『奇跡のkey』





 第十七話 〜激震二日目、仲間外れの佐祐理さんと祐一〜















 くふ、くふふふ…………♪

 いやー、昨日はええもの見せてもらいましたな〜♪

 香里さんめっちゃ可愛かったです〜

 祐一さんもカッコよかったですし〜

 おかげでうちが顔を見せる機会がなかったんやけど…………



 ―――――夕暮れの教室で見詰め合う二人

 ―――――邪魔をする者は誰一人いない世界で通じ合う心

 ―――――夕日に溶け込むように近づいていく二人の唇



 これはそう、ロマンなんやね〜♪

 ああっ…………ス・テ・キ(はぁと)

 ああ、今日は二人にどんなロマンが訪れるのでしょう…………















 朱音『どうでもいいのですがいい加減その妄想を止めていただけませんか、白那さん?』

 宮樹『ってゆーか、思いっきり事実を捏造して誇大妄想に走ってるね…………』















 三月七日(木)

 倉田佐祐理は不機嫌だった。

 ちなみにどのくらい不機嫌かと言うと…………



 佐祐理「あはは〜、犬さんこんにちは♪」

 犬「わ、わん…………」



 佐祐理が犬(本編参照)に笑顔で挨拶するなり犬が服従のポーズをとるほどである。



 生徒A「ね、ねえ…………倉田さん、何かいつもと違わない?」

 生徒B「え、そう?普通に笑顔だと思うけど…………」

 生徒A「なんていうか…………迫力のようなものが…………」

 生徒C「た、確かに…………な、何かあったのかしら?」



 恐れおののく生徒達。

 このような佐祐理を見たことのない彼らは『触らぬ神に祟りなし』状態であった。

 最も、『女神の微笑み』のメンバーは「そんな倉田さんも好きだー!!」などど叫んでいるが。















 上空。



 朱音『表面上は全く変わりなく見えるのですが…………』

 宮樹『…………オーラが違うね』

 白那『愛よ!愛ゆえなんよー!』



 三者三様のリアクションで佐祐理を見つめる想精たち。

 流石の彼女らも今の佐祐理にはちょっとびびり気味らしい(約一名は違うが)



 朱音『…………まあ、原因はわかってはいるのですが…………』

 宮樹『…………うん、間違いなくアレのせいだね』



 視線を校門の方に向ける宮樹。

 そこには本日の当番通り二人で登校してきた祐一と香里に美汐が挨拶をしている光景。

 しかし、彼らの周りには他人を寄せ付けない『仲良しお〜ら』が渦巻いていた。

 その威力はかの有名な『美坂チーム』や『踊り場三人組』、『アイスクリームカップル』を凌ぐほどである。



 宮樹『…………気持ちはわかるけどね』

 朱音『まあ、もう少し辛抱していただきましょう』

 宮樹『ま、最終的に美汐が勝ってくれればぼくはいいんだけど』

 白那『むっ、今のは聞き逃せん発言やね宮樹。祐一さんのお相手は香里さんに決まっとるんよ?』

 宮樹『いつ決まったのさ?それに取り合えずキミは喋り方を一貫させた方がいいと思うよ?』

 白那『なんやて〜!?』

 朱音『あのですね二人とも…………わたくしは祐一さんの心を尊重する立場ですから中立ですけど…………

    そういうことはせめて水見が出てきてからにしてくださいませんか?』



 ヒートアップしてきた二人を見て取り合えず仲裁に入る朱音。

 が、熱くなった二人は止まらない。



 白那『き〜!ちょっと祐一さんが宿主だからって余裕ぶっちゃって〜!?』

 宮樹『そうだよ。だいたい前から思ってたんだけどキミ、偽善者くさいよ?』

 朱音『なっ、し、失礼ですね!?誰が偽善者ですか!?』



 朱音参戦、想いを糧とする彼女らは非常に感情豊からしい…………















 時間は瞬く間に過ぎて、昼休み。



 佐祐理「祐一さ…………」

 美汐「はい、祐一さん、お弁当です」

 祐一「おっ、今日も美味そうだな。サンキュ」

 美汐「食べる前からそんなことを言われても…………でも、嬉しいです」

 佐祐理「…………ふぇ」



 香里「祐一君、ほっぺにケチャップついてるわよ」

 佐祐理「あっ、じゃあ佐祐理の…………」

 香里「はいティッシュ」

 祐一「悪いな、香里」

 香里「どういたしまして」

 佐祐理「…………ぅぅ」



 タイミングが合わない…………そう佐祐理は思った。

 美汐と香里は別に意図的に佐祐理のしようとすることに割り込みをしているわけではない。

 だが、何故か先程から佐祐理の出番がないのだ。

 祐一と関わった少女達の中では僅差ではあるが佐祐理が最も気が利く性格である。

 よって祐一に対するフォローの類のポイントは佐祐理が一番稼いでいると言えるのだ。

 しかし…………



 佐祐理(昨日は美汐さんが祐一さんを祐一さんって呼ぶようになって…………そして今日は香里さんが祐一君って…………)



 さゆりん大混乱である。

 これは祐一との間に、美汐に引き続き香里とも何かがあったということを証明していることに他ならない。

 が、そこは思慮深さでは定評のある倉田佐祐理。

 知りたくてたまらない心をぐっとこらえて天使の笑顔を作り出す。

 もっとも、それは佐祐理をよく知るものであれば無理をしていることは一目瞭然のものではあったが。



 祐一(う…………佐祐理さん、何か沈んでる)

 美汐(明らかにいつもの笑顔じゃありませんし…………)

 香里(でも、事情はいえないし…………)



 そしてこの場にいるのは佐祐理をよく知る三人だった。















 一方、某教室では…………



 北川「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」



 昨日、男を見せた北川が深海よりも深い溜息をついていた。

 そんな彼に近づく男子生徒が一人。

 そう、彼の名は斎藤である!



 斎藤「どうした北川、そんなこの世が終わるかのように沈んだ溜息をついたりなんかして?」

 北川「…………斎藤か、初登場だな」

 斎藤「ほっとけ!」



 さりげなく禁句を口にする北川にツッコミを入れつつもいつもと違う級友の姿に違和感を感じ、心配になる斎藤。



 斎藤「で、どうしたんだ?俺でよかったら相談に乗るぞ?」

 北川「いや、大したことじゃあない。ただ…………」

 斎藤「ただ?」



 そこで北川はふと窓の外の青空を見上げる。

 見上げた空はどこまでも蒼かった。

 それは北川の心を表すかのように。

 憂いを含んだその瞳には微かに一雫の水が輝く。



 北川「男って馬鹿なんだな、って思っただけさ…………」

 斎藤「北川…………」



 わからない、何故だかはわからないが心の底からこみ上げてくるものを押さえられない斎藤。

 げに美しきは男の友情といえる一幕である。



 北川「なんで…………なんで…………男ってのは…………格好をつけてしまうんだろう…………」

 斎藤「…………お前」

 北川「ふっ、笑ってくれよ斎藤…………こんな俺をよ」

 斎藤「もういい!もういいよ北川!お前は立派だったよ!」



 ついに両目からあふれてしまった涙を押さえることも無く北川の肩に手を置く斎藤。

 ザ・漢泣きである。



 北川「斎藤、お前…………いい奴だな」

 斎藤「そんなことねえよ!お前の方が数百倍いい奴さ!」

 北川「そ、そうか?」

 斎藤「ああ、今のお前なら相沢の十分の一ぐらいはいけてると思うぞ!」

 北川「よ、よくわからんが…………それって凄いのか?」

 斎藤「馬鹿野郎!!相沢の十分の一なら十分じゃねえか!」

 北川「…………た、確かに!…………よし、うじうじするのは止めだ!俺は新しい恋を求めて飛び立つぜ斎藤!」

 斎藤「その意気だぜ北川!」



 熱い青春ドラマを繰り広げる北川&斎藤。

 クラスメート達はそんな二人に涙を禁じえない。

 それは憐れみなのか同情なのか、それとも共感なのか…………それを知るのは各々の心のみである。



 なお、余談ではあるが、朝の風景を見て昨日よりも一層ご機嫌だった久瀬がさわやかにこの教室に入ってきて

 北川と斎藤、そして数人の男子生徒にボコられたのはこのクラスだけの秘密である。















 白那『ううう…………ハンカチなしには語れない話やね〜』

 宮樹『熱いよ…………この人たちは…………熱くて、哀れだよ…………』

 朱音『祐一さん、ご友人は選んだ方が…………失礼、余計なお節介ですね…………多分』















 祐一「さて、ご馳走様でしたっと。香里、後は頼む」

 香里「早退って言っておけばいいのね?」

 祐一「悪いな」

 香里「あなたに比べればこれくらい簡単よ」



 箸を置いて片付けを始める祐一。

 そして最後の少女を救うべく彼は立ち上がる。



 祐一「あ、そうだ。佐祐理さん、ちょっといいですか?」

 佐祐理「はい!なんですか祐一さん!?」



 まるで叫ぶかのように祐一に返事を返す佐祐理。

 本日はいろいろとうっぷんが溜まっていたせいか祐一に呼んでもらったことがかなり嬉しいらしい。



 祐一「え、いやその…………大したことではないんだけど…………佐祐理さんの家ってどこにあるんですか?」

 佐祐理「…………ふぇ?」

 美汐「は?」

 香里「!?」



 祐一の言葉にそれぞれ固まる三人の少女。

 もちろん祐一は過去二度にわたる失敗を教訓にして倉田家の場所を聞いただけなのだが…………

 どうやらタイミングと聞き方が悪かったらしく三人の少女はあらぬ誤解をした模様。

 佐祐理は頬を赤く染め、美汐は顔色を青くし、香里は呆然としている。

 ダメージが一番大きかったものの現世復帰が早かった佐祐理は取り合えずどこからともなく取り出した紙に地図を書く。

 方向音痴気味の祐一にもわかりやすい地図を素早く紙に描いていく彼女だったが脳内では

 「まだ早いですよ〜♪」などと言う謎の言葉が氾濫していたりする。



 佐祐理「はい、出来ましたよ〜」

 祐一「サンキュ、佐祐理さん」



 そんな彼女らの心情も知らず佐祐理お手製の地図を受け取る祐一。

 そして、彼は更に爆弾発言を続けた。



 祐一「あ、そういえば今日は佐祐理さんが夕食を作ってくれる日でしたよね?」

 佐祐理「え?あ、はい、そうですね〜」

 祐一「迎えに行くので自宅で待機しといてください」

 佐祐理「ふぇ!?」



 瞬間湯沸し機のごとく首から上を沸騰させる佐祐理。

 この台詞でようやく祐一の意図を理解する美汐&香里だったが佐祐理は明らかに勘違いしている。



 佐祐理「え、ど、どうしてですか?」

 祐一「あ、いやーその何ていうか…………そう、気分だよ気分」

 佐祐理「は、はぁ…………」

 祐一「…………もしかして、駄目なんですか?」

 佐祐理「いえ!大丈夫です!」



 『了承』をも凌ぐスピードで返事をする佐祐理。

 その表情は今日一日分の不機嫌さを吹き飛ばすほどの笑顔だった。



 祐一「じゃあ、ちょっと遅くなるかもしれませんけど…………必ず行きますんで待ってて下さい」

 佐祐理「はい、お待ちしていますね♪」



 そう言って屋上を後にする祐一。

 残されたのはこの世の幸せ独り占め!といった風の佐祐理と、どう誤解を解いたものかと思案する美汐&香里の姿だった。















 祐一「さて、行こうか!」



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 あとがき

 tai「第17話、できました…………生きてるって素晴らしい!」
 朱音 「やたらハイですね作者、テンションあがりすぎです」
 tai「ふっ、今だけ私は執筆の鬼ですよ!?」
 朱音 「だけって…………まあいいでしょう、今回は予告通り閑話ですね。佐祐理さんが目立っていた気はしますが」
 tai「本当は白那のお披露目話だったのですが何時の間にか」
 朱音 「で、誰が偽善者ですか誰が、わたくしは某鬼姉妹の長女じゃないですよ?」
 tai「あはは〜」
 朱音 「貴方では似合いません」
 tai「あはは〜、気にしません。では次回予告〜♪」
 朱音 「次回からは佐祐理さん編ですね?」
 tai「一応そうですね、ただその前にまだ出てきていないあのヒロインをだしたいなと」

 朱音 「では、第十八話にてまたお会いいたしましょう。読んで頂いて多謝です♪」


 キャラ紹介C 白那(はくな)

  始まりの大樹より生まれし四人の想精の一人で香里の想いにより生まれ、香里の想力『勇気』を力の糧としている。
  やはり外見は朱音たちと同じくらいで白い髪をおかっぱにしている。服装は何故かチャイナ服っぽい。
  京都弁と関西弁が混じったような不可思議な喋り方で特技は妄想。直情型の性格。