相ちゃん伝説 ジャムジャムボーイ
(Kanon:) |
外伝第1話 『感じていたい……』〜川澄舞・倉田佐祐理編〜
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written by シルビア
2003.10-11 (Edited 2004.3)
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何もかもが輝いている、 スミレ色の風の中を 駆けていきたい
<After the true end of a story of Mai Kawasumi.>
Dream...
A dream of Mai came to an end.
But, Mai was in the other dream...
My heart which was beating violently told me my destiny.
I became obedient because---
I felt resigned to your love,
but that was the last thing I expected to see your smile for me.
---I wish you were beside me.
I want to feel you, who are slightly warm from your body.
I'll be always by you in all seasons, my dear Yuichi.
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夜の校舎
「私は魔物を狩る者だから……」
そう話す制服姿の孤高の剣士、自らの嘘が実現化しその檻の中に囚われたその少女。
その檻をぶち破る少年。
少年は運命に翻弄された少女に、本当の気持ちを思い出させた。
祐一が好きだった、ただその純粋な気持ち……嘘をついてまでも守りたかった想い。
あきらめていた大切な少女の想い、その少女の想いに微笑みをくれたのが祐一。
それから、少女はただ素直になればよかった。
祐一が好きという気持ちを素直に言えればよかった。
自らの嘘が作った檻から抜けた舞が選んだ道は、……自害だった。
ただ、もう一人のマイが祐一とつくった思い出と、夜の校舎での二人の思い出をそっと胸に秘めて、かつて麦畑のあったこの校舎の中庭で、自害しようと剣を自分に振り向けた。
剣が舞の胸を貫こうとした時、剣先は舞の体からそれて、舞のスカートをかすった。
舞を止めて抱きついた少女、それは、佐祐理だった。
「舞〜、どうして何でも自分一人で決めてしまうの?
どうして舞が死ななければいけないの?
舞を好きな佐祐理を置いていってしまうの?
だめだよ〜、舞」
「……佐祐理」
「……このイヤリング、今でも付けてくれてるんだね」
「佐祐理にもらったプレゼントだから……」
「うん、嬉しいよ、舞」
その時、舞の手から剣が落ちた。
「……佐祐理。佐祐理の誕生日の時はプレゼント、何がいい?」
「……あはは〜、佐祐理は舞が選んでくれたものなら何でもいいよ」
「祐一……佐祐理の誕生日プレゼント、一緒に選んでくれる」
「もちろん。その時は舞と一緒に選ぼうな」
「……うん」
祐一は剣を拾い、その剣を眺めた。
使い込まれてあちこちで刃こぼれしている剣、それは祐一には二人で歩んだ過去を物語っていた。
(出逢ってから今までの俺と舞の思い出がこの剣に宿っている。
佐祐理も含めて3人でこれからは……)
祐一は抱き合っている舞と佐祐理の上から、そっと二人を包むように抱きしめた。
「ずっと、一緒にいような、俺たち」
「……うん」
「はい」
だが……舞は祐一を好きだという自分の気持ちを祐一には伝えられなかった。
剣を捨てた少女は、ほんのちょっとの勇気をも出せなかったのであった。
舞は自分の気持ちを振り切るために、ある決意をした。
----それから数日後のある夜
倉田家のインターホンが鳴った。
「はい〜! どちら様でしょうか……あら、舞〜、いらっしゃい!」
「……ごめん、佐祐理、こんな時間に」
「いいんですよ、舞。でも、どうしたの?」
「……佐祐理に相談がある」
佐祐理は舞を自分の部屋に連れて行った。
「海外留学? 舞は卒業後にアメリカの大学にいくの〜?」
「……そう」
「ね〜、舞。私と一緒に留学しない?」
「……佐祐理、いいの?」
「うん、いいよ。どのみち、私も留学する予定だったの。
入院して、大学の入学試験を受けられなかったからね。
アメリカの大学なら、今からでも入学試験を受けられるから」
「ごめん、佐祐理。私のせいで……」
「舞が気にすることはないよ。
それに、親友の舞と一緒に留学するなら、日本の大学にいくより嬉しいから」
実は佐祐理も留学する気でいたのだ。
というのも、舞の事件に関わり入院したため、国立大学の試験を受けられなかったことから浪人となってしまい、両親が留学を提案してきていたからだ。
「でも、舞、どうして留学することにしたの?」
「……この街にはいろんな思い出があるから。
過去に踏ん切りをつけてやり直したい」
「そう。舞にとっては辛い思い出も多かったしね」
「……うん」
「でも、舞、それだけじゃないよね〜?」
佐祐理は舞の顔色をうかがって、舞に尋ねた。
舞はただ、顔を赤くしたまま俯いていた。
----佐祐理と舞の高校の卒業式の日
祐一は両手に花束を抱えながら、佐祐理と舞の姿を探しながら校舎前の通りを歩いていた。
「祐一さん♪」
「あ、佐祐理さん……卒業おめでとうございます。これ、お祝いです」
祐一は花束を一つ、佐祐理に差し出した。
「ありがとうございます」
「佐祐理さん、とても綺麗ですよ。
いかにもお嬢様〜って雰囲気が全身ににじみ出ているようだな〜」
ポカッ……舞のチョップが祐一の頭に炸裂した。
「い、痛てえ……って、お、舞、いたのか!」
「……さっきから居た」
「お〜、舞! 馬子にも衣装とはよく言ったものだな〜」
ポカッ……舞のチョップが祐一の頭に再び炸裂した。
「ふふ、祐一さんったら……他に言うことはないんですか〜?」
「舞、卒業おめでとう」
祐一は舞に花束を差し出した。
「……ありがと」
「あはは〜、舞ったら照れてます〜、可愛い〜♪」
ポカッ……
「痛い」
ポカッポカッポカッ……
「痛い痛い痛い……舞ったら止めて〜。これ以上叩かれたら、佐祐理、縮んじゃうよ〜」
「あはは〜、舞、その辺にしておけよ」
「……うん」
祐一は佐祐理と舞の二人としばしの間いろいろと話していた。
「留学?」
「ええ。舞と二人で一緒に留学することに決めたんです」
「それはまた唐突な話だな」
「この学校ではいろんな事がありましたからね。新しい場所で心機一転やり直そうと思いまして」
「そっか。俺たち、また会えるよな?」
「ええ、きっと」
「……」
「佐祐理さん、いろいろありがとうな。
俺、佐祐理さん達と階段の踊り場で一緒に食べた昼食の味、忘れないよ。
俺、舞と過ごした夜の校舎での事、忘れないから。
だから……また会えるよな、きっと」
「祐一さん♪
佐祐理は舞を幸せにしたかっただけです。
それで佐祐理も幸せになれるとおもっていたから。
でも、祐一さんも幸せだと思っていてくれたんなら、佐祐理、とても嬉しいです」
「……祐一、一緒にたべた牛丼、美味しかった。これからも佐祐理と仲良く過ごす」
「ああ、舞、佐祐理を頼んだぞ?」
「……うん、頼まれた」
「あはは〜、佐祐理は手のかかる子供ですか〜?
でも、祐一さん、また3人で一緒に過ごす時がくるといいですね。
そうだ〜、祐一さんも米国に留学しませんか?
そしたら、また3人で一緒になれますね〜?」
「佐祐理さん、米国の大学に留学なんて、俺はそんなに頭よくないよ」
「大丈夫です。米国の大学は入学は難しくないんです。
その分、卒業するのは大変ですけどね。
佐祐理でも大丈夫なんだから、祐一さんなら平気ですよ」
「そっか……考えておくよ。でも、それって学年主席が言うことなのかな〜?」
「あはは〜、佐祐理はちょっと頭の弱い女の子ですよ。
たまたま学校のテストが易しかっただけです」
ポカッ……
「……それは頭が弱いとは言わない」
「あはは〜、舞、痛いよ〜。
それでは祐一さん、佐祐理達はこの辺で失礼しますね」
「ああ、元気でな」
卒業式からの帰り道、佐祐理と舞は二人で話しをしていた。
「舞〜、本当にこれでよかったの?
祐一さんに気持ちを伝えないまま海外に留学するなんて……舞〜、後悔しない?」
「……後悔してない。
剣を捨てた私は弱いから、これ以上、祐一に迷惑はかけられない。
私が祐一に気持ちを伝えたら、私はもう祐一なしでいられなくなる」
「そう……でも、舞がそう決めたんなら、佐祐理はもう何も言わないけど」
「……佐祐理こそ。気持ち、伝えてない」
「舞〜、それは言ったらダメだよ〜。
佐祐理だって……祐一さんと別れるのは辛いんだから。
冗談ぽく言ったけど……本当は祐一さんと3人で暮らせたらって思ってる」
「……佐祐理、ごめん」
「いいのよ、舞。舞は佐祐理の大事な親友だもの。
舞と一緒に居られるだけでも、佐祐理は嬉しいから」
----数ヶ月後、祐一が高校3年生の時の秋の話
佐祐理は祐一宛にメールした。
「お久しぶりです、佐祐理です。
祐一さん、お元気ですか。
実は相談したいことがあってメールしました。
最近、舞が元気ないんです。
ホームシックみたいに、昔のことを思い出しては、溜息をついてばかりなんです。
多分、祐一さんの事を忘れられないんじゃないかと。
舞は留学して祐一さんから離れ、祐一さんを好きな気持ちをあきらめようとしたんだと思います。
舞には内緒にしてくれと言われていたんですけど、舞は祐一さんに素直に気持ちをつたえられなかったことを後悔していると思うんです。
だから、舞は今でも祐一さんのことをあきらめきれてないと思うんです。
こればかりは佐祐理だけではなんともしてあげられません。
それで、祐一さんに相談したいのですが、なんとか舞を励ましてあげられませんか?
」
祐一は佐祐理に返信した。
「祐一です。
メールありがとう、佐祐理さん。
舞がそんな状況にあるとは、俺も心配だな。
正直に言うけど、俺は舞や佐祐理さんのことは好きだし、俺にできることがあれば
叶えてあげたいと思う。
俺も最後に会ったときに自分の気持ちをきちんと伝えられなかったと後悔している。
でも、受験生の身の上だから、今時期は海外に行くのは無理だ。
もし、佐祐理さん達が日本に来る時があれば、その時はできるだけ時間を取って
佐祐理さん達と過ごせるようにする。
あと、これは俺の提案なんだが、次の舞踏会に佐祐理さん達も出てみないか?
一応、俺からも手を回しておくが、卒業生でも参加できたと思う。
去年の舞踏会では事件が起きて、どことなく中途半端に終わってしまったのが
俺としても気がかりだったんだ。
その雰囲気を借りて、佐祐理さんや舞ともゆっくりと話してみたい。
恋愛経験が豊富というわけではないが、恋愛のことは二人の間できっちり話さない
限り、結果はともかくとしても、結局はうまくいかないんじゃないかな。
俺は佐祐理さんも舞も大事な親友だと思っている。
少なくとも俺と舞との間でわだかまりが残るような状況にはしたくない。
じゃあ、佐祐理さん、またね。
俺からも時々メールするから」
佐祐理は祐一のメールを読んで、考えていた。
そして、舞踏会の行われる時期に、日本に一時的に帰国しようと決意した。
佐祐理は舞にこのことを話し、舞も承諾した。
----数ヶ月後、祐一が高校3年生の時の冬の話、舞踏会当日
「ようこそ、舞、佐祐理さん」
「あはは〜、お言葉に甘えて来てしまいました〜」
「……ちょっと恥ずかしい」
「お二人ともドレス、よく似合っているよ」
佐祐理のドレスは、やさしい雰囲気と華やかさがよく出ているものだった。
ピンクのサテン生地と同色のチュール、そして、その間にパープルのオーガンジーを重ねた作りのドレスはほんのり紫がかったピンクの色合いを綺麗に表現していた。
胸元から上は細めの柔らかいチュールでカットワークが施されている。
ライラックカラーと呼ばれるこのドレスの優しい雰囲気と華やかさが調和したドレスであった。
舞のドレスはノースリープタイプのドレスであった。
前から見ると大人っぽいデザインだが、後姿はオーガンジーのフリルのついた可愛らしいデザインのものである。
菖蒲色のモチーフのデザインが少し上品な感じで、舞の好む紫色の雰囲気が舞のスタイルを際だたせている。
「あはは〜……祐一さんこそ、タキシード、似合ってますよ。
去年より体格ががっちりして、肩幅も広くなった感じです」
「ありがとう。じゃ、先に佐祐理さん、踊ろうか?」
舞が祐一の袖を掴んでねだった。
「……最初に踊る約束した」
「舞〜、それは去年の話だろうが」
「……祐一としか踊りたくない」
「あはは〜、じゃ、舞、先に踊っておいでよ」
「悪いな、佐祐理さん」
「……行く」
♪〜〜〜〜〜〜〜〜♪
「舞、去年みたいに好きに踊るか?」
「……うん」
「でも、舞も大人っぽくなったよな〜。去年は子供っぽい性格だったが」
「……もう高校生じゃないから」
「ははは……確かにそうだ」
♪〜〜〜〜〜〜〜〜♪
「おほん……相沢君、栞の事忘れてないかしら?」
祐一が次は佐祐理さんを誘おうとした時、香里が横から言ってきた。
そういえば今年は栞とも踊る予定だったんだ、祐一は香里との約束を思い出した。
「あ、やべえ。佐祐理、ちょっとまっていてくれな」
「あはは〜、祐一さんも相変わらずですね。
いいですよ、その間に、佐祐理は他の人に挨拶してきますから」
「お久しぶりです、佐祐理さん。元気でしたか?」
「久瀬さんもお久しぶりです」
「何でも舞さんと一緒に留学したとか。
在学中はいろいろとすいませんでした。
私も立場上、ああせざるを得なくて」
「いいんですよ、久瀬さん。悪意がないことぐらいは佐祐理もわかってましたから。
舞だって、本心ではあなたを嫌ってはいませんよ。
舞の事件だって、なんだかんだ言ってもみ消してくれたじゃないですか。
それよりも、少し時間があるので、よければ佐祐理と踊りませんか?」
「光栄です。ではお手をどうぞ、佐祐理さん」
♪〜〜〜〜〜〜〜〜♪
「佐祐理さん、いっそう綺麗になりましたね」
「あはは〜、久瀬さん、口が上手ですね。佐祐理は普通の女の子ですよ」
「普通だなんて……実は、私はずっとあなたの事が好きでした。
もし、あんな事件がなければ、舞さんも含めて、仲のいい友達になれたかもしれないと思うと少し残念です。
相沢君でしたっけ、彼が本当に羨ましいです」
「そうですか。でも、久瀬さん、ごめんなさい。
佐祐理は……祐一さんが好きなんです」
「分かってます。佐祐理さんとのことは今はいい思い出ですよ。
今日はあなたに会えて、私も少し舞い上がっていたようで、失礼しました」
「いいんですよ、久瀬さん。
こんな佐祐理でも、好きで居てくれたなんて少し嬉しく思いますから」
「相沢君が戻ってきましたよ。では、私はこれで」
「はい」
「佐祐理さん、久瀬と踊ってたんだ。
まあ、あいつもあれから随分変わったからな。
生徒会長を辞めてからは、結構、言い奴になったし」
「佐祐理が気に入った人に悪い人はいませんよ」
「佐祐理さん、昔もそういっていたよな。俺はあの時は気が付かなかったけど」
「久瀬さんとも長いつき合いですからね」
「じゃ、佐祐理さん、踊ろうか? 待たせてすまなかったね」
「はい♪」
♪〜〜〜〜〜〜〜〜♪
「それにしても佐祐理さんって、どんなドレスでも似合うよね」
「あはは〜、佐祐理は普通の女の子ですよ。褒めても何もでませんから。
でも、祐一さんに褒められるとちょっと嬉しいです。
だから……・」
チュッ、ぎゅっ。
「さ、佐祐理さん……」
「あはは〜、祐一さん照れてます〜。可愛いです」
「佐祐理さん……意地悪だよ」
祐一は離れて様子を見ていた、舞と栞の視線が気になった。
(やっぱり〜)
二人は明らかに嫉妬の視線を祐一に向けていたのだ。
「佐祐理はいたずらっ子なんですよ。
祐一さん、今まで知りませんでした?
それに、祐一さんは舞以外の他の女の子と踊ったので、その罰の意味もあります」
「……・」
「祐一さん?」
「……あ、ああ。何、佐祐理さん」
「いつか舞と佐祐理と祐一さんの3人で暮らせるといいですね」
「そうだな」
「あはは〜、そんなこと言っていいんですか?
佐祐理、楽しみにしちゃいますよ?」
♪〜〜〜〜〜〜〜〜♪
祐一は佐祐理と踊った後、舞の居るところに二人して戻った。
「……飲む?」
だか、舞が差し出した飲み物のグラスが、突然、割れた。
他にも近くで物が割れる音がした。
「魔物? 剣は……」
「待て!舞! ここで、剣は取るな」
「……祐一」
「魔物はお前の心が呼んだものだろ。
いいか、舞……もう不安になることはない。
お前はただ自分に素直になりさえすればいいんだ。
想いが叶おうと、叶うまいと、その想いを伝えることだけを考えろ。
そうすれば、魔物は必ず消えるはずだ。
いいか! 決して剣は取るな」
「……祐一」
祐一は舞を抱きしめた。
「舞、俺を信じろ!」
「……うん」
あたりが静かになった。
「……祐一に言いたいことがある」
「何だい、舞?」
「私……祐一の事が嫌いじゃない。
多分、出逢ってからずっと嫌いじゃない。
祐一は私の事、嫌い?」
「……舞。……そうだな、舞が素直に好きと言えたらきちんと答えてやろう」
ポカッ……
「……祐一、意地悪」
「痛いな〜、だが、俺が悪いわけじゃないぞ? 俺はきちんと答えると言った」
「私……祐一の事が……………………好き」
「舞、俺も舞の事が大好きだ」
「……私とつき合うのは嫌?」
「舞は可愛いさ。でも、しばらく考えさせてくれないか?
今は俺は舞と親友の間柄のままでいたいんだ。
だけど、俺が舞とつき合いたい時には、必ず俺から舞に話すから。
遠く離れていても、俺は舞に会いに行って、交際を申し込むよ」
「……本当? 待っていていい?」
「ああ、約束だ。
舞の気持ちに応えられるかは先の事だから自信がないけど、必ずはっきりさせる。
だから、舞も変に不安がるなよ。舞らしくない」
「……剣を捨てた私は弱いから」
「弱くてもいいじゃないか。誰かにすがってもいいんだよ。
佐祐理さんも言っていただろ、一人で何でも決めて突っ走るなよ。
たまには俺とか佐祐理さんを頼ってもいいんだぞ、親友なんだから」
「……祐一、なんか暖かい。しばらくこうしていい?」
舞は祐一を強く抱き返した。
「ああ。それでいいんだよ、舞」
祐一は舞を強く抱きしめた。
こうしてみると舞もか弱い女の子なんだか、祐一はそう思っていた。
そして、その時、祐一はある決断をした。
舞踏会の終わった後、祐一と佐祐理・舞は佐祐理の家に来ていた。
舞が風呂に入っている時に、祐一は佐祐理と二人だけで話をした。
「佐祐理さん、相談というかお願いというか、実は--------」
「あはは〜、祐一さん、本当ですか?
他ならぬ祐一さんのお願いですから、もちろん佐祐理は構いませんよ。
佐祐理にできることなら、何でもお手伝いさせて頂きますね」
「ありがとう、佐祐理さん」
「祐一さん、1年前の約束、覚えていてくれたんですね。
佐祐理、嬉しいです。舞もきっと喜びますよ」
----数ヶ月後、祐一の高校卒業後
祐一は高校を卒業すると、その年の6月に渡米した。
祐一の両親が仕事の都合でアメリカに住むことが決まったこともあり、水瀬家を離れて、家族の元へ戻る予定だった。
大学もアメリカの大学に通うことにした。
しかし、祐一は家族と一緒に住むことを選択しなかった。
ここは佐祐理のアメリカの別荘、佐祐理と舞はここで暮らし大学に通っていた。
佐祐理達の通っている大学からは離れているが、近くに平原があり、海の見える景観のいい場所に佐祐理の別荘があった。
「お待ちしてました、祐一さん。
それとも『お帰りなさい』がいいですか、祐一さん?」
祐一は、家族と一緒に住まず、佐祐理の提案もあって、近くの佐祐理の別荘に住むことにした。
そう、佐祐理や舞と一緒に住むために。
「佐祐理さん……約束通り、佐祐理さんや舞と一緒に過ごすことにしたよ。
大学は佐祐理さんと同じ大学に通うことにした。
卒業できるかどうかは自信がないけどね」
「あはは〜、祐一さん、嬉しいです」
「無理言ってすまないな、佐祐理さん」
「でも……舞の所にもすぐ会いに行ってあげてくれません?
ああ見えても、舞ったら、随分と寂しそうに祐一さんを待ってたんですよ。
舞は、今はこの別荘の前のスミレ畑にいるはずです」
「ああ、分かった」
「でも、祐一さん……佐祐理も祐一さんの事、好きです。
だから、一緒に住んでも、佐祐理は恋では舞とライバルですからね!
佐祐理はそう簡単に諦めませんから、祐一さん、覚悟してくださいね?」
「……ははは。ごめん、佐祐理さん」
祐一は踵を返して、舞の元へ走っていった。
(ふぇ〜、やっと好きだって言えましたのに……舞に先に取られましたね〜。
でも、きっと、3人で暮らすことも楽しいでしょうから……)
佐祐理は、祐一の走って行った方に背を向けて早々に別荘の中に入っていった。
佐祐理は笑顔を浮かべてはいたものの、その頬は少しだけ涙で濡れていた。
佐祐理の別荘、ここはこれから3人の、
----祐一・佐祐理・舞にとっての新しい生活の場所。
ここでこれから紡がれる物語の結末は、3人の誰も知らない。
確かなことは、これがスタートだということだけだ。
風の辿り着いた場所は、留まることのなかった風が吹きぬける場所だった。
それは北の街でも、ここアメリカの街でも変わらなかった。
「おーい、舞〜〜〜〜!」
初夏の夕日が祐一を照らしている。
やわらかな優しい光、それが祐一の笑顔に降り注いでいた。
「……祐一?」
スミレ色の風の中、舞は祐一のもとへ駆けていった。
------------------------------その頬に喜びの涙を浮かべながら。
「待たせたな、舞。
舞、やっと一緒にいられるぞ。これからは佐祐理さんと3人で暮らそう」
「……祐一、まだ私の気持ちへの返事を聞いてない」
「約束したろ、舞?
『遠く離れていても、俺は舞に会いに行って、交際を申し込むよ』って。
俺は舞の事が好きだ。だから、会いに来た。
舞、俺とつき合ってくれるか?」
「……祐一のこと、嫌いじゃないから」
「やっぱ、やめようかな〜、"嫌いじゃない"ってことは"好き"とは限らないしな〜」
「……あっ、ごめん。……祐一のこと……好き。でも、祐一、やっぱり意地悪」
「素直に言えよ。素直に〜。
でも、それもそれで可愛いから特別に許してやる。
そのかわり……」
「……そのかわり?」
「……今度素直にならない時は、こうしてやろうと決めてたんだよ」
祐一は舞を抱きしめた。
舞はこの時、自分の気持ちに素直になったのかもしれない。
(祐一を感じていたい……もっと祐一に触れ合っていたい。
……幾度の季節を超えても、ずっとそばに居たい)
この時、舞は自分がどんな表情をしているのか、もはや感じる余裕すらなかった。
だから、8年前に北の街の麦畑で最初に祐一と出逢った時のように、穏やかで嬉しそうな笑顔を自分が浮かべていたことにすら気が付いていなかった。
なにせ、こういう事に鈍感な祐一の方が先に気が付いたぐらいだから。
「舞のそんな笑顔を見たの、久しぶりだな」
「……ちょっと恥ずかしい。でも、嬉しいから」
FIN.
佐祐理「SILVIAさん、なぜ、この話は外伝なんでしょうか?」
作者 「歌い手がマリ姉さんじゃないから。SS本編は彼女の曲で書いていたから」
佐祐理「なるほど」
舞 :「……SILVIAさん、なんの気まぐれ?」
佐祐理「この連載で私たちの話が生まれるとはおもいませんでした」
作者:「この曲の歌詞にな、スミレという花が登場するんだよ。
ちなみに、スミレについてだが、
スミレの花言葉=「愛・小さな幸せ」:イメージは「誠実・純潔・控えめ」
このイメージとこの曲のイメージを考えれば舞と佐祐理以外にはあるまい?」
佐祐理「舞の愛情は、控えめを通り越して内気ですけど、誠実な愛ですものね」
舞 「……佐祐理は、小さな幸せを大事にする誠実な愛情」
作者:「ちなみに、スミレは紫が一番一般的で綺麗だが、この色は舞・佐祐理の制服のリボンの色と同じだろ?」
佐祐理「そういえば、そうですね。スミレは紫・黄・白とありますけど、一般的には紫を思い浮かべますからね」
作者 「ただ、弱った点もあるんだよ。アニメ版カノンでは二人は留学、本編では3人で一緒に暮らすというエンドだったから、原作に忠実に行こうとすると、その部分をどう調整しようかなとね」
舞 「……どっちも入れた。海外で3人でくらす、だからこうなった」
佐祐理「舞ったら〜、変なところは強引なんだから」
作者 「それで、このSSのエンドになったわけだよ。ただ、その先の話は読者の想像にまかせるとして、もう一つ、このSSで書きたかった点があってね。
それは、アニメでも本編でも舞踏会が台無しだったろ、だから翌年でリトライさせてあげたかった。久瀬も少しはまともなアフターにしてあげようとね」
舞 「……私も佐祐理も卒業生なのに舞踏会?」
作者 「まあ、そこはカノンだから……」
佐祐理「あはは〜、SILVIAさん、ごまかしましたね?」
作者 「……佐祐理、お願いだから突っ込まないで〜」
舞 「でも、SILVIA……SSで佐祐理を泣かせた。やっぱり斬る!」
佐祐理「そういえば、そうですね。やっぱり許せません!
舞、やっちゃっていいですよ」
作者 「舞、佐祐理、どうしてそうなるんだ……どうして」
(冒頭の文章について)
今回のイントロの英文は舞の心情を書いたのです。
実は歌詞の一部できにいっていた部分を引用して、今回描く舞の性格に当てはめました。
でも、あれを読むと話の展開のネタバレになりそうなのであえて冒頭の英文にしました。
意味は次の通りです。
『 夢……
舞の夢は終わりを告げた。
しかし、舞は違う夢の中にいた。
高鳴る想いに運命を知ったの、素直になれる……あなたとならば
あきらめていた大切な気持ちに、思わず微笑みをくれた。
愛する祐一、私はあなたを感じていたい。
そう、あなたの温もりをかんじていたいの。
季節を超えても、私は祐一の側にいる』