相ちゃん伝説 ジャムジャムボーイ
(Kanon:)
 第1話『moment』〜天野美汐編〜
(後編) 
written by シルビア  2003.10-11 (Edited 2004.3)




私は湯入りの前に、体を洗ってます。

目の前にある化粧鏡をみつけ、自分の顔を覗き込みます。

「祐一さん……」

自分の顔のうちで、いつもより妙に口元が目につきます。

あの一瞬……そう、その情景を思い浮かべると、頬が燃えるように赤く見える。

(……夢じゃない、夢じゃないの)

唇をなぞって、祐一の残した証の余韻を探してしまいます。


私は湯船につかりながら、さっきまでの出来事を思い浮かべてました。


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相ちゃん伝説 ジャム・ジャムボーイ

第1話『moment』〜天野美汐編〜(後編)
 by シルビア

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---------12/6


「相沢さん?! どうしたんですか? こんなに早くからここに来てるなんて」

相沢さんはものみの丘に先に来ていた。
いつもだと、私の方が先にくることが多いのですが、この日はめずらしく相沢さんの方が先に来てました。

「たまにはいいだろ?
 それに今日は渡したいモノがあったから、天野に会いにきたんだよ」

どうしたんでしょうか? 相沢さんの表情、笑ってはいても少し真剣な感じがします。

「私に渡したいモノですか?」

「ああ、天野さ〜、今日、誕生日だろ?」

「あ、私の誕生日を知ってたんですか。
 でも、確か、私は教えたことはなかったと思いましたが?」

「栞に聞いたんだよ。まあいい、これ、誕生日プレゼントなんだ。天野にあげるよ」

「ありがとうございます。……月を背負ったうさぎさんのぬいぐるみですか?」

「一応、名前は"月のうさぎ"といってだな〜、月を背負っているわけじゃないぞ」

「ふふ、そうですか。これ、可愛いんですけど、おかしいですね……セーラー服を着たうさぎって」

月に変わってお仕置きよ♪
この人形はそう言っているように思えました。

「それはだな、単に可愛いだけじゃないぞ、実は凄い力をもったぬいぐるみなんだ?」

「凄い力……ですか?」

「それは持ち主の願いを3つ叶えるという人形でだな……」

お願いを叶える?
どこかで聞いたようなフレーズですね、あ、そうだ!

「ふふ、それって、あゆさんの"天使の人形"みたいじゃないですか。
 すると、相沢さんは私の願いを3つ叶えてくれるということになりますよ?」

「ネタがばれてちゃ、面白くないんだが。
 まあ、3つの願いというのも、俺からのプレゼントだと思ってくれや。
 実は何をあげていいか随分迷ってな……まあ、とにかくお願いを3つ言ってみろよ。
 ただし、俺にできることだけだぞ」

「本当に良いんですか?
 そんな事を言うと本当に叶えて頂きますよ?
 約束ですよ?」

「ああ、天野が本気で願っていることを言えよ。俺にできることなら何でもするから」

3のお願いって……私が本当に願っていることって……
私は覚悟を決めて、大きく息を吸い込んでは、口を開きました。

「わかりました。
 では、最初のお願いを言います。
『私をきちんと一人の女の子として扱ってください。
 決して、おばさんくさいなどとからかわないで下さい』

「げっ! マジか……冗談だろ?
 これから天野をおばさんくさいと言えないなんて、俺には地獄だぞ〜」

「本気です!
 ふふ、これでもう私をからかえませんね、祐一さん?
 でも、私もそう言われないように努力しますから、いいですよね?」

「努力する? 天野がか? 本当にできるのか?
 証明してくれるなら、俺もおばさんくさいとはもう言わないことにするけど?」

「失礼ですね。そんなこと言うのは人としてとても不出来ですよ。
 私だって女の子ですから……女の子ですから……えーと……わかりました。
 これからもっと可愛い女の子になれるようにがんばりますから。
次の学校の舞踏会で、相沢さんにエスコートしてもらえるぐらいの女の子に。
そうすれば、叶えてくれますか?」

「ふむ、面白い。それならいいぞ」

「それ、本気で言ってます?
 いいですよ〜、もう。
 とにかく、2つ目のお願いを言いますね?
その〜……あの〜……とってもいい辛いのですが……
『私を好きになったら、その時は私とキスしてください』(ぼそ)

「へ?」

「はずかしいんですから何度も言わせないでください。
 その〜……『私を好きになったら、その時は私とキスしてください』です」

「なぬ〜?」

「……・」

「……ふむ、分かった。だたし、そのお願いは却下させないぞ」

「え?」

「俺は最近、天野のことが気になって仕方ないんだ。
 多分……天野のことが好きなんだと思う」

「……相沢さん?」

祐一は美汐に近づいて、美汐の両肩に両手をかけた。
そして、その手を自分に引き寄せた。

「このお願いの条件は既に成立する。
 だから……このお願いは、今、この場で叶えてやろう」

そう言うと、相沢さんは私の唇に、そっと自分の唇を重ねてくれました。
私はとても驚きましたが、でも、背伸びをして身を任せました。

「相沢さん、私……相沢さんのこと憧れてました。
 でも、いきなりのキスなんて……恥ずかしいです」

こんな事、普段の状況なら、とても言えなかったのです。
相沢さんは、返事の代わりとばかり、もう一度そっとキスしてくれました。
私も相沢さんの背に自分の両手を回してしっかりと抱きついてました。

「3つ目のお願い、保留しようと思っていたんですけど……やっぱり言います。
 『こんな私ですけど、相沢さん、つき合ってください』

私は相沢さんの顔を見上げ、言いました。

「今更、俺の返事を聞くまでもないだろ? もちろん、OKだよ」

相沢さんは照れくさそうに笑いながらも、はっきりとした口調で応えた。

「……相沢さん」

「ただし条件がある……今度からは俺のこと、名前の祐一で呼ぶこと。
 大体、こんなに長くつき合って未だに相沢さんと呼ぶ女の子はな、天野ぐらいだ。
 もうひとつ条件を付ける……可愛い女の子になるって言ったこと、忘れるなよ」

「……はい、"祐一さん"♪」

私は"祐一さん"にキスをしました。

風が時折、私の髪を撫でる、
私の膝が震えるのを必死にこらえる、
私は瞳を開くのが怖かった、
体が暖かい温もりに包まれている、
……私はただそれだけを感じてました。
その潤んだ口元に重ねられた、もう一つの感触が暖かい。

(離さないで、私の気持ちと一緒に抱いて)

ふれあっている唇に私の気持ちを込めて。

ふれあう唇から新たに始まる二人の恋を予感した、そんな私でした。

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その夜、私は祐一さんに家まで送ってもらいました。
私の顔、すっかり真っ赤だったような気がします。
でも、私の右腕は祐一さんの左腕をしっかり抱きしめていました。

「じゃあな、天野」

「あ、酷いです。祐一さんは"美汐"って呼んでくれないんですか?」

「ははは、じゃあな、"美汐"」

祐一さんは私と組んでいた腕を解くと、踵を返して去っていきました。

(今までは祐一さんが暖めてくれてたんですね。私の心ごと……)

私は急に肌寒さを感じて、玄関の扉をあけて家にに入りました。
そして、すぐに風呂に入ることにしたのです。

私は湯入りの前に、体を洗いました。

目の前にある化粧鏡をみつけ、自分の顔を覗き込みます。

「祐一さん……」

自分の顔のうちで、いつもより妙に口元が目につきます。

あの一瞬……そう、その情景を思い浮かべると、頬が燃えるように赤く見える。

(……夢じゃない、夢じゃないの)

唇をなぞって、祐一の残した証の余韻を探してしまいます。


私は湯船につかりながら、さっきまでの出来事を思い浮かべてました。

『こんな私ですけど、相沢さん、つき合ってください』

私ったら、なんて事を言ってしまったのでしょう。

恥ずかしい……明日から、祐一さんにどんな顔で会えばいいのでしょうか……
これから、さっきみたいな真っ赤な顔を見られてしまうのでしょうか?
それとも、いつものように無表情を装うのでしょうか?

(でも、これからはいつも一緒に居られるから……)

でも、どんな風に?
私、男性の事なんて、何もしらない。
どんな風に接すれば、祐一さんの気持ちに応えてあげられる?

(この唇に残る余韻は……祐一さんと交わした証)

私の気持ちは、初めて祐一さんを見た時のまま、
……祐一さんが好き、たぶん、間違いないこと。

ずっと待っていました、そう、祐一さんが振り向いてくれるのを。
今日、それをはっきり分かりました。
祐一さんは振り向いてくれた、私の大好きな笑顔のままで。

出会った瞬間、私はあの笑顔を失ってほしくなかったのかも。
だから、丘で祐一さんに伝えようとしてた、私がかつて感じた寂しさを。
祐一さんに、自分と同じ羽目になってほしくなかったから。

『私を好きになったら、その時は私とキスしてください』

なんて大胆な事を言ってしまったのでしょう。
でも離さないで欲しかった……
私の気持ちと一緒に抱きしめて欲しかったのですから。

もしかしたら、これで終わってしまったかもしれない二人の間柄だったのに。
だから、これは私の賭けだったのに。

祐一さんの答え……私は祐一さんに抱きしめられて、唇を重ねられた。

髪を洗う私は、もう一度鏡の中の自分に微笑んでみました。
すると、その自分の表情がとても気に入ったのです。

(私、もう恋する乙女なんですね)

失う事が怖くて、誰とも親しくできなかったのに?
でも、今は祐一さんを求めている、それだけは確かなこと。
それを教えてくれる今の自分の表情が、目の前の鏡に映っている。


(祐一さんが……好きです)


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おまけ:3年後の二人
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「祐一さ〜ん、本当にごめんなさい!」

私は両手を合わせて祐一に懇願しました。
レポート作成に追われて、祐一さんの誕生日の事をすっかり忘れてましたのです。

「どうせ俺の誕生日なんて……」

祐一さんはすっかりいじけてしまい、地面に「の」の字を書いてました。

「お願いだからいじけないで〜。
 ……代わりに何でも言うこと聞いてあげるから〜」

「願い?……実は3つあるんだけど」

「え……あ、うん。それじゃ、プレゼント代わりに3つとも願いを叶えてあげる」

言ったそばから、すぐに後悔しました。
だって、祐一さんの顔から、悪戯をしたがるような表情が読みとれたんですもの。

「いい事聞いちゃったな〜。
 じゃ、最初のお願いはね……『美汐をだき……「待って!」』って何だよ?」

「やっぱりその……それはちょっと……それに、キスじゃダメ?」(汗)

「仕方ない、それでOKとするか。だが、次の願いは譲らないぞ」

「え〜、もう止めない?」

「だめ!
 言い出したのはそもそも美汐なんだから。
 さあ、俺の願いを言うぞ、よ〜〜〜〜〜く聞けよ。
 一度しか言わないからな」

「う……うん」


「俺の願いはだな……
 『美汐、将来、俺の嫁さんになってくれ』」


「え?……それって……」

「美汐、聞いてなかったのか?
 美汐への俺のプロポーズに決まってるだろ!」

「ちょっといきなり何て事を言うんですか……でも、祐一さんの意地悪♪
 その返事を今この場で私に言わせるつもりなの?
 『秘密♪』」

「何〜意地悪だって?
 それに、『秘密♪』なんて、そんな返事ってあるのかよ。
 そうか……じゃ、人形の代わりに、美汐のキスを貰っておくぞ。
 今後美汐にNOと言わせないためにな」

結局、私が祐一さんにキスされてしまいました。
恋人同士のキス、それ以上に熱いキスを。

「……祐一さん、まだ、分からない?
 プロポーズされてNOと返事するなら、こんなキスはしないわよ」

 

 

(つづく)

後書き

美汐:「taiさん、リクエスト、ありがとうございました。
SILVIAさんが私の話を書いてくれなくて、困っていたところだったんです」
作者:「あのな〜、美汐。おかげで、この話だって大分慌てて書き上げたんだぞ?
それも短編のはずが、10ページ以上の量になったし」
美汐:「確かに1日で仕上げましたね。
今回はマーマレード・ボーイの曲「moment」のイメージで書いたとか」
作者:「カノンの名雪の声優でもある国府田マリ子さんの歌う「moment」。
その歌詞のこの部分が俺は大好きだったんでね。

♪ 夢じゃない 夢じゃないの ああ もぅ
  くちびるで 変わるの 今までの二人が
  はなさない はなさないで ああ もぅ
  心ごと抱きしめていて        ♪

ベスト盤CDには収録されているはずだが、実際に聞くと、いい曲なんだよ。
だから、この曲の雰囲気でカノンSSが書けないかとトライしてみた。
それに、「水瀬さんち」のCDでの美汐は妙に乙女の恋心・爆発って感じ
だったから、この曲調にあうかなと思ってね」

美汐:「なにげにクロス・オーバーしてるんですね。
    でも、作者さん、アニメ版カノンの結末からの話だからって、むりやり
    祐一・あゆペアを別れさせるなんて、少し強引だったのでは?」
作者:「一応、最初は失恋のパターンで考えたんだが、それでは美汐が納得しまい。
    第一、俺は幸福なハッピーエンドか、美しい失恋が好みなのだよ。
    だから"おまけ"も、つい書いてしまった」
美汐:「それでは、ものみの丘はこれからは愛を語る場所になるのですね?」
作者:「いや、ちがうな。
    今後は"ものみの丘"は美汐にとって"萌のみの丘"になるのだよ」
美汐:「……」
作者:「かくして"萌のみの丘"のHPは生まれた……なんてな。
俺も美汐のラブものをたっぷり書いてやるから、楽しみにしてな」
美汐:「……」


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