桜咲く未来〜恋夢〜


 二の夢 〜スタートは入学式から〜















 ざわざわ……



 「うわぁ〜、凄い人数だね〜」

 「中等部も一緒だからな。っていうか普通はクラスでHRやるほうが先だろ……」



 感嘆の声をもらすことりと呆れたような溜息をつく純一。

 彼らは今、これから始まる入学式のために体育館にいた。

 館内はクラス分けの前に入学式があり、どこにいようが自由であるためごちゃごちゃしていることこの上ない。



 「これじゃあ知り合いを探すのにも一苦労だね」

 「だな、音夢の奴はどこにいるんだか……」

 「音夢?」

 「ああ、双子の妹。音に夢ってかいて音夢」

 「へえ、可愛い名前だね」

 「性格はそうでもないけどな」



 ぼやきつつも館内を見回す純一に微笑をこぼすことり。

 何だかんだいっても妹が心配なのだろう。

 また一つ純一のことを知ることが出来てちょっぴり嬉しくなることりなのだった。



 《それでは、只今より私立初音島学園の入学式と始業式を行います―――――》















 アナウンスと共に壇上に上がる一人の老婆。

 その体から溢れる威厳とオーラは一国の代表にも劣らぬ雰囲気を纏っていて歳を感じさせない。

 強き意思の宿る瞳を下へ、つまり生徒たちに向ける。

 すると、喧騒がぴたりと止んで館内の視線が全て壇上へと向けられる。

 まるで、最初からそう定められているかのように。



 彼女の名は芳乃静。

 世界最高の才者と呼ばれ、全ての才者から羨望と畏怖の眼を向けられる女傑。

 そして私立初音島学園の経営者にして理事長兼校長である。



 《皆さん、ようこそ初音島学園へ。そして在校生の皆さんは約一月振りですね。

  ご存知の方も多いと思いますが、私の名前は芳乃静。この学園の理事長にして校長を務めさせていただいています》



 威厳を纏わせつつもどこか優しげで温和な声が館内に響く。

 新入生や今年度からの転入生はそんな静の姿に軽い感動を覚えていたりする。

 なんせ自分達の目の前に立っているのは世界レベルの大物なのだから。



 《さて、こういう場では色々堅苦しい挨拶があるのが通例ですが…………私が面倒なのでとばす》



 そこで静の雰囲気が一変する。

 『は?』と館内の三分の二の生徒が疑問符を頭の上に浮かべた。

 『だろうと思った』と残りの生徒が溜息をついた―――――ちなみに純一はこの中の一人である。

 先生方はもう慣れてしまったのか諦めてしまったのか特に反応はない。

 新任の先生はある程度戸惑っている様子ではあるが。



 《最初に言っておくよ、この学園を普通の学校と同じであると考えているなら大間違い。

  まず、我が学園のモットーは『友情』『根性』『青春』『若さゆえの勢い上等』!》



 どどーん!!

 静の宣言に開いた口が塞がらない生徒が多数。

 去年からいる生徒も同じ反応のところを見るとどうやら去年は言わなかった模様。

 というか先生方も驚愕していたりする、特に最後のやつに。



 《この四つの言葉を胸に刻んでこれからの学園生活を頑張ること。

  ああ、別に若さゆえに妊娠しようが流血沙汰がおきようが問題なし。そこに純粋な想いがあるのなら私が許す!》



 問題発言連発である。

 教師の中にはひっくり返っているものすらいたり。

 もはや最初の印象など宇宙の彼方に飛んでいってしまった静のワンマントークは驚愕の中続くのだった。
















 「うわ、見事に予想通り滅茶苦茶言ってるなあの婆さん」

 「あ、朝倉君。理事長にそんな口の聞き方はまずいんじゃ……」



 純一の呟いた言葉にツッコミを入れることり。

 彼女自身も少しばかりショックを受けたのか口元が引きつっている。

 しかし、彼女がショックを受けるのはこれからが本番である。



 「いいんだよ、家族なんだから」

 「へ?」

 「壇上に立ってる婆さん。つまり芳乃静は俺のばあちゃん。血の繋がった正真正銘の血縁って奴だ」

 「え、え―――――むぐっ」



 思わず大声を出しかけたことりの口を慌てて押さえる純一。

 流石に先程とは状況が違うので大声をあげてもらっては困るのだ。

 突然口に手を当てられて少しばかり頬を染めて慌てることり。

 が、すぐに落ち着いたので手を離すように合図する。



 「ぷはっ、ご、ごめんね……」

 「いや、こっちこそすまん」



 たとえやむにやまれぬ事情があったにせよ会ったばかりの女の子の口を押さえたことに罪悪感を感じたのか

 手を合わせて謝罪する純一。

 ことりはくすっと笑って「いいよ」とはにかむ。

 このやり取りだけ見ると実に仲の良い恋人同士に見える。

 二人は気がついていないが微妙に周囲の視線が厳しかったりするし。



 「けど、凄いね。あの芳乃静さんがお祖母さんだなんて」

 「まあな、けど凄いのはばあちゃんであって俺じゃないから」



 苦笑する純一。

 その表情からは有名人の家族を持った苦労が感じられる。

 そこに卑屈な感情がないのは純一の性格によるものなのだが。



 「ビックリしただろ、世間で言われているのとは正反対で」

 「あははは…………ノーコメントっす」



 冷や汗をかきつつお茶を濁すことり。

 脳内では幼き日に出会った『優しい魔法使いさん』の姿は『ハッスルおばあちゃん』へと急速に書き換えられていた。















 (おや、あれは……純一?)



 壇上の静は語らう男女、つまり純一とことりを発見した。

 演説(?)を繰り広げながらも孫の姿を発見する辺り流石に只者ではないといえよう。



 (純一ったら、手が早いねぇ。可愛い娘じゃないか……こりゃあの娘らの反応が楽しみだ)



 思い切り人聞きの悪い思考をする静。

 と、何かを思いついたのかニンマリと悪戯っこのような笑みを浮かべる。

 幸か不幸かその表情に気がついたのは二人だけだったが。















 《―――――では、私のほうからはこれで終わる。これからの学校生活を楽しんどくれ》

 「ん、終わったか」

 「嵐みたいな挨拶だったね」

 《追伸、純一。私の話を聞かないで女の子といちゃいちゃするんじゃないよ》

 「ぶっ!!」



 吹き出す純一。

 壇上の静は会心の笑みを浮かべ退場。

 大半の生徒が「?」マークを飛ばしていたが、極一部の生徒の周りの空気が硬化したのを純一は敏感に感知した。



 「ばあちゃん、なんてことを……」

 「や、やっぱり今のって?」

 「ああ、間違いなく俺に向けて言いやがった。まずいな……」



 頭を抱える純一を気の毒そうに見ることり。

 自分にも責任があるのでどう声をかけていいのかわからないらしい。

 実際は純一が焦る原因―――――つまり彼女がいたりするのではないか、が気になっていたりするのだが。



 「もしかしてこの中に彼女さんがいるとか?」



 つい、ことりはそんな質問が口から出るのを止められなかった。

 自然に聞いたつもりだろうが表情は緊張しているので違和感バリバリだったりする。



 「いや、そういうのは生まれてこの方いたことがない」

 「そ、そうなの?」

 「うう、音夢の奴にまたどやされる……」

 「あ、妹さんか……」



 ほっとすることり。

 が、なんで自分がほっとしたのか疑問に思ってしまう辺りがこれからの道のりの長さを感じさせる。

 純一は全くことりの様子に気がついていなかったりするし。















 《では、これにて今年度の入学式と始業式を終わります。最後に、校長からお知らせがあるそうです》



 再びざわめきが起こる。

 先程の演説のせいか、今度は何を言い出すのか生徒は興味津々らしい。

 教師陣はハラハラしているのだが。



 《おほん、生徒の数も増えたんで去年から考えていた行事を入れることにする。

  一学期にクロスカントリー、二学期に競技会だ。学年問わずで十人一組のチームを作って参加して頂戴》



 ざわ―――――



 《無論、ただでやれとは言わない、上位には賞品を出そうじゃないか。

  そうだね…………例えば地球上のどこでも旅行券とか》



 瞬間、館内から歓声が巻き起こる。

 なんせ芳乃静の才『世界(ワールド)』の能力ならば可能な話なのでそれも当然である。



 《才を使うのは勿論OKだから能力を考えるも仲の良い面子でチームを作るも良し。

  チームは結成次第理事長室にリーダーが届け出ること。当然チームが作れなかったら参加はできないから。

  細かいことは今度掲示板に張り出すのでやる気のあるものはチェックするように、以上》















 「またとんでもないことを……」

 「でも、どこでもいけるっていうのは魅力的ですよ?」

 「ま、確かにな……」



 式が終わり、喧騒やまない館内。

 バラバラと教室へ移動を始める生徒もいれば、早くもチーム作りに動く生徒もいたりする。

 純一とことりの場合はどちらでもなくただ会話しているだけだが。



 「ねえねえ朝倉君、せっかくお友達になれたんですし私と組みません?」

 「え、組むって…………チームをか?」

 「うん♪」



 ニコニコと提案することり。

 瞬間、純一は背後―――――否、全方向からプレッシャーを受けるのを感じた。

 周りを見回すと多数の男子生徒がこっちを睨んでいることに気がつく。



 (な、なんか睨まれてる? 俺何かしたっけ?)



 「それはだな、お前が白河ことりと会話をし、あまつさえチームの申し出をされたからなのだよ」

 「うわっ、人の心を読むのは誰だ!?」

 「ふっ、俺だよ」

 「杉並……どこから湧いて出た」

 「人をボウフラみたいに言うな。単に気配を消して背後をとっただけだ」

 「それもやめろ」

 「朝倉君、この人は?」

 「おおっとこれは失礼をした白河嬢。俺の名は杉並、ここにいる朝倉とは友人関係にある」



 突然現れたことには驚きもせず杉並と握手を交わすことり。

 ちなみに杉並が現れると同時に男子生徒達の視線は消えていた、謎である。



 「ふむ、やるではないか朝倉よ。まさか入学初日からあの白河嬢といちゃいちゃするとはな」

 「あれはばあちゃんの悪戯だ。というかあのってなんだよ」

 「白河嬢、言ってもよろしいかな?」

 「あ、えーと…………どうぞ」



 チラ。と純一を気にするような視線を向けて許可を出すことり。

 いずればれることだからと諦めた模様。



 「白河嬢はな、西初音島中学ではアイドル的存在だったのだよ」

 「へえ、そうだったのか。まあ、ことりならなんとなくわかる気がするな」

 「あ、あはは。そんなことないですよ」

 「顔が赤いぞ白河嬢よ。で、だ。当然この初音島学園には白河嬢のファンも流れてきている。

  さっきお前が感じた視線はそいつらのものだろうな」

 「ああ、なるほど。つまり俺は嫉妬されていたというわけか」

 「あはは……」



 困ったような笑みを見せることりだった。





 あとがき

 一年ぶりに更新です。
 そのせいかよくわからない話に(汗
 なんかばあちゃん大活躍だし。
 ちなみに杉並は下の名前は多分出しません。オフィシャルがない以上どんな名前でも違和感が……
 次回はクラスの話かチームの仲間集めの話になると思います。
 今までさぼりまくっていたので頑張ります〜