君の隣で笑う人
















あれから、皆にうまく説明も何もできないまま一週間が過ぎた。

正直、申し訳なかった。けど、ここにきてまさかのサプライズが起きた。

朝。

教室に皆が入ってくる時間帯に、普段ならいるはずもない人物がやってきた。皆普段から見てるはずの人なのに、この姿になった途端視線を変える。

でも、何でそんなカッコなの?

「…柴田くん。何を思ってその格好で来たの?」

そう、私こと此花日和が現実というものを見せ付けられた男、柴田一哉その人なのだ。

私がそう言うと同時に周りが一斉に沈黙する。まさか、有り得ない。そんな言葉が聞こえてきそう。

「…今日から、部活に入るから。それに、この格好なら何の引け目もなく公言できるから」

あ、さいですか。

とはいえ、これで皆も現実を認識するんじゃないかな?多分、数日後にはショックを受ける人もたくさん出るだろうけど。

「部活、ね。もしかしなくても映研だよね」

「もしかしなくても映研だけど」

やっぱり。月守先輩、映研の人だからなぁ。

そうなのだ。このクラスの中では私だけが知っていること。それは、本当は柴田くんはネクラくんなんかじゃなくて、かなりの美形で、更にはあのクールビューティーと評判の月守先輩が彼女っていう凄まじい人なのだ。

「ちょ、ちょっと!日和。これがネクラくんなの!?」

「うん。これが、私たちがネクラくんって呼んでた人。気付いてなかった?私、この前からネクラくんって言うの辞めてたの」

そう。周りにうまく説明できなくても、いくらなんでも私だけは辞めなくちゃと思って、実際にネクラくんっていうのは辞めてたんだ。

「もしかして、あれから何も言わなかったのって、本当に付き合っちゃったから?」

なわけないでしょ。

「違うよ。大体、柴田くんにはもっと素晴らしい人がいるから」

本当にね。皆、知ったら驚くこと間違いなし。それに、お似合いだしね。

「ふぅん…ま、何で黙ってたのかは後で聞いてあげる。そろそろ予鈴がなるから席に帰ろ」

はぁ…やっぱり訊かれちゃうんだ。黙ってくれると嬉しいんだけどね。そうもいかないか。

「わかった。でも…」

そう言ってから柴田くんに視線を向ける。

「いいよ。もう隠すつもりもないし」

承諾が得られてしまった。ま、いいか。どう話したらいいかって悩んでたんだから、普通に話せるんならそれでいいか。

「だって。後でね」

言ってから席に帰った。
















「はぁ!?」

話してみると案の定大きな声が上がった。

「あのネクラくんが月守先輩と付き合ってるって?」

驚きすぎ。それから、ネクラくんじゃないから。

そんなことを考えながら見てたものだから、気付いたんだろう。すぐに、「ごめん」って謝った。相手は私じゃない。

「ユーカも落ち着こうよ。裏側も見えてくるかもよ」

裏側。私も少しずつ見えてきたんじゃないかな。例えば、目の前にいるユーカ。

派手好きな表とは違って、実はかなりの淋しがり。だから派手に自分を飾って、次々と新しい彼氏を見つけてくる。でも、相手は遊び感覚だし、自分も寂しさを埋める為に求めてるからどこかに虚しさがある。

それで気付けばまた一人になってる。

これが、ユーカの裏側。

勿論、私にだって裏側はある。

「裏側、ねぇ」

ユーカは何かを思い出すかのように空を仰いだ。

「日和は裏側ってあるの?」

「あるよ」

ほら、やっぱり見えてなかった。私だって見えてなかったんだから当然かもしれないけど。

「そっかー。裏側、かぁ」

ユーカは私をジーッと見た。そんなんで裏側が見えれば苦労はないよ。

私だって、考えて考えて考え抜いて漸くユーカの裏が見えてきたんだから。それだってまだしっかりと見えてるわけじゃない。

「ね、日和から見た私って、どんな感じ?」

「う〜ん…そうだなぁ。結構、淋しがりじゃない?」

「わ、凄い。言ったことないのに当たってる」

これがよく見るって事かな。けど、まだ柴田くんはしっかりと見えてこないし、月守先輩だって見えない。

「でも、見なかった罰っていつか当たっちゃうのかな」

ふと、不安をもらすユーカがそこにいた。

たしかに。私達は調子に乗ってかなり酷いことをしてきたんだ。いつかその報いを受けるときが来ると思う。でも、さ。

「だけど、今から変わっていこうよ。いつまでも子供じゃないんだしさ」

人は変われるって、気付いたから。

だから、私もユーカも変われる。きっと。
















さて、その日。

もう1つのサプライズがあった。

それは、昼休みのこと。いつものようにお弁当を取り出す私だったけど、廊下に見たことある人が立っていた。

そう、月守先輩。

って、まさか…柴田くんを迎えに来たって事?

「一哉、いる?」

控えめな声だったけど、その声が教室に響いた途端、一斉に沈黙が起こった。

あぁ、やっぱり。

「待ってて。すぐ行くから」

挙句にそんな周りなんてお構いなしに普通に答える柴田くん。前の時間で使ったものを全部片付けてすぐに先輩のところに歩いていった。

「本当に、月守先輩だったね」

「だからそう言ったじゃない」

知っていた私とユーカの驚きは少なかったけど、周りからしたらかなりショックだったようだ。

「あの月守先輩と柴田が…」

「…夜道で襲うか」

結構、危険な台詞も聞こえてくるけどさ。でも、私はあの2人、お似合いだと思うけどね。

「いいなぁ。私も、あんないい人に巡りあいたいよ」

だから、素直に羨ましくてそんなことを言ってしまう。

「うん。何か微笑ましいよね?あの月守先輩がちょっと恥ずかしそうに教室の中に声かけた瞬間とか」

ユーカも同じ意見だったみたい。

けど、生憎と私の周りに現在、男の影はないんだよね。まぁ、今は作る気もないんだけど。

だって、誰でもいいってわけにはいかないから。やっぱり、ちゃんと考えて、それで選びたい。

それがこと彼氏に関しては私の結論。
















更に放課後。

またしても月守先輩がやってきた。

「一哉ー。部活行こー」

あぁ、そうでしたね。映研でしたね。行ってらっしゃい。

それにしても、2人とも健気だなぁ。

傍にいたいからそれまで渋ってたイメチェンをして、同じ部活に入って、更には何かするたびに迎えにいく。

「健気だねぇ」

「そうだねぇ」

どこの隠居だよ。

そんなことを思ってしまう私たちだけど。でもさ、まさか最後の最後にもう一回サプライズがあるなんて思ってもみなかったよ。

「あれ?」

「どしたの?」

ユーカが鞄を開いて声を上げたから何事かと思ったら中から小さな封筒が出てきた。随分、女の子らしいやり方だけど、間違いない。

「…鈴鹿 友華様……」

ユーカが封筒に書かれた自分の名前を読み上げる。

そう。きっとこれはあれだ。ラブレターってやつだ。

「…嘘」

半分、泣きそうになりながら手紙を読むユーカ。そして、すぐにダッシュで出て行った。

早いなぁ。

落ちた手紙を拾い上げて、中を見てみた。

「あ…」

そっか。ちゃんと、ユーカのこと見てる人がいたんだね。だから、ユーカは駆け出していったんだ。それに、顔も悪くない人だから尚の事。

けどさ、私には何もないってどういうことですか?