祐一の愛した星少女
(Kanon:)
第1話 『トゥーバーンの少女』〜月宮あゆ編〜
written by シルビア  2003.10 (Edited 2004.3)




永遠だと思った……それが永遠でなくなるまで。




新しい年、正月の時期に、竜座ι流星群が現れる。
俺は年の初めに、流星の好きだった少女を思い出しながら、北の夜空に竜座を探す。
いつものごとく、俺はある星を夜空に探し求めた。
そう_________かつては北極星だったトゥーバーン______________を。
トゥーバーンの光は、俺に初恋の懐かしい少女の面影を呼び覚ます。
竜座の主星トゥーバーン。
そう……5000年前位、古代エジプトの時代、この星が今の北極星の座にあったのだ。
4等星のその光は、輝きすぎることなく、あせることもなく、今も夜空にある。

だが、今年は違った。

今日は一人で夜空を見ていない。
そばには、一人の女性が同じように星空を見ながらたたずんでいる。
俺はその女性の3つの雰囲気を知っている。
幼い少女であった頃、恋する乙女であった頃、そして今の少女の雰囲気である。

------------幼い少女であった頃

10才の頃の俺の恋愛航路の道しるべ、俺の心の北極星……それが月宮あゆだった。

「……うぐぅ、えぐっ」
背中を押されるような感触がしたとおもって振り返ると少女が泣いていた。
「……あ……ゆ」というのが、この少女の名前らしかった。

この少女との出会えたから、俺は恋をする喜びを知ったのかもしれない。
大きなリボンにくくられた愛らしい髪型、女の子らしい可愛い表情、どれをとっても俺の知らなかった世界を彼女が与えてくれた。

一緒にいることが楽しい、ただ、そう思えた。
二人の"学校"と読んでいた秘密の場所は、二人だけの恋の空間だった。

こんな俺が女の子のことだけを思い浮かべ、ただ喜んで欲しい気持ちで、プレゼントを選ぶようになるなんて、ほんの少し前には想像すらできなかった。
だが、俺は少女の頭を飾るであろうカチューシャを選び、自分の想いこめたプレゼントを彼女が纏ってくれることを期待していたのだ。
自分のためだけにあゆが喜んでくれる、ただその顔だけを見たくて。

しかし、そんな淡い恋心も終焉を迎えた。
あゆのためだけに贈るはずだった俺のプレゼント、それは夢となった。
そして、俺の心の北極星---少女の月宮あゆは、白い雪の中に消えていく。

それから7年間、
行く先を見失った難破船かのごとく化した俺の心は、恋を求めなかった。
いや、俺は恋をすることがどういうことかも分からなくなっていた。
俺は約束を叶えるために必要な感情すら、失っていたのだ。

------------恋する乙女であった頃、7年後の再会

どこか幼さを残したような小柄な女の子に突然俺はタックルされた。。
カチューシャを付け、羽のついたリュックを背負う彼女の姿は(天使か?)と思いたくなったものだ。

捜し物をしているという彼女は、捜し物をしていると言うより、いつも俺とデートしているとしか言いようがなかった。
凄くお腹がすいてたんだよ〜とタイヤキの食い逃げ、ホラー映画に怯える恐がりで、料理はからっきしダメ、人の家の朝食にすっかりお邪魔したばかりかあげくにはほとんど水瀬家に住み込み状態と化したちょっぴり変な少女。
彼女の愛嬌というか意地悪というか、俺はいつもあゆのタックルの標的にされ、おかげで"避ける"という技も自然と身に付いてしまった。
俺や秋子さんは、あゆの笑顔の前に、すっかり利用されたのだろうか。

それでも、天使とまではいかなくとも、俺にとっては心惹かれた女の子だったのだろう。
だが、捜し物の人形が見つかった時、俺は彼女との別れなければならなくなった。

やはり、二人の関係は永遠ではなかった。

二人のかつての思い出の品である人形が告げたのは、永遠となれなかったかつての二人の現実だった。
かつて俺があゆを女の子として好きになった証である、そのカチューシャを今まとっているあゆは俺のかつての夢を叶えるために俺の前に姿を現した幻の少女だったのだ。

「ボクの事、忘れてください。
 ボクは最初からいなかったんだって、そう思って下さい」

彼女の3つめの願いだったが、俺にはかなえられそうにない。
俺にできることは……
今のあゆとの思い出を俺は今後忘れないということだけだった。
7年後に再会したあゆは、もはやあの頃の俺の心の北極星ではなかった。

俺との再会を求めた純真なまでのひたむきさ、そんな少女の面影……
俺はその少女を”トゥーバーンの少女”と心に刻んだ。
その少女は姿を消して俺の元を去り、トゥーバーンの少女は今でも北極星を傍らで包むように夜空に輝いている。

------------そして今の少女

トゥーバーンの少女を忘れたわけではない、いまでも俺の心にある。
だが、俺は新しく恋をすることを選択した。

「よう、変質者」

駅前のなじみのあるベンチで、短く切りすぎた髪を恥ずかしがり頭の帽子を直しながらもじもじする少女をみるとなんとも懐かしさがこみ上げてくる。

(きっと、あゆの雰囲気をした女の子は俺の好みなのかもしれないな)

だから、俺はあたかも彼女をナンパするつもりで声をかけた。

(もう一度出会い直すかな……あゆというこの少女と)

声を聞いたあゆの表情に光りが灯る、そしてその時、あゆは再び俺の北極星となった。
そして、俺の恋の軌跡は今現在の北極星(ポーラースター)に向かいはじめた。

______俺の名は相沢祐一、君の名は?______
俺はそう言いたかったぐらいだが、さすがにそれはあゆを混乱させてしまうだろう。
まあ、俺の気持ちだけ切り替えるとするか。

その後の年の初め……俺達は二人だけで"学校"に来た。
ここは俺たち二人の様々な終わりの出来事があった場所だ。
しかし、少年の頃の悲しい記憶も、今側にいる少女の微笑みをうかべた表情を見ると、薄らいで感じる。
そして、今日は再出発の場所になるのかもしれなかった。

二人はここにいる時は多くを語る必要がない。
ここは思い出がある場所なのだから。
だが、思い出にひたるこの瞬間でさえ、新しい思い出が作られていく。

「わ〜流星が綺麗〜。
 あれ、祐一君、今どの星を見てたの?」
短く切りすぎた髪を照れてあいかわらず帽子をかぶったままの少女は、俺の顔をみながら優しくゆったりとした口調で言った。

「昔のあゆに例えた星、トゥーバーン」

今の俺の愛情が目指す行先---北極星は新しい光で夜空のおなじみの場所で輝いている。
そばのトゥーバーンもはかないながらも健気な光を放っている。

「え、ボクの星?」
「そう、俺の初恋を例えた星だよ」
「……・」(ポッ)

俺は奇跡的に回復し、辛いリハビリを終え、元気な笑顔を見せる少女に、そう言った。
少し大人びた顔立ちの少女を見ると、子どもっぽい仕草とのアンマッチぶりとのギャップを感じる。照れた顔と両膝に手を添えて俯く仕草なんかは、本当に子どもみたいだ。

「だがな、あゆもそろそろ"ボク"は卒業しな。秋子さんみたいな女性になりたいんだろ?」
「そうだね……"私"だったね……頑張ってみる」
「言葉使いもな」
「祐一さん、少し意地悪が過ぎませんか? (ふ〜、これでいいのかな?)」
「プッ、あゆのその言葉使いもなかなかそそるんだが、まだあゆには早かったな」
「祐一君のばか〜!
 酷いよ、これでも"私"、一生懸命頑張って考えたんだよ〜!」
「"私"が精一杯だな、今のあゆでは」
俺は頑張ったあゆの頭をやさしく撫でてやった。

 

 

(つづく)

後書き

あゆ:「わ〜、ボクが1番目に書かれたよ〜、作者君、どういう風の吹き回し?」
作者:「そりゃ、本編であゆが祐一が一番最初に恋をした少女だろうからな。
でも、あゆの話は大分苦労したぞ。
ゲームもあゆ編をやり直したぐらいだ」
あゆ:「それは作者君が、ボクの話をあまり書いてくれないからだよ。
きっと、作者君は修行が足りないんだよ」
作者:「タイヤキ食べている姿じゃ色気がないし、
天使ばかりだとファンタジーモノになってしまうし」
あゆ:「作者君、酷いよ。ボクだって主役だよ、十分魅力のある女の子だよ!」(怒)
作者:「確かに本編ではとても可愛い少女だったが……。
すまん、あゆ……
こんなヘボ作者のことなんて忘れてくれ。
SILVIAなんて最初からいなかったんだって、そう思ってくれ」
あゆ:「嫌だよ、忘れてあげるもんか……って、これ逆だよ?
だいたい、そんなお願い、ボクがかなえるわけないじゃない」
作者:「だって、あゆを主役にした連載作品を、私は書けないんだもん。
こんな作者は嫌いだろ?」
あゆ:「うぐぅ〜。作者君の意地悪。
だいたい、作者君だって、タイヤキ好きじゃないか。
この前、スーパーで買って食べてたの、ボク見たんだからね。
タイヤキを好きな人に悪人はいないんだよ」
作者:「???」
あゆ:「でもね、作者君。タイヤキはやっぱりあんこじゃないと。
クリーム入りは邪道だよ」

秋子:「あの〜、そこの二人、それぐらいにしてくださいね!
  え〜ゴホン、話をSSに戻しますよ。
  祐一の初恋、永遠に続くと思うその関係も真には永遠ではなかった。
作者は月宮あゆのことをそう捉えているんですね」
作者:「月宮あゆ編のトゥルーエンドの場合でも、祐一の昔のあゆに対する気持ちと
今のあゆに対する気持ちは違うものだと思うからね。
それに、エンド後に再会したあゆともまた違うんじゃないかな」
秋子:「7年の月日が変えた?」
作者:「少なくとも、祐一は少女・月宮あゆとの約束を忘れたわけだからな。
  その時点で、永遠ではなくなったわけですね。
  再会した時も、その姿に過去の彼女を重ねたわけではない」
秋子:「でも、作者はその事をテーマにはしてませんね?」
作者:「今の北極星が祐一の求める恋愛航海の道しるべ、かつての月宮あゆとの恋愛は
  永遠でなくなった北極星、すなわち過去の祐一の求める恋愛航海の道しるべと
  いうわけです。
  もし、月宮あゆ編のトゥルーエンドのシーンを想定するなら、祐一は今現在の
  あゆを自分の心の北極星として見つめてあげて欲しいですね」
秋子:「ふふふ。あゆちゃんも大変ね。
   これからガンガン魅力をつけないと祐一さんの心を
   永遠にゲットできないのですから。
……さて、それでは竜座の説明をしますね。
りゅう座はとても大きな星座です。大熊座よりも北に位置し、
天の北極の近いところにあるのでほぼ一年じゅう見ることができます。
北極星の周りを90度以上にわたって取り囲んでいますように見えますね」
作者:「ちなみに、竜座とは、神話ではかの有名な「ヘルクレスの冒険」に登場した
竜だという例えだったな」
秋子:「ええ、では簡単に紹介しますね。

●ギリシア神話---黄金のリンゴを守る竜

「ヘルクレスの冒険」の11番目に、アトラスの山にあるヘスペリデスの園にある、リンゴの木から、黄金のリンゴを採ってくることでした。
しかしリンゴの木はラドンという決して目を閉じることのない竜に守られていたのです。
ヘルクレスはアトラスに協力してもらって、そっと園に近づきました。
そして木の陰から竜の頭をんねらって矢を射ると、見事に矢は竜の頭を射抜きました。
あっけなく竜は息絶え、ヘルクレスは黄金のリンゴを手にすることが出来たのです。
ヘルクレスに退治され竜は、女神ヘラが天に上げて星にしました」


<お願い>
このSS(この話)を気に入ってくれた方は、右の投票をクリックしてください。 →| 投票 |

★この投票結果は、風の妖精HP・シルビア宛に通知されます。
★制限していませんが、読者の支持傾向を知りたいための投票なので、1人1話1回までの投票でお願いします。

戻る