祐一の愛した星少女
(Kanon:) |
第4話 『さそり座の少女』〜美坂香里編〜
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written by シルビア
2003.10 (Edited 2004.3)
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祐一と香里は二人とも香里の部屋にいた。
今日は栞に邪魔されずに二人っきりである。
二人とも金欠状態なので、外でデートするには難があったが、会えればどこだっていい、
そんな二人の関係でもあった。
一応、口実は受験勉強なのだが……
「祐一君、ドア開けてくれない?」
こんな風に俺の呼び名も祐一君と変わった。
「分かった」
俺は部屋のドアを開けた。
香里は長めのトレイに紅茶とケーキを乗せて部屋に戻ってきた。
「ありがと。おやつにでもしましょ、持ってきたわ」
「おお、サンキュー、気が利くな」
「ふふ。でも、あーんはしないからね」
「香里って意地悪だな〜、せっかく二人っきりだというのに」
「駄目よ。受験生なのよ。少しは抑えないと」
そう言う香里の視線が祐一の読んでいた本のタイトルに落ちた。
(恋愛占い?)
「祐一君が占い本を見るとは思わなかったわ」
「栞の影響だろうな。
どれ、香里の誕生日は3月1日だったな、魚座か。
『魚座の人は12星座きってのロマンチストです.繊細で感受性が強く,芸術的,宗教的な 分野で類まれなる才能を発揮しそうです.自分の信念のためには我が身を 犠牲にすることをなんとも思わない.ただ,他人に左右されがちで 主体性に欠けるのが難点です.魚座はいくつになっても夢見る少年少女の 趣をただよわせる星座ですね. 』
うーん、何か合うような合わないようなって感じだな。
しかし、香里が夢見る少女とは……ぷぷぷ……栞みたい」
「あら、私が繊細で感受性が強いというのは似合わないとでも?
名雪だって、ちゃんと分かってくれてるわよ」
「ははは(汗)。
そんな一面があるとは最近気がついたかも……
いや何て言うか、もっとぴったりなのを見つけてな。ほら、蠍座だ。
『さそり座の性格(女性/不動/水):秋
ポーカーフェイスの激情家である。
感情の起伏を表に出すことはめったにないが、心の中では情念が絶えずフツフツと
たぎっている。
また、忍耐強いことにおいては12星座ダントツ。
しかし、いったんその限界を超えるとすさまじい反撃に打って出る。
ミステリアスでセクシーな魅力を持つが、ジェラシーの念も強い』
俺が最初に香里と出会った時は、まさにこんな感じだったぞ」
クール・ビューティー、すなわち冷静で美しくポーカーフェースの似合う女。
誰しも、彼女にはそういう印象を抱くだろうな。
今でも、そんな名残を彼女の面影に感じるのだから。
「どうして、そこばかり強調するのかしら。
もう少し先の方も読みなさいよ。
『蠍座はかに座・うお座と共に、器に応じてその姿を変える水の属性の星座と言われてます。
順応性に富み、感受性が強く、豊かな発想力に恵まれますが、現実味に欠けるところもあります』
だいたい、蠍座も魚座も似たもんじゃないの。
それに、私だって、繊細な心と感受性を持った恋する乙女なのよ。
祐一君が鈍感なだけよ」
現実味に欠ける……
「私には妹は居ないわ」
確かに普通、香里の置かれた状況で妹を拒絶することを選択するのは、有る意味、現実的で無かったように思うな。
それだけ繊細だったということなのかな。
「蠍座のモチーフの大さそりだって、悪者というわけでもないぞ。
大さそりは実はとても心の優しい寂しい生き物だったという説が主流だしな。
ほら、次のページの蠍座にまつわる神話を読んでごらん」
<アルテミスとオリオンの物語>
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海の神ポセイドンの息子として生まれたオリオンは、曙の女神エオスが恋するほどの美少年でした。
(生涯恋多き青年でもあったのですが、とりわけアルテミスとの物語が有名ですね)
月と狩りの女神アルテミス、永遠の処女神ともいわれる程恋の関心のなかったかの女神が、とうとうオリオンという若者に恋をしてしまいました。
アルテミスは自分が狩りの女神であるにもかかわらず、他の狩人のことなど忘れてオリオンの狩りだけを守るようになってしまいました。
またオリオンもアルテミスが与えた神力とは考えず、自分は生まれつき天才狩人だと思い込み、次第に傲慢な方言を吐くようになっていったのです。
「この世に俺ほどの名人はいない!俺ほどの強い男はいない!地上のあらゆる獣を射止めてみせる!俺は全能なのさ!」
アポロンは双子の妹アルテミスをとても仲のいい兄妹でした。
大切な妹をこの傲慢な男が誘惑したことさえ許せなかったのでした。
アポロンは手下である大さそりに、オリオンを毒針で暗殺するよう命じました。
大さそりの皮は鉄より固く、アルテミスの授ける神力もなしにオリオンが射抜けるものでもありません。オリオンの射る矢では、まったく歯がたちません。
必殺必中の毒針を持った神の使いである大さそりが、オリオンを刺し殺すことくらい簡単でしたが、岩陰からオリオンを見守る女神アルテミスを見て、殺せなくなったのでした。大さそりもまたその姿と毒殺のイメージと裏腹に、本当は寂しい生き物だったのでしょう、女神アルテミスの悲しみ嘆く姿を見たくなかったのでした。
しかし、アルテミスはオリオンの背後からそっと矢を射り、オリオンを助けました。
その矢は大さそりを刺し抜きましたが、慈愛に富むアルテミスもまた、大さそりを殺したりはしませんでした。
神の命令は絶対であり失敗しても許されるわけではありません。大さそりはそれからもオリオンを探しては戦いを挑みますが、オリオン殺せないということを繰り返しました。
それでもなお、アポロンは2人の恋を許しませんでした。
ある日、オリオンが頭だけ出して海の中を歩いているところを見つけたアポロンは、ある謀略を図りました。
オリオンに金色の光を浴びせ、
「いくらお前が弓の達人だと言っても、あの光っている物を射ち当てることは出来ないだろう!みごと射ち当てる事が出来たなら、お前の腕前は本当に素晴らしいものだ!」
とアルテミスに言いました。
女神アルテミスは金色のそれが恋慕うオリオンであると知らず
「私は狩の名人なのよ!まぁ、見ててごらんなさい!」
と言うなり弓に矢を引きその光る物に向かって矢を射ったのでした。
名手アルテミスの腕前です、矢はものの見事に、その光るものの真中に命中しました。
ところが、それが浜に打ち上げられてみると、なんとそれは自分の愛するオリオンでした。
「オリオ〜ン……貴方だったの?どうして、こんな事に……。
ごめんなさい。お願いだから息をして!
ねぇオリオン……。オリオン……」
アルテミスは深く悲しみに沈み、なんとかオリオンを生き返らせてくれるよう手をつくしましたが、冥界の王ハデスに阻まれ結局叶いません。
アルテミスは、今度は大神ゼウスに深々と頼み込んでオリオンを星空にあげてもらい、自分が銀の車で空を走って行く時、いつも愛するオリオンに会えるようにしてもらったのでした。
冬の夜に大きな月がオリオン座の頭上高く通り過ぎていくのは、アルテミスがオリオンに会いに行っているからだと言われてます。
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「なんかこう、大さそりって執念深くオリオンを追い回しているみたいね」
「だから、夜空の姿ではオリオン座は蠍座を苦手として逃げるような格好をしていると言われているね。
大さそりのこういうところから"執念深い"と言われているし、嫉妬深い女神アルテミスの性格もあいまって、蠍座の女は執念深く嫉妬深いというイメージがあると言われている。
ま、確かに香里も嫉妬深い方には違いない」
「酷いわね。でも、それは……認めてるわよ。
私だってね、本当は嫉妬深い女なんて思われるのは心外よ。
だいたい、あなたがオリオンみたいに恋多き男でなまじっかもてるからいけないのよ。
それに、私、女神アルテミスのように、恋をほとんどしたことないのよ。
大人の女性のように、機転を利かせるなんて、まだ無理よ」
まあ、俺の周りには相変わらず女の子が多いというのは確かなのだが、
まあ、 \(^_\)それは(/_^)/こっちにおいといて、
そういう香里の性格も容姿もまんざらでもなかったんだよな。
知的美女というなら、倉田佐祐理さんと並んで学校で一番になれるだろうな。
容姿だって、なんというか端正な顔立ちにきりっとした目とちょっと小さめのかわいい唇、胸ボイン・ほそくしなやかな腰・きゅっとしまった尻のどれをとっても、その魅力に瞬殺されそうな程だった。
これでも、本人いわく、秋子さんには叶わないんだそうだが、それは贅沢というものだろうな。
「あら、"瞬殺"だなんて、嬉しいこと言ってくれるわね。祐一君」
「まずい……口に出てたか?」
「ええ、はっきりと。
じゃ、ご希望通り、祐一君を"瞬殺"してあげようかしら」
「う……でも、お願いしたいかも……」
「ふふ♪」
その瞬間から、俺は香里の魅力を前にして、いつものように視線をそらすことすら出来なくなってしまうのだった。
(果たしてこれが恋を知らない女と言えるのだろうか?)
それは、香里が俺の胸の中で泣いた時から、今の今まで変わることがなかった。
事実、俺はあの香里の泣き顔に落とされて、今、こうして二人でいるわけだしな。
ましてや、今この瞬間は恋人同士の間柄、香里の恋心を止めるブレーキはもはやない。
(そう言えば別の本に書いてあったな……)
蠍座の女の魔力に囚われし逃げようとしても鋭いまでに心を見透かされ、男は永遠に逃げられず、執拗なまでの恋心の前に恐れすら抱くと。
男が浮気でもしようものなら、それこそ恐怖のお仕置きをされても不思議でないと。
(一体、俺はこの先どうなるのだろう)
もし男が一途にその女とつき合うなら、女はその魅力の余すところなく尽くしてくれると言うが、俺の当時の現状を考えるとそれはかなり無謀な考えだった。
俺はこの時、そばにいる香里の魅力にすっかりぞっこんだった。
香里もまた、俺の気持ちを得たいがためか、その魅力を余すところなく、全開で俺を誘惑するのだった。
結局、俺は香里の魅力に降参し、一途に香里を愛する以外の選択しか与えられなかった。
香里:「SILVIAさんはどうして私のことをまともに描いてくれないのかしら。
怖いだの嫉妬深いだのって、私だって乙女よ。
私から誘惑するような、そんなつき合い方ってありなの?」(泣)
作者:「あわわ……何て言うかその……」
秋子:「作者さん、自業自得ね。
でも、香里さん、あんまり悲観的にならないで下さいね。
作者の表現力不足のため、あたかも誘惑ばかりする女性に見えてしまいますが、
蠍座の一途な愛というのも見方を変えると素晴らしいのですよ。
女神アルテミスが月の女神と讃えられるように、男性にしても、蠍座女性を
一途に愛するなら、その慈愛で尽くされる事間違いなしです。
つまるに、男性の心次第なのです」
作者:「ふう、なかなか手厳しいですね、秋子さん。確かにその通りだと思います。
香里の場合、相手の男性次第で魅力の出方も変わるんでしょう。
だけど、男の気持ちからすれば、蠍座女は育て甲斐のある女性ともいえますね。
愛してさえいれば、その愛ゆえにいくらでも魅力を増していくという部分も
蠍座のイメージを持つ女性の特徴ですから。
それに、洞察力と機転の良さで、つき合う男性を立派に育てるといういい面も
あるんですよね。
これについていくだけの男になるのもまた一苦労ですけどね」