祐一の愛した星少女
(Kanon:)
 第3話 『アンドロメダの少女』〜美坂栞編〜 
written by シルビア  2003.10 (Edited 2004.3)




俺と栞、それに香里の3人は栞の部屋でくつろいでいた。
こんな光景も俺と栞がつき合うようになってからは、しばしば有った。
いつも外でばかりデートしていては、お金が辛かったという事情もあったが。

「祐一さん、この恋愛小説、とても良いですよ」
栞はそう言うと、いつものように俺に恋愛小説を手渡した。

「またか〜? 栞も懲りないな」
もう何冊読んだのか分からない。
さすがに、ラブものばかりこうも読まされてはさすがの俺もたまらなかった。

「えぅー、そんな顔する祐一さん嫌いです!
 "ドラマのような恋愛をしたい"という私の願いを聞いてくれないんですか?」
「それは……叶えてやりたいと思うが……。
 だがな、ハーレクイーン・ロマンスばかり見ていてドラマのような恋ができるのか?」
「えぅー、それはその……えへっ♪読んでくれればいいんです」

「ごまかすな、栞。
 えへっ♪とお願いしても駄目なものは駄目!
 大体な〜、こういう小説とかってのは、原典というか名作というか、模範とする作品というものがあってだな〜。
 例えばRPGにおける指輪物語とか、ギリシア神話なり北欧神話とか民話とか、そういう話の中に描かれた人間模様というものを学んだ作者が書いていることが多いんだ。
 基本的な作品を知らずに枝葉のような作品を見るのは、発想が単純というものだぞ?」

「えぅー、祐一さんがまともな事言ってます〜!」

「栞! お前もたまには名作に触れて感性を磨け!
 だから、いつまでたってもデッサンが小学生だと言われるんだぞ」
「ゆ・う・い・ち・さん! デッサンが小学生ですって〜」(怒)
「いや、その、モノの例えというヤツでだな、……いや、口が滑ったというか……」
「いいえ、許しません!
 では、祐一さんが言うような、ドラマみたいな名作とやらを一つ語っていただきましょうか!
 もちろん、私が納得しなければ、アイス10個おごりの刑に処しますからね」

俺はかなり悩んだ。
さすがにアイス10個も奢らされては、俺の懐はパンクする。
いざ話せと言われてもなかなか浮かばない……(そうだ!あの話なら)

「うぅー……分かったよ。じゃ、ギリシア神話からアンドロメダ姫の話をしよう」
そして、俺は語り始めた。

(まったく、こいつときたら……)
俺の口から恋愛モノの話がでるのが珍しいのか……栞の表情はわくわくしていた。

***********************************
 海に面した豊かな国、エチオピアでの出来事。
 国王ケフェウスには美しい妻カシオペアと娘アンドロメダがいました。
 娘のアンドロメダはとても美しく、王妃カシオペアはたいそう娘を気に入ってました。
 王妃はどこの娘よりも私の娘は美しい、といつも娘の美しさを自慢ばかりしてました。
これに腹を立てたのが、海の神ポセイドンでした。
 ポセイドンは海のネレイス(=人魚)をひいきにしていたため、カシオペアの自慢話を許せず、海の怪物を送ってエチオペアの沿岸を荒らしました。

 弱った国王は神殿で神に祈りをささげ、
「アンドロメダを怪物の生贄に差し出さないと、ポセイドンの怒りは鎮まらないでしょう」という神託を授かりました。
 王は迷ったあげく、娘のアンドロメダを人質として差し出しました。
***********************************

「えぅー、アンドロメダさん、可愛そうです。本人に罪はないのに……」
「まあ、この国王と王妃には少し呆れるが、続きといこう」

***********************************

 人質となったアンドロメダは海辺の大岩に手足を鎖がれました。
やがては海の怪物に襲われ自らの命が絶たれる恐怖感と、自らのはかない運命を思い悲しみにくれました。
 やがて、辺りを飛び回る海鳥の悲しい叫びがアンドロメダにも聞こえました。
 そして、荒れ狂う海の中から怪物が現れ、今にも姫に襲いかかろうとしてました。
 アンドロメダはいよいよ最後の時が来たと悟り、目を閉じました。

 ところが、その時、遠くで馬の声が聞こえたようで、姫は恐る恐る目を開きました。
 一人の男が 天を駆ける馬にまたがり、自分の目の前の海上に降り立ってました。
男は、抱えていた布袋から取り出したメデューサの首を怪物に向けました。
すると、怪物は一瞬にしてその姿が石になってしまいました。
 ペルセウス王子と名乗るその男は、姫を拘束する手足の鎖を断ち切り、姫を救いました。

この出来事にポセイドンを驚かせました。
しかし、さすがのポセイドンも、姫を救ったペルセウスの勇敢さと、そして、ペルセウスをお気に入りの神の願いもあって、その怒りを静めることとしました。
 こうしてエチオペアも真に救われることとなりました。
ペルセウスはアンドロメダ姫に求愛し、二人は結ばれ幸せに暮らしました。

***********************************

「うーん、おきまりのお約束といった恋愛話ですね」
「こうして話してみると、少女趣味の"白馬に乗った王子様"ともちょっと似ている。
 今回の部分だけでなく、アテネとかメデゥーサの話なんかも知っていると背景が分かって面白みも増すが、それは別の機会に話してあげよう。
 ただな、こういう話は、DQのような竜退治モノのRPGのシナリオとかによく似たモノがあるだろ?」
「そうですね。
 "白馬に乗った王子様"なんて、少女趣味の恋愛の典型ですから」
「これでアイスはチャラだぞ?」
「祐一さんが恋愛話をしてくれたということで、特別に許してあげます。
 でも、明日もお話してくれないとダメです」
「お前な〜!」

「ペルセウスの物語のアンドロメダ姫の部分ね〜」(にやり)
横で静かに読書と書き物をしていた香里が突然口を開いた。

「お姉ちゃん、知ってるの?」
「当然よ。
 演劇部の部長ともあろう者が古典のギリシア神話を読んだことないなんてこと、あると思う?」
「ホラ見ろ、栞。俺の言ったとおりじゃないか。
 恋愛ドラマや恋愛小説ばかり見てるから、感性が乏しくなるんだぞ?」
「えぅー、反省します」

「でも、相沢君。妹の感性が乏しいなんて、よく本気で言えたわね〜〜〜。
 ちょっと見逃せないわよ。
 そうね〜……決まり。
 今ね、次の文化祭の演劇の脚本書いていたの。
 その神話を題材にして、今度の文化祭、演劇部の公演で演じてもらいましょう。
 相沢君と栞には、ペルセウス王子とアンドロメダ姫をそれぞれ演じて貰うわね。
 妹は相沢君とドラマを演じたいだろうから聞くまでもなくOKよね。
 加えて、感性の豊かな相沢君ならもちろんOKでしょ〜。
 相沢君が主役なら、立見を含めて満席間違いなし。
 なんていいアイディア-----------あ〜私っていい部長だわ♪」
「香里……」
「お姉ちゃん……」
「ま、この話は余談として……相沢君、この話をする時に栞をアンドロメダ姫に
 例えたでしょう?
病弱だった栞を運命に囚われた姫に置き換えて、妙に感情を込めて話してたわね?」
「さすが香里、見抜いていたか。
 今でならこんな話もできるかな〜と思ってな」
「そうね。だから、相沢君のペルセウス王子と栞のアンドロメダ姫のキャストを思いついたのよ」
「お姉ちゃん、ひょっとしてそこまで計算済み?」
「はいはい、実体験の感情を込めて演技すればいいんでしょ?
 だから俺は栞を助けにいくと」
「相沢君、よく分かってるじゃない。それに舞台衣装も似合いそうよ」

「その代わり、王妃は香里が演じろよ?
 普段から妹を自慢しているから、王妃にはぴったりだろ?」
「……・この王妃ってシンデレラを虐める役のような口の悪い意地悪な役柄よ」
「それって名案です♪」
「し・お・り! 今晩の夕食はカレーに決まりね」
「えぅー、お姉ちゃん〜〜〜〜」

俺は二人の会話を聞いて腹を抱えて笑っていた。

そして、心の底では……
死の運命から奇跡的に回復した栞の元気な表情と、今の姉妹の仲の良さを眺めるにつれ、
(俺はペルセウスになれたのかな?)なんて思っていた。
それにしても、あんなに妹を拒絶して苦しんでいた香里も、今では、シスコンとまで言われる程の変貌ぶりを見せてすっかり妹にぞっこんなんだから、世の中何が起こるかわからないよな。

(幸せになったアンドロメダ姫の笑顔はきっと今の栞の笑顔と同じかもしれないな。
 なら……)

「ははは〜。ま、俺も劇のペルセウス役を頑張って演じるとしますかな。
 栞がアンドロメダ姫の姿で、お約束で俺にキスしてくれるだろうし」

側にいた栞の顔はとたんに真っ赤になった。
香里はそれをそばで見ては、くすくすと笑っている。

 

 

(つづく)

後書き

栞:「私をお姫様にたとえてくれました。嬉しいです♪」
香里:「大体ね〜、あれだけのアイスを我が儘で買ってもらって、お姫様でなければ
一体何にたとえるのよ」
祐一:「確かにな。普通、寒い空の下でアイスは食べないぞ」
栞:「えぅー、そんな事いう人嫌いです!
 それに……美味しいのに、何でいやがるんでしょうね、不思議です」
祐一・香里「「それは栞だけ(だ)(よ)」」

秋子:「ふふ、賑やかでいいわね。
ところで作者さん、書き方変えてません?
今回の話はすっかりコメディーになってしまたかもしれませんよ。
私は解説が減るので楽しましたけど」
作者:「ははは、まあいいではないですか。
では、秋子さん、秋の夜空のお話でもしてください」
秋子:「了承。

秋の夜空にはこれといった明るい星はあまりありませんが、
真上を見上げると、大きな四角形をみつけることができるでしょう。
春、夏、冬には季節の三角形と呼ばれるものがありますが、秋は四角形です。

秋の夜空の中央では、アンドロメダ・ペガサスの2つの星座が主役です。
秋の四角形はペガサス座の一部で、この4つの星がペガサス胴体の部分にあたります。
ペガサスは羽の生えた白い馬で、ペルセウスに倒されたメデゥーサの胴体部分から生まれた、天空を自由に掛け回る存在です。
アテネ・メデゥーサ・ペルセウスにまつわる話もなかなか面白いですよ。

ペルセウスと関連の深いペガサスの物語もなかなかいいものなので、
ご紹介までにURLを。
http://www.chukai.ne.jp/~choco/girisha/pega/pega.htm

生け贄となったアンドロメダについては、ネット上で綺麗なイラストが
ありました。
ご紹介までにURLを。
http://www.chukai.ne.jp/~choco/girisha/andoromeda/andoromeda.htm
 」


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