祐一の愛した星少女
(Kanon:) |
第5話 『シリウスの少女』〜沢渡真琴編〜
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written by シルビア
2003.10 (Edited 2004.3)
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青白い炎のような星・天狼星の光を宿して俺の前に現れた謎の少女。
…………・それが真琴だった。
「……あなただけは許さないから」
そう言って俺の目の前に現れた人影。
「誰だよ、おまえ。ずっとつけていただろ」
「やっと見つけた……」
声は少女のものだった。ただならぬ空気が漂い、少女は纏っていた布を投げ捨てた。
「……あなただけは許さないから」
「お前のような奴に恨まれるような覚えはないぞ」
「あるのよ、こっちには。……覚悟!」
-----------ここまではシリアスで格好よかったのだが。
俺がよけると全く当たらない少女の拳と蹴り。
「あぅーっ……」
さらには子供のようにジタンダを踏んでさえ見せている。
あげくには、
「お腹が空いているからっ……それで調子がでないのよぅっ」
と言っては、やがて空腹で倒れ込む。
-----------確かなこと、それはこの少女が変な少女だということだ。
変といえば、水瀬家の反応もまた変だってには違いないな。
「大きなおでん種……」
「これがおでん種に見えるのか、おまえは」
名雪、お前、ぼけてるのか?
……
「大きなおでん種買ってきたのね……」
「あんたら一家は食人族か」
「冗談よ」
秋子さんまで……
俺はこの少女を水瀬家に連れていったが、記憶喪失だという少女の言い分を信じるしかなかった。ようやっと知ったことも、名前が沢渡真琴らしいということだ。
それからは、秋子さんの「了承」もあって真琴は水瀬家でしばらく厄介になった。
真琴がなぜ執拗に俺を狙うのか、それは分からないが、俺はこの少女の相手をするのがいつしか余興とも楽しみともなっていた。変に真剣な割に、やっていることは子供っぽい、そして真琴が泣き顔をするのが面白く感じたからだろう。
俺はなすがままに、真琴のいたずらを受けてみることにした。
それは、真琴という変な少女を理解することにつながるかもしれない予感があったからだ。
だが、子供っぽいとはいえ、真琴の感情の純粋さはなかなかなものだった。
もし、これが復讐でなく愛の告白だとしたら、今の真琴の風貌に見合うだけのアピール度があっただろうに。
-----------だが、俺にはふと気になっていたことがあった。
真琴の眼にはいつも寂しい光が宿っていた。
記憶喪失だからか?
家族も友人もいないからか?
真琴は俺達と居ない時はとても無口で、とても寂しがり屋だった。
俺と喧嘩して、水瀬家にもどりにくくなった時、真琴はものみの丘で静かに一人たたずんでいた。
何のために自分が生きているのか、それすら真琴には分からなかった。
俺は真琴にとってはただ一人の記憶の中の人物だったのだ。
ものみの丘で寒そうに夜を寝過ごす真琴を見たとき、俺はその体を背負うことにした。
真琴はここに居るべきでない、今の真琴の帰る場所は、水瀬家なのだと。
そして、それがとても自然に思えたのだ。
仲良くしようと、けんかしてようと、真琴は俺や秋子さん達と一緒にいることが、あいつなりの楽しさだったにちがいないと。
天野という少女が俺に妖狐の話をしたとき、俺はやっと真琴の心情を理解した。
だが、俺は真琴が妖狐であるかどうかということよりも、あいつが幸せに過ごしているかということの方が気がかりだった。
残る時間がわずかなら、せめて人として少女としての真琴の幸せを叶えてやりたい。
____シリウス_____全天で一番の輝きを持つ一等星。
その光はいつも青白い冷たさを放っている。
何かを求めるような、せつなさのある青い光。
だれかの側にいつもいたい、人のぬくもりに触れたい、そんな切望さを感じさせる星。
その光は青白い炎ですべてを焼き焦がすかのような、そんな熱い情熱を感じる星。
真琴のかつての姿、子狐であったころの、その狐の心情はシリウスの情熱のようだった。
人のぬくもりを求め、俺に愛されたい、それだけのために自分の全てを賭けた真琴の情熱。
記憶を取り戻さなくてもいい、ただ、俺の側にいろ。
青白い炎がすべてを焼き尽くすまで、俺に想いをぶつけてくれ。
それが、残りの寿命が短いことを知った時の、俺の気持ちだった。
「ゆういちとケッコンしたい」
そう言った真琴に俺が最後にした事、それは真琴を花嫁にして俺の胸の中で抱いてあげることだった。
本当に結婚することはできない、それは分かっている。
だが、お前は俺の心の花嫁だ、
そんな俺の想いを込めた白いウェールをかぶる真琴を、俺は花嫁にした。
ものみの丘で結ばれた俺たちの気持ち……さあ、真琴、ずっと俺と一緒にいよう。
それは……
俺の汚れなき本当の気持ち。
お前の求めた俺のぬくもり。
やがて、真琴はものみの丘に消えた……奇跡のかけらを残して。
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夢……
夢を見ていた……
ただひたすらに俺の心を求めた少女。
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"そう、あれは夢だった"と思いたいな……今は。
現実に戻ると、俺の側に相変わらず天の邪鬼ぶりを発揮する女性の姿があった。
再び沢渡真琴の姿をして俺の前に現れた妖狐、いや、今度は"本当の人間"か。
……今後、こいつとどうつき合っていけってんだ?
「祐一ちゃん! あたしと遊んでくれない?」
「あのな〜、マコピー。
いい加減、祐一ちゃんってのはやめろよな。
それに俺は忙しいんだ、一人で遊んでろ」
昔の真琴のように、やたらと俺に構いたがる。
だが……
「ひっどーい!
これでも、祐一ちゃんよりは年上なんだからね。
ちゃんと"お姉さん"と呼びなさい。
それに、お姉ちゃんの言うことが聞けないの?」
「だいたいな〜、マコピーは本当に俺よりも年上か?
俺にはとてもそう見えないぞ?」
「年上に決まっているでしょ。
こう見えても貴方より3才年上で、一応大学生なんだから。
それとも何、私が子供っぽいとでも言いたいの?
ふふふ、いい度胸ね〜」
……そう言う真琴は拳を固く握りしめて、右脇に構えている。
こう見えて、すばしっこくパンチの威力もある、怖い女でだった。
「あぅー」
「何、その口癖?
大体ね、しょんぼりしたって祐一ちゃんには似合わないわよ。
ほら、とっとと着替えて、外に行く!
それに今日は祐一ちゃんのおごりだからね、財布もちゃんと持ってくるのよ」
(とてもかなわん)
俺は降参した。
「わかったよ、真琴姉さん」
「ふふ、よろしい」
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奇跡というのは悪戯好きなのだろうか
俺の幼いころ憧れた女性である本物の沢渡真琴が交通事故で死線をさまよった時に、その身の魂と同化し、なんと生き返った沢渡真琴その人となった。
その結果……
俺は二度までも、同じ光景に出会ったのだ。
「……あなただけは許さないから」
そう言って俺の目の前に現れた人影、それが生まれ変わった沢渡真琴だった。
俺達と一緒だった真琴側の記憶はほとんど失われたが、俺や水瀬家のことだけは本能的に覚えていたらしい。
だが、俺とのぬくもりを求めるための、あいつの悪戯ぶりは"前の"沢渡真琴となんら変わらない。
(だいたい、秋子さんがあっさり"了承"するからいけないんだ〜。
いくら真琴姉の身よりが誰もいなかったからといってでもな〜、誰でも引き受けるなってーの。
しかも、今度は俺の姉さんになるなんて)
俺はコートを羽織り、財布があるのを確認してから、真琴姉さんと外に出た。
一緒にでかけた先の商店街のなじみの店で、俺はどうでもいい疑問を頭にうかべた。
(なぜか、真琴姉も肉まんが大好物なんだよな。
はたして、昔の真琴もこんな嗜好までコピーしてたんだろうか?)
言葉ではけんかばかりだが、真琴は俺の幼い頃に憧れた女性の姿をしていて、誘われるのは本当のところ悪い気はしないのだ。
それに、今でも真琴は夜には俺のベッドに甘えに来るのだ。
姉さんになっても、こんな甘えん坊の部分は以前と変わってなかった。
(つづく)
祐一:「真琴、お前、作者を肉まんで買収したろ?」
真琴姉:「祐一ちゃん、姉さんとお呼びと言ったでしょう。
それに買収なんてしてないわよ。
作者がパチンコで勝てるようにものみの丘で祈っただけよ」
作者:「いや〜、その節はどうも。おかげさまで大勝利です」(大笑)
G美汐:「作者さん、運ばかりに頼ると、そのうち負けますよ?
私達がいつも味方するとは限りませんからね」
作者:「へへ〜、美汐様、真琴姉様、今後もどうかSILVIAをごひいきに」
真琴姉:「そうね〜、作品で誠意をみせてくれるなら考えておいてあげるわ」
G美汐:「私達をないがしろにしたらどうなるか、作者さん、お分かりですよね?」
※注:G美汐とはギャンブラー美汐です。
真琴姉は、この話の中に登場する真琴姉さんです。
秋子:「まったくもう、作者さんも困ったものですね。
普段の仕事とSS執筆にさしつかえなければいいんですが」
作者:「一応、やることはやってますので、ご勘弁を。
では、そろそろ、まじめなお話にもどりましょうか」
秋子:「了承。
では、シリウスについて説明しましょう。
シリウスは大いぬ座の星で、全天で一番の輝きをもつ一等星です。
1月から2月の夜9時ごろなら、東の空に青白く輝いています。
空を眺めれば、たいてい見ることができるでしょう。
そのためか、あだ名や例え、神話が多い星でもあります。
シリウスの語源はギリシャ語のセイリオスで"焼き焦がすもの"という意味です。
ギリシア神話だと
・一番足の速かった猟犬レプラス
・オリオンが連れていた犬
・イカリオスの忠犬メーラ
英語でシリウスのことをドッグ・スター(犬の星)と言います。
それにちなんだドッグ・デイズ(犬の日)は土用、暑中のことをしめし、
夏の炎暑と疫病をもたらすと言われています。
シリウスは冬の星座ですが、夏至のころシリウスと太陽が一緒に上がるため、 こういう例えがうまれたのでしょうが、あまりいい意味ではないですね。
中国では、この青白く輝く星を狼の目にたとえて天狼星と呼ばれます。
古代エジプトでは、シリウスは自然神アヌビスに例えられてました。
アヌビス神という山犬の姿をした死者の守護神があるのですが、
シリウスをアヌビス神をさすものとして崇拝されていたと言われてます。
また、当時、ナイルの人々はこのシリウスを使って雨季の時期を調べ、
川の氾濫を予期したと言われてます」
作者:「私はシリウスの光を見ると、クールでながらも静かに燃える男の情熱みたい
なものを感じるんですよね。
冬の夜道の帰り道、寂しいな〜とおもう時シリウスを見たくなります」