不覚にも風邪を引いてしまった。

なんだか恒例のことになっているが秋子さんと名雪は留守だし。

つきとあゆ。

果てしなく頼りない面子しか残ってないのは何故だろう。

俺は此処で死ぬのかもしれない。

風邪で死ぬってのも嫌だなぁ。



「えっと……はわっ、39.0℃もあるよ!?」

「マジか。それは重症だな……病院に行ってきたほうがいい」

「本当に大丈夫? とりあえず起きて着替えようよ、祐一君」

「気分悪い。あー、久々に体調絶不調だな……病院に行くのもかったるい」



のろのろとベッドから起き上がって服を手に取る。

今はパジャマなのだ。

思考回路に異常をきたしているっぽい俺はその場で着替え始めた。

結果、あゆがうぐうぐ叫びながら逃げ出した。

が、今の俺にそんなことを気にしてる余裕なんてありゃしない。

つきは最初から俺の着替えくらい気にしない。

着替え終わって部屋を出ようとしたところで、つきが急に叫んだ。



「おにーちゃんには悪霊が取り付いてる! 祓わないと!」



マイシスター、意味わからねぇよ。



















妹は戯れる。

〜れっつ御祓い編〜





















リビングで待ってないとダメだからね、と命令された俺はリビングに向かう。

重い身体、高い体温、痛い喉とか頭、もうとにかく最悪。

疲れ果てた状態の俺はソファーにぐったりしてる。

さっさと医者に診てもらって薬でも貰って飲みたいぞ。

あゆも拉致されたし……話し相手すらいない。

ぐったりと俺は此処で死ぬんだろうか、なんて考えているとドアが勢いよく開いた。

そして。



「さぁ、レッツ除霊!!」

「うぐぅ!! おばけは嫌いなんだよっ!! 放して、つきちゃん!!」

「絶対に悪霊のせいで風邪ひいてるんだよ! すぐに助けてあげるからね、おにーちゃん!!」

「……しかし、つきの頭の蕩け具合は手遅れかもしれん」



俺は脱力してソファーにへたり込んだ。

あんまりだろう、妹君。

本気で俺は風邪なのに巫女装束で除霊とかマジ勘弁してくれ。

付き合ってたら死ぬかもしれない。



そう、つき&あゆ、今日の衣装は巫女さんだ。

誰もが知ってる、思い描ける巫女さんの格好そのまんまの巫女さんだ。

可愛い、あぁ、可愛いとも、抱き締めたいくらい可愛いとも。

だから病院に行かせてください、いや、ホント。

ちなみに手には竹箒標準装備だ……芸の細かいことで。



気合十分のつきとは正反対で、あゆは今すぐにでも逃げ出しそうだ。

幽霊とかそういうの大嫌いだからなぁ。

びくびくしてる巫女さんなんてコイツくらいなものじゃなかろうか。

俺は回転の悪い脳を酷使して、こんな無駄なことを考えていた。

アホくせぇ。



「とりあえず感想をどうぞ」

「最高だ。巫女さんは俺も大好きだ。俺はいい妹と幼馴染を持った」

「うぐぅ……恥ずかしいよ、祐一君」

「えへへ〜、やっぱり巫女さんは威力絶大だね」



素直に答えてしまった。

しかもさわやかな笑顔で親指を立てて。

どうにも風邪を引くと弱気になって素直になるらしい。

巫女さん2人の笑顔を見てると俺も元気になった気になれる。

元気になった気になれるだけで、元気にならないけど。

地球のみんな、俺に元気を分けやがれ。



「よし、除霊の準備を始めるね」

「ほ、本当にするの!? 嫌だよっ! ボクは部屋に戻るんだもんっ!!」

「あゆさん……おにーちゃんが苦しいままでもいいんだね……」

「う、うぐぅ」

「わかったよ。うん、私は1人でも頑張る。おにーちゃんを助ける」

「……つ、つきちゃん! ボクもやるよっ!」

「あゆさん!」

「つきちゃん!」



命を賭けるかのような決意を瞳に宿す妹君。

そして最初は嫌がるものの相棒(?)を見て勇気を振り絞る幼馴染。

訳分からんが、どうやら友情が生まれたらしい。

いや、この2人は最初から友達だから絆が強くなったのだろう。

過程が意味不明でツッコミどころ満載だが。

俺としては除霊しないでいいから病院に連れて行って欲しい。

苦しみから救いたいなら除霊はいらないから医者をくれ。

つき、お前は根本的に間違ってるぞ。

がっちりと握手する2人をぼんやりと眺めながら、俺は思う。

秋子さん、助けて。

助けて、秋子さん。



「まずはおにーちゃんの身体を清めないといけないね」

「どうするの?」

「塩でも振る?」

「あ、聞いたことあるよっ! 清めの塩だねっ!」

「つき、てめぇ……塩『でも』ってなんだ、『でも』って……」



適当なこと抜かすな。

たしかに清めの塩ってのは存在するが、んなもんが水瀬家にあるわけない。

いくら水瀬家が一般家庭から逸脱してるからって、さすがにないだろう。

2人は清めの塩を探しにいってる。

逃げたほうがいいかもしれない。

此処にいると俺の病状は悪化の一途を辿ることになりそう。

いざ起き上がろうとして。



「ぐあっ、起きれないし」



正確には起きれないっていうか、起きたくない。

すっごい身体が重くてダルイ。

骨とかミシミシいいそうな雰囲気だもん。

香里か天野あたりが来てくれれば嬉しかった。

むしろどっちか俺と付き合ってくださいそして俺を守ってください。

手遅れだけど。



「いいのかなぁ、コレで」

「同じだから平気だと思う。塩は塩だよね?」

「うぐぅ、それはそうだけど」

「ということで食卓の塩で代理を務めさせてもらいます」

「……つき、お前、俺が回復したら、躾し直してやる……」

「いやん♪ おにーちゃんのえっち♪」

「ダメだよ、祐一君。血が繋がってるんだから」



なんか血迷ったことを口にしてしまった。

実行する気はさらさらないので安心だけどな。

っていうか躾がそっちの意味に取れる妹君と幼なじみも心配だ。

同様にそっちの意味で取っている俺もかなり心配だ。



しかし食卓の塩。

つーか、明らかに昨日の夕食でも使っただろ、ソレ。

とんかつにレモンと塩を振って食べた記憶がある。

俺はソース否定派なんだ。

……いや、今は全く関係ないことだったか。



雪、雪が降っている―――――。



「ていっていっ」

「うぐっうぐっ」



雪、雪が―――――。



「ていっていっ」

「うぐっうぐっ」



…………塩、塩が降っている―――――。



どうやら食卓の塩は2つ常備してあったらしい。

可愛い掛け声と一緒に俺に塩が振りかけられる。

風邪だから汗もかいてる。

ぱらぱらと振り掛けられた塩が気持ち悪い。

ていうか、最悪。

発汗によって塩分を失っているのはたしかだが人間の塩分はこんなことじゃ補充されない。

こんな方法で塩分摂取できるのは未知の生命体、例えば北川くらいのものだろう。

なにはともあれ顔にはあまり降ってこないのが不幸中の幸いだ。

ホントに不幸中の幸いでしかないが。

上を見てみれば、巫女さんが塩の壜を笑顔で振るという謎な光景。

助けて、心の天使たち……主に香里とか天野とか秋子さんとか佐祐理さんとか。



「つき、あゆ……塩、気持ち悪いんだけど」

「ちゃんと拭いてあげるから我慢してね」

「うぐっうぐっ」

「いつまで振ってんだ、あゆ」

「思ったよりも楽しいんだよ、塩を振るの」



2人が食卓の塩を振り終えると俺は見事に塩人間になっていた。

たぶん、白い。

服とかにも塩が降り積もって白くなってると思う。

俺からは見えにくいけどな。



「ここで巫女さん必須アイテムである竹箒の出番だね」

「使うの? 竹箒」

「まさか、竹箒で俺を綺麗にするとか言わないよな?」

「おにーちゃん、以心伝心?」

「……嬉しくねぇ」

「いっくよー」

「うぐぅ、ごめんね、祐一君」

「いでででででっ!!」



竹箒で掃かれた。

俺は仰向けに倒れてるので腹とか腕とか足とか、顔とか。

こいつら、ぜってー殴る。

風邪が治ったら覚えておけ……特にマイシスター。

ちくちくする箒の先が全身を突付く。

くすぐったいような、痛いような、そんな嫌な時間がようやく終わる。

結果、俺は息も絶え絶えになっていた。



「最後の仕上げに竹箒で思いっきり叩く、と」

「うぐぅ、痛そうだよ?」

「痛いから悪霊が出て行くの」

「あ、そうなんだ。ボクも思いっきりやるもんっ!」

「……何故、こんなことに」

「「せーのっ!!」」



振り上げられた竹箒が、俺の顔面を直撃して俺は意識を手放した。

























「……むぅ」

「起きた? おにーちゃん。無事に御祓いは終了したけど」

「あゆはどうした?」

「たい焼きを買いに行くって商店街に」



俺が目を覚ますと、まだソファーに寝てた。

つーか塩、とれてないし。

あとでシャワー浴びないといけないな、汗も流したいからちょうどいいことにしよう。

もちろんだけど風邪は治ってるわけもなく、むしろ悪化してるっぽい。

巫女つきは俺の横にいた。

御祓いは終了したらしい……無意味な御祓いだけど。



「風邪、治った?」

「治ると思うのか?」

「うん」

「治るか、ボケ」



寝たままの姿勢で、巫女つきの頭を小突いた。

痛くもないのに頭を自分で撫でるつきを見ながら軽く溜息を吐く。

つい先ほどまで見ていた夢が頭に残っていた。



「ちょっと、嫌な夢を見ちまった」

「どんな夢?」



つきは小突かれたことを気にせずに聞いてくる。

強く叩いてないし、夢のほうが興味あるんだろう。

わくわくした瞳で俺の見ていた。

その気持ちを裏切ることにはなるが俺も気にせず切り出す。



「お前と、離れ離れになる夢」

「私と……おにーちゃん?」

「そう。何で、とかはない。それだけの夢だったから」



そのうちまた別離の時は来るだろう。

俺の様子を見にきているだけなら、そのうち元の場所に戻ることになる。

ただ、その時の夢を見たというだけの話。

そう遠くない未来の夢。

だが月佳は違う意味で捉えたらしい。



「……おにーちゃんの願望かな」



泣きそうな声だった。

さっきまでは俺で遊んでたくせに、今はただの弱い女の子であり妹になっていた。

俯いてるからわからないけど、たぶん寂しそうな顔してる。

俺は無理な体勢から、つきを抱き締めた。



「そういう夢じゃない。願望なわけないでもない」

「でも、でもぉ……夢は無意識の願望だっていうし……」

「つき」

「………………」

「巫女さんならさ、祓ってくれよ。俺の、月佳にとって悪い夢を」

「……うん」



涙目で頷き、つきが俺の頬に口付けたところで閉幕。

























「キスすんじゃねぇよ!」

「唇じゃないじゃん!」

「そういう問題じゃないだろ!」

「じゃあ次は唇にするからね!」

「なんでやねん!」



意外と元気だった。

























あとがきっぽいコーナー。



諸所の都合により更新が滞りまくってたのは仕様です。(笑顔

なんかもう自分的に微妙なのしか書けない状態なのですがtaiさんがヨコセ言うので引っ張り出してきましたー。

―――――内容に対する苦情は受け付けないゾ☆

というわけであとがき手抜き仕様でしたとさ。

というか特に書くことがありません……。

















































………………ファイル作成したの実は2003年だったのは凄い極秘事項です……。