駅を出たところにある広場のベンチに俺と美汐は座っていた

・・・1時間近く





いつかあの丘で
  〜2話 冷凍保存〜






「お兄ちゃん」

「なんだ?」

「従兄弟の名雪さんが迎えに来て下さるんですよね?」

「そうだぞ」

「何時に待ち合わせでしたっけ?」

「1時にこの広場で待ち合わせだな」

「1時・・・」

上を向いて広場にある時計を確かめる美汐、しかし何度見ても時計の表示は変わることなく2時を指している

念のために携帯電話を取り出して時刻を確かめてみるがやっぱり変化は無いようだ

こんなやり取りも、もう何回目だろうか

「ほんとうに、ここで待ち合わせなんですよね」

「ああ、駅前の広場ってだけだったがこの駅出口が一つしかなかったし広場があるのはここだけみたいだしな、時間も1時であってるはずだ」

「そうですか・・・では名雪さんのほうで何かあったのでしょうね、せめて電話番号を控えておけばよかったです・・」

私としたことがうっかりしていました、と溜息をつく美汐。

何かあったら両親に電話して聞けばいいと思ってdン和番号を聞かないでおいてしまった、その両親はと言えば今は丁度

空の上なので当然携帯電話の電源は切られている、あと2、3時間しないと繋がらないはずだ

「お兄ちゃんは水瀬さんの家までの道、まったく覚えてないんですよね?私は一回も行ったことないですし」

「ああ、なんせ来たのは7年前だしな、駅前だけでも随分変わっちまってるし、たどり着けそうも無いな」

辺りを軽く見回してみると、かすかに記憶に残っている部分もあるが

雪が降っていることもあって、正確な道を進めそうに無い

降っていなくても同じだろうが・・・

「そうですね、私がいた3年前と比べてもやっぱりちょっと変わってますからね
ハァ・・・もっと詳しく話を聞いておくべきでした・・・」

美汐にしては珍しく愚痴のようなことを言う、さすがに雪のぱらつく中、傘を差しているとはいえ(駅の売店で購入)ずっと待っているの
は堪えるんだろう。


「クシュン」


可愛らしいクシャミがした


「だから、さっきから言ってるけど美汐は喫茶店にでも入ってていいって、名雪が来たら呼びに行くからさ、何も2人で待ってること無
いんだから」

「ですが・・私だけ楽は出来ません、一緒に待ってます」

美汐は一度こうと決めると頑固だ、ただ意地になってるだけかもしれないが・・

なので、別の方向からアプローチしてみる

「でもさ、女の子は体冷やすといけないって・・・」

「ババシャツに腹巻、毛糸のパンツ、貼るタイプのカイロもあちこちに貼ってます、もちろん靴下にも、準備は万端です」

「それはすごいな・・でも美汐、かなりおばさんくさいぞ、それ」

「機能性重視です」

感心半分呆れ半分で言ってみるが

キッパリと返されて、女の子ってそういうものなのか?

「まぁ、いいやとりあえず貼るカイロ余ってたらくれ」

美汐からカイロを受け取って腰に貼る

本当はもっと貼りたいが、人前で服を脱いだり美汐に貼ってもらうのも抵抗があるので我慢しておく

「それにしても、このまま待ってても埒がないな、ったくな雪のヤツ」


「え、名雪?」

「ん?」

突然聞こえてきた知らない声に目をやると

俺と同い年位の美人さんが立っていた

「あ、ごめんなさい、知った名前を聞いたんでつい」

「ちょっと待ってくれ!」

そのまま立ち去ろうとする美人さんの腕を取って引き止める

「あんた、名雪のこと知ってるんだな?」

「え、ええ親友だけど・・」

「じゃあ、名雪の家も知ってるな」

「何度か遊びに行ったことがあるから知ってるけど」

「頼む!案内してくれ!!」

「え、ちょっと!」

いきなり頭を90度下げた俺に困惑気味の美人さん

この機会逃せばサム寒空の中またいつ来るとも知れない名雪を待ち続けることになる

もしかしたら、一生水瀬家にはたどり着けないんじゃないかとさえ思っていた

「いきなりそんなこと言われても、ていうかあなた誰なのよ、名雪とどういう関係?」

いきなりの事にビックリしていた美人さんだが、段々調子が戻ってきたのだろう

俺の腕を振り払って正面からきつい目で睨みつけてきた

「そうだな、すまない俺は相沢祐一、名雪の従兄弟だ、んでこっちが」

「妹の美汐です、すいません兄がいきなりお呼び止めしてしまって、もしお時間がよろしければ説明させていただけませんでしょうか?」

「え、ええ」

不機嫌そうな美人さんだったが美汐の丁寧な言葉に毒気を抜かれたのか素直に頷く

美汐は両親の海外転勤でしばらく親戚の水瀬さん家にお世話になること、待ち合わせていた名雪がいつまで経っても来ないこと、地図も連
絡先も持っておらず途方にくれていたことなどを美人さんに説明した

「はぁ・・全くしょうがないわね名雪は。
そういえば、昨日従兄弟を迎えに行くんだーっ、て言ってたわね、大方ワクワクして眠れなくてまだ寝てるんでしょ
分かったわ、案内するから着いてきて」

「ありがとうございます、助かりました」

「私は美坂香里、名雪とは親友よ、香里でいいわ」

「ええ、香里さんよろしくおねがいします」

「よろしくな香里、俺のことも祐一と呼んでいいぞ」

「わかったわ、相沢くん、じゃあ美汐さん行きましょうか」

「ええ、香里さん」

そのまま歩き出す香里についていく美汐
そして置いていかれる俺・・・


「おーい、まってくれー」











「ここが水瀬家よ」


目の前には一般的な民家と比べると少しだけ広い家があった

表札には水瀬の文字もある

「おぉ、ここか言われてみれば見覚えがあるな」

「ここでしたか、私が前に住んでいた家と10分も離れていませんでしたね」

美汐の言葉を聞いてちょっと不思議そうな顔をした香里だったが深くは聞いてこなかった

なにか事情があると察してくれたのだろう、いい奴だ。

「じゃあ、入りましょうか」

そう言いながらインターホンに手を伸ばす香里


『ぴんぽ〜ん』


どこか間の抜けた音が残響を残して消える、それから30秒・・・・・・

水瀬家には何の動きもなかった

「留守みたいですね」

「そうだな、もしかして入れ違ったか?」

「それはないと思うわ、駅からここまではほぼ一本道だし、多分、名雪はいると思うんだけど・・・」

水瀬家を前にしても待ってるしかないわけか、駅に比べればマシだが着けば暖かい部屋で過ごせると思っていた分、落胆は大きい


「あら、香里ちゃん?」

「あ、秋子さんちょうどいい所に」

横から聞こえた穏やかな声に目を向けるとそこには

母さんの妹である秋子さんが七年前と変わらない姿で立っていた

母さんといいどうなってるんだこの家系は・・・

「どうかしたのかしら?あら、そちらの方達は・・」

「ご無沙汰しています、秋子さん、祐一です」

「まぁ、やっぱり!大きくなったわね祐一さん、すっかり立派になったわね
そうしたら、あなたは美汐ちゃんね」

「ええ、初めまして秋子さん。相沢美汐です
兄共々これからお世話になります、迷惑を掛けると思いますがよろしくお願いします」

「初めまして、美汐ちゃん、そんな堅くならなくてもいいのよ、私達は家族が増えるみたいで嬉しいと思ってるんだから
家族を迷惑だなんて思わないわ」

慈愛に満ちた表情で美汐に微笑みかける秋子さん

ホントに家族が増えて嬉しくて堪らないようだ

「ありがとうございます、秋子さん」

美汐も笑顔で応える、美汐はちょっと人見知りするから心配だったんだが

この調子なら、どうやら上手くやっていけそうだ、安心した


「ところで、名雪は一緒じゃないのかしら?」

「それが・・・」

俺は広場で1時間名雪を待っていても来なかった事

偶然に香里と会ってここまで案内してもらったことを話した


「まったく、あの子ったら・・・」

秋子さんは娘の寝坊に少々呆れ顔だ

「ごめんなさいね、あの子誰に似たのか寝起きが悪くって

香里ちゃん、案内してくれてありがとうね」

「いえ、特に急ぎの用事もなかったですし、気にしないで下さい」

「とにかく、寒かったでしょう、早く家の中に入って暖まりましょう、香里ちゃんもよかったらお茶でも飲んで行かないかしら?」

「そうですね、それじゃあ、お邪魔します」

秋子さんが鍵を開けて中に入ると続けて香里も中に入っていく

勝手知ったる他人の家といった感じだ

「お邪魔します」

「お邪魔します」

そう言いつつ俺たちも家の中に入っていったが

「あら、違うわよ祐一さん美汐ちゃん

『ただいま』でしょう、もうここはあなた達の家でもあるんですから」

秋子さんはニコニコ笑ってそう言ってくれた。

俺と美汐は顔を見合わせると、ちょっと照れくさいと感じながら


「「ただいま」」


と、声を合わせ笑顔で家族に挨拶した。







後書き

なんか、ぜんぜん話が進んでいかない・・・・
SS書くのって難しいんですね(泣)
キャラを生かすのもとっても難しいです
でも、なんとか頑張って書いていきたいと思っているんで
感想、ご指摘をお願いします。