相ちゃん伝説 ジャムジャムボーイ
(Kanon:) |
第3話『最後の約束』〜水瀬名雪編〜
(中編) |
written by シルビア
2003.10-11 (Edited 2004.3)
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この手を離せばもう あなたに届かないの
こらえきれなくなる想いにきつく瞳閉じた
言葉にならないほど 心が叫ぶけれど
祐一がこの街に帰ってきて、私、とても幸せだったんだよ。
だって、一緒に居られる時間がたくさん出来たから。
私、祐一の笑顔が好き、優しい所が大好き、一緒に居られればそれだけで幸せなんだよ。
それに、
何気ない日常のシーンでも、祐一が昔の事思い出してくれると、ちょっと恥ずかしいけど、祐一との楽しい思い出が増えていくみたいでとっても嬉しかったの。
でも、いつからだったのかな。
祐一と一緒に居られる時間が、どんどん減っていく。
登校の時も、一緒に買い物したりリビングで過ごした夕方の時間もどんどん減っていく。
なかなか二人っきりにもなれない、だんだん心が離れていくようなの。
祐一が真剣になるときは誰かの事を本当に考えている時、それは知っているよ。
他の事が見えないぐらいに熱心で、側で何を言ってもうわの空だし、時々悩んで元気がなくなるし、私、どうしていいか分からない。
川澄先輩の時だって……
昼休みになると、いつもどこかに行ってしまう。
倉田先輩や川澄先輩と過ごしていると知った時、私、心が張り裂けそうだった。
「祐一、帰ってきたら、ご飯あっためてあげるね」
「サンキュー」
「よくわからないけど、頑張ってね」
いつも夜になるとでかける祐一、でも、その理由を私は知らないんだよ。
でも、その手にある木刀は、一体何?
ひょっとして、毎晩、だれかと喧嘩をしてるの?
時々傷ついて帰ってくる祐一……私、とっても心配だよ〜。
私、階段で祐一と舞が真剣に話しているのを見ちゃったんだ。
どうして、あんなに真剣な顔してたの?
ひょっとして、私にも相談してくれない位、悩んでるの?
真琴の時だって……
真琴が妖狐だってこと、どうして話してくれなかったの?
いつも悪戯ばかりしている真琴に、どうして祐一はそこまで心を許したの?
真琴がいなくなってどうして、そんなに悲しい顔をしているの?
栞ちゃんの時だって……
昼にカレーを食べにいこうと誘ったら、校門でまちぼうけされたんだよ。
私を置いて、栞ちゃんとアイス食べていた祐一なんて、嫌いだよ。
「嘘つき〜!」
……
「悪かったって、お詫びに名雪の言うこと、なんでもきくから〜」
「じゃ、明日は日曜日だし、買い物つき合ってくれる?」
私、それだけならまだ我慢できたよ。祐一の事を信じていられたから。
でも、あゆちゃんの時は……私、もうダメになりそうになったんだよ。
(あ、雪ウサギだ、懐かしいな)
雪ウサギに近づいた時にみた、祐一とあゆちゃんの二人の姿……ショックだったよ。
駅前のベンチで、ベンチの上に立っていたあゆちゃんを抱きしめて……キスしてた。
あゆちゃんがいなくなって、いつも、落ち込んだり苛ついてた。
ふと思い出した、あゆちゃんと祐一のキス・シーン。
あゆちゃんが居なくなって、ライバルがいないとホットした私。
だけど、祐一が元気ない、それは寂しい。
私とつき合ってくれたとしても、今の祐一は心から笑ってはくれない。
私はそれが悲しく思えた。
だから、
「祐一、天使の人形、探そう」
それは私の本音ではない、だけど、祐一が悲しむのは見ていられなかったから。
心にしまった私の想い、今はそれでもいいと諦めていた。
私と祐一の仲が壊れていく……
突然起きたお母さんの交通事故、目をさますかどうか分からない重体のお母さんを前にして、私の心は救いようのない悲しみに襲われた。
「名雪、秋子さんはきっと大丈夫だよ。俺もずっと名雪の側にいるから」
「どうしてそんなことが言えるの?
祐一が奇跡を起こしてお母さんを助けてくれるの?
私、お母さんがいたから、二人っきりで暮らしても寂しくなかったんだよ。
笑顔でいられたんだよ。
……私、もう笑えないよ」
祐一の恋する人はあゆちゃん、一番大切にするのはあゆちゃん。
私の気持ちを分かってくれていたお母さんまで亡くしたら、私、誰にすがればいいの。
いつでも笑っていられる程強くはない、本当は私は弱いんだよ。
好きな人と一緒の幸せを無くしたくないために、私、笑ってられるんだよ。
本当は祐一の言葉が嬉しかった。
だけど、私は自分の気持ちをうまく伝えられなかった。
それに気が付いたのは奇跡が起きた後、そう、お母さんが目を覚ました後だった。
もう、遅かった。
お母さんが目を覚ました時、祐一を信じられなかった私が、ただ、そこにいたから。
……祐一と話せない
……祐一に謝れない
……祐一がどこかに行ってしまいそう
私の心は、願いと裏腹に、祐一を拒絶していた。
言葉にならないほど、祐一が好きと叫んでも、私の気持ちはもう祐一には届かない。
そんな自分が惨めに思えていた。
(つづく)