祐一の愛した星少女
(Kanon:) |
第7話『アタランテーの少女』〜川澄舞編〜
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written by シルビア
2003.10 (Edited 2004.3)
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好きな人と一緒にいられればそれだけで良かった。
それができずに過酷な運命を作り上げた少女----『アタランテーの少女』川澄 舞。
舞は自分を過酷な運命に身をさらす。
それは誰しもがまか不思議しか思わない、そんな彼女が作った彼女の世界。
「私は魔物を討つ者だから」
月を背後に颯爽と魔物に飛びつく少女の姿、幻惑的な魅力があったその世界で、舞は戦い続けた。それが舞の今の姿だった。
彼女自身の最後の戦い、それは自分自身の呪縛からの自らの解放。
「舞、もう全て終わったんだ、剣を捨ててもいいんだ」
「……剣がない私は弱いから」
「いいんだよ、弱くたって。
俺がずっと守ってやる……一緒にいてやる。
もう一人で苦しむことはないんだ」
「……本当に?」
戦いを終えた時、舞は一人のか弱い少女だった。
戦いの中でのみ自分自身を表現できなかった、自分をも守れない少女だった。
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テッサリア国・イオールコス都市の王イーアソスは、強く男児を望んでいた。
だが、王妃クリュメネーとの間に生まれた子は皮肉にも娘だった。
その子はアタランテーと名付けられた。
王はひどく落胆し、失望した王は娘をパルテニオン山中に捨ててしまった。
しかし、娘は野垂れ死にする事なく牝熊が乳を与え、娘は生き延びた。
後に、その地を住家としてた猟師クノーソスに拾われて娘は養育された。
養父のクノーソスは弓の達人であった。
アタランテーもまた養父に見習い、素質もあってか、いつしか弓矢をもっての狩猟は養父を凌ぐほどに上達した。
そして、アタランテーは日頃から武装し男児のように生活していた。
狩猟の女神で永遠の処女を誓ったアルテミスのごとく、アタランテーもまた、その美貌にも関わらず、処女を誓い女としての結婚を嫌うようになっていた。
しかし、アルテミスが巨人のアローアダイの二人に言い寄られた例のごとく、ケンタウロス族のヒューライオスとロイコスが山野で狩りしていたアタランテーを見初め、強引な手段で手込めにしようとした。
しかし、女狩人の怒りの弓矢は二人のケンタウロスをいとも簡単に射殺してしまったのである。
アタランテーの結婚嫌いは決定的なものになっていた。
成人を迎えた頃には、アタランテーの狩猟の腕前は近隣に噂されるほどとなり、
オイネウス王からカリュドーンの野で暴れる大猪退治の要請に応じたことを契機に、
養父に別れを告げて育った地を去った。
カリュドーン、この地は彼女にとって悲しき思いの残った地である。
男をすきにはならず生涯結婚しないと誓った彼女でさえ、メレアグロスという男性を
前にして、自分がその愛に揺れ動いているのを感じた、そんな初恋の地であった。
メレアグロスはカリュドーンの王の息子で、剛勇の戦士として噂高かった。
だが、メレアグロスは、クーレース族との戦いの中で死亡してしまい、アタランテーの初めての恋は切ない幕切れで終わってしまった。
アタランテーの結婚嫌いは男まさりに生きる彼女の人生を象徴し、幾多の戦いや競技の中でその武勇をとどろかせた。
アタランテーの武勇は、ついに彼女を捨てた王イーアソスの耳にまで入り、彼女は国元に帰り余生を送った。
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そして、俺は舞の世界に俺自身を投じることにした。
俺が舞を受容したのか、それとも俺が舞の世界に身をなげたのか、それは分からない。
だが、そのどちらであるのか、答えを出す必要はなかっただろう。
「祐一、これからは祐一も剣の修行をする」
「はあ?」
「……祐一、まだ弱い。だから、私より強くなったら素直に言うこと聞く」
舞はそう言うと、どこかしらかジャガイモの山を持ってきた。
(消化器やバケツでないだけましか)
「舞、お前どこからこんなもの持ってきた?」
「……家庭科実習室。
私、ジャガイモを投げる。祐一はかわすかまっぷたつに斬る」
舞はそう言うと俺に剣を手渡した。
ブン、ブン、ブン、ブン、ブン、ブン
スパッ、ふい、スパッ、スパッ、ふい、ふい
ジャガイモが俺めがけて飛んでくる。
いくつかはかわした、いくつかは斬ったが、あまりにペースが速い。
いくつかのジャガイモは俺の頭を直撃した。
「舞〜、何で俺が戦わないといけないんだよ?」
「……祐一を好きな子たくさんいる。その子の想い、また魔物になる」
「本当かよ〜!」
突然、舞が駆け足で俺めがけて突進してきた。
舞は俺の肩を掴むように俺にタックルした。
俺はバランスを失って、背中から地面に倒れた。
舞は、倒れた俺の上にマウントポジションをとるように乗り上げた。
「……祐一。覚悟!」
舞は右手を手刀の形で振り上げた。
俺は覚悟を決めてそれを受け止めるしかない、が、怖くて眼をつぶってしまった。
(あれ?)
「祐一、やっぱり弱かった」
頬に手の感触が、俺の唇に柔らかい感触がする。
これって……キス?
唇を離すと、舞は俺の上から降りて、離れては俺に背を向けた。
「これ、私のファースト・キス。
その私のキスも避けられないようでは、祐一は未熟者。
他の女の子の誘惑は、もっと心配」
舞には珍しく大きな声で話していた。
「あのな〜、舞!」
「私、まだ弱くなれない。
祐一のこと、失いたくない」
舞はそう言うと、体を起こした俺に再び抱きついてきた。
抱きつき方もしらないような抱き方、俺はそう思った。
でも、俺はとっさに舞を強く抱きしめ返していた。
-------あれだけ強かった舞でさえ、こんなに体が細かったということを、
この時初めて知ったから。
「舞……お前って強いな」
「……今度は祐一のためだけに強くなるから。
……祐一のこと嫌いじゃない。
……だから祐一はずっと側に居ないとダメ。
私はただ、祐一にそばにいて欲しい」
舞に似合わないセリフだな、なら、もう少しからかってみるか。
「舞、舞踏会のドレス、似合ってたな。
今度はあれを戦闘コスチュームにするか?
それなら一緒にいても楽しいだろうな」
「……祐一、意地悪」
「いやならいいんだぞ、いやなら」
「……はちみつくまさん」
(つづく)
舞:「……・作者、手抜きした」
作者:「あわわ……何て言うかその……」
舞:「……・何で私が祐一にジャガイモを投げる?」
作者:「バケツや消化器よりはましだと思うが?」
祐一:「なんで戦いが終わったのに、剣の修行なんだ?」
作者:「そういう祐一は舞に勝てるのか?
このまま一緒になったら、単に尻にしかれるだけだぞ」
舞:「……・作者、遺言状は書いた?」
作者:「その必要はないだろう?」
舞:「……・問答無用」
作者:「ふふふ、俺がやられてばかりだと思うか?
ほれ、真剣白刃取り!
大体な〜、祐一と一緒にするない」
舞:「……・油断した」
作者:「舞の弱点はお見通しだ。
舞踏会の衣装、よく似合っていたぞ。
祐一に褒めてもらったんだろう?」
舞:「……・」(ポッ)
作者:「剣を捨てた舞は弱いぞ。ふふふふふ」
秋子:「まあ、作者さんもムキにならずに、その辺にしておいてくださいね」