萌のみの丘二周年記念作品+KANONSSを書こうプロジェクト第四弾
天野美汐、現在高校二年生の17歳。
今、“何故か”走っています。
LAMENT
今、私は紆余曲折を経てお付き合いをしている男性がいます。
その男性の名前は相沢祐一さん。一つ年上の高校三年生です。
未だに恥ずかしくてお互い名前で呼べませんが、それでもお付き合いさせていただいています。
さて、今私“達”は走っているわけですが、どうしてこのような状況になったのでしょうか?
自慢ではありませんが、これでも私は品行方正な優等生で通っています。何時如何なる時も焦らず走らず余裕を持って、が心情の私が、“何故”走っているのでしょうか?
というわけで、そもそもの『間違い』は何だったのか、思い返してみることにしましょう。
午前五時起床。
そこ、年寄りみたいだとか言わないでください。そういうのはおばさんくさいだけで十分すぎます。
それで、まがりなりにも“半”一人暮らしをしている身です。昨夜のうちに仕込みをした朝食の準備に取り掛かりました。因みに、その間に洗濯機を回しておきます。
時間の節約ですね。
朝食の支度を終えて、洗濯物を干します。
それから朝食を食べて、身仕度をして十分ほど鏡と睨めっこをしました。
たとえ相沢さんが欠席していても必ず会うのですから、身嗜みには気を遣わなければいけません。
髪型を整えたり、他色々と…
そして、今日に限って会心の出来栄えだったのです。今すぐにでも相沢さんに見せたい。会いたい。そう思ってしまったのです。
そう、それこそが何よりの間違いだったのです。
まず、相沢さんが居候している水瀬家に向かい、家主の秋子さん(あの見た目で高校三年生の娘がいるのです。今度若さの秘訣を聞き出しておくべきでしょう)に暖かく迎えられ、相沢さんと二人、向かい合ってお茶を楽しんでいました。あれは至福の時でした。
そして、相沢さんがその至福の時を振り払うかのように立ち上がり、赤紙を受け取った父親のような表情で二階へと上がっていきました。
それから二十分後。
疲れ切った表情の相沢さんと、とても眠そうな水瀬先輩が降りてきました。
その時、私の中で黒い感情が暴れていたような気がします。
それはともかく、相沢さん曰く「今日も手強かった」とのこと。
どうしてそこで歴戦の勇者のような表情を見せてくれたのでしょうか?
そういえば、以前水瀬先輩の部屋は伏魔殿であると論文を発表したいとか言っていましたね。
また話が逸れました。
とにかく、まだ時間はあったわけです。私はいつもよりは遅くなりますがこれはこれでいいと、不覚にも、非常に愚かしい行為だと知らずに思ってしまいました。
とにかく、相沢さんが水瀬先輩を必死に急かしていたのを不思議そうに見つめる私がいました。
そして、信じられないほど時間を掛けて朝食を食べ終えた水瀬先輩が靴を履いたときには私にとって絶望的な時間になっていました。
とにかく、私達は走りだしたわけです。
そして今に至ります。
相沢さんが手を引いてくれていますが今にも倒れそうです。
「人がいるときぐらい急ごうとか思わないのか!!」
相沢さんが叫んでいます。
つまり、私にとっては全力“以上”疾走でも、相沢さんにとっては全力ではないということ。
「急いだよ!!」
「嘘だ!!いつもよりも時間かかってたぞ!!」
「それよりも、ペース上げないと遅刻しちゃうよ」
水瀬先輩がペースを上げました。
「祐一、美汐ちゃんと仲良く遅刻してね」
どんどん見えなくなっていく水瀬先輩。
あんなスピードで引っ張られたらもみじおろしになってしまいそうです。勿論、血で。
「名雪ーーッ!!!!それが本音かーーーッ!!!!」
相沢さんの絶叫が朝の街に虚しく響きます。
「…見つけた」
突然、狩人の目になった相沢さんが偶然自転車で通りかかった久瀬先輩に向かって疾走し、跳躍し、
「死ねよやぁあああああああああっ!!」
とても美しい“どろっぷきっく”を決めてくれました。
「ぐあっ!!」
自転車から落ちて地面を滑ってくる久瀬先輩を蹴飛ばします。
「よし!行くぞ天野ォオッ!!」
体育会系の熱い笑顔で私を呼ぶ相沢さん。
私はもう一度久瀬先輩を蹴飛ばして、自転車の荷台に乗りました。
人間、極限状態に陥ると、とんでもない行動に出るということをこの目と我が身で確認しました。
「名雪に負けてなるものか!!」
「おーっ!!」
二人で完璧に壊れていました。
HRが終わって、冷静さを取り戻した私は自分のとったあまりな行動に恥ずかしくなって顔を伏せました。
今にも顔から火が出そうです。
こういう時、相沢さんが羨ましいです。きっといつもの傍若無人振りを遺憾なく発揮していつものように行動していることでしょう。
「ねぇ、聞いた?生徒会長が登校中に暴漢二人組に襲われたんだって」
「あ、聞いた聞いた。自転車が見つかってないから自転車目的じゃないかって」
どうしてその話が出回っているのでしょうか?
しかも、殆ど真実です。
こうなったら相沢さんに文句を言いに行きましょう。
すべて相沢さんの所為なのです。
久瀬先輩と同じクラスだろうが知ったことではありません。
とにかく、行きます。
相沢さんのクラスに到着した私を出迎えたのは眼鏡をかけたミイラ男でした。
それが制服に身を包んでいるのですからある意味では凄惨な光景です。
「相沢君にも言ったんだけど自転車を返してくれないかな?」
ミイラ男が話し掛けてきました。
内容からして、久瀬先輩でしょう。
それから、自転車に思いを巡らせました。
確か…水瀬先輩を追い越してフェンス越えの大ジャンプをして壊れてしまいましたね。
どうしましょう?
思案して、相沢さんを探して視線を走らせると…
「だからな、ここで315を押して…」
白い大きな携帯電話を片手に北川先輩と雑談をしていました。
「いや、ここは913だろ?」
一方の北川先輩は黒っぽい大きな携帯電話を持っていました。
つまり、当てにはできそうにありません。
仕方がないので久瀬先輩について考えてみます。
この人をかわすには……
1、事情を説明する。
却下です。説明できないから困っているんです。
2、殴り飛ばす。
暴力反対。朝目の前の人を蹴った人が言うことではありませんが。
3、逃げる。
ここに来た意味がなくなります。
4、無視。
これですね。徹底して他人のふりをしましょう。
「相沢さーん」
手を振って相沢さんを呼びます。
それに気付いて相沢さんが寄ってきます。
「どうした、天野」
「歯を食い縛れ、です」
私は全力で相沢さんを張り倒しました。
え?暴力反対?
言葉のあやですよ。
「な、なんばしょっと!?」
「うるさい!!」
普段なら絶対に使わない汚い言葉。
ですが、今だけは許してください。
「今朝、水瀬先輩を起こしているのを見て、私は嫌な気持ちになりました。
お願いですから、私以外の女の人を見ないでください。
確かに、私には所謂“女の子らしさ”が欠けています。それでも、相沢さんを想う気持ちは誰にも負けていないという自負があります。
馬鹿なことをしていてもかまいません。私だけを見ていてくれたら…私に相沢さん以外の男性のことを考える時間を与えないでください。
私は…相沢さんだけのモノでいたいんです!!」
私は一気にまくしたてました。
相沢さんは面食らったような顔でしたが、すぐに口を開きます。
「あー…その、何だ。ここ、俺の教室で、授業前だからみんないるんだが…」
「うぇ!?」
我ながら間抜けな声でした。
って!!違います!!
みんな?つまり、約四十人が私の言葉を聞いていた?
「いやぁあああああああああああああっ!!!!」
恥ずかしさのあまり絶叫とともに飛び出しました。
「天野ォオッ!!!」
すぐに私を呼びながら相沢さんが飛び出してきます。
普段ならすぐに捕まりますが、今は違います。
極限状態です。
逃げ足が速くなったり、突飛な行動をとったり…
まず、廊下を歩いていた美坂先輩を捕まえて相沢さんの方に投げ捨てました。
ですが、さすがは極限状態。
相沢先輩は非常識にも空を飛んでくれました。
別に本当に飛んでくれたわけではありません。
それくらいに高くジャンプしただけです。
ただ、それで本当に恐ろしいのはそのまま宙を泳ぐようにして私を捕まえたことです。
「お願いです!後生です!後生ですですから離してください!!」
「嫌だ!って、痛い痛い!つねるな!!」
最後の抵抗をします。
「このまま潔く散らせてください!!」
「アホか美汐」
ソレの破壊力は抜群でした。
「い、今…」
名前で呼ばれたような…
「俺は絶対にこの手を離さない。もう、真琴みたいに誰かが消えるのは嫌なんだ。だから、絶対に美汐は離さない」
今度こそはっきりと聞きました。
相沢さんはたしかに私を名前で呼んでいました。
「今…名前で」
「いや…一番効果のありそうな言葉を選んでみたんだが、気に入ったか?俺の趣向の性質上、名前で呼ぶのが一番自然なんだが」
「う…はい」
結局、今日は二人でサボることになりました。
理由は恥ずかしいのと、自転車を直さなければいけなかったからですが。
夢を見ました。
私と祐一さんが手をつないで笑っていて、あの子と真琴が笑っている、幸せな夢でした。
そして、私と祐一さんの左手の薬指には同じデザインの指輪がはめられていました。
そこでこれは未来の夢であると、あの子たちのメッセージであると気付きました。
そう、私達が再び会う日は遠くはないのです。
もう少しの辛抱です。
私の卒業の日。
その日には指輪ぐらい実現しているでしょう。
その日と、さらなる未来に祈りを捧げ、私は目を覚ましました。
「今日から、相沢さんと二人で学校に行けます」
幸せですか?
祈りは届きますか?
後書き
セナ「二周年記念及び、例の短篇シリーズ四つ目です」
祐一「今回やけに熱が入ってないか?」
セナ「いや、これは自己満足で済ませるわけにはいかなかったから」
祐一「冒頭なんかやたらと壊れてるしな」
セナ「それだけでもないけどね」
祐一「何?」
セナ「携帯電話と315と913」
祐一「ここに来てる人じゃわからんのではないかと」
セナ「わかんないだろうね」
祐一「変身させられなかった分だけ幸せだったということか」
セナ「大丈夫。いつかすることになるから」