祐一の愛した星少女
(Kanon:) |
第2話『アクエリアスの少女』〜水瀬名雪編〜
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written by シルビア
2003.10 (Edited 2004.3)
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相変わらずのんびり屋でのほほん・ほんわか少女、俺は名雪を見るといつもそう思う。
だが、俺は名雪の側にいながら、一番名雪のことを知らなかったのかもしれない。
だが、時々不思議だな〜という気持ちがある。
なぜ、いつも、俺の側に名雪がいたのだろうか?
なぜ、いつも、名雪の側に俺がいたのだろうか?
そして俺は何故、この娘に恋をしたのだろうか?
名雪は、人の幸せを願ってこそ、笑顔でいられたのだ。
たとえ、家族でも友人でも恋人でも。
きっと、そんなアクエリアス(水瓶座)の少女に俺は恋したのかもしれない。
---------名雪は容姿だけみれば美少女なのだが、どうもつかみどころがない。
「……雪、つもってるよ」
「そりゃ2時間も待ってるからな……(一体、誰のせいだ?)」
「……あれ? 今、何時?」
「3時(で、約束は何時だったけか?)」
「わ……びっくり。まだ2時くらいだと思ってたよ。
……ひとつだけ訊いていい?」
「……ああ。(こら、それでも遅刻だぞ)」
「寒くない?」
「寒い。(とてつもなくな。お前のせいだろうが!)」
「これ、あげる。遅れたお詫びだよ。
それと……再会のお祝い」
「7年ぶりの再会が、缶コーヒー1本か?(あげくに買収か?)」
後にわかった事だが、俺が頼んだことはちゃっかり覚えている名雪の性格からして、
あれは絶対わざとだ……と確信したのだ。
案外あなどれない奴なのかもしれない。なにせ秋子さんの娘でもあるし。
---------7年ぶりの再会とはいえ、どうも俺にはこいつの性格が理解できん。
親戚の少ない家計に生まれてきたことを恨みながら、時計の針の音さえ聞こえてくる成熟の中がゆっくりと時間が流れていった……とはいかないんだよな、名雪といると。
『朝〜、朝だよ〜。朝ごはん食べて学校行くよ〜』の目覚ましが鳴る。
いきなりの朝からの女の子の声に驚きながら、普段の俺の一日は始まった。
これでも、名雪の部屋から聞こえる目覚ましのオーケストラに比べればましだった。
「涙をのんでイチゴジャムを諦めたんだから、これで遅刻したら損だもん」
「目ざまし時計、増やそうかな……」
普通、そんなことを言う少女はいないだろう?
あげくに俺は香里には突っ込まれる始末。
「名雪のおかげでクラスになじんでるんだから、もっと感謝しないと」
何故だ?
「ねこ〜、ねこ〜」
「(まずい)」
あんなにネコグッズに囲まれて、なおネコ〜か。
自分はその様で、俺がちょっと意地悪しようものなら、
「祐一だけ、今日の晩ご飯は紅ショウガ。お茶碗山盛りの紅ショウガに紅ショウガをかけて食べるの」
と言ってくる。
お前に食べさせるぞと思っても、俺は料理ができない甲斐性なし、それが悲しかった。
俺は名雪の「極悪だよ〜」「意地悪」「……うそつき」を何度聞いたか分からない。
だが、名雪をのあののほほんぶりを前にして、つい、からかいたくなったものだ。
---------どうして俺はこんな名雪を好きになったんだ?
「なあ、香里、
香里はなぜ名雪と親友になったんだ?」
あまりに似ていない凸凹の親友同士を側で見ていた俺は、香里に聞いたことがある。
「あの子が本当の私を理解してくれたからかな。
あの娘は人の気持ちを鋭く見抜くのよ、それで私の本当の気持ちをいつも理解してくれる。だから、私も自然体でいられるのよ」
「なるほどな」
「でも、あの娘って、ああ見えても、感受性が豊かで繊細な所もあるのよ。
言葉や態度に反して、ちょっと内気だから恋愛は苦手そうだけどね」
「え、嘘だろ?」
「本当よ。
好きな人が傷つきそうになると、どんな激情でも心に秘めてしまって口にも出さない。
恋愛では、自分の事よりも相手の事ばかり考えてしまう。
だから、名雪は恋愛では内気なタイプだと思うのよ。
それに、あの娘の笑顔は、その自分の気弱さの裏返しにも思えるわ」
そういえば、あいつ、時々真剣な顔で何かを口にすることがあるよな〜。
「祐一に思い出してもらいたいって願っている人がひとりでもいるのなら、
思い出した方がいいと思うよ」
「ひとりは寂しいよ」
「祐一は約束を破ったりしないもん。……遅れることはあってもね」
俺には余計なお世話だと軽くながしていたが、これは彼女なりの愛情表現だったのだろうな。そこには俺に対する信頼も感じられる。
北の街にきた時も、俺は名雪の事を単なるいとこ以上の存在とは思っていなかった。
それは7年前の少年であった頃に、名雪と遊んでいた時もそうだった。
俺は今の今まで本当の彼女の姿を知ることも理解することもなかったのだ。
それどころか、7年前の名雪の告白に、俺は応えるどころか、どう考えても名雪を傷つけることしかしなかったのだ。
そんな俺にでも、俺の気持ちを察してか、名雪はいつもきつく当たらない。
「私もう、笑えないよ……」
俺が本当の名雪を一番感じとったのは、この名雪の言葉だった。
俺は生きてきて、この時ほど自分の愚かさと鈍感さと無力さを感じたことはなかった。
俺は名雪の側にいながら、一番名雪のことを知らなかったのかもしれない。
彼女が明るく笑う、のほんんとしたり、ほんわかしたり、そういった気持ちで過ごしていられるのは、彼女がいつも幸せを願う相手がいたからだ。
そして、常に現実の中にあって、幸せを願う相手のことをいつも見つめている少女、それが名雪なのだと。
『名雪が笑ってくれるなら、俺はずっと名雪を側で見守って生きていきたい。
名雪が求めたものが俺の幸福なら、俺も名雪の笑顔でいることを願って生きよう。
もう、どこにも行かない。
俺は名雪と一緒に生きていく』
俺はやっと使い慣れた目ざめし時計に、自分の率直な気持ちを録音して、名雪に返した。
俺は駅前のベンチで、7年前の自分の後悔 (もう、遅かったのかな。
え〜い、こうなったら朝までだって明後日までだって待ってやるぞ。
名雪、さっさと来い。もし来たら……)
「風邪ひくよ」
「名雪?」
「祐一はずっと私と一緒にいてくれるの? 約束してくれる?」
「ああ」
名雪の青い髪には雪がほんのり積もっていた、その表情に蘇った名雪の笑顔があった。
そうして、名雪と交わした口づけはほんのり涙の味がした。
今は淡い関係だけど、次第に二人の距離も変化するだろう。
いとこ同士だからとか恋人同士だからとか、俺たちにはそういうことを意識する必要はないのかもしれない。
何ていうか、自然と気持ちが交わされていくようだから-----名雪と一緒なら。
そして時は流れた……
(目覚まし時計に吹き込んだ俺のメッセージ、早く消してくれ〜)
そういう俺の願いが、今となりにいる少女に伝わっているかはわからない。
「あのね〜、祐一。祐一はどうして私とつき合う気になったの?」
俺が楽しそうに夜空を眺めていると、そんな気分を察したか名雪が口を開いた。
「名雪がアクエリアスのような少女だからさ」
俺は、あたかもそれが当然のような口調で返事をした。
「アクエリアス?」
「名雪って水瓶座のイメージそのものなんだ。
ああ、名雪のそばにいると、俺らしい俺でいられるから」
「どうして???」
「背伸びして格好をつけなくてもいいからさ。
名雪は俺の言葉や態度からいつも察してくれる。
おかげで嘘もつけやしない」
「そうなんだ〜、ふふ、嬉しいよ〜。
でも、そのわりに祐一はいつも私をからかってばかりだよ」
「たまには名雪よりも優位に立っていたいからな」
「祐一、本当は私に甘えたいんじゃない?
じゃ、いいよ、甘えさせたげる」
(鋭すぎ!)
俺は、本当は名雪の愛に包まれていたかった。
いつからだったかな〜、こうして名雪に甘えるのが心地良いってことを知ったのは。
名雪は膝を抱えた姿勢から、足を横に崩して折り曲げた。
俺の頭は名雪の膝に吸い込まれ、名雪の胸と照れた顔が目の前にあった。
やがて、俺の髪が撫でられ、そして俺の顔が名雪の胸のクッションにそっと覆われた。
「祐一、水に包まれる雰囲気ってこんな感じかな。祐一、気持ちいい?」
「ああ、ふわっとした、いい気持ちだ」
「私はいつだってこうしてあげるよ、祐一の甘えんぼさん♪」
ちらっと見えた名雪の笑顔がとても優しく嬉しそうだった。
案外照れくさいもんだな、俺は照れ隠しにお返ししたい気分になった。
まあ、いいか。
(名雪だって、十分甘えん坊だよ。俺は知ってるぞ……)
名雪に返した目覚ましに録音された俺のメッセージ、お前があのメッセージに込めた俺の気持ちがなくては今のように笑顔を浮かべていないということをな。
(つづく)
秋子:「私の娘をこう例えられると、少し恥ずかしいですね」
作者:「そういわず、秋子さん、水瓶座の解説をお願いしますよ」
秋子:「了承。
でも、名雪を水瓶座に例えたのはなんとなく分かります。
水瓶座は、ペガサス座の南、山羊座の北東の方に位置します。
この星座は水の波、そして、水面をさわがせる風をイメージさせますね。
水瓶の中に入っているのは、神々の英知の源である聖なる水と言われてます。
目に見えないものでも、インスピレーションのように動く聖なる水の波動に
よって神は物事の真実を知ったと言います。
そのため、性格で言うなら、鋭いインスピレーションというのが特徴ですね。
とても優しい性格の持ち主で、自虐的とさえ言われるほど他人の気持ちを
大事にしますが、自分の気持ちをなかなか表に出さない内向な面もあります。
外見的な雰囲気としては、
水瓶座は女性的な星座で、例えるなら、大きめの髪飾りで飾られた
長くて豊かな髪をもち、ブルーとシルバーのグラデーションで彩られた
美しい布のドレスをまとった少女でしょうか。
本編での名雪の性格と外見にはとてもマッチしてるのではないでしょうか。
ネットを探してみましたら、このイメージのままの姿がありました。
なかなか名雪の雰囲気を出してましたね。(「四季彩舘」)
http://www5d.biglobe.ne.jp/~f-doll/page167.html
」
名雪:「うーん……ロマンチックなのが良かったのに〜、作者の意地悪。
でも、変なのに例えられなくてよかったのだお〜」
作者:「水のようにいつもおっとりしていて、寝ぼすけの名雪にはぴったりかな」
秋子:「作者さん、水には激流というように激しくその感情をぶつけるという面も
あるのですよ。
ふふ、名雪を怒らせると、後がどうなるか知りませんよ」
名雪:「お母さん!」
作者:「普段大人しいタイプほど怒らせると怖い、と言うからな。
もっとも、名雪は怒るというよりも拗ねられる方が始末が悪そうだが」
名雪:「作者さん、実は私もオレンジ色のジャムを作れるってこと……知ってる?
作者は極悪なんだお〜、だから、お仕置きするんだよ〜!」