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<相ちゃん伝説 カノンの城>第1話
『逃げる花嫁』
by シルビア
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(あの花嫁は……ひょっとして……)
花嫁の忘れていった手袋にあった指輪を眺めていた祐一は、その指輪の紋章に自分の記憶を重ねた。
カノン公国、カジノのある歓楽街での出来事。
じりりりりりりり〜うぉんーーーーーん〜〜〜〜〜〜〜〜
けたたましい警報が歓楽街に鳴り響く。
1台の車がその警報の鳴る方向から急ぎ立ち去っていた。
けたたましい数のパトカーが街を徘徊する。
「うししししし〜、成功、成功!潤、大成功だぜ」
助手席で顔をにやけているのが、今回の主人公、かりそめの名を相沢祐一、本名Yuichi Lupin、世間を騒がす大泥棒「怪盗ルパン4世」である。
「やったな、祐一」
運転していた潤は、かりそめの名は北川潤、射撃の名手であり、祐一の親友である。
本名は Jun Jigen。
普段は、祐一、潤と呼び合っている仕事の相棒同士であった。
二人の乗っている車のリア・シートにある山積みのアタッシュケースには、束にくくられた紙幣がぎっしり詰まっていた。
祐一たちはカジノの金庫を襲撃し、金庫の中の札束を掃除機でお掃除してきたのである。
祐一は鞄のひとつを手にとっては、札束をつかみ、
「愛しの札束ちゃん、会いたかったよ〜」
とアホなことを口にしている。
祐一はふと、きっとした視線を札束に向け、無表情になった。
「捨てちまおう!」
「何〜?祐一、正気か?」
「全部偽札だよ、非常に巧妙に出来ているがな」
「嘘だろ?国営カジノからかっぱらってきたんだぜ?」
「本物と区別が付かないぐらいだからな。ま、とにかくだ……」
祐一はサンルーフを開けて、走る車から札束を道にばらまいた。
「パーっといこうぜ、パーっと」
むろん、後続車はパニックである。
しかし、突然、そのパニックの中を、ものすごいスピードで突き抜けてくる1台の車とそれを追いかける車があった。
逃げる車は祐一の車の脇を抜け、追い越した。
「すげーな〜、あの車」
「潤、運転替われ! 後の黒塗りの車、それを撃ち抜いてくれ」
「何だ、突然」
「花嫁だ」
祐一はそう言うと、運転席に移った。
花嫁?、潤はやれやれ何だかなという顔つきで、サンルーフから体を乗り出すと、
ズギューン……キー、キュル、ズガン
「ほい、一丁あがり」
潤は後続車を撃ち抜くと、ガッツポーズをした。
祐一はスピードをあげて、逃げていた車に併走した。
(まずい、気絶してる……)
祐一は併走してスピードを合わせながら、距離を縮めた。
「潤、運転を頼む」
「おいおい、さっき替わったばかりだろ?」
「説明はあとだ」
祐一はサンルーフから身を乗り出すと、慎重に隣の車に乗り移り、少女の上からハンドルを握った。
(なんとかなったな)
と思ったら、目の前は急カーブの道である。
(あれ〜〜〜〜〜〜)
車はガードレールを乗り越え、崖に飛び出し、木の間を走り抜ける。
やがて、祐一と少女の二人の乗った車は川に飛び込み、沈みそうになった。
とっさに祐一は小型の酸素ボンベを取り出し、右手で自分と口にあてがった。
左手は女の肩越しに手を回し少女の体を支えながら、ぐるりと回した手の先で少女の口にもう一つのボンベをあてがった。
ふたりは車から飛び出し、水中から浮上した。
(ふー、なんとか生き延びたな)
そう祐一が思うのもつかの間、手の中にいた少女が目をさます。
……バシッ
祐一は、下あごの当たりに強烈な平手うちを食らった。
あごが大きく揺れ、大男でさえ一撃必殺とばかりにあごがテコの原理で大きく揺れた。
祐一は意識を失い、その場に倒れた。
しばらくして、祐一は目を覚ました。
額に冷たいものを感じる。
「大丈夫ですか?」
祐一が右手で冷たいモノを額から取って眺めると、それは白い手袋だった。
少女のものらしい、少女の左手は素手だった。
「すいません、追っ手と勘違いしました。
運転中に発砲され、私は意識を失っていたのに、今こうしているというのは、貴方が助けてくれたんですよね?」
「ああ、そうだが」
「本当にすいません。あなたのお名前……聞いてもいいですか?」
そう尋ねる口元がとてもチャーミングな少女である。
なによりも、その花嫁衣装の姿には度肝をぬかされるが、少女とも淑女ともいえぬ不思議な雰囲気が漂う。
「……相沢祐一、それが俺の名だ。君は……」
「あ・ま・の……」
その時上空に武装ヘリが舞っていた。
少女は真剣な目をして、急ぎ踵を帰すと、その場を走り去った。
武装ヘリが少女の方に向かっていく。
「あんちくしょう、いいムードだったのに、邪魔しやがってからに!」
なぜ怒るのかよくわからないが、祐一は武装ヘリを敵と認めたようだ。
……ズギューン
……ぐががががががが、ボワーン
思い銃声が鳴り響いた。
武装ヘリが狙撃され墜落した。
「祐一、大丈夫か?」
武装ヘリを一撃でしとめる腕前の、俺の相棒が駆けつけてきた。
「ああ、だが花嫁は奪われたらしいな」
祐一の目は、遠く離れた川岸に接岸してる船に、数人の男に手を捕まれ連れ込まれている少女の姿を確認した。
祐一は少女の残した手袋を手にしていた。
(うん?)
手袋の中に固い何かが入っている。
取り出してみると、それは少し古めめいた指輪だった。
指輪の台座には紋章の刻まれたプレートがあった。
祐一は、そのプレートの紋章にうっすらとした覚えがあった。
(あの花嫁は……ひょっとして……)
花嫁の忘れていった手袋にあった指輪を眺めていた祐一は、その指輪の紋章に自分の記憶を重ねた。
(つづく)