二月末日―――――水瀬家。
本日は珍しい組み合わせのメンバーがここに集合していた。
メンバーは五人。
実は華音高校『癒し系少女コンテスト第一位(女子には非公開)』こと水瀬名雪。
同じく『凛々しい系美少女コンテスト第二位(無論女子非公開)』こと美坂香里。
『癒し系少女コンテスト第二位』こと倉田佐祐理。
『ドジっ娘コンテスト第一位(やっぱり非公開)』こと月宮あゆ。
『妹に欲しい娘コンテスト第二位(当然非公開)』こと沢渡真琴。
以上である。
「…………皆に集まってもらったのは他でもないの。そう、今こそ同盟締結の時だよっ!」
ベリーベリーハッピーバースディ!
「…………名雪、拳を握り締めてまでの宣言はいいのだけれど…………さっぱり貴女が何をしたいのかわからないわ」
「というかこのメンバー構成の意味がわからないんだけど…………」
「美汐がいないじゃない!」
「あははーっ、舞もいませんねー」
「栞もね」
口々に疑問(?)を発するメンバー。
だが、名雪はそんな少女達を見やると、某オラオラな人風味に「やれやれだぜ…………」と溜息をつく。
「みんな、わからないの? このメンバーに共通するある重要な事柄を」
「このメンバーの共通点?」
「祐一くん繋がり?」
「でもそれだと美汐たちがいない理由にならないわよぅ?」
「うーん、わかりませんね」
名雪を除く四人は可愛らしく首を捻って考え込んだ。
余談ではあるが、四人のそのリアクションがそれぞれ趣があって良い感じである。
子供っぽく首を傾げるあゆにハテナマークを頭上に浮かべつつ顎に人差し指を当てる真琴。
腕を組んで「むー」と可愛くうなる佐祐理。
そしてテーブルに両手で頬杖をついて悩む香里。
それぞれのファンにはお宝映像といえる。
「わたしたちの共通点…………それは、誕生日だよ!」
どどーん! とどっかのせぇるすまんのように四人に対して指を突きつける名雪。
あなたの心の疑問を埋めて差し上げましょうって感じである。
「誕生日?」
「そう! 私たちの誕生日を見て何か気がつかない?」
「佐祐理は五月五日ですね」
「あたしは三月一日」
「真琴は一月六日ね」
「ボクは一月七日だけど…………」
「そしてわたしの誕生日が十二月二十三日。そう、わたしたちは全員…………誕生日近くに何かのイベント日があるの!」
くわっ、と言い切る名雪。
その真剣な表情にいつもの癒し系なおーらはまるで見えない。
「栞も節分に近い生まれだけど」
「節分なんてイベントに入らないよっ」
「そ、そうなの?」
「そうなの! 子供の日、雛祭り、お正月、クリスマス…………これらのイベントと誕生日を一緒にされたことはない?
親から『どうせ明日はクリスマスなんだから一緒に祝いしましょうね』なんて言われてない?」
「あの…………ボクはずっと意識不明で入院してたから覚えがないんだけど…………」
「真琴はそもそも誕生日を祝ってもらう以前の話なんだけど…………」
「佐祐理の場合は子供の日ですから別に一緒にされてもそれほど問題なかったですし…………」
すかさず上がる反論。
そのあまりにもっともな言に名雪は一歩あとずさる。
が、救いを求めるように最後の一人―――――香里へと目を向けた。
「か、香里。香里は―――――」
「まあ、確かにあたしの場合はそういうことが多かったわね。一日にお雛様飾ったり三日に誕生日のお祝いしたり」
「そ、そうでしょ?」
我が意を得たりとばかりに顔をほころばせる名雪。
一体彼女の毎年の誕生日は如何なものだったのだろうか?
「だから名雪の言わんとすることも多少はわかるんだけど…………それで結局何がしたいわけ?」
「うん、皆に集まってもらったのはそこなんだよ。わたしたちで同盟を組まない?」
「同盟?」
「そう、名付けて『誕生日とイベントは別物なんだよ!?同盟』」
どう? と胸をはる名雪。
「…………色々ツッコミどころ満載だけど…………何をするの? その同盟って」
「そうだね、具体的には同盟メンバーの誕生日を大々的に祝って誕生日はイベントとは別物だとアピールしたりするんだよ」
「ふぇ〜、面白そうですね。佐祐理は賛成ですよ」
「ボクも賛成。お祝い事は楽しいもんね!」
「真琴も別に構わないわよぅ」
「…………まあ、別に反対することじゃないわね」
口々に賛成の意を示す四人。
なんだかんだで皆付き合いがいいというかノリがいいのだった。
「本当!? じゃあ早速行動開始だよっ」
「…………え?」
「まずは明日に控える香里の誕生日を盛大にお祝いして同盟ののろしをあげるから」
「ちょっ」
「会場はどこにするの?」
「ここでいいんじゃない?」
「あっ、倉田家のパーティ用の部屋を使いましょうか。広いですから色々飾りつけ出来ますし」
「あ、あの」
「え、いいんですか?」
「はい、どうせ使われることも少ないんですし、問題ないと思いますよ」
「厨房とかって貸してもらえるんですか? やっぱりお料理は自分たちで作りたいですし」
「もちろん構いませんよ。じゃあ舞たちも誘っちゃいましょう♪」
「だ、だから」
「じゃあ美汐も誘っていいよね?」
「もちろんですよ。でもこれだったら別に同盟なんて作る必要なかったですね〜」
「よく考えてみればそうですね」
「ボク頑張るよっ」
「あ、あゆちゃんは飾り付けお願い。お料理はわたしたちでやるから」
「うぐぅ、酷いよ名雪さん…………」
「あははっ、ぶざまねあゆあゆ」
着々と進んでいく香里の誕生日を盛大に祝おう計画。
当事者たる香里はその会話に入ることすらできず…………
「あたしの話を聞けーっ!!!」
ただ、その叫びを水瀬家に轟かせることしかできなかったとさ。
その夜、名雪の部屋にて。
「名雪、首尾はどうだ?」
「ばっちりだよ。これで明日は問題なく香里を祝えると思うよ」
「ふっふっふ、俺が考えた完璧な計画にさしもの香里も気がつかなかったようだな!」
「香里は照れ屋だからね〜。真正面からじゃあ『誕生日なんて別に祝わなくてもいいわよ』とかいいそうだもんね」
「はっはっは、まあ栞の頼みでもあるしな。ここ数年は姉妹で楽しく祝えなかった誕生日だ。
これくらいのことをしても罰は当たるまい」
「ふふっ、祐一は優しいね」
「…………う、うるさいっ。名雪はとっとと寝て明日に備えろっ」
「うん、おやすみなさい。祐一」
そして翌日、美坂香里は呆然と自分の現在の境遇を見つめていた。
現在彼女が身に着けているものは青のドレス。
舞踏会で舞の着ていたものの色違い品である。
脇のテーブルには祐一達からのプレゼントが積まれ、他のテーブルには名雪や栞が腕をふるった料理がずらり。
やたらど派手に飾り付けられた倉田家のパーティ会場、それが彼女の現在立っている場所だった。
「よう香里、楽しんでるかー?」
「ああ、相沢君。ええ、まあ楽しいっていうか…………というか何であたしだけがドレスなのよっ!?」
「そりゃ今日の主役は香里だからな。それよりそのドレス、似合ってるぜ」
「え、そ、そうかしら…………」
「ああ、舞や佐祐理さんにも劣らぬ美女っぷりだと思うぞ」
祐一の珍しいストレートな褒め言葉に照れてしまう香里。
祐一の手にはシャンパンがあるあたり、酔っているのかもしれない。
ちなみに名雪や舞などはすでにべろんべろんになっていたりする。
「そう言われるなら悪い気はしないわね…………それでもやっぱり恥ずかしいけど」
「いいじゃないかたまには、香里は舞踏会には出なかったんだし。
北川なんて感激のあまりにあそこでフランス語を喋ってるぞ?」
祐一の指差した先には「ディ・モールト(非常に)!ディ・モールト(非常に)ーーーーーーーーー!!べネッ(良しっ)!!」と叫びつつ
ブレイクダンスを披露している北川。
彼も酔っているのかもしれない。それがアルコールになのか、自分になのか、はたまた香里になのかは本人のみぞ知るところだが。
「しかしまた大事になったものね…………たかだか一人の誕生日に」
「はは、そう言うなよ香里。俺たちはいつもこんなもんだろ?」
「ええ、そうね。だからあたしも不快になんて思ったりはしてないわ。でなければあなた達にここまで付き合わないわよ」
「そう言いつつも香里も楽しんでるじゃないか?」
「ふふ…………そうね。だけどね、こういうのも楽しいと思うけど―――――」
一旦言葉を切る香里。
そして僅かながらも上気した頬と視線を祐一に向ける。
「誰かさんと二人っきりでこうやって過ごすのも―――――悪くないかな、って思うわよ?」
そう言うとよりいっそう頬を赤らめ微妙に祐一の体に肩を預ける香里。
少しばかりとろんとした瞳とそんな香里の珍しいアクションに祐一はドギマギである。
「か、香里? 酔ってるのかお前」
「…………そうかもしれない。だって、こんなこと素面じゃできそうにないもの」
「お、おいお前本当に変だぞ―――――ってしなだれかかるなぁっ!?」
「相沢君は…………いや?」
香里レベルの美少女が瞳を潤ませてそうやってお願いしてくるのを断れるだろうか、いや、断れるはずがない!(反語)
というか断る奴は漢としてクズだ! 間違いない!(永〇〇和風味)
「はっ、なんだ今のナレーションは…………い、いや、嫌なんてことはないが」
「ん、ありがと…………ふふっ、おかしい」
「な、何がだ?」
「こうやってあたしが男の子に甘えるなんて…………とても信じられないから」
「そ、そんな事はないと思うぞ。香里だって女の子なんだし」
「でも、普段のあたしなんて可愛らしくなんてないし…………」
「か、香里は可愛いぞっ!」
「…………ほんと?」
「ほ、本当だ! 秋子さんのジャムに賭けてもいいぞ!」
普段とまるで違う香里に迫られて切羽詰まっているのか、自爆同然の台詞が飛び出る祐一。
ちなみにその時、少し離れた場所で真琴やあゆの相手をしている水瀬家のお母さんがぴくりとその笑顔を動かしたのは余談である。
「ありがとう…………嬉しい」
感極まったのか、瞳を閉じて祐一の顔へ自分のそれを近づけていく香里。
酔っているせいか、照れているせいなのかは不明だが頬を染めつつ近づいてくる香里にもう完全凍結状態の祐一。
体は剣で出来ているって状態である。
「相沢君、あたし―――――」
「あ、お姉ちゃんに祐一さん。楽しんでますかー?」
―――――ババッ!!
おそらく生涯最高の跳躍を見せたであろう祐一が後へ跳んだ。
何故か牛丼(国産和牛)を食べていた舞は「祐一…………やる!」とか呟いていたり。
「あれ、祐一さん? どうかしたんですか?」
「いいいいいいや!? ななななななんでもないぞ!?」
「ええ、どうしたの栞?」
あからさまに怪しい祐一をよそに、平然と栞へと返事を返す香里。
香里はこういう場面には弱そうだが全く動じた様子はない、やはり酔っているのだろうか?
ちなみに香里のその時の心拍数はかなりやばい感じだったそうだが表面上にはわかるわけないので記載のみにしておくが。
「えへへ、お話をしに来ました」
「そ、そうか、一緒にいた美汐はどうしたんだ?」
「倉田先輩に今日のメニューのレシピを聞きに行っちゃいました。なんでも洋風料理のレパートリーを増やしたいそうです」
誰のせいでしょうねー? と祐一を見る栞。
事の原因たる祐一はわからないらしく首を傾げていたが。
「それにしてもお姉ちゃん綺麗です。私もドレス着たいなぁ…………」
「倉田先輩に頼めばよかったじゃない」
「駄目ですっ。今日はお姉ちゃんが主役なんだからそんなことできません」
そんな栞を微笑ましげに見る香里。
だが祐一は知っていた。
実は栞はドレスを着ようとはしていたのだ。
ただ、とある事情により倉田家にあるドレスは着れなかっただけ。
まあ、事情については栞の名誉のため伏せておくが。
「けど、楽しいですよね。こういうの」
「そうね…………今まではこんなこと考えられなかったものね」
ふ、と表情を下におとす香里。
考えているのは今までの自分の栞に対する態度。
だが…………
「でも、これからはいくらでも楽しいじゃないですか」
「え?」
「ああ、そうだぞ香里。これからはいくらだってこんな思い出は作れる、皆で過ごせる。
だって今は香里も、栞も―――――笑ってるじゃないか」
「なっ?」「ね?」とお互い頷きあう祐一&栞。
そんな二人を見て香里は一瞬呆気に取られたかのように呆然として、
そして、次の瞬間には―――――笑って
「ええ、そうね!」
ベリーベリーハッピーバースディ!
あとがき
『おとなびたおんなのこ』とは違い今作はストレートにいってみました。
なんか香里が(おそらく良い意味で)壊れてる………
あと、色んなネタを散りばめてみたり。
全部わかった貴方には何もあげません(ぇ