ぺたぺた、さわさわ。

 文芸部平部員、佐竹は触っていた。



 「や〜ん可愛い〜(はぁと)」

 「ええと、ここなんだけど……(ちらちら)」

 「…………(ぴくり)」



 なでなで、ふにふに。

 同じく同部員、宇都宮も触っていた。



 「本当、いつまでも触っていたい〜♪」

 「あ、あのね……(ちらちら)」

 「…………(ぴくぴく)」



 先程から落ち着かない様子でちらちらとよそ見をしているこだま。

 彼女の正面に座っている眼鏡をかけた少女は周囲の雑音とこだまの態度に何かを耐えている模様。



 「……うぅ〜」

 「……ぃ」

 「えっ?な、何か言った?」



 俯いた対面の少女の様子が気になり顔を近づけるこだま。

 すると―――――



 「どうしたのひか―――――わっ」

 「ああああーーーー!! うっ、とう、しぃーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」



 叫び声が舞桜小学校図書室を核として学校全体に響き渡った。

 文芸部部長、結城ひかりの魂の叫びだった。















 相沢祐一(十歳)のジゴロ列伝!  第9話 〜発動!必殺兵器は姐さんのために!〜















 「ど、どうしたのひかり?」

 「そうですよ部長、いきなり叫んだりなんかしちゃって」

 「カルシウム不足ですか?」



 いきなり魂の咆哮を繰り出した自分達の部長を心配してそれぞれ声をかける舞桜小学校文芸部メンバー。

 が、その行為が彼女―――――ひかりの神経を更に逆撫でしたらしく、彼女は三人を鋭く一睨みして口を開く。



 「まず、佐竹&ミヤ! あんたたちは冬休みの宿題を片付けるためにここに来たんでしょうが!

  次にこだま! さっきからちらちらちらちらそんなに羨ましいんなら混ぜてもらえばいいでしょうが!

  そして何より―――――」

 「う、うらやましいわけじゃ……」



 そこでひかりは一度言葉を切った。

 もちろんこだまの抗議は容赦なく黙殺である。

 大きく息を吸ってビシィ!と指をある人物に突きつける。

 それは先程から佐竹&宇都宮コンビに触られ、こだまの視線の先にいた一人の少年だった。

 彼の名前は―――――



 「あんたっ! 何で部外者なのにここにいるのっ!」

 「そう言われても……気付いたらここにいたんだけど……」



 相沢祐一。

 つい先刻、他ならぬひかり自身の手でどつき倒された世にも珍しい厚幸かつ薄幸の少年である。















 回想ダイジェスト。



 前回のラスト、頭上に現れた刺客(ひかり)にどつき倒され気絶してしまった半ズボンの眩しい少年、祐一。

 慌てて事情を説明するこだまだったが顔を近づけていたことは事実だったためアマゾネスひかりに反省の色はなかった。

 しかし、気絶中の祐一をほったらかしで去るわけにもいかないミニマム少女こだまは助けを求めた。

 そこに現れる生涯独身がモットーの男ヤタロー(二十七歳独身)

 偶然通りかかった彼はこだまの願いを聞き届け、取り合えず自分の勤めている舞桜小学校まで祐一を運んだのだった。 

 女に相手にされないからといってショ〇に走ってしまうのか男ヤタロー!?

 緊迫の次回へ続く!















 「―――――って感じだ」

 「誰がミニマムですかっ」

 「私思いっきり悪役なんですけど……しかもアマゾネス?」

 「浅間先生がいないからって好き放題いいますね……」

 「というか突然現れて怪しいダイジェストを語らないで下さいよ谷河先生」



 突如ドアを開いて現れたのは金髪に眼鏡、そして白衣を身に着けた男。

 彼の名は谷河浩暉(たにがわこうき)、ドクターイエローの二つ名を持つ舞桜少学校名物保険医である。



 「おっ、チビジャリはすっかり大丈夫のようだな」

 「あなたが僕を診てくれたんですか?」

 「いちおーな。ま、ヤタローとそこのちびっこのお願いだったからな、大サービスだ」

 「ちびっこって誰のことですかー!?」

 「で、どうしたんですか谷河先生。まさか本当にこの子の様子を見に来たってわけじゃないんでしょ?」

 「まーな。結城、人手がいるから二人ほど貸せ」

 「何故ですか?」

 「二人とも……あっさり流さないでよ……」

 「さっきのお前の咆哮でヤタローの持ってたラーメンが落っこちて大惨事なんだよ」

 「佐竹、ミヤ、行って来な」

 「ええっ!?」

 「元はといえば部長のせい……」

 「……宿題」

 『イエス・サー!!』



 ダッシュで駆け去って行く二人。

 そんな二人をどうでもよさそうな目で見ながら「じゃーな」と言って去っていく谷河。

 残されたのはすっかりいじけてしまったこだまと、何事も無かったかのように椅子に座るひかり、

 そして取り合えず椅子に座る祐一だった。















 その頃の水瀬家、恒例のウォッチング。



 「なんか今回は萌えませんね姉さん」

 「まあ、相手が手強いからね」

 「と、いうか登場キャラが多すぎるせいなのでは?」

 「あらはー、それは禁句よ秋子? しかしこのままだと……」

 「どうしたんですか?」

 「……久しぶりに『アレ』が発動するかもしれないわね」

 「『アレ』?」















 「なるほど……つまりあんたはあっちの世界に逝ってしまったこだまを元に戻すために目を覗き込んでいた、と?」

 「催眠術の逆みたいなもので、母さんから教わったことなんで初挑戦だったんですけどねー」

 「ふむ……今回はどうやら私の勇み足だったみたいね、悪かったわ」

 「いえ、こちらこそなんか誤解させちゃったみたいで」



 取り合えず和解を果たす祐一とひかり。

 ちなみにこだまは未だにすみっこでいじけていたりする。



 「しかしよくこだまを年上と判断できたわね……その慧眼には感服するわ」

 「え、見ればわかると思うけど……?」

 「さらっとそう言えることが凄いわあんた」

 「……?」

 「大物ね……」



 傍目から見れば仲の良い姉弟にも見えないこともない二人。

 が、彼らは赤の他人である。

 しかもその片割れはこの街に来てから既に六名の戦果(あえて何のとは言わない)をあげ、数十人の撃沈を誇る相沢祐一。

 このまま何も起こらないはずが無い、いや、起こす!

 そしていつも故意(字が違う)は唐突にやってくるものだった……



 じーっ



 突然ひかりの顔―――――正確には目を凝視し始める祐一。

 当然それに気付くひかりは当然のごとくその理由を問うた。



 「……? 私の顔に何かついてる?」

 「眼鏡、珍しくて」

 「眼鏡? 別に珍しくも何とも無いと思うけど……」

 「僕の知り合いには眼鏡をかけてる人っていないから、だから……」

 「それにしたって街とかを歩いていれば眼鏡をかけている人くらいいるでしょう?」

 「んー、でもこんな近くでじっと見たことはないから」

 「……まあ、邪魔ってわけじゃないから別にいいけど」

 「ありがとう、ひかりお姉さん」



 ポキ

 祐一のその言葉にひかりのシャープペンシルの芯が折れる。



 「……なんでお姉さん?」

 「え? どこかおかしい?」

 「おかしかないけど……こだまはこだまさんって呼んでたじゃない」

 「でも、ひかりお姉さんはひかりお姉さんって感じがしたから……駄目?」



 ここで『可愛らしく首をかしげる』+『甘えるような声』のコンボを放つ祐一。

 かなりの防御力を誇るひかりだったがこのコンボには流石に逆らえない。

 元々、嫌というわけでもなかったのであっさりと了解を出すのだった。



 (ちょっと……やばかったわね)



 ―――――少なからぬダメージと共に。















 かりかり……



 (じーっ)

 「ここはこの公式をあてはめれば……」

 「あっ、そうか」



 かりかり……



 (じーっ)

 「つ、次の問題は……」

 「問の三だね、ええっと……」



 かりかり……



 (…………じっ)

 「こ、ここは……ぅ」

 「……? ひかり、どうかした?」

 「い、いや……なんでもないわ」

 「でも、少しずつ顔が赤くなってきてるよ?」

 「……えっ?」



 こだまにそう言われて頬を触ってみるひかり。

 確かに熱を持っている。

 これでは頬が赤く染まっているのは間違いないだろう。



 「ち、ちょっと根をつめすぎたかしら……」

 「そうかなー。あ、祐一君は退屈じゃないかな?」

 「ううん、こうして二人を見てるのって退屈じゃないから」

 「そう?」

 「うん」



 祐一の言葉にちょっぴり頬を赤らめるこだま。

 だから彼女は気付かなかった。

 隣の親友の様子がいつもと明らかに違っていることに。















 「……ついに、発動してしまったのね」

 「姉さん、『アレ』とは一体……?」

 「それはかの有名なメデューサの魔眼をも凌ぐと言われているわ。

  発動は稀なんだけど……発動して見入られてしまったが最後、確実に対象者の女性はおちるわ」

 「ただ祐一さんが見つめているようにしか見えませんが……?」

 「それがアレの恐ろしいところよ。通常、坊の技(魅力)は対象者を基点として広域放射されるわよね?

  けれどもアレはたった一人に集中されるのよ?その威力は半端じゃないわ……

  そう、アレが坊の最終兵器の一つ『MOEアイズ』!!」

 「も、『MOEアイズ』……ですか?」

 「そうよ……ちなみにMOEというのはM(問答無用で)O(女の子を)E(エンゲージ)の略だから」















 「……あ、もうお昼だ」

 「え? あ、本当だ。集中してたから全然気付かなかったよ。ひかり、どうする?」

 「…………」

 「……ひかり?」



 手を振ってみるがひかりは何の反応も示さない。

 ただ、どこか遠い世界へ旅立ったかのようにぽ〜っとしているだけである。

 こだまは気付いていないがそれは先程の自分の状態とそっくりだったりする。



 「ひかりっ、ひかりってば!」

 「………………………………………………はっ」



 こだまの揺さぶりにようやく現世復帰を果たすひかり。

 しかし、ダメージはことのほか大きかったらしく手元の宿題は全く進んでいなかった。



 「もう、ひかりってばさっきから変だよ?」

 「ご、ごめん……」

 「大丈夫ですか?」

 「え、ええ」



 そう言って祐一が近づく。

 ひかりは顔を伏せてはいるものの一目瞭然なほど頬が染まっている。

 自分でやっておいて大丈夫も何もあったものではないが本人に自覚がないのがなおさらタチが悪かったりする。



 「私たちはお弁当を持ってきてるけど……よかったら分けてあげようか?」

 「いや、いいよ。あんまり長居しても悪いから」

 「気にしなくてもいいのに……」



 心底残念そうな様子で祐一を見つめるこだま。

 が、あんまりしつこく引き止めても悪い気がするのでそこまでにしておく。

 言葉こそ発しないものの隣で親友が同じような顔をしているとは夢にも思ってはいないだろうが。



 「じゃあね」



 手を振って笑顔去っていく祐一。

 こだまはそんな彼に見とれながらも手を振り返す。

 それは彼の姿が見えなくなっても続くのだった。



 「あれ、部長にこだま? なんで何も無いのに手を振ってるの?」

 「へっ?」

 「……はっ?」



 宇都宮と共に戻ってきた佐竹に突っ込まれてようやく手を振るのをやめるこだま。

 そして初めて気付いた、ひかりも自分と同じく手を振っていたことに。



 「……ひかり?」

 「えっ、や、ち、違うわよこだま!?」

 「私、何も言っていないんだけど?」



 じと目でひかりを見つめるこだま。

 恋する乙女の嗅覚なのか親友を見つめるその瞳は同じ部員である佐竹&宇都宮にも見たことが無いものだった。
















  坊のお嫁さん候補データファイル  NO.007  結城 ひかり(ゆうきひかり)

  ・現住所…………花音市舞桜町。

  ・結城家の一人娘。小学六年生。弟が一人。
  ・理知的な性格で結構毒舌。実は趣味がババくさいらしい。
   ツッコミ専門のキャラのためどちらかというとボケ気質な坊とは合うかと思われる。
  ・家事に関してはその実力は全くの不明、面倒見はいいようだが…………
  ・舞桜小学校の文芸部部長。佐竹部員と宇都宮部員をまるで手足のように使う女王様?
















 「…………よしっと」

 「姉さんも大概毒舌だと思うんですけどね…………」

 「いいのよ、坊には遺伝してないから」




 あとがき


     「かなーり難産の第9話でした。ではゲストの(ガス!!)……ぐふ」
 ひかり「あんたねー! 何考えてんのよ!」
     「しょうがないでしょうが!? だってひかり姐さんの恋話なんてそんなに上手く書けるかっての!」
 ひかり「逆ギレすんじゃないわよ! 自分の力量不足を棚に上げるなっ!」
     「いや、でも実際のところ難しいって。ひかり姐さんの恋愛話なんてみたことないし、想像もつかないし。
     これが精一杯ですよ! だいたいこれだって結構反則入ってるし……」
 ひかり「じゃあ何で私をヒロインに加えたのよ?」
     「リクがあったから。それにチャレンジ精神?」
 ひかり「何故に疑問形なのよ。まあ、それはおいといて佐竹とミヤは候補にならないの?」
     「あんな下の名前もわからん二人をどうしろと言うんですか」
 ひかり「それはそうだけど……そういえば谷河先生も出てたわね?」
     「彼、結構好きなんです。ひょっとしたらまたいつか出すかもしれません」
 ひかり「浅間先生も?」
     「そりゃ和観さんがいますしね。さて、そろそろ次回予告です」
 ひかり「次回は……順序からするとDCヒロインかしら?」
     「いえ、この方です」
 ひかり「……ああ、この娘か。でも設定はどうするの? 一応この話はパラレルだから大丈夫だとは思うけど」
     「まだ悩んでるんですけどねー、まあ、人気のあるヒロインなので頑張ります」
 ひかり「ああ……私のイメージが……」