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<相ちゃん伝説 カノンの城>第2話

『少女との思い出』
by シルビア

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(あれから5年か……)
祐一はレリーフに映る少女の面影になつかしさを覚えながらも、先日の花嫁姿の少女を重ねた。
何故、あの時、花嫁は追われていたのか。
それが気になっていたのだ。

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「なあ、祐一」
「何だ、潤」
「どうして、俺たちはこんな場末の店でスパゲッティを食べてるんだ?」
「金、ならまいただろ?懐が寂しいんだ」

二人の前には大きな皿に10人前はあろうかというスパゲッティがあった。
この店の名物らしく味は一品であるが、なにより、その量に度肝を抜かされる。
それを二人で平気でほとんど平らげるあたり、また異様な光景であるのだが。

「用もないし、そろそろ、この国からもおさらばしようぜ?」
「いや、それがあるんだ。もうしばらく留まるつもりだ?」
「何故だ、祐一。それにお前、花嫁の件以来、少しおかしいぞ?訳をはなせよ」
「あれだよ」
祐一は店の一角に飾ってあったレリーフの額縁を指さした。
それは、少女と老夫、大きな狐が仲良くしている雰囲気を模したレリーフである。
「あれがどうかしたか?」
「花嫁の指輪の紋章は、あの少女のものさ。たしか……」

それから、祐一は回想しながら潤に話した。
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あれは俺がまだ駆け出しだった頃……
カノン公国で仕事をした俺は、ひょんのことからドジを踏んで警察にしっぽを捕まれた。
おれをしつこく追い回す美坂刑事が率いる警察隊に、窮地に追い込まれた。
肩に銃弾をうけ、川に飛び込んだ俺はしばらく意識を失ったんだ。

目を覚ますと、俺は川辺に投げ出されていた。
きゅーんと鳴き声がして、大きな犬が俺をぺろぺろなめていた。
「ミイナ〜、どうしたの? え?」
そばに少女の顔が目の前にあった。
まだ12才ぐらいの少女だった。
「どうしました?怪我をしているみたいですね」
少女は傷口を川の水で洗ってから、ハンカチを取り出しそれで俺の傷口を包んだ。
「とりあえずお爺さまに知らせてきます。ここにいてくださいね」
少女は急ぎ足でどこかにいき、しばらくして老夫を連れて戻ってきた。
「わたし、天野美汐といいます」
「俺は相沢祐一だ」
「とりあえず、家に来てきちんと怪我を治して下さい」
「お嬢様、お気持ちは分かりますが、どこの誰かもしらない人を家にお連れしては」
「斉藤!私にこの人を見捨てていけと仰ってます?」
「分かりました」

祐一が連れて行かれたのは、ある農場のような場所だった。
そこにひっそりとたたずむ別荘のような趣の家で、祐一は介抱された。
少女はいつも一人で遊んでいたが、祐一が元気になるにつれて、二人でよく遊ぶようにもなっていた。

「ありがとな、お嬢ちゃん」
「いえ、それよりも元気になって良かったです」
「怪我も治ったし、俺はもう戻らないといけないから」
「お別れなんですね……私、寂しいです。
 私、両親もいないし友達もほとんどいないから
 ……祐一さんと別れたらまたひとりぼっちになってしまいます」
「なーに、いつだってまた会えるさ。
美汐が俺を必要とする時に、俺は世界の果てからでも美汐の元にやって来る。
俺と美汐の二人だけの約束だ。
一生懸命看病してくれた恩も、その時にきっと返すからな」
「約束ですよ♪そうだ、これ、あげる」
「指輪? それにこの紋章は?」
「私のお母さんから貰った宝物です。紋章は私の家の家紋です」
「そんな大事なモノを受け取るわけにはいかないな。自分で持っていな」
「それでは……かわりに……」
……チュッ
「!?!!?」
祐一は頬に暖かく柔らかい感触がした。
「ふふ、私の気持ちです。祐一さん、必ずまた会えますね?」

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(あれから5年か……)
祐一はレリーフに映る少女の面影になつかしさを覚えながらも、先日の花嫁姿の少女を重ねた。
何故、あの時、花嫁は追われていたのか。
それが気になっていたのだ。

(あの時の少女にもう一度会いにいこう)
祐一はそう決めた。
あの紋章は確かカノン公国の歴代王家・天野家のものであった。
その紋章の指輪を母の形見だと言った少女は、カノン公国のお姫様ということだ。
確か、お姫様の両親は早くに亡くなったと聞いている。
美汐が花嫁姿で祐一の前に現れたのは偶然だが、彼女の表情に幼い頃の笑顔に見た幸せさを感じなかった。
だから、祐一はカノン公国に残り、思い出の少女との再会を望んだのだ。


(つづく)


後書き



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