『奇跡のkey』 第十二話 〜宮樹の見る華音高校の激震と混乱〜 三月六日(水) 物語の幕が再び開いてから一夜が明けた この日、華音高校生徒の約90%はそれぞれ違った衝撃を受けることとなった 「つ、ついにこの時が来たーーーーーーーーーーーーーーーー!!」 まず、華音高校四大FCが二つ、『女神の微笑み』と『クールオブビューティー』のメンバーが喜びに打ち震えた。 「……………………そ、そんな………………………………」 次いで『やまとなでしこ』と残る一つFCのメンバーは目を疑った。 「そ、そうよ、あれはいつもの光景に過ぎないわ…………」 美坂香里はあくまでもクールな姿勢を崩さなかったが内心は動揺していた。 「あはは〜…………仲が良いのはいいことです…………ね〜…………」 倉田佐祐理はその笑顔はいつもの通りだったが、その笑い声はいつもの通りではなかった。 彼(彼女)らに衝撃を与えた出来事…………それは………… 宮樹『…………まさか、あの二人が一緒に登校してきただけでここまでのことになるなんてね…………』 朱音『まあ、無理も無いことでしょうね。あの光景は今までの祐一さんを知る人間には刺激が強すぎたでしょうから』 ここで二人の話している内容、それは朝の登校時のことであった。 祐一の今日の朝食当番は美汐である、よって今日は彼女が祐一と二人で登校してくる日なのだ。 これは一ヶ月ほど前から当たり前となっている華音高校朝の風景の一つだった。 そこまでは全く誰から見ても問題はなかったのだ(ただし『やまとなでしこ』メンバーを除く) しかし…………………… 祐一『おーい、美汐ー。何もそんなに浮かれることは無いんじゃないか?』 美汐『そういわれましても…………ようやく私も祐一さんに認められて、両先輩と並ぶことが出来たのです。 これを喜ばないのは女性として不出来でしょう』 祐一『ははは…………朝飯一つ褒めただけでえらい言い様だな』 美汐『祐一さんにとっては取るに足りないことだったかもしれませんが…………私にとっては重要なことでしたから(赤)』 その時のこの会話が問題だった。 内容を要約すれば、美汐の作った朝食に祐一が華音高校女性徒憧れの『嫁合格』を出したことについての会話。 この話はこの話で騒がれる要因を持ったものではあるが、この会話から内容を推測できるのは香里と佐祐理ぐらいのものである。 よって、この二人はともかくとして他の者が衝撃を受ける原因はこの会話においてはありえない。 問題は祐一と美汐の両者がお互いを名前で呼び合っていると言うところなのだ。 二人が香里、佐祐理を含めた四人で親しいことは周知のことではあるが、中でも祐一と美汐の両者は今まで名字で呼び合っていた。 つまり祐一と親しい三人の少女の中で最も他人行儀だったのは美汐といえる。 それが今朝になっていきなり名前で呼び合っているのだ、 昨日の放課後から今日の朝にかけて二人の間に『何か』があったのは明白である。 しかも二人を包んでいる空気が昨日までのものとは明らかに違うのだ。 今まで、二人の間にあった壁のようなものがなくなっていて他人行儀な感じが抜けているのである。 そして何より周囲の人々へのトドメとなったのは 『相沢祐一が笑顔である』 ということだった。 これは周囲の人々には一大事である、ここ一ヶ月笑顔どころか喜びの表情すら見せなかった祐一が満面の笑顔とは言えないものの 穏やかな顔で美汐に微笑みかけているのである。 幸運にもその現場に居合わせた女子生徒は歓喜のあまり卒倒し、 男子生徒はムードメーカーが元気になったのかと嬉しさ半分、これでまた女子生徒の人気が再燃するのかと悲しさ半分であった。 そして、この事件はまたたく間に学校中に知れ渡ることになったのだった。 キーンコーンカーンコーン…………………… 朱音『さて…………お昼になったようなのでわたくしは祐一さんを連れて再び過去世界に行ってくるとしましょう』 宮樹『…………祐一に授業をサボらせちゃったりしていいの?』 朱音『わたくしとしても少しばかり胸が痛むので本当は放課後まで待っても良いのですが………… 事態が事態ですし、何より祐一さん本人が望んだことですから』 宮樹『その割には顔が緩んでるね朱音…………本当は嬉しいんじゃないの?』 朱音『なっ…………馬鹿なことをおっしゃらないでもらいたいですね、何なら貴方もついてきますか?』 宮樹『ぼくはやめとくよ…………まあ、面白そうだしいろいろこの学校をまわってみることにする』 朱音『そうですか、くれぐれも余計な行動はとらないようにしてくださいね(これで二人だけです♪)』 宮樹『くすくす…………ぼくの姿を見ることができるのは今のところ祐一と美汐だけだから大丈夫だよ。 それより…………そっちこそ宿主のサポートをおこたらないように、ね』 朱音『余計なお世話です!』 頬を膨らませながらその場から消える朱音を見送る宮樹。 宮樹『…………あーあ、ぼくも祐一の想精になりたかったな。…………ま、美汐のことも気に入ってるからぜーたくは 言わないけどね……………………さて、と…………行こうかな』 そう呟いて宮樹は学校探索を開始するのだった。 PM12:35―――――体育館 久瀬「ここに集まった同士諸君、喜びたまえ!あの相沢祐一がどうやらついに一人に絞ったらしい。 これは我々『女神の微笑み』にはまたとないチャンスと言える!」 北川「我々『クールオブビューティー』も同じだ!まあ、『やまとなでしこ』にはちと同情するところだが………… それはそれ、これはこれだ。 我々の今なすべきことは、相沢に彼女ができて傷心であろう我等が女神を我等の手で癒して差し上げることである!」 FC会員たち「おお〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」 宮樹『…………何これ…………』 美坂香里FC会員118人、倉田佐祐理FC132人、総勢250人による集会を見て宮樹はポツリと呟く。 宮樹『うう…………何なのここは…………普通の人間でもここいることは体に悪そうだよ…………』 想精である宮樹は人の想いを敏感に感知する、だから彼女は強い『想い』を感じてこの体育館へとやってきたのだが………… どうやら失敗だったらしい…………あまりにも強く、邪な気に当てられて少し気分が悪くなってしまうのだった。 久瀬「さあ、いざ行かん、我等の勝利は目前ぞ!」 北川「栄光と女神を我等の手に!」 FC会員たち「バンザーイ!バンザーイ!」 宮樹『黒いよ…………この人たちは…………黒くて、キモイよ…………』 PM12:42―――――食堂 女子A「いいこと…………かねてからの規則どおりに私たちは二人を祝福するだけよ…………」 女子B「はい…………わかっています」 女子C「しくしく…………つらいですね…………」 女子D「そういえば会長は…………?」 女子E「家で店の手伝いをしてます…………なんでも少しでも気を紛らわせたいそうです…………」 宮樹『…………な、なんか今度は別の意味でここにいたくない気が…………』 食堂一杯にあふれ返っている女子生徒たち、よくみるとちらほらと私服の者もいる。 この女性たちは華音高校四大FCのなかでも最大の規模を誇る相沢祐一FC、通称『その前髪の下の眼差し』の会員たちである。 会員数はなんと516人、このFCの場合華音高校以外の女性も混じっているためこの人数というわけなのだ。 ちなみにこのFCには規則が存在している、その内容とは @抜け駆け禁止 A写真撮影(本人無断)は許可するがFCにちゃんと提出して独り占めはしないこと B天野美汐、美坂香里、倉田佐祐理の三人にはちょっかいをかけないこと Cただし上記の三人以外に相沢祐一に近づくものには極刑 Dもしも相沢祐一に彼女が出来てもすっぱりあきらめて祝福すること である。 @とAは他の三つのFCでもある規則だがBとDの規則にこのFCのまともな面がうかがえる。 他の三つのFCと違い、このFCは祐一の気持ちを極力配慮しているのである。 全員「はあ…………」 …………とは言っても気持ち自体は他のFCに劣っているわけではないので、いざ本当にこういう展開になるとやはり つらいらしく、暗い表情の者ばかりであった。 それでも美汐に対して恨み言の一つも言わない辺りが他のFCと比べて良い点といえよう。 宮樹『祐一…………罪作りだね…………』 PM12:50―――――屋上 美汐「♪」 香里「(…………佐祐理先輩、美汐ちゃん凄くご機嫌ですね、どう思います?)」 佐祐理「(やはり朝のことと関係あるんでしょうか…………?)」 宮樹『美汐…………わかりやすすぎ…………』 三人から見えない位置に座って様子を見ながら呟く宮樹。 ちなみに祐一は用があると言って早めに昼食を切り上げ朱音の所へ向かったためにこの場にはいない。 宮樹の言うとおり美汐は目に見えてご機嫌だった。 理由は二つ、奇跡が起こることに対する期待感、そして祐一に自分の想いを知ってもらったことに対する充実感であった。 香里「ねえ、美汐ちゃん…………もしかして…………相沢君と何かあったの?」 佐祐理「佐祐理も気になっていました…………お二人はいつのまにか名前で呼び合ってますし………… それに祐一さんが微笑んでいた気がするのですが…………?」 意を決して美汐に事の真相を尋ねる二人。 対する美汐はその二人の先輩の言葉を聞いて少しバツの悪い顔になりながら答える。 美汐「すみません…………何があったかはお話することができないんです」 バツの悪い顔をしつつも幸せそうにはにかむ美汐。 それを見て少なからずショックを受け、祐一と美汐が恋愛関係になってしまったのでは?と不安になる二人。 美汐「あ、ち、違いますよ?お、お二人が思っているようなことではありませんから」 先輩二人を差し置いて祐一に想いを伝えてしまったものの祐一から返事をもらったわけではない。 香里と佐祐理にも自分と同様の権利とチャンスがあるのだから。 そう思って慌てて修正を入れる美汐。 佐祐理「そ、そうですか〜」 香里「そ、そうよね…………」 ほっとする二人、今や親友ともいえる後輩を疑うわけではないのだが祐一に関することだけに緊張していたらしい。 美汐「大丈夫ですよ、祐一さんはもうすぐお二人にも笑いかけてくれます。 そうしたらお二人も、私みたいになると思いますよ」 香里「…………え?」 佐祐理「どういうことですか〜?」 美汐「くす…………もうすぐお二人にもわかりますよ。けれどその時は…………負けませんから」 香里・佐祐理「???」 宮樹『くすくす…………言うねえ…………ぼくの宿主も』 美汐の言い回しにハテナ顔になる二人。 取り合えずわからない事だらけではあったが二人は美汐への信頼感もあったし、祐一が元気になることに関しては大歓迎だったので 気にしないことにするのだった。 こうして、華音高校の昼休みは終わりを告げ、宮樹の学校探索も終わるのだった。 余談ではあるが屋上にいた数人の生徒が美汐たちの会話を聞いていたらしくその会話内容はやはりまたたく間に全校に伝わり、 多数の男子生徒の悔し涙と少数の男子生徒の安堵の溜息、そして大多数の女子生徒の歓喜の表情がその日の華音高校では確認された。 更に余談だが、何故か華音高校近くの商店街にある肉屋『神楽』では看板娘がサービスをしまっくっていたらしい。 宮樹『なかなか面白かった……………………かな?』 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― あとがき tai「第十二話〜♪そろそろジゴロ列伝の方も書かなきゃ…………」 久平 「やべえ…………思ったよりカウンタの回りが速い。このままでは俺が抹消されてしまう…………」 tai「それまではキリキリ働いてくださいね♪」 久平 「くっ、わかったよ…………今回の話は幕間、でいいんだよな?」 tai「そです。宮樹をクローズアップする話の予定だったんですが…………ちょっとやりすぎたかな、この話…………」 久平 「北川や久瀬がやばすぎだろいくらなんでも…………」 tai「あはは…………でも、久瀬君はともかく北川はいい人なんですよ、本当に」 久平 「そしてついに最後のFC登場か。しっかし人数多いな……………」 tai「学生以外も混じってますから。けれど彼女らは結構まともですよ?活動内容はあれですが………… ちなみに『その前髪の下の眼差し』は一番お気に入りのネーミングです」 久平 「そういえば祐一のFCの会長ってまさか…………」 tai「名字は明かしましたが名前はまだ明かせませんね。BBS見てる人にはバレバレですが(笑)」 久平 「美汐の性格がかなり変わってきている気が…………」 tai「ぐはっ、気付いてはいるのですが…………キーを押す手が勝手にあんな感じにしてしまうのです」 久平 「美汐のFCの様子を書かなかったのは?」 tai「名前のあるキャラがいるわけじゃないですし…………それに彼らの場合書こうにもへこんでるだけですし(笑)」 久平 「そろそろ次回予告をしてくれ」 tai「次回は祐一君に場面は戻ります。商店街でようやくあの人が登場です〜」 tai・久平「それでは第十三話でお会いしましょう、さよらな〜」