沢様はどこでこの封筒を読んでいるかは分かりませんが、空港の出発口で読んで頂いていると幸いです。

               今回は騙す事が目的なので大がかりな商品名を並べさせて頂きました。

               相沢様への商品はニコニコ健康ランドの無料パス三ヶ月分です。

              封筒の中に同封させて頂いておりますのでどうぞご自由にお使い下さい。



                         追伸 よいエイプリルフールを。

                                                商店街組合会 一同より』



 封筒からこぼれる健康ランドの無料パス。

 朝早くの空港、

 二人の影が、

 暗く深くなった。














「まあ、でもしばらくは浸かり放題だな」

「結果として何かしらもらえてよかったですね」

 二人はあんま機から降りて休憩コーナーへと足を進めた。

 腕を組んで、寄り添うように。