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<相ちゃん伝説 カノンの城>第5話
『宿命のライバル』
by シルビア
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「美坂警部、お疲れさまです!
奥にコーヒーの準備ができております」
警備にあたっていた警官が、美坂警部に向かって敬礼した。
警察機構というのは、はっきりいって縦社会である。
美坂警部ははっきり言って偉かったのである。
しかし、その偉さと裏腹に魅力あふれるボディが部下を魅了し、インターポールの中にも美坂ファンクラブがあるほどである。
だが、ルパンを追っての日々、美坂警部は休暇を取る暇すらないほどの忙しさである。
せめてもの慰みが、栞特製のインスタント・コーヒーを飲む午後のひとときなのだ。
「は〜、生き返るわね」
栞特製のインスタント・コーヒーは、豆も煎り方も一級のコーヒーを携帯用にインスタントにしたものである。
美坂警部のお気に入りの一品であった。
「ところで、警備の方はどう?」
美坂警部は肩を揉んでいた部下に向かって、そう尋ねた。
「はい。異常ありませんでした」
「そう、ルパンも思ったよりものんびりしてるわね」
そう言うと、美坂警部はゆっくり立ち上がって、
「城内を見回ってくるわ」
そう言って一人で休憩所を後にした。
「美坂警部、お疲れさまです!」
「美坂警部、異常はありません」
「美坂警部、警備は万全です!」
巡回の最中、美坂警部はところどころで部下に敬礼される。
ふと……
投げ縄の手錠が飛んできて、歩いていた美坂警部の右手を捉えた。
「ル・パ・ン♪ 私に化けるなんていい度胸ね?」
「なーに、美坂の姉御〜、ご愛敬さ。相変わらず美人で何よりだ」
ルパンは変装を解いて、そう言った。
「美坂警部がふたり?」
警官は驚きのあまりすくんでいた。
「何しているの、偽者よ。とっとと身柄を確保しなさい!」
その怒鳴り声に我に返った警官は、ルパンに飛びかかった。
「いひひ〜、美坂の姉御〜、またな〜!」
警官の喧噪をくぐり抜けたルパンこと相沢祐一は、美坂警部の背後にまわりそう言った。
その瞬間、祐一の手は美坂警部の体にタッチしていた。
「ふっ、甘いわね」
いつのまにか、祐一の首には、輪っかがはまっていた。
「観念なさい。対ルパン特製の首輪よ。おとなしくしないと、首が無くなるわよ!」
「げっ、わかった、わかった、負けたよ。降参だ」
「また、観念したふりをして……
どうせ、署に引き渡した後にでも逃げるつもりでしょ?
なら、それまで、しばらくここでお茶につき合ってもらうわよ」
「お見通しか。なら話は早いな」
「ね〜、ルパン、いや祐一! なぜ、あなたはカノン公国に居るの?」
この二人は周知知ったる間柄、敵と味方で有りながら仲良しなのである。
ルパンこと祐一のの存在なくしては、美坂は出世どころかセクハラ好きの上官の餌食にされかねない、そのことは美坂もよく知っていた。
「ま、ここのお姫さまに用事があってな。今日は城内の下見にきたわけだ」
祐一は昔話を美坂に聞かせた。
「それと、カジノでニセ札を掴まされたから、その腹いせに一丁もんでやろうかと」
「ニセ札というのはゴート紙幣のことね?」
「さすがは美坂の姉御だな、話が早い。
そのニセ札はどうもカノン公国で造られているらしい。
佐祐理の話だと、どうも国家規模での計画が埋めいているようだ」
「……そう。
カノン公国は国といっても、小国だし、有名でないから何があっても不思議でないけどね。
私もいやな予感がしたのよ。特にあの久瀬侯爵のいやらしい目は最低だったわ」
「なあ、美坂の姉御。
ニセ札作りの摘発といい手柄をやるからさ、裏でこっそり手を結ばないか?
ついでにセクハラオヤジにお灸を据えてやるからさ」
「うーん、本当はあなたを捕まえたいところだけど、手柄をあげられるならまあいいわ。協力するわ」
「情報を掴んだら、それとなく流してやるよ」
祐一はいつのまにか、首輪からすっと抜け出していた。
しかも、その首輪はまっぷたつになっていた。
「あっ」
「じゃな、美坂の姉御。こんなからくり手錠や首錠を作った栞にもよろしく」
「もう〜、いけずなんだから!
今晩ぐらいつき合いなさいよ〜!」
遠くに行ったルパンこと祐一に大声で呼びかける美坂警部。
「美坂の姉御の相手をしたら、身が持たないからな」
大きく手を振り返す祐一。
「……またつまらぬモノを斬ってしまった」
祐一のそばに、剣を構えた舞の姿があった。
(くー! 逃げられたか〜。
確かに、この前捕まえた時は、家の掃除やらなんやらを3日3晩やらせたあげく……夜は……うふふ♪
それに逃げようとした祐一に、お仕置きで留置場で7日間眠ってもらったわね)
どうせ、署に引き渡せば逃げられる、ならばと自分の都合で祐一をこきつかう、それが美坂警部にとってのなによりの息抜きであり幸福の瞬間だった。
(今度は何をしてもらおうかしら……栞の絵のモデルもいいわね♪うふ♪)
(インターポールよ、こんなんでいいのか……)
どこからか電波に乗って、祐一の声が聞こえてきた。
(つづく)