「ねぇ、おかあさん」

「何? 名雪」

「家にはサンタさんは来ないの?」

「え?」

「だって幼稚園の皆はサンタさんに逢ったって言ってるけど、私は逢ったことないもん。
 それってサンタさんが家には来てないって事でしょ? どうしてなの?」

「……名雪」

「なあに?」

「サンタさんはね、毎年ちゃんと来てくれてるのよ」

「それじゃあどうして逢えないの?」

「サンタさんはいい子にして寝てなければ来てくれないの。
 だから名雪みたいにちゃんと寝てる子にはそれだけ素敵なプレゼントをくれるのよ」

「じゃあもっといい子にして寝てればもっとすごいプレゼントもらえる?」

「そうね」

「じゃあもっといい子にする!」

 

 

 

 

 

母から娘へ 〜最初で最後のサンタクロース〜

 

 

 

 

 

昔のことを思い出した。

今からもう十数年も前のことになるだろうか。

“どうしてサンタに逢えないの?”

名雪はそう私に聞いてきた。

幼稚園の友達は逢ったことあるのに、と。

それは多分その子の父親だろう。

父親がサンタクロースに形振り、我が子にプレゼントをあげる。

そう、父親が。

名雪には父親がいない。

とても幼い名雪と私を残して逝ってしまった。

それからは女手ひとつで名雪を育ててきた。

父親の代わりもやってきたつもりだ。

しかしサンタクロースにだけはなれなかった。

 

―――サンタクロースは男性だから。

 

別に女性のサンタでもいいのかもしれないが、相手は子供だ。

友達の話を聞いて、それと違うことに疑問を持つだろう。

それでサンタは名雪が寝ている間に来ていた事にした。

本来はそういうものだと思うし、それでいいと思っていた。

もちろん、名雪が望んだプレゼントはちゃんと買って枕元に置いておいた。

そしてあれからは名雪もサンタについては何も言わなくなった。

 

そして今日は12月25日。

今年は今までのクリスマスとは違う。

名雪と二人ではなく、祐一さんがいる。

名雪が祐一さんに好意を持ってることはすぐわかる。

これから祐一さんが名雪のサンタになってくれれるだろう。

だから最後くらい私は今まであげられなかったプレゼントをあげようと思う。

最初で最後のサンタクロースとして。

 

 

 

「名雪」

「何? お母さん……って、どうしたの!? その格好?」

「サンタクロースよ」

「それはわかるけど……」

「名雪、メリークリスマス」

「メリークリスマス……サンタさん」

「いつも寝ていい子にしてる名雪にプレゼントがあるのよ」

「え、本当? ……って、それ嫌味?」

「…………それよりプレゼントよ」

「ありがとう、お母さん」

「サンタよ」

「あ……サンタさん、ありがとう。プレゼントはなあに?」

「プレゼントはね……これよ」

 

 

 

「名雪の新しいお父さんの相沢祐一さんよ」

「よろしく、名雪」

「だお!?」

 

 

 

よかった、名雪も喜んでくれたみたいね。

長年の夢も叶えれたし、今年のクリスマスは大成功ね。

それでは皆さん、メリークリスマス!