ぐるん!

 世界が回る。


 ごちん!


 「ぐぇ……」

 「オミくん、朝だぞっっっっっっっっっっっっ!」

 「頭がズキズキする」


 俺の頭上では、愛用しているハンモックがユラユラと揺れている。

 俺が目を開けて頭上を確認すると、制服姿の姉の姿があった。

 ちなみに…今日は水玉か……

 俺は首筋をさすりつつ床から立ち上がる。

 ハンモックをひっくり返して俺を落としたみたいだ。


 「すずねえ……毎朝こんな起こし方されたら、俺、そのうち死ぬぞっ!」

 「大丈夫だぞっっっ!」


 何が大丈夫だと言うのだ、この姉は…


 「オミくんは強い子だから、こんな事じゃ死なないぞっっっっっっっっっっっっ!」

 「死ぬわっ!」


 もし俺が急死する事になったら、間違い無くすずねえの所為だろう。




















 粉雪の空に… don't you forget again

 第三話 雪の概視感
















 俺をハンモックから突き落とした、この人の名は桜橋涼香(さくらばし すずか)、俺はすずねえ(涼香姉ちゃんの略)と呼んでいるが、別に実の姉じゃない。

 隣に住んでる……いわゆる幼馴染というやつだ。

 俺より一つ年上で上級生だ。

 特徴として、セリフの『溜め』が長く、あがり症で3人以上の人物の視線を集めると壊れる。

 学校では、その青く長い髪や整った顔立ち、抜群のプロポーションから、学校のアイドル的存在として有名だ。

 まぁ、別の理由でも有名なのだが……

 その別の理由を説明するには、先に俺のことを説明せねばなるまい。

 俺の名前は、新沢靖臣(にいざわ やすおみ)、俺自身は甚だ遺憾なのだが俺の通ってる奈々坂学園で『何をしでかすかわからない伝説』を日々更新中のナイスガイだ。

 まぁそんな伝説ができる理由は、俺自身も勢いだけの発言をし、なおかつその言葉にそって行動しようとするからだという事は解っているのだが……

 ちなみにこんな性格に育ったのは、昔に姉は俺がバカな事をするといつも助けてくれた。

 小さかった俺は、姉がかまってくれるのが嬉かったのだろう。姉にかまってもらおうと姉の見てる前ではバカなことばかりした。

 そして今では、もはや条件反射の様に姉をみたらバカなことをしてしまう様になったのである。

 我ながら何でこんなことになったのだろうと思う。

 姉は姉で、俺がそんなもんだから、姉はさらに俺をかまう様になり、今では世間一般の姉弟を遥かにぶっちぎった溺愛ぶりを発揮する姉になった。

 我が姉ながら何でこんなことになったのだろうと思う。

 まぁ、そういうわけで俺達は、溺愛する姉と溺愛される弟として有名なのである。


 「オミくん? どうしたの、ボーっとして?」

 「いや、己の境遇について少し」

 「? それより、急がないと遅刻するわよ? 一人で着替えれないんだったら手伝ってあげるぞっ!」

 「それぐらい一人で出来るから、早く部屋から出てってくれ」


 俺は幼稚園児か? ……いや、すずねえの頭の中ではどれだけ経っても俺は幼稚園児のままなのだろう。

 まぁ、その件に関しては俺にも責任があるのだが。

 とにかく、俺はすずねえを部屋から追い出し、着替える。

 制服に着替えるためにパジャマを脱ぐ俺の目に壁に架けてあるパネルが映った。

 パネルには何枚もの写真が貼り付けており、その全てが俺のかけがえの無い記憶たちだ。

 ここに……俺の部屋に、思い出の写真を貼り続けていれば乗り越えられるかも知れない。

 いつか来るはずの破滅の時を……


 ガチャ


 なんて、がらにも無く感傷に浸っていると、急に部屋の扉が開かれる。


 「オミくん」

 「おわっ!? すずねえのエッチぃ」

 「今日のごはんは、目玉焼きと鮭の塩焼きだぞっ!」


 パタン


 何事も無かったかのように去っていくすずねえ……なぜか負けた気がした。


 「…………」


 この場合、俺は被害者なのだろうか?

 まぁ、何事も無かったかのようにしておくのが賢明なんだろう。

 ……というか、何故すずねえが食事を作ってるんだ?

 ここは断じてすずねえの家ではないはずなんだが。

 半分以上、すずねえの根城と化してる説もあるが。

 まぁ、それはともかく早く着替えて朝ご飯を食べるとしよう。







 「はい、オミくん、ごはんだぞ〜」

 「やぁ、おはよう靖臣、冷めないうちに食べようではないか」


 俺が階段を下りると、この家にはいないはずの人物が我がもの顔で食卓についていて、味噌汁を啜っていた。


 「まて、何故に忠介がここにいる」

 「靖臣、朝起きたら挨拶をするのが常識と言うものだぞ」

 「……お前の口から『常識』という言葉が出てくるとは……」

 「相変わらず失礼な男だね、靖臣」


 お前よりはマシだ、と心の中で思った。

 朝っぱらから人の家でメシ食ってるこいつの名は、江ノ尾忠介……俺の悪友にして、生粋のトラブルメーカーその1。

 なぜかいつも単眼鏡をしており、制服の上に白衣を羽織っている。

 いつも妙な研究をしており、数学の授業中でも堂々と実験をするような奴である。

 性格はアッサリと極悪、行動はその3乗は極悪かつ理解不能、歩く人災、学級崩壊請負人、等の異名を持つ。

 ちなみに俺の『なにをしでかすかわからない伝説』の半分以上はこいつが原因だ。

 ……俺は何故こいつと親友なんぞやっているのだろう? ここまでいい所が見えてこない友人はそうそういない。

 まぁ、人格は破綻してるが人間的にはいいやつだけどな。


 「ほら、オミくん。江ノ尾君と話してばかりいないで、ご飯を食べるぞっ」

 「いや、何故ここにいるのか、まだ聞いてないし……」

 「靖臣、今日、この僕が朝早く来た理由だが……夢見が悪かったんで気晴らしに、ちょっと靖臣を改造でもしようかと思ってね」

 「なんだとっ!? そんな、まるで俺が戯れに近所の子供からお菓子を取り上げるかのような、気まぐれで俺を改造しようと言うのか!?」

 「そんな事をしてたのっっっっっっ!? オミくん!?」

 「うわ〜ん! 涼香お姉ちゃんが怒ったー!」

 「オミくん!? あ〜よしよし、お姉ちゃんは怒ってないぞっっっっっ!」

 「会うたびに泣き真似が上達していくな。靖臣」


 それはお前と会うたびに、泣き真似をしなければいけない状況に追い込まれるからだ。

 まったくもって迷惑な話だ。

 とりあえず、忠介の事は気にせずに朝食を食べよう。


 「しかし、ここに来た理由の改造は冗談だったが、夢見が悪かったのは本当だ。靖臣が夢の中で孤独になってしまう夢だった……だから僕は……」

 「そうだったの江ノ尾君……オミくんが友達に恵まれててお姉ちゃんは嬉しいぞっっっ!」

 「忠介……」

 「だから僕は……靖臣がたとえ地球の全生物が死んでも一人で生きられるように改造しておこうと思ったのだ」

 「さっき改造は冗談って言ってなかったかっ!?」

 「ああ、つい本音が……」

 「本音!?」

 「江ノ尾君みたいな人がオミくんの友達で、お姉ちゃん複雑だぞ……」

















 なんてバカな事をしている間に時間がすごい事になっていた。


 「オミくん、ものすっっっっっっっっっっごく急がないと遅刻だぞっ!」

 「よし、すずねえ! 諦めよう!」

 「そんな男らしく言うことじゃないぞっっっ!」


 雰囲気で押し切れるかと思ったけど無理だった。

 ちなみに忠介はご飯を食べ終わるとどこかに消えていた。

 奴の行動は常に理解不能なので大して気にする必要もないが……

 仕方なく自転車を出して後ろにすずねえを乗せて学校に向かうが……


 「オミくん、このままだと遅刻だぞっっ」

 「うむ、仕方あるまい、ここは…………」




 1、焦る心を抑えていつもの道を行く

 2、焦る心を抑えていつもの道を急いで行く

 3、焦る心を抑えずに禁断の近道を行く

 4、焦る心はとりあえず置いといて新走法を試してみる




 「4だな……」

 「4って何、オミくん?」


 俺という奴は、なぜ自分から茨の道を行こうとするのだろうか?

 そもそも、新走法ってどんな走法で走るんだ?

 手でペダルをこいで、足でハンドル操作は前にやったし……

 そうだ! 前後ろ反対でこぐというのはどうだろうか?

 うむむ……今ひとつインパクトに欠けるな。

 なぜインパクトがいるのか、という疑問はこのさい置いておく。

 そもそも、前後ろ反対でこいだら危ない。

 そうだっ! 以前の手でペダル、足でハンドルの上下逆走法に前後ろ反対の走法を合わせるというのはどうだろう。

 これなら逆の逆で普通の走り方になるし、新しい走法でもある。

 うむ、これで行こう!


 「よいしょ……っと」

 「オミくん?」


 一度自転車から降りて、後ろを見ながら逆立ちして再び自転車に乗る。


 「オミくん!? また錯乱してるのっっっ!?」

 「すずねえ、それじゃ俺がいつも錯乱してるみたいじゃないか。俺はいつも自分に正直に生きてるのに」

 「そっちの方が余計に性質がわるいぞっ……」


 と、そこで俺はあることに気付く。

 俺は今後ろを向いている。

 つまり、目の前には自転車の前にいるすずねえがいるわけだ。

 そしてさらに俺は今、逆立ち状態なので視点が思いっきり低い。

 つまり、何が言いたいのかと言うと……


 「じ〜」

 「オミくん?」

 「じ〜」

 「どうしたの? お姉ちゃんの方ばっかり向いて…………って、オミくん? どこを見てるのっっっ!」

 「すずねえのスカートの中」

 「オミくん! お姉ちゃんはオミくんをそんなエッチな子に育てた憶えはないぞっっっっっっ!」


 ガン!


 「げふぅ!」


 お姉ちゃんパンチが俺の無防備な腹に決まる。

 その時バランスを崩さない様にしたのだが、わずかにバランスを崩す。

 その際、なにやら見かけないボタンが自転車についている事に気付く。


 「なんだ? このボタン」


 ポチ


 一瞬のためらいもなくボタンを押す俺。

 俺は少年の冒険心をいつも忘れないのだ。

 しかし、「好奇心ねこをも殺す」という単語があることを忘れていた。


 ドォン!!!


 ボタンを押した瞬間、自転車の後ろから火が吹く。

 そしてなぜか、周りの景色の移り変わりが加速する。


 「お……オミくん! 何したのっ!? なんかとんでもないスピードで自転車が進んでるぞっっ!」

 「うわ〜、コントロールがきかない!?」


 どうやら、自転車がものすごいスピードで爆走してるらしい。

 しかもコントロール不能。


 「オミくん、前、前っ!」

 「前がな……」


 ドン!


 『く……くしゅーぅぅぅぅぅ!?』


 前がなに? って聞く前に何が起こったか把握。

 『くしゅー』なんて声だす奴、ウチの担任以外そうそういない。

 ……悪いとは思うがこっちも生きるか死ぬかの瀬戸際なのだ。

 後方で花火のように空高く舞い上がり散っていく担任に黙祷をささげる。


 そして、とある事を思い出す。

 奈々坂学園の前には勾配のきつい坂があることを。

 そして気付く、今、その坂を上っている事を。

 いつもならただ、鬱陶しいだけの坂だが、いまこの自転車はどうわけだか、とんでもないスピードで暴走している。

 今のままのスピードなら、この急な坂もただのジャンプ台に過ぎない。


 「すずねえ! このままだと俺達、坂を上りきったら空中遊泳するハメになるぞ!」

 「そんなこと言ったってどうするの!?」

 「こうなったら、手当たりしだいに人をこの自転車に引き込んで自転車の重さを重くするしかない!」

 「わかったわ、オミくん!」


 言うが早いか、すずねえが早速誰かを引っつかむ。

 掴んだのは女子。


 「きゃっ!? すず先輩? オミ先輩?」

 「なんだ、まりぽんか」


 薄いピンク色の髪のこの娘は小泉鞠音。通称まりぽん(命名、おれ)

 俺の後輩で中学からの知り合いだ。

 俺の中のイメージとしては健気でかわいい後輩だが、幸が薄い。


 「まりぽん! とりあえず死にたく無かったら通行人の誰かの手を引っつかめ!」

 「は、はいっ!」


 がしっ!


 「ちょ……ちょっと一体なに!?」

 「なんだ、はるぴーか……」

 「新沢っ!? あんたいきなりなにすんのよ!?」


 したのは俺じゃないんだが……

 とりあえず、このツインテールのこいつは佐久間晴姫。通称はるぴー(命名、おれ)

 何故か俺が教えるハメになった水泳部の部長をしていて、いろんな意味で危険な人物だ。

 口調はなぜか『絶対』という言葉をよく使うが、『絶対』の下につく言葉が大抵『殺す』なのはいただけない。

 なぜか意味も無く(あくまで俺の主観だが)俺を追いかけてきて暴力行為をはたらく困った奴だ。

 少しからかったり、あんまり無い胸をもんだりするぐらいで命を狙われるのだからたまったもんじゃない。


 「とりあえず話は後だ! 今は死にたく無かったら誰でもいいから通行人の手を掴め!」


 とりあえず俺の方も通行人を跳ね飛ばして速度を減少させてるんだが、まだダメだ。

 このままだと、マーブルチョコでコンタクトに成功する某宇宙人の映画みたいに自転車でFly in the skyだ。


 「ったく……なんであたしがこんな目に」


 ……と言いつつも誰かを掴むはるぴー。



 「……新沢ちゃん?」

 「きゅきゅー!」


 はるぴーが釣り上げたのは頭にサルを乗せた娘。

 名前は野々宮美影。通称ののむー(命名、おれ)

 水泳部の部員で、何故か泳ぐときも頭にサルを乗せたままだ。

 俺が思うに、ののむーとサルは最早、一体化してるんじゃないかと思う。

 性格は俺には何を考えてるのか計り知れない、ある意味俺よりも問題児だと思う。

 ちなみにサルの名前はコスモス星丸だ。


 「とりあえず、ののむー! 誰でもいいから通行人の手を掴め!」

 「おっけー」


 ガシ!


 「うわっ!? 一体なんなのよ!? …って靖臣か」

 「なんでそんなに納得してるんだよ……」

 「だって、靖臣だしねぇ……」


 ののむーが釣り上げたのは巨乳メガネ巫女の尼子崎初子(あまこざきういこ)。

 人外の胸に気を取られがちだが、こいつも忠介と同じく生粋のトラブルメーカーその2で、俺の伝説も大抵はこいつに仕組まれた罠だったりする。

 ちなみに俺のクラスメートでもある。

 何故か梅が好き。


 「初子! 何でもいいから通行人を拉致しろ!」

 「あんた、ついにハーレムでも作る気にでもなったの? ま、面白そうだから協力するわ」


 こいつの場合、本気で命かかってる状況でも、面白みを追求するつわものなので危ない。


 「てりゃ! 秘儀、非徒鎖羅衣!」

 「人聞きが悪いこというな! ……って今度は小鹿か」

 「あ、靖臣さん! こんな衝撃と共に出会うなんて運命風味です」

 「確かに『衝撃的』よね……」


 初子の秘儀が釣り上げたのは緑色の髪の毛をした小学生。

 名前は姉倉小鹿。

 何故かなりゆきでウチのクラスに常駐している。さっき轢き逃げされたウチの担任と仲がいい……というかコンビ?

 ちなみにこのメンツで一番しっかりしている。

 しっかりさで小学生に負けてる俺達ってなんだろう?

 『風味』が口癖で、よく語尾に風味がつく。


 「小鹿! 多分、次に釣れるのは順序的にカナ坊だと思うが、通行人を釣り上げろ!」

 「靖臣さん、身も蓋もない風味です」


 そうも言いながらも律儀に誰かを引っつかむ小鹿。

 そのころ俺は頂上が近いことを確認しつつも轢き逃げのHit数を着々と更新し続ける。


 「えい!」

 「わ! 何が起こったのカナ? 何が起こったのカナ?」

 「2回いうな」

 「本当に若菜が釣れてるし……」


 小鹿が釣り上げたのはクラスメートの楠若菜(くすのきわかな) 通称カナ坊(命名、おれ)

 病弱で栗好きでお嬢で身長139cmで俺、忠介、初子、カナ坊の四人組のからかわれ役。

 口癖はなぜか語尾に『カナ』を付けながら二回言う。

 見た目は小学生の小鹿と大して変わらない……本当に高校生? と疑われる日々を送っている。



 「靖臣くん、一体なんなのカナ?」

 「カナ坊! 誰でもいい! 通行人を誘惑しろ!」

 「え、えぇっ!? そんなこと出来ないんじゃないカナ? 出来ないんじゃないカナ?」

 「そもそも若菜の誘惑についてくるのってロリペド野郎じゃない! そんなのここに乗せるつもり!?」

 「ういちゃん、酷いんじゃないカナ!? 酷いんじゃないカナ!?」


 ダメだ、もう頂上だ。

 だいぶスピードを殺したつもりなのだが、後ろのエンジン(?)がまだ火を噴いてるので加速するのだ。

 ……まて、あまりにぶっ飛んだ展開に(本当にぶっ飛びそうなんだが)目を白黒させていて気付かなかったんだが、他にもボタンがあるぞ?

 ボタンは青、黄、赤の全部で3つ。

 青いボタンはすでに押している。

 残りは後二つだ。

 触らないと言う選択肢は俺には無いので、とりあえず黄色のボタンを押してみる。


 ポチ


 たたたたたたたたたたた!!!


 何故か自転車から機関銃が出てきて前方に乱射した。

 幸いにも前方に人はいなかったので怪我人はいない。

 もっとも、後ろには大量の怪我人が地に伏せっていたが……


 「オ、オミくん!? 今、今なにかすごいことが起こったみたいだけど……」

 「危ないんじゃないカナ!? 危ないんじゃないカナ!?」

 「新沢! もう頂上よ!?」

 「飛んじゃう風味です」

 「……着地はミートソース?」

 「オミ先輩……ボク、最後に言っておきたいことが……」

 「何とかしなさいよ靖臣!」


 こんな切迫した状況でよくあの狭い後ろに七人も乗れたな……なんてことに素直に関心しているうちに


 自転車は頂上にきて……


 ポーン


 と空へ投げ出された。












 ぐんぐんと迫り来る学校。

 幸いな事に、このまま行けば学校の屋上に着地できそうだ。

 が、問題はそのあとどうするかである。

 ……つーかいい加減に止まってくれ。

 そんな俺の祈りが通じたのか、唐突にエンジン(?)が止まった。

 いやさ、止まったのはいいんだけど……


 「新沢! なんか勢いが落ちてない?」

 「このままだと校舎に激突するんじゃないカナ? 激突するんじゃないカナ?」

 「……摩り下ろしリンゴ」

 「いーやー!」

 「くそっ! こうなったら誰かを落として自転車を軽くするしかない!」

 『えぇー!』

 「ええぃ、初子! お前、乳が重そうだから落ちろ!」

 「乳重い言うな!」


 ガン!


 「げふぅ!? まぁ、カナ坊、小鹿、はるぴーは論外として……」

 「子供二人はともかく、あたしまで論外ってどういう意味かしら? 新沢……」

 「い、いくらなんでも子供って、酷いんじゃないカナ!? 酷いんじゃないカナ!?」

 「見たまんま風味です」


 「そんなことよりオミくん、もう校舎が目の前だぞっっっっっっ!?」

 「ええぃ! イチかバチかだ!」


 最後の望みを託して赤いボタンを押す。




 ポチ











 『靖臣、ミサイルを発射するので伏せておいたほうがいい』






 ……なんて抑揚の無い声で忠介の声がエンジン(?)から響いてきた。


 「こんな体勢で伏せれるかっ!」

 「突っ込むところが違うんじゃないカナ? 違うんじゃないカナ?」

 「そもそもなんで新沢はそんな体勢で自転車(?)に乗ってるのよ……」

 「って言うか、なんで忠介の声なんだよ!?」

 「そこも突っ込むところが違うわよ、オミくん」

 「突っ込むところが違う…ってなんかエッチな響きだな」

 「オミくん! お姉ちゃんはそんなエッチなこに育てた憶えは無いぞっ!」


 バキッ!


 「ぐはっ!」

 「まぁ、わたしは機関銃が出てきた時点であいつの仕業だと思ってたけどね……」

 「お、おおおおオミ先輩! ミサイルってどういうことですか!?」

 「戦闘機風味で格好いいです」

 「……ふぁいあー」

 「きゅきゅーっ!」


 もう何がなんだか分からない状態でミサイルが発射されて前方の校舎の壁が破壊される。

 そのままミサイルで出来た穴に突っ込んでいく俺たち。


 ドンガラガッシャーン


 何か色々なぎ倒しながら無事とは程遠い着地をする。

 自転車も止まり、身を起こすと……


 「校長室?」


 そこは校長室だった。


 「やばい、早くずらかるぞ…『靖臣……ちなみに言い忘れていたが』」


 逃げ出そうとする俺たちに自転車から再度、忠介の声が響く。




 『この自転車は止まって10秒後に自爆する』




 俺たちが校長室から出て、扉を閉めると同時に、ドォン、と言う音が壁の向こうからした。

























 「おい、聞いたか?」

 「ああ、また新沢がやったらしいな」

 「今度は前後上下逆の体勢で通行人を跳ね飛ばしながら自転車をこいで空を飛んだって話だぜ?」

 「なんでも奴の自転車には機関銃も搭載されてるらしい……」

 「しかも、その途中で女の子ばかりを何人もさらっていったらしいぜ?」

 「ああ、その女の子たちと空中で痴話喧嘩したらしいな?」

 「その腹いせに校長室にミサイル打ち込んで部屋を爆破したらしいぞ?」

 「さすが新沢だよな……」

 「まったくだよな……」









 「俺は無実だっ!!」


 こうして俺の『なにをしでかすかわからない伝説』に新たな一ページを刻むのであった。

















 あとがき


 秋明:……

 カナ坊:……

 秋:以上、粉雪の空に… 第三話でした〜♪

 カ:い、いくらなんでも飛ばしすぎなんじゃないカナ!? 飛ばしすぎなんじゃないカナ!?

 秋:何か分からないけど、書いてるうちにこうなってしまったんですよ。

 カ:これは断じて秋桜のSSじゃないんじゃないカナ?

 秋:いや、ほらね? 秋桜のイメージ(というか靖臣のイメージ)として、すごいボケって言うのがありますし……

 カ:確かに靖臣くんの行動は読めないんじゃないカナ?

 秋:そうなんですよね〜、秋明の実力ではあの行動を把握できないし……まぁ、コンペも終わったことだし、のんびり書きますよ。

 カ:どこかの管理人さんからのリクエストがあるんじゃないカナ? あるんじゃないカナ?

 秋:大丈夫、まだまだ、時間はありますしね〜♪

 カ:(いつもそれで大変な目にあってるんじゃないカナ?)