Sub:情けない幼馴染へ







 廊下であいつと擦れ違う。
 あたしは反射的に片手を上げて声を掛けようとして――
「……っ」
 視線が合うと、ぷいっと目をそらされた。
 行き場の無い手をどうしようかと一瞬泳がせて、
「おはよっ」
「えっ?ええ、おはよう」
 とりあえず見知った女子生徒に挨拶して片手を下ろす。まぁ、見知ったっても去年同じクラスってだけで、はっきり言って名前も覚えてないけど。
 うわー…戸惑ったように続き待ってるよ。まぁ、適当に。
「じゃあね」
「…はい?」
 一方的に言ってその横をスタスタ通り過ぎる。怪訝そうな視線を送ってきたけど、無視。
 そのまま誤魔化すようにトイレに入って鏡の前でひとりごつ。
「…あいつ、まだ怒ってるんだ…」
 鏡に映った自分の顔が見るからに落ち込んでいるのを見て、あたしは二重の意味で溜息を吐いた。



 
 あたしは好きな人がいる。あたしが幼稚園の頃から一緒だったお隣さんの男の子で、奇跡的にずっと同じクラスで何と高校でも同じ高校に入って同じクラスになったと言う筋金いりの幼馴染だ。まぁ、高校はあいつの志望校聞き出して同じ高校に行こうって考えてたこともあるんだけど。…偶然、志望校が同じだったのは驚いたなぁ…あいつの方があたしよりも成績良かったのに。あの時はもう今からがんばるしかないかなぁと悲壮な決意してたんだけど。
 って、そんなことはどうでもいいよね。
 まぁあたしとあいつはそこそこ良好な関係を気付けていた。あたしは陸上部で、あいつは……将棋部、だっけ?まぁ、文科系の部活に入ってて、お互い部活動が休みの日とか帰る時間が偶然重なった時は並んで一緒に帰るくらいには仲が良かった。登校?…あたしは朝練があるからなぁ…将棋部にも朝練があればいいのに…ぶつぶつ。
 とにかく、それだけ仲が良かったってこと。
 でも、それが今では挨拶すら無視されるようになってしまった。2年生に進級してまた同じクラスになれたのにこれじゃあ…
 悪いのは……そりゃ、確かにあたしの方かもしれないけどさ、照れ隠しと言うか、そういうのを察してくれてもいいと思わない?
 あーと、何で仲違いするようになったのか説明してなかったよね。
 いや、春休みのことだったんだけどさ。
 その日、あたしは仲の良い友人グループと一緒に地元のデパートに遊びに行ってたんだ。
 デパートの中の小物店とか適当に冷やかして、軽食コーナーでアイス買ったりしてとか、ま、下らないけど楽しい一時って奴?
 で、デパート内歩いている時に、友人の一人にこんなこと訊かれたんだ。
「あのさ、よく一緒に下校している男の子がいるじゃない。もしかして付き合ってんの?」
 きましたよ、お馴染み質問が。
 いや、この質問をされるのは別に初めてじゃないのよ。一緒に下校してれば誰でも勘ぐることだしね。
 それでも、あまり頻繁に訊かれないのはあいつのクラス内の印象がやたらと薄いせいだ。ほら、さっき『よく一緒に下校している男の子』って言ってたでしょ?あれって単純に名前を覚えられてないだけなのよね。クラスメイトだってのに。
 いや、まぁ、あたしの目から見てもそれは無理も無いんだけど。あいつってば、チビだしメガネだし運痴だし地味だしで何一つ話題に上る要素がないから。どう考えたって、女子の注目を引くような風貌でなし、名前を覚えられてないのも仕方がないわけよ。
 対してあたしは背も高いし(これは少し気にしてるんだけど)スタイル抜群だし、何より美人!だしで、中学の頃から数えると10回近く告白されてる男を魅了してやまない美貌の持ち主なのよ。
 ま、そんなわけであたしと一緒に歩いてると、あいつは余計に目立たなくなって一緒に歩いてても気付かれてないことも珍しくないし…
「えー?それってあのメガネでしょ?釣り合うわけ無いじゃん」
 これが周囲の共通見解だったりするのだ。
 で、あたし達は本当に付き合ってる訳じゃないし、そもそも周りにあたしがあいつを好きだってことを知られたくない。
 …恋愛ってのは、駆け引きなのよ。惚れた弱み、なんて言葉があるように、立場的には惚れた方が弱いのよ。
 つまり、あいつの方から告白させないとあたしが主導権握れないじゃない!
 と、そんな理由であたしはあいつが好きだということを周りには徹底して秘密にしてる。だって、それが噂になってあいつの耳に届きでもしたら、あたしの方が先にあいつに惚れたことがバレちゃうじゃない。あたしはね、いつでもあいつの上位の立場に居たいのよ。
 だから、あたしは決まってこう答えることにしていた。
「家が隣だし、近所付き合いでお情けで相手してやってるだけ。付き合ってるなんて酷い冗談よ」
 少しの動揺もなく、頬を染めるなどと言うベタなこともなく平然と、いや、わざと声に険を滲ませて言ってやる。うん、我ながら完璧な演技。これであたしがあいつに惚れてるなんて思う奴がいたら、そいつは頭がおかしいんじゃないかってくらいに完璧よ。
「あー、かわいそー」
「悪女だー」
 ほらね、周りだってこうやってはやし立てて笑ってるし、もちろんあたしも一緒になって笑――

 通りの向こうあいつの姿が見えて凍りついた。
 視線が合った。あいつはこっちを見ていて、なんか顔を歪めていて――

 待って。どうしてインドア派のあんたがこんなところに来てる訳?いつもだったらあたしが荷物もち(と称したデート)で強引に連れ出さないと家に閉じこもってるくせに。…ああ、紙袋から察するに本を買いに来たのか。あいつ昔っから本の虫だったわよね。
 と言うかそんなことはどうでもよくて、ああでもそんな風に歪んだ顔を見るのはちょっと初めてであたしも驚きと言うか、

 目を逸らされた。回れ右して足早に去っていくあいつ。

 だ、だから待ちなさい。なんで目をそらして立ち去っていくわけ?いや、そりゃ、あたしが仲間内に居る時は話し掛けない様に言ってるしあいつもそれは守ってくれてるんだけど、そんな風に目を逸らして去っていくなんて今まで一度も無かったじゃない!
 待っ――

「あれ?今のってさっき話してた奴だよね?」
 その声で我に返った。危うく追っかけていってしまうところだった。皆の前でそれをやるのはあまりにもマズイ。
 …だ、大丈夫よね?あいつ、一度もあたしに逆らったことないし、後で適当にフォローすれば…
「そうね。まったく、こんなところでも会うなんて、ついてないわ」
 あたしの完璧な演技は続く。…さっきまでは全然平気だったのに、今は胸が痛い。
「もしかして、さっきの聞かれてたんじゃない?」
「あー、言えてる言えてる。なんか逃げるようだったし」
「良かったジャン。きっともう付きまとわれたりしないよ」
「大体あんな根暗メガネが一緒にいることが変だったよね」
「身の程知ったんじゃない?」
 ……っ!勝手なことばかり言って――!
「本当、清々するわ」
 でも、あたしは完璧な演技を続けて皆と一緒になって笑った。…ああ、胸が痛いよ…

 その日、帰ってからすぐにあいつの携帯に電話したけど、無言で切られた。




 あれから一ヶ月。
 さっきの遣り取りから分かる通り、今は擦れ違っただけで目を逸らされる様になった。一緒に下校なんて出来るわけない。
 おかげであたしはフラストレーションが溜まりっぱなしで、仲の良い友達にもつい刺々しい態度をとってしまう。
「もうすぐ、GWだって言うのに…」
 鏡を見つめてまた溜息。このままGWを落ち込んで過ごさなきゃならないの?
「そんなの、絶対嫌」
 去年のGWはあいつをつき合わせて買い物に行ったし、恥ずかしがるあいつと一緒に恋愛映画も見た。…映画見て涙ぐんでる姿は妙に可愛かったっけ。
「……よしっ」
 決めた。今日は一緒に帰ろう。嫌がったって構うものか。恋愛映画見た時と一緒、強引にいけば従うに決まってる。この一ヶ月は、あたしの方もちょっと悪かったかなとか思ってたからつい遠慮気味な態度を取ったんだけど、それがいけなかったのよ。
 励ますように、鏡の自分に向かってガッツポーズを取る。…その時、女子生徒が入ってきた。げ、グループの子だ。
「…何やってるの?」
「…部活の応援の練習」
 あははと渇いた笑いで誤魔化して、トイレを出て行った。
 あー、恥かいた。これも全てあいつのせいよ!覚えてなさい!

 そして運命の放課後。
 担任のウザイ話を聞き流してHRが終るのを今か今かと待つ。うわっ、手の平汗ばんでる!?いつのまに握っていたんだろ。
 落ち着け落ち着け――
「起立っ!」
 っ!?え?号令?
 周囲からワンテンポ遅れて慌てて立つ。
「礼」
 で、次は間に合って頭を下げる。ついに、放課後が来た。
 席を立つ。廊下際のあいつの席を見て……居ない!?普段ドン臭いくせになんで今日に限って行動が早いのよ!
「あ、今から皆でカラオケ行くんだけど、どう…」
「ごめん!急いでるから!」
 誰かに(多分、グループの子だと思うけど)声掛けられたけど、一方的に話を切り上げて慌てて廊下に飛び出す。
 あいつは……いた!
「ちょっと待ちなさいっ!」
 とっさにそう呼び止めちゃったせいで、廊下に居るほとんどの生徒が振り返った。うっ……えいい、気にするなっ!
 で、肝心のあいつは一度は振り返ったものの、すぐに向き直ってさっきよりも心持足早に去っていこうとする。ああもうっ!
「だから待ちなさいって言ってるでしょ!」
 慌てて後を追って、腕を掴んで引き止める。
「……何の用?」
 腕をつかまれてはさすがに無視できなかったようで、振り返って不機嫌そうな声で訊ねてくる。
「一緒に帰るわよ」
 あたしは、高圧的な態度で見下ろしながら言った。今までだったら、これで怯えたようにコクコクと何度も首を立てに振ってくれるんだけど…
「……嫌だよ」
 目をそらされて、拒絶された。…生意気!
「いいから来なさいっ!一緒に帰らないとあたしが迷惑するのよっ!」
 あたしは高圧的な態度のまま、嫌がるあいつを無視して強引に引きずっていく。抵抗しているようだけど、力はあたしの方が上だから無駄よ。
 とにかく、今はこの目立つ場所から離れなきゃ…こうやって強気な態度とってれば、友達には後でいくらでも言い訳きくしね。
「いっ、嫌だ!」
 途端に抵抗が強くなって進まなくなった。…あいつ、柱にしがみ付いてる!?なんでそんなに必死に抵抗するのよ!
「い・い・か・か・ら・来・な・さ・い・よっ!」
「い・や・だっ!!」
 両腕使って強引に引っ張っても頑として動かない。力はこっちが上なんだけど、相手は自分の体が進むのを柱に引っ掛けて止まっているからどうにもならない。
 仕方ない、力ずくは諦めるか。ったく、ここまで反抗するなんて本当に生意気な…
「あのねえ!なんで今になってそんな必死に抵抗するわけ!?一年の頃は一緒に帰ってたじゃない!」
「二年になってからは一緒に帰ってないよ!いいからほっといてよ!」
「あたしにそんな生意気な口利いていいと思ってんの!?」
「ふんっ!知らないよっ!そんなのっ!」
 顔をつき合わせて睨み合う。こいつ…今までこんなに反抗したこと無かったのに!
 ふと、周囲が気になって目を逸らした。……げっ!注目されまくりっ!?いや、廊下でこんなに騒いでたら無理も無いけど。
「…じゃ、僕は行くから」
 あたしが周囲に気を取られている内にそう言ってさっさと去って行こうとするのを、腕を掴んで引き止める。…わざわざ断っていくところがらしいと言うか…ようやくらしいところが見れてちょっと嬉しかったけど。
 って、そんな場合じゃない。
「だから、なんで一人で行こうとするのよ。一緒に帰らないとあたしが迷惑だって言ってるでしょ!あんた、あたしを困らせていいと思ってんの!?」
「そんなの、僕の勝手だろ!」
 僕の勝手…自己主張の弱い幼馴染からこんな台詞が飛び出るなんて思わなかったわよ、ええ。
 急速に感情が冷えていくのを感じる。こんなに頭に来たのは久しぶりよ!
「…最後通告よ。一緒に帰りなさい。いいわね?」
 あたしの声が低くなったのに気づいて、あいつは怯えたように息を飲んだ。ふっ…勝ったわ。まぁ、あんなに抵抗した理由は帰り道にでもおいおい聞くとしてあたしに盾突いたのはこれで許して…
「…嫌だ。僕は一人で帰る」
「……っ!」
 予想外の返事が来た。あたしはカッとなって睨みつける。あいつは、一瞬怯んだものの、真っ向から睨み返してきた。…もう、何よ一体!?なんでこんなに抵抗するの!?
 もう周りの視線なんて気にしてられない。あたし達はじっとその場で睨み続け…しばらくして、あいつが諦めたように嘆息して視線を逸らした。
「…分かったよ」
 その言葉に、思わず安堵の吐息が漏れそうになる。やっぱり、こいつがあたしに逆らえるわけ――
「姉さんに言われたんだよね?僕の方からちゃんと説明しておくから、僕なんて気にしないで一人で帰りなよ。あ、何なら友達と遊んで帰れば?」
 冷や水を浴びせられる、って言うのはこういうことを言うんだ。と初めて理解した。
 姉さんってのはあたしの母親のことで、オバサンと呼ばれたくなくて幼い頃から『お姉さん』と呼ぶように教育してたのだ。我が親ながら本当に恥ずかしい。いや、今重要なのはそんなことじゃなくて、説明とか気にしないでとかって…
「もう僕たちは一緒に帰らないし、口も利いたりもしないってちゃんと言って置くよ。迷惑なんて掛けないから」
 落ち着いた声で淡々と言ってくる。そんな幼馴染の姿は今までみたことなかった。
 こんな、冷たい視線で見てくる幼馴染の顔なんて、見たくなかった。
「だから、もう僕に気を遣うのは止めてよ。それこそ、僕が迷惑だよ」
「あ……」
 そんな言葉が口を衝いて出る。なんで、こんなことを、あの、気の弱いあいつが、
「それじゃあ」
「ま…」
 行ってしまう、あの時引き止められなかったように、また。
「待って…」
 一緒に帰らなくなって、挨拶すらできなくなって、あの冷たい視線のままで…
 そんなのは、絶対に嫌だ!
「待ちなさいっ!」
 反射的に、あいつの後ろ頭を思いっきりどついていた。ドガシャと派手な音を立てて前のめりに倒れるあいつ。
 あたしは痛そうに後頭部を擦っているあいつの襟元を掴んで、強引に顔を向けさせた。
 殴られたことでメガネが落ちたのか、野暮ったいメガネに隠されたあいつの意外なほど整った顔が、怒りに吊り上げた目であたしを睨んできた。
「何するんだ…」
「僕が迷惑って何よ!あたしがいつあんたに迷惑掛けたってのよ!」
 相手の抗議を無視して、問い詰めた。野次馬どもが騒ごうか知ったこっちゃ無いわ!
「現に今迷惑掛けられてるよっ!だいたい、いつも迷惑だったんだよ!僕が嫌がってるのに無理やり連れ出したりして!」
「あんたのためを思ってのことでしょ!この引き篭もり!」
「大きなお世話だよ!お情けで一方的にお節介されても嬉しくなんかないに決まってるだろ!」
「お情けって…あんたまだあんなこと気にしてたの!?しつこいわねっ!」
「いいだろ別に!これで僕なんかに構うことがなくなったんだから、清々してるだろ!いいからほっといてくれよっ!」
「あんなのは嘘に決まってるじゃないっ!それくらい察しなさいよっ!」
「何をだよっ!だいたい、なんでそんな嘘付く必要があるんだよ!」
「あんたのことを好きだからに決まってるでしょ!」
「……っ!?」
「だいたい、あんたは昔っから鈍くて…」
 …あれ?なんで、そんな驚いた顔してるの?…って言うか、あたし今何口走った!?
 黙りこんだあたしの耳に周囲のひそひそ声が届く。
「…好きだってよ…」
「…え?…マジかよ?」
「痴話喧嘩…」
 あ…
「あ……あああ、あ………」
 もしかして、今、あたしは、勢いで、こいつを、好きだって……
「あ……あの……」
 先程の怒った様子は為りを顰めて、戸惑うように声を掛けてくるあいつ。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!?」
 あたしは、何も考えられなくなって、全速力でその場を逃げ出した。
 



 そのまま駆け足で家に戻ったあたしは、自分の部屋に引き篭もってベッドにうつ伏せで寝転がり、枕に顔を埋めていた。
「うああ……死にたい」
 枕に顔を埋めたままの、くぐもった声で呟く。先程から思い返しているのは学校でのあいつとの大喧嘩…そして、勢いで好きだと言ってしまったこと。
 あんな大声で、しかも人目のある廊下であんな言い争いをしたのだ。間違いなく、明日には全校中の噂になるだろう。…いや、それは少しおおげさかもしれないけど、少なくともあたしのクラスメイトの耳には入るだろう。
「…あーもうっ!…」
 バタバタと足で何度も布団を蹴って言いようもない恥ずかしさを耐える。
 今まであたしが培ってきたクールなイメージが全部台無しだ。あの幼馴染のせいで。だいたい、あいつがあの日、似合わずに外出なんてしてたから…
「うーっ……」
 バタバタバタ
 落ち着かない。て言うか死にたい。
 あたし、こんな目にあうような悪いことした?ただいつもどおり誤魔化しただけで、それをあいつに聞かれちゃっただけなのに、なんでこんな目に…
 しかも、勢いで好きだって言って…
「あああああああっ」
 バタバタバタバタ
 耐えられない。恥ずかしさで死んでしまいそう。やっぱり死にたい。ううっ、思い出すな、あたし!
 でも……返事貰ってないし……
「って、違う違あああうっ!!」
 バタバタバタバタバタ
 足で何度も何度も布団を叩き続けて……しばらくして疲れたから止めた。ふぅ……ちょっと落ち着いた。
「…でも、嫌われたよね…」
 ポツリと自嘲する。
 そうだ。好きになってもらえる要素なんてない。特にあの口喧嘩はトドメだった。
 高圧的に言うこと聞かせようとして、それが無理だったら力に訴えて、腹を立てて思い切り殴ったあげく胸倉掴んで好き放題言って勝手に逃げ出して…
「はぁ…」
 あたしがあいつの立場だったら絶対に嫌いになる。もう相手しない。賭けてもいい。
「はあーっ……」
 そうだ。こんなお高く留まった可愛くない女なんて、好きになってもらえる筈が無いんだ。
 あいつ、無理矢理連れまわされて迷惑だったって言った。…あたしは、迷惑そうにしてても、喜んでくれてるって思ってたんだけど、一方的な思い込みだったんだ。
 だったら素直にそう言ってくれれば、あたしから合わせてあげたのに…
「…って、今頃そんなこと考えても遅いわよね」
 いつもあたしが高圧的に連れ出してたから、あいつは言えなかったんだし。本当は、あたしと一緒に出かけたくなんかなくて、家に居たかったのに決まってるんだ。
「ふんっ……引き篭もり、ニート、ひも」
 悪態を付く。…凄く虚しい。
 チャララララ〜♪
 不意に携帯から流行ソングのメロディが鳴り響いた。…もうっ、こんな時に、誰よ?
 のろのろとベッドから降りて、机に放り投げておいた鞄から携帯(折りたたみ式)をとりだして、パカッと開く。
「…っ!?」
 …液晶画面に映っている名前を見て思わず息をのんだ。あいつだ。
 で、出た方がいいのかな?で、でも何て言ったらいいか分かんないし…あいつ怒ってるだろうし…
 躊躇している内に、勝手に録音に切り替わってしまった。…何やってるんだろう…
 後悔しながら携帯を見ると、留守電のマークが付いていた。間違いなく、あいつだ。
 聞いたほうがいいんだろうけど……ええいっ、どうにでもなれっ!
 散々躊躇ってから、決意して再生ボタンを押した。
『あ、あのさ、ぼ、僕だけど…
 え、ええと、その、なんて言ったらいいか分からないけど、ごめん。
 僕も、迷惑だなんて、嘘だから。本当は、こんな僕に声を掛けて連れ出してくれるのが、嬉しくてたまらなかったんだ。
 だ、だからさ、その…こ、これからも、強引に連れ出してくれると、嬉しいかなって……。
 あ、あとさ、その…ぼ、僕の事好きだって……ええと、本当…?だ、だったら、その、うれし』
 ピッ
 そこで突然途切れた。間違ってなんかボタン押したわね?相変わらず間抜けなんだから。
「本当、世話が焼けるわよね」
 あたしはわざと嘆息すると、あいつの携帯にメールを送った。電話かけて返事なんて、できる訳ないじゃない。
 それからまた布団にうつ伏せで突っ伏す。
 バタバタバタ
 落ち着かずに足で布団を叩く。
 あー、いけないったら、落ち着きなさいよあたし。
 わざとらしく顔をしかめる。でも、顔がニヤけるのは止められなくて。
 明日、あいつの顔を見るのが楽しみで怖くてやっぱり楽しみで。
 しばらくの間、ずっとそうしてベッドの上で暴れていた。





Sub:情けない幼馴染へ

本当に決まってるでしょ、バーカ。


PS.
次のGWは空けておくように
 




end