祐一の愛した星少女
(Kanon:) |
第話
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written by シルビア
2003.10 (Edited 2004.3)
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放たれた矢が目標に向かって邁進するように、束縛から自由になって目標に向かって探求の旅を始める ----------そんな『アル・リスカの少女』、天野美汐。
悲しい思い出を自らの枷とし自分を束縛してしまった過去をもつ、そんな少女は、俺との出会いをきっかけに、再び人のぬくもりを求めて旅を始めた。
------12月5日 PM5:00
「いい景色だ。とても気持ちがいい」
大きく手を伸ばし、いまでも駆け出しかねない雰囲気をした祐一が言った。
「クスッ、祐一さんったら……
冬になると、ここはすっかり雪景色ですね。
でも、祐一さん、何て無邪気な顔をしてるんです?
まるで、子供みたいですよ」
「そう言う大人の雰囲気を漂わせている美汐は、いつもここに来ると、本ばかり読んでるよな。で、今は、何の本読んでるんだ?」
「私はここで読書するのが好きなんです。
それに……いいじゃないですか、なんの本でも……」
祐一は、美汐の本のページを覗きこんだ。
美汐は照れて、読んでいたページを胸に押し当てて隠そうとした。
だが……これだとタイトルは祐一には丸見えだ。
「なになに、『占星術--好きな人に告白する方法』?」
「キャッ、のぞき見しないでください!」
「本の表紙のタイトル、丸見えなのに?」
「え?……あ!」
俺は美汐と二人でものみの丘にいた。
美汐の理科の課題で、星座観測があったため、ついでに二人でものみの丘に星の観測をするつもりでいる。
このまま二人は、ここで夜まで過ごすのだ。
……ちなみに俺がこの日時を選んだのには、もう2つの理由があった。
------12月6日 AM0:00
「美汐、誕生日、おめでとう」
「祐一さん、ちゃんと覚えていてくれたんですね。
忘れているかと思いました」
「無論。これ誕生日プレゼントなんだけど、受け取ってくれるかな?」
祐一は、リボン付きでラッピングされた手のひらぐらいの四角い箱を美汐に手渡した。
「シルバー・ペンダント?」
美汐が包装を解いて箱を開くと、サファイアの宝石が埋め込まれた銀製のプレート状のペンダントが入っていた。
そのペンダントにはベルの模様があしらわれ、メッセージが刻まれていた。
"To Mishio Amano, my Al Rischa
from Yuichi Aizawa with love."
(俺のアル・リスカである天野美汐に、相沢祐一より愛を込めて)
「サファイアは、美汐の誕生日12/6の星座の”射手座”のラッキーアイテムだよ。
ベルはスズのつもりで、射手座の支配する金属の象徴であしらってみた。
ちょっと不格好だけど、勘弁してほしい。
……実はこれ、秋子さんに教わりながら、俺が作ったんだ。
この世でひとつしかない、美汐だけのアイテムにしたくてな」
「わ〜、これ、手作りですか? とてもよく出来てますね。
祐一さん、ありがとうございます。
とても嬉しいです、大事にしますね」
「メッセージは……その……俺の気持ちなんだけど」
「……with love ってひょっとして?」
「ああ……俺、美汐の事好きなんだ。
もしよかったら、今後つき合ってくれないか?
今までも何度か一緒に過ごしたけど……その……これからは恋人として」
「ふふ、いまさら、私にその返事を聞きたいのですか?」
美汐は少し意地悪な笑みを浮かべて応えた。
「いまさらって?」
「ふふ、私、祐一さん以外の男性を、彼氏として考えたことなんてありませんから。
第一、ずっと私に好きと言ってくれなかったこと、彼氏としてとても不出来ですよ。
でも、このプレゼントがとても嬉しいので特別に許してあげます♪」(ポッ)
「美汐、ちょっと意地悪が過ぎるぞ?」
「クスッ、私がこんな女の子になったのは、祐一さんがいけないんですからね。
普段、祐一さんがおばさんくさいなんて言うからです。
物腰が上品だと思ってくれるなら、私は素直ないい娘になってます。
それも、祐一さんが好むような大人の女性になれるように頑張ってるでしょうね」
「分かった、負けたよ。
今後はおばさんくさいなんて茶化さないから、勘弁してくれ。
俺の本音はな、美汐の大人っぽい雰囲気が好きなんだよ……それで、つい」
「はい、それで許してあげます。
それと、私を好きになってくれて、とても嬉しいです。
……ですが、このmy Al Rischaというのは、どういう意味です?」
「美汐のイメージって、Al Rischa(アル・リスカ)みたいだなと思ってね。
俺がそう例えたんだよ。
アル・リスカはね……」
祐一は天体望遠鏡を魚座の方に向け、美汐に覗かせた。
「魚座の4等星α、アル・リスカ(Al Rischa)。
今、望遠鏡の中心に光る星があるだろ、これだよ。
美汐の誕生日のある、今時期にちょうど見れるんだ。
アル・リスカは「紐」という意味で、魚座の2匹の魚を繋ぐリボンの結び目あたりにあるからそう名付けられている」
「私の誕生日に見える星だったんですか。
でも、確か私の本に、魚座の由来の話があったかと。
……えーと、ここですね」
(魚座の伝説)
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ギリシア神話より
かつて、ゼウス派の一族の神々が酒宴をしていた場所に、突如怪物デュポンが現れ、神々を襲いました。
神々は様々な姿に変身して、その場から逃げるように立ち去りました。
その時、美の女神アフロディーテと その子である愛の神エロス(キューピッド)は2匹の魚に変身し,川に飛び込み難を逃れました.
この時にアフロディーテの親子が、離れ離れにならないようにお互いをリボンで
結んだといいます。この二匹の魚とリボンがのちに天に上げられ魚座になりました.
魚座のα星はアル・リスカ、リボンの結び目にあたる場所に輝いている星です。
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「へ〜、祐一さん、私をこんなイメージでみてたんですか」
「そうだな、女神アフロディーテの雰囲気と美汐の性格って、似てると思うよ」
(魚座の性格)
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魚座の人は12星座きってのロマンチストです.繊細で感受性が強く,芸術的,宗教的な 分野で類まれなる才能を発揮しそうです.自分の信念のためには我が身を 犠牲にすることをなんとも思わない.ただ,他人に左右されがちで 主体性に欠けるのが難点です.魚座はいくつになっても夢見る少年少女の 趣をただよわせる星座ですね.
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「でも、魚座の性格は美汐のタイプを表していないいんじゃないかな」
「そうですね。私、ここまでロマンチストではないですから」
「美汐に一度聞いてみたかったんだが、美汐ってどんな恋愛に憧れたんだ?」
「私は、ただ好きな人のそばにさえ居られればそれでいいんです。
好きな人の顔を近くで眺めて居られれば、それでいいんです。
ちょっとだけでも、私の気持ちに気がついてくれれば嬉しいです。
私が何か彼にしてあげることがあれば、何でもしてあげたいんです。
変ですか?」
「ふーむ、なるほど。
いや、”射手座”の性格のことは俺も調べておいたんだが……
まあ、こんな感じだよ。
美汐の言っているのと少し違うかな?」
(射手座の性格)
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射手座の人が旅・自由を愛しあまり束縛されたくないと考えるのは放たれた矢の本質なのかもしれません。放たれた矢が目標に向かって邁進するように、束縛から自由になって目標に向かって探求の旅を始めます。
希望に満ち未来の可能性に自分の全てを賭け冒険の旅へと旅立つことができるのです。
自由や愛には制約がある、そういう希望・理想には限界がある事を承知の上で、それでも何かを求めて旅にでる、これが射手座の本質なのではないでしょうか。
精神面においてもこのような傾向がみられます。
哲学、思想に触れたりと、読書好きが多いように、知性・心の世界を旅する事が好きなようです。
ただ邁進しすぎてこの熱意・情熱から現実の判断を見誤る事で理想の世界に生きてしまう危険性もあるのがデメリットとも言われてます。狂信的な宗教・信念が持つ危険性などはきちんと考慮した上で行動するようにするといいでしょう。
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※射手座そのものはアポロンとアルテミスにゆかりの深い、半人半馬の
ケンタウロス族ケイローンの姿と言われてます。
「私の本では、こんなことを書いてましたよ」
(射手座の愛情)
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射手座とゆかりの深い星は木星(ジュピター)とその象徴である神ゼウス、そしてその妻ヘラとなります。
神ゼウスと妻ヘラとの関係は山あり谷ありでした、そこから推測されるように結婚生活は決して褒められたものではないようです。
神々の王として君臨していたゼウスは欲しいモノは全て手に入れようとし、
女性・男性をとわず美しいものは手に入れる浮気者とも言われています。
妻ヘラは結婚の女神でもあり女性の性と幸福を象徴する女神なのですが、大変嫉妬深いとも言われた女神でした。このためゼウスが浮気するたびに相手の女性達に激怒し、次々と神罰を与えてました。
自由であまり束縛されたくない愛を望み、そこから次々と新しい出会いや憧れを求めます。ですが、その一方で、自分を束縛されそうになるとまた新しい出会いを求めて去っていく面があるようです。
浮気者ともとれますが、その一方で探求心旺盛とも言えます。
自らを高めるような恋愛を求め続ける、そんな本質があるのでしょう。
恋愛では、自分の相手以外の場所に理想を求めず、自分の相手と深い理解で結びつくことが理想的です。そのため、自分の恋愛の中に絶えず変化のある状況を作り、恋人と互いに切磋琢磨していくような恋愛をするなら、とても素敵な関係が生まれそうです。
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「うーん、俺、告白しない方がよかったかな〜。
恋が実ってしまって、俺が美汐を束縛したら、俺は美汐に逃げられて
しまうってことか?」
「クスッ、そんな事考えなくても。
祐一さんが私の理想の男性で有り続けてくれたら、いいんですよ。
今も私の理想どおりですし。
第一、祐一さん以上の男性って、どこにいるんです?
……私をずっと愛してくださいね、祐一さん♪」
「今よりもっと輝けよ、美汐」
美汐:「告白シーンですか……」
作者:「いやだったか?」
美汐:「いえ、だって、祐一さんに告白されたんですもの。
いやなはずがありません」
作者:「それも美汐のご希望通り、恥ずかしいシーンは一切なしにした」
美汐:「でも誕生日プレゼントを何にしようかって迷ったんでしょ?」
作者:「伝家の宝刀、シルバーリングでは、読者に飽きられてしまうだろう?
それに、あんなプレゼントは市販されてない。
でも、銀製品のオリジナル・アイテムは案外簡単にオーダーできる」
祐一:「学生なんだから、安いモノにしてくれないか?
ただでさえ、金欠状態なのに、これ以上はきついぞ」
作者:「まあ、いいじゃん。一生に何度もあげるものでもないだろ?
そういう時は、バイトでも頑張るなりして、きちんと奮発しなさい。
さもないと、相手に一生愚痴を言われかねんぞ?」
秋子:「作者も苦労したんですよね?」
作者:「金がなかった頃は頭と足を使って、なんとかしたよ。
同じモノでも安く買うことに関しては得意だから助かったがね」