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<相ちゃん伝説 カノンの城>第7話

『決戦』
by シルビア

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「この結婚に意義の有る者はこの場でただちに申し立てよ」
その時は、教会内はしーんとしていた……

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深夜、ここはカノン城に隣接する教会、その祭壇の前。

「神よ、哀れなる子羊にささやかなる恵みを与えたまえ」
久瀬侯爵はそう言った。

イエス像が後にスライドし、像の下から階段が現れた。
久瀬はゆっくりと階段を下りて、入り口のドアの認証をクリアして、中に入った。
最新式の印刷機がいくつもあり、そこからは100$紙幣の画のはいった紙が流れるように印刷されていた。
「出来はどうだ」
「文句のつけようがありませんね。こちらが本物といってもいいぐらいです」
そう執事が答える。
「今週中に1億$分だけ準備しておけ」
「畏まりました」

「祐一さん、見ましたか?」
「ああ、まったくセンスのかけらもないな。
 だいたい何で教会の下にニセ札工場なんてつくってんだろうな」
祐一とさゆりは久瀬の様子が変だったので、後をこっそりついてきていた。
二人は、まさにドンぴしゃともいえるラッキーな場面に出くわした。
「ですが、あの認証をクリアするのは骨が折れそうですね」
「まあ、いつもの手でいくさ。(にやっ)
 それとな、美坂警部と手を組んだぞ。
 当日が楽しみだな。ほら、これがシナリオだ」
祐一はさゆりにシナリオを手渡した。
それを一読したさゆりは
「あはは〜、祐一の意地悪ぶりも板についたものね」
「まったく、久瀬のがきゃー、へんな兵隊で俺様を襲ったりと小生意気だったからな。
 これぐらいでも物足りないぐらいさ。
 ま、昨日、ちょっと脅かしてやったがな」

……昨日のこと。

眠っている美汐の手にキスしようとした久瀬は、彼女の手に再び王家の紋章の指輪がはまっていることに気がついた。
(あの泥棒ネコ、わざわざこの指輪を返しにきたのか?)
それから、久瀬は眠っている美汐の手から指輪を抜き取り、手にとり本物かどうかを確認しようとした。

「べろべろべー!」
突然指輪からびっくり人形が飛び出し、久瀬にアッカンベーをした。
『やい、久瀬〜、良く聞け。
 美汐の王家の紋章の指輪は、俺様ルパン4世が確かに預かっている。
 返してほしくば、俺様の花嫁と引き替えだ。
 しょうこりもなく結婚しようとしたら、こうだ〜!』
ボン……指輪は自爆した
指輪は爆発し、チョークのような白い粉が、久瀬の頭上に振ってきた。

「畜生、あの泥棒ネコめ〜!」
久瀬は憤りの表情をしたが、
「まあ、いい。泥棒ネコにはそれに相応しい死に方をさせてやる」
久瀬は手に残っていた指輪の残骸を放り投げると、そうそうに部屋から立ち去った。
「執事を呼べ!すぐにだ!」
報復を決意する久瀬だった。

……結婚式当日。

(あん畜生め〜、まだ懲りないのか)

その前日祐一は盗聴器の先から聞こえる久瀬と執事のやりとりを聞いてそう叫んだ。
(いいか、花嫁に薬を盛って、しばらく話がしにくいようにするんだ)
(それでは式の最中に困ったことになりませんか?)
(教会式では、花嫁は反対したいこと以外の言葉を出さないのが普通だから、問題ない)
(わかりました)

祐一は久瀬のことが気に入らないが、目下の関心は今日の結婚式にある。
(さてと……今日はお偉方が多いし、マスコミも多い。まさにうってつけだな)

式は進む、なぜかここまで穏やかだ。
「汝はこの女性に操をささげ、終生愛することを誓いますか」
「はい。誓います。(これでやっと俺も……)」
「汝はこの男性に操をささげ、終生愛することを誓いますか」
「はい。(絶対に嫌です!)」
「では指輪の交換を……」
……
「この結婚に意義の有る者はこの場でただちに申し立てよ」
その時は、教会内はしーんとしていた……
……なんてあるわけない。
「異議あり。
花嫁を脅し政略結婚しようとする輩はたとえカノン公国が許しても、俺は許せない。
このルパン4世が、月に・かわって〜お仕置きよっ♪」
ご丁寧に、"月にかわってお仕置きよ"の部分は女声だったりもする。
何処から投げられたカードが祭壇にあるイエス像の手に挟みこまれた。
そのカードには『ルパン4世、ここに参上』と書かれている。

「一体どこにいる、ルパン!」
久瀬は焦った口調でそう言った。

「ここだよ、久瀬ぼけ」
神父の変装が解かれ、ルパンが新郎・神父の前に立ちはだかる。
「なあ、久瀬。さんざん俺様に刃向かった報いは味わってもらうぞ」

その時、教会のドアが開き、美坂警部他警官隊が教会になだれ込んできた。
「ルパンはどこよ〜! あ、いた〜♪ みんな、突撃〜!」
「おー、美坂警部。さっそくこのルパンを逮捕してくれたまえ」
「エロチカセブンのロリコン野郎は黙ってなさい!」
美坂警部の強烈な必殺技が久瀬のみぞおちに命中した。
(グッ)
久瀬はその場に崩れ落ちるように腹を抱えた。
ちなみにエロチカセブンとは、"エロ"に走って"チカん"でわくわく&うるとらセブンのような"はげオヤジ"を指していう美坂の好む蔑称である。

「よ〜、もっと楽しいことをしようぜ、久瀬」
突然、祭壇を中心に、それを大きく取り囲む閃光が祭壇の周りを切り裂いた。
「……また、つまらぬモノを斬ってしまった」
半径10Mほどの円を描いた閃光にかこまれた地面が、重力に負けるように祭壇をぽこっと落とした。

祐一は閃光の描いた円の外側に移動すると、ゆっくりとした口調で言った。
「ほらよ♪」
ルパンは天井に矢糸を放ち、振り子の原理をつかってブラーンと穴の反対側に渡った。
「ニセ札工場見学ご一行様、ごあんなーい♪」
祐一はそう言うと、美坂警部に向かってウィンクした。
「あら〜、これはみごとな印刷機ですね〜、それにこれは……ななななんと”お札”ではありませんか〜……”に・せ・さ・つ”とは〜」
美坂警部は超〜〜〜わざとらしい口調で教会中に聞こえる声で叫んだ。

「者ども〜、であえ〜、であえ〜」
わざとらしく江戸時代の捕物帖風に十手を振りかざして、美坂警部は部下に命じる。
「はは〜!美坂警部殿〜」
警官隊のある部隊は美坂警部の脇を次々と通り越しては、穴の中に突入した。
もう一方の部隊は久瀬と執事をとりまくように、教会内で広がった陣形をとった。

美坂警部はゆっくりと久瀬に近寄ってはウィンクした。
「ね〜、これから署でお茶でも飲まない?
 お腹がすいたらカツ丼も用意してあげるわ。
 あら、何、その不満そうな顔は……
 まさか、こんな美人の誘いを断るなんて野暮なことは言わないわね?」
そういう美坂警部の手には、紐の片端が握られていた。その紐の先の手錠には久瀬の片手をすっぽりと覆っていた。
「一体、貴様は……」
久瀬は美坂に駆け寄って襟首を掴んだ。
美坂警部は側にいる警官に向かって
「今、この男は私の体に触ったわよね〜?」
「はい。私めがしっかりと目撃しました。ご希望でしたら法廷でも証言いたします」
「あら、あなた気がきくわね。ごほうびに、今度私の肩を揉ませてあげるわ♪」
「光栄です。美坂警部殿(ハート)」
「さてと、こちらはというと……正当防衛成立ね〜♪
 でも、乙女の拳を傷つけるのはちょっと心外かしら……」
そういう美坂の手にはいつのまにか、カイザー・ナックルがはめられていた。

バギッ、ボギ、グギャ……

「君! 調書には、久瀬という男がか弱き女性客に対し狼藉を働いた……そう記しておくように。いいわね?
 (まったく、このセクハラ男にはこれでも飽き足らないわ)」
「はい!美坂警部殿(ハート)」

(祐一さん、美坂さん……凄いです)
美汐は感嘆し、事の次第を見守っていた。
「美汐さん、ほら、もう一つの王家の紋章の指輪よ。
 久瀬から失敬してきたの。だから、この事は内緒にしてね♪」
祐一達があえて結婚式を襲撃したのには訳があった、久瀬はこの日にこの指輪をはめるだろうからそれを失敬してしまえという腹つもりだった。

それから美坂はルパンのいる方向を向いて、叫んだ。
「こら、ルパン(祐一♪)、人の手を煩わせておいて知らんぷりなの?」
「さすが美坂の姉御、手際のよろしいことで。
 そのりりしい姿、思わず惚れ直しちゃう!」
そういう祐一の足下には、執事の男が横たわっていた。
「よろしい」
「それじゃ〜、ここの後始末、よろしくな〜」
祐一は美坂に向けて投げキッスをすると颯爽とその場を立ち去った。
「あ、こら、ここで逃げるなんて反則よ〜。私へのご褒美がまだじゃないの〜」
ナイスバディーを祐一に見せつけるようなポーズを取りながら、美坂警部はぼやいた。

後日談……

(ま、いいか♪ さてと……)
美坂警部は結婚式の撮影に集まった報道陣を呼び出し、ニセ札工場の摘発の様子を語った。翌日、「インターポールの誇る才色兼備の女性警部、偽札工場摘発でお手柄!」の記事が載った。
無論、インターポールは大喜びで、金一封と特別休暇付きで海外旅行を美坂姉妹にプレゼントした。
「やっぱ、ルパン絡みの事件はお得だわね。ふふふ。ね〜栞」
「はい! こんなにアイスを頼んでもいいなんて〜幸せです〜!。
 こんな事してくれるルパンさん大好きです!」
「まったくね。ね〜、今度の栞の絵のモデルだけど……」




(つづく)


後書き



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