一月某日。



 世間一般の学生さんで言うところの冬休みのある日に



 その男の子はやって来た。



 「いいこと坊、ここにやって来た目的はわかっているわよね?」
 
 「うん! 『友達』をいっぱい作るんだよね? 僕、頑張るよ母さん!」

 「あらはー、いい返事ねー。じゃあ行きましょうか♪」



 「うん!」















 相沢祐一(十歳)のジゴロ列伝!  第1話 〜到着!嵐を巻き起こす相沢親子たち〜















 さて、ここで少々説明を入れよう。



 この親子が電車より降り立ったこの地―――――花音市

 華音(かのん)、御音(おね)、璃衣譜(りいふ)、舞桜(まいざくら)、初音(はつね)の五町より形成されていて

 全国統計(20××年調べ)で『美少女の住む比率の高い市』として知られている。

 そしてこの親子の親戚が住んでいる市でもある。



 親子は母と子の二人だった、父親は諸般の事情でいない。

 母親の名前は相沢和観(かずみ)、女手一つで愛息を育ててきた女丈夫である。

 仕事は表向きは建築デザイナーということになってはいるが、その無限の人脈とバイタリティーから

 彼女の住んでいる二十一町では『暴走特急』の二つ名を冠されているほどだったりする。



 「ねえ母さん、今から行く水瀬って言うお家には僕と同い年のいとこの女の子がいるんでしょ?」

 「ああ、名雪ちゃんのことね。秋子の娘だからきっと可愛く育っているでしょうねー」

 「会うのが楽しみだなー」



 そして和観の横で先程から笑顔を全開にして周囲のショタ系のお姉さんを鼻血の海に沈めている男の子。

 彼の名前は相沢祐一、冬だと言うのに半ズボンがやたらと眩しい小学五年生の少年である。

 彼は生まれたときから和観に『和観流、男とは何たるか』を叩き込まれてきた薄幸(?)の少年である。

 その為か齢十歳にしてナチュラルに女性を落としてしまうという特技を身に付けていたりする。

 しかし、彼の本当に恐ろしいところはその行動を自分では『友達を作っている』と解釈しているところにある。

 女の子側からすれば祐一は『恋をした男の子』と認識されるのだが、

 祐一側からすれば女の子は『仲良くなった友達』なのだから。

 とはいっても祐一の『友達』という概念は一般のものと少し異なっている。

 『友達』になればその女の子をデートに誘うし、親に挨拶しに行ったりもする。

 つまり、『恋人』としての扱いを祐一はしているのである。



 末恐ろしい、というかすでに恐ろしい男の子である。



 「さあ坊、早く行くわよー。あまりここに長居してると雪が赤く染まっちゃうわよー」

 「うん」



 二人はそう言って駅をあとにする。

 しかし、すでに手遅れだったらしく駅内では出血多量で倒れている若い女性が多数発見されたと言う。

 救助員いわく、患者は全員幸せそうな顔で「も、萌え……」と呟いていたらしい。



 合掌。















 「うーん、何がいいかしらねー」

 「わー、人がいっぱいだね母さん」



 駅を出発して十五分後―――――相沢親子は華音町商店街にいた。

 久しぶりに会う妹とその娘のためにお土産でも、と考え和観は祐一を連れて商店街にやって来たのである。



 「これから何日か世話になるんだから何かいいもの買っていかないとねー」

 「…………(きょろきょろ)」



 何を買うか悩んでいる母親と周りを物珍しそうに眺めているその息子、

 何とも微笑ましい光景である。

 道行く人々も思わず顔をほころばせつつその光景を眺めて行く。



 「あの男の子可愛い〜〜〜〜〜〜〜♪」

 「や〜ん、あんな男の子が家に一人ぐらいいたらな〜」

 「も、萌え……」



 …………一部、違うのが混じってはいるようではあるが。



 「そうね……肉でも買っていきましょうか♪」

 「普通お土産に肉は買わないと思うよ母さん……」

 「秋子だから大丈夫よ。よし、そうと決まれば善は急げって言うしあそこのお肉屋さんで松坂牛でも買っていきましょう」

 「……まあ、母さんがいいと思うなら僕は止めないけどね……」



 何かをあきらめたかのように深い溜息をついて祐一は肉屋に向かって歩いて行く和観について行く。

 和観が突飛なことをするのはいつものことである。

 例えばスーパーに買い物に行ったとき、彼女は値段が高いと判断すれば隣町のスーパーのちらしを持ってきて



 「こっちのスーパーの方が安いじゃない」



 と店員を問い詰めて値下げさせるくらいのことは軽くやってのけるのである。

 正に真の『漢』といえよう。  



 などと祐一が遠くない過去を思い出していると……



 「で、ですからさすがに5000円を1000円にまけろと言うのは……」

 「何でよー、所詮同じ肉じゃない。こっちの肉は1000円なのに松坂牛はその五倍の値段だなんておかしいと思わない?」

 「そ、そう言われましても……」 



 和観はこの花音市でも新たな伝説を築こうとしていた。

 和観の相手をしているのは20代ぐらいの若い女性店員だった。

 いつものこととは言え、母親のあまりのゴーイングマイウェイな理論に、祐一はさすがに女性店員が気の毒になり

 和観を止めに入る。



 「母さん、さすがにいきなり五分の一にまけろはないと思うよ。ここは半額ぐらいから入ってゆっくり値切らないと……」



 …………訂正、この親にしてこの子供あり、のようである。



 「坊、そうはいってもねー、あんまり遅くなっても秋子が心配するかも知れないし。

  それにこの娘は短気決戦型だと思うの、坊もそう思うでしょう?」

 「確かに母さんの言うとおりだと思うけど、だからって……」

 「あ、あのー……」



 一人置いていかれてどうすればいいのかわからずおたおたする女性店員。

 しかし、その瞳は祐一にロックオンされていた。

 どうやら祐一が気になるらしい。



 「…………あ、そうよ! いい考えがあるわ。坊、あんたが値切りなさい」



 そんな女性店員の様子を見た和観がとんでもないことを言い出した。

 しかし、祐一としては和観にやらせるよりはましだろうと自分でやることを決意する。



 「わかったよ…………でも、失敗したらもうあきらめてよ?」

 「大丈夫よー、あんたなら私がやるより効果あると思うし♪」

 「ふぅ…………」



 やれやれ、と言った感じで本日二回目になる溜息をつき、祐一は女性店員の方を向く。



 「あの……お姉さん?」

 「は、はい! 何でしょうか!?」



 何故か子供の祐一に敬語に対してなっている女性店員。



 「母が無理言ってすみません、でも、母に悪気はないんです……ただ、自分に正直なだけなんです」



 どっちにしろタチが悪いことには変わりないのでは……と思った女性店員だったがそれを口に出すことはなかった。

 祐一の瞳を直視してしまったからである。

 祐一は子供特有の必殺技の一つ『ウルウルな瞳で上目使い』を繰り出していた(もちろん無意識に)

 祐一がこの技を使用した際にその威力に耐えられる女性は存在しない。

 母親である和観でさえやられてしまう代物なのである、女性店員が耐えれるはずもなかった。



 「それで厚かましいお願いだとは思うのですが……このお肉、まけてもらえないでしょうか?」



 更に祐一は『照れくさそうにお願いする顔』+『可愛らしく首をかしげる』のコンボを叩き込む。

 もはや女性店員に答えは一つしかなかった……



 「わ、わかりました……1000円でいいです」



 ≪相沢祐一 WIN≫



 「そう? 悪いわねー♪ ほら坊、ちゃんとお姉さんに御礼言って!」

 「うん。お姉さん、ありがとうございました!」



 とびっきりの笑顔でお礼を言って祐一は和観と共に肉屋を去っていった。



 ちなみに相沢親子が去って十分後、その肉屋で恍惚の笑みを浮かべて気絶している女性店員が発見されたが……

 それはまた別のお話。















 「さて、そろそろ水瀬家よー♪」

 「いいのかなあ……あのお姉さん顔真っ赤だったし、大丈夫なのかなぁ……」

 「大丈夫よ♪彼女はあれで本望なのよ。それにね坊、この不平等で世知辛く、弱肉強食盛者必衰な世間をか弱い母子が

  生きていくためには、あらゆる手段を講じないと駄目なのよー」

 「…………あの、母さん」 

 「なあに坊、まだ何かあるの? 男の子が細かいことを気にしちゃ駄目よー、いつも言ってるでしょう?」

 「いや、多分目的地を通り過ぎてると思うんだけど」

 「え?」



 祐一に指摘され、後ろを振り向く和観。

 その視線にはしっかりと『水瀬』の表札が捕らえられていた。



 「あらは? 和観ちゃん、失敗失敗」



 あははと笑ってごまかす和観、その背後から…………




 「ふふっ、相変わらずですね……姉さんは」















 そんな声が聞こえたのだった。




 あとがき


     「どうもtaiです〜。今話から一話ずつゲストをお呼びしたいと思います、記念すべき初ゲストは…………」
 和観 「はろあー♪佐伯和観改め相沢和観で〜す」
     「ども。彼女は『それは舞い散る桜のように』というゲームに出演していらっしゃるあの秋子さんに勝るにも劣らない
     キャラクターを持つハイパー主婦なんですね。このSSにおいては祐一君の母親という役で登場されています」
 和観 「マイ愛息こと祐一ともどもよろしくね〜」
     「さて、ついに始まってしまったこの『ジゴロ列伝!(略称)』ですが、予告編でお知らせした通りいろいろな設定をここに書いておこうと思います」
 和観 「まず、世界観についてよねー?」
     「時間軸としてはカノン本編七年前の祐一が遊びに来ていた頃ですね。
     といってもこのSSでは祐一は初めて花音市を訪れるという設定なので名雪たちとは初顔合わせになります。
     また、五町の名前を見てピンときた方もいると思いますが他作品のヒロインも花音市に住んでいます、もちろん祐一の年齢に合わせてありますが」
 和観 「ということはヒロインの設定も変わってるってことかしら?」
     「そうですね。例えばONEで言えばみさおは生きていますし、DCで言えばことりの能力がありません。
     もちろん設定そのままのヒロインもいますが……」
 和観 「じゃあ次はうちの坊の設定ね♪」
     「彼のスキルは今回出てきたものが主です、他には『真顔で出てくる恥ずかしい台詞』等があります。
     あと、和観さん同様謎の人脈を持っています。女の子に対しては『恋は知らないけど愛は知っている』と言った感じですね、つまり無意識プレイボーイです」
 和観 「ちなみに私がしっかり教育したおかげで男の子にも受けはいいのよ♪」
     「祐一君に関してはこんな所ですか。最後にシナリオ展開についてですが、予告編にも書いた通り祐一君がヒロイン達を落としまくる話になると思います。
     基本的にギャグ風味ですね」
 和観 「坊のお嫁さんは誰になるのかしらー♪」
     「まあこの話は気楽に書くので『奇跡のkey』より更新は遅いと思いますが興味のある読者様は是非続読して下さい」
 和観 「次回は秋子と名雪ちゃんが登場ね♪」
     「多分そういうことになると思います、少なくとも秋子さんは出るでしょう」
 和観 「それじゃ、また次回も見ていってねー」