*** 姉妹の悲劇〜再び    第五話 ***



百花屋からの帰り道。
俺達は美坂家へと向かっていた。そして俺は……

「はぁ〜〜〜〜っ」

ため息をついていた。

「どうしたのよ祐一?さっきからため息ばかりよ?」

隣を歩く香里が声をかける。因みに今の服装は学校の制服姿だった。腕を組んで歩いて、さらには
香里が体を預けているので多少歩きづらい。香里に「何故?」と尋ねたら、
「栞との戦いのダメージがあるのよ。肩を貸すくらい良いでしょ?」とのこと。
全く構わないのだがその……腕に当たる魅惑の感触が……ゲフゴフ
因みに栞は……

「す〜〜」

俺の背中で気分よく眠っていた。
あの後、緊張が解けたのか気を失ってしまったので(香里達が)着替えさせてから、
こうして俺が背負って歩いている訳だ。

「いやなに、ちょっと……というか、かなり疲れてな。精神的に」

「そうなの?」

「ここ数日の俺の苦悩は?とか、勘違いしていた俺って一体……でもあんな状況じゃ
 無理ないよな?とか、まあ色々だ」

「ごめんなさい祐一。何も話さなかった私が悪かったわ」

しおらしく謝ってくる香里。……参ったな、そんな顔して謝られたら何も言えないよな。

「別に怒っている訳でも、責めている訳でもないぞ。自分の気持ちの整理が付かないだけだ。
 ……まあその、何だ。とにかくこの一件の理由もわかったし、それも上手く収まったし、
 それで良しとするか。な、香里?」

「……ありがとう、祐一」

ようやく笑顔になる香里。ふむ、やはり香里は笑っている方がいいよな。
暫く無言のまま歩きつづける俺達。


「それにしても、まさか香里があんな事をしていたなんてな」

「……やっぱり、黙っていた事怒ってる?」

「いいや、怒ってはいないぞ。まあ驚いたのはたしかだが。普段の身のこなしを見ていて
 何かやっているな?ぐらいには思っていたし。それで、いつからあんな事をしていたんだ?」

……1年ほど前からだった。学年主席を取り、両親と戦って自分の強さを証明した香里は、
そのまま戦いの場に身を置き続けた。それは……

「栞の為よ」

香里の話は続く

「私が勝ったと聞くと栞は喜んでくれたわ。私も『私が勝ち続ければ栞も病気に勝てるかも』
 なんて思っていたしね。……でも、栞の病状が悪化してきたら今度は……栞を忘れる為に
 戦っていたわ。戦っている間は栞の事を考えなくてすんだから」

香里は……再び自分の罪を告白していた。俺と組んでいる腕に力が入る。

「それでも、それでも栞は、私が勝つと同じように喜んでくれたわ。その笑顔が余計に私を苦しめ
 て、それから逃れる為に……悪循環ね。」

「なあ香里、お前が時々『部活よ』って言ってたのはもしかして……」

「その通りよ」

謎は……一つ解けた!


「そんな時にね、祐一、あなたが現れてくれたのよ。そして、栞と……私の心を救ってくれた。
 その後は、すっかり辞めていたんだけどね」

そういいながら俺が背負っている栞を見つめる。その意味するところは……

「『栞が挑戦してきた』か」

「えぇ。でも、この娘が戦う必要なんて無かったのに。
 『お姉ちゃんは私の憧れです。だから、私の事はお姉ちゃんに認めてもらいたいんです。
 もう一度お姉ちゃんに私の事を妹だって認めてほしいんです』って言われたわ」

「(もう一度認めてほしい)か」

最初はあの夜……俺が香里を諭して栞に会わせた時のことだろう。学校で栞の事を話した
香里に俺が『栞の事、認めてやれよ』と言い、姉妹を引き合わせたのだ。
そこで香里は、栞を『妹』と呼んだんだよな

「最後まで反対していたのは私。『病気が治ったんだからそれで良いじゃない』って言ってね。
 ……怖かったのよ。この娘をもう一度『妹なんていない』と否定するのが、
 また認められるかが」

「香里……」

「前はあなたが、祐一がいてくれたから栞の事を受け入れられたわ。でも今度は私だけ。
 また私は逃げてしまうんじゃないか?そう思っていたのよ…………でも、
 今度も祐一がいてくれた。栞が連れて来てくれたわ。栞は、自分の為にあなたと来たんだろう
 けどね、私も心強かったわ。……栞より、私があなたに頼っていたわね。
 そして、栞の事を受け入れる事が出来たけど……今回も祐一に縋ってしまったわ。」

「……」

俺は何も話さなかった。香里が全て話し終えていなかったからだ

「それにね。結局私は、栞を否定するなんて出来なかった。最後まで栞を『妹じゃない』と
 思う事ができなかった。変な話ね、否定する事も、受け入れる事もできないなんて
 ……私の心は弱いままね。栞には偉そうな事言ったけど、心が弱い私のほうが美坂家の
 人間として、強さを示して無いのかもね……」

「それだけか?それで……終わりか、香里?」

「え?」

「私は弱い、怖かった、縋るだけ……そうやって自分を傷つけて、自分を弱いと結論付けて
 そこでお仕舞いか?」

「祐一……」

今の香里はただ慰めたり、励ましたりするだけじゃ駄目だ。
しっかりと前を向かせてやらなきゃいけない。
強くなろうと思わせなきゃいけないんだ。これからの為にも。

「自分の事を弱いと認めるのはいい。だったらそこから強くなろうとしてみろよ。
 学年主席も、百花屋ファイト無敗も強くなろうとして努力した結果だろ?
 今回も足掻いてみろよ、香里。その為だったらいくらでも支えてやるからさ」

「祐一……」

こんな台詞で香里を説得できるかは分からないが、ただ励ますだけ、というのはしたくなかった。

「そうね。強くなれるかは分からないけど、強くなろうと足掻く事くらいは出来るわね」

どうやらいつもの香里に戻ってくれたようだ。

「それじゃ、早速頼っていいかしら?」

「ああ。けど、大した事はできないぞ」

「平気よ。あなたにしか頼めないから。『これからもずっと、私の事を好きでいてください』
 それだけよ。それで私は強くなろうと思うから」

その言葉に俺の方が照れてしまう。ぬぅ……香里、腕をあげたな。おまけに更に体をくっ付けて
くるものだから、腕にあたる魅惑の感触が……

「それなら大丈夫だぞ、任せておけ。……香里、俺は香里の事認めているからな。」

「祐一……」

「あとな、栞も香里の事は認めていると思うぞ」

「え?」

「香里に挑戦する時『憧れのお姉ちゃんに挑戦する』っていったんだろ?香里のことを
 『お姉ちゃん』つまり『美坂香里』と認めていたからじゃないのか?」

「そうですよ」

声は俺の背中から聞こえてきた。声の主は言うまでも無く……

「栞?あ、あなた、今の話聞いてた?」

「ハイ、バッチリと。詳しく言うなら『あんな事をしていた〜』の辺りからですよ」

まぁ、なんてお約束な展か……ゲフゴフ

「お姉ちゃん……私はお姉ちゃんの事、お姉ちゃんの強さを認めてますよ。」

「でも私は、あなたが家訓の挑戦するといった時、あなたを……」

「それは違いますよ。お姉ちゃんは『否定できなかった』んじゃなくって『見捨てなかった』
 んですよ。最後まで見捨てなかった。姉でいてくれた、十分強いじゃないですか」

「栞……」

「私が良いって言ったら良いんです!あなたの事はこの私『美坂栞』が認めてあげます。
 あなたは『美坂香里』、私のお姉ちゃんです!」

「栞……ありがとう」

泣く香里と、表情は俺からは見えないが微笑んでいるだろう栞。姉妹の絆もより深まったようだ。



「祐一さん。祐一さんからも言ってやって下さい。お姉ちゃんを認めてあげて下さい」

「さっき言ったんだけど?」

「あんなのじゃなくってもっとこう、ドラマみたいな台詞を言っちゃってください!」

ふむ……そうだな。さっきは俺の方が照れてしまったからな。ここは一つ反撃をせねば。
フフフ、覚悟したまえ、香里クン。

「大丈夫だ……たとえ世界中がお前を否定しても、俺が認めてやる。俺が受け入れてやる。
 俺は……俺は『香里を愛している』」

「ゆ、祐一……」
「えうっ!!」

会心の一撃!相打ち覚悟で放った俺の攻撃はかおりんに強力なダメージを与えた!
「えうっ!!」という言葉まで引き出して…………「えうっ」?
これは俺の背後の……

「ゆ、祐一さん!何なんですか、その恋人に言うような愛の台詞は!?」

栞だった。

「え?だって、香里は恋人なわけだし。いいだろ?」

ごくありきたりな台詞だったかもしれんが。

「駄目です!不許可です!却下です!認められません!」

背中で喚く栞。ご近所迷惑だぞ。それに至近距離で喚かれる俺の身にもなってくれ。

「あら?私の事認めてくれないの、栞?」

困った時の香里様頼み!いけいけかおりん!ごーごーかおりーん!……などと口にできる訳が無い。

「あなたに『美坂香里』として認めてもらえなかったら、私……」

「え、あの、それは違います。お姉ちゃんの事じゃなくってですね……」

あたふたと慌てる栞。だが俺は安心していた。これはいつもの、香里が栞をからかう時の雰囲気
だったから。

「私……『相沢香里』になれば良いのよね?」

「「!!?」」

さらに俺への反撃も含まれていた。

「お、お姉ちゃん?」

「祐一は私の事を認めてくれているのよ。」

「か、香里サン?」

「祐一、さっき私が『これからもずっと、私の事好きでいてください』って言ったら
 『任せておけ』って言ってくれたでしょ?」

前にも似たようなことを言われたが、改めて言われると照れるな。
もう既に日は落ちているので辺りは暗かったが、もし十分に明るかったら俺たちの顔が赤いのは
バレバレだっただろう。もう見事なまでの赤っぷり、というくらいになっていたから(意味不明)

「むぅ〜失敗です。敵に塩を送ってしまいました。不覚です!コンディションレッドです!
 こうなったら総力戦です!というわけで……えいっ!」

それだけ喚くと、俺の肩を掴んでいた手を首にまわして体を密着させつつ、更には自分の顔を
耳元に寄せてくる。

プニッ!

「(プニッ?……こ、この背中に当たるモノはぁ!?)」

「フフフ……どうですか、背中に感じる魅惑の感触は?私だってちゃんと成長しているんですよ。
 お姉ちゃんには内緒で試してみませんか?ゆ・う・い・ちさん(ふっ)」

耳に息まで吹きかけてくれやがりました、栞さん。こ、これほどの高等技術を何時の間に!?
しかしですね、栞サン、「お姉ちゃんに内緒で」て言ってもその御本人が隣に居るのですよ。
イヤ、居なければ良い。という問題でも無くてですね。


〜〜〜祐一の心の中〜〜〜

「へっへっへ、いいじゃねぇか。この娘はお前に心底惚れているんだぜ?ヤッちまえよ。
 『据え膳食わぬは〜』って言うだろ。内緒にするって言ってるんだしよ」

悪の祐一が現れた!

「駄目だよ!君には香里という恋人がいるじゃないか!」

もう一方の祐一の心が現れた!

「香里も仲間にいれなきゃ駄目だよ!ここは『姉妹丼』で一緒に頂くべきなんだよ!」

もう一方の祐一の心は悪の祐一その2だった!

「「さぁさぁさぁ!」」

「待てぃ!」

「「何だよ?」」

「こういうのは普通、悪の心(悪魔)と良い心(天使)が出てきて良い心が勝つものだろ?
 良い心、良心はどうした、良心は!?」

「……居たっけ、そんな奴?」

「さぁ?」

「…………」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「栞、ずいぶん色っぽい声も覚えたようね。でも戦っている時に言った筈よ。
 『いくら頭で覚えても、それを活かせる体の動きがなければ意味がないわ』って。
 でも今回は、体の動きじゃなくって、体つきそのものね」

「うっ!」

ハッ!香里の声で目が覚めたぜ…………俺の良心は外付けか?(汗

「祐一も祐一よ、なに鼻の下伸ばしているのよ……私の事、飽きちゃったの?」

ムニッ!

先程から、この左腕に当たる魅惑の感触がぁ!!

「ねぇ、祐一……今日、両親いないの。それに……明日は学校お休みでしょ、だから……ね。
 又……あなたの『強さ』を示して欲しいの……一晩かけて」

恥ずかしがりながらも、必殺の『潤んだ上目づかい』で見つめる香里サン。
…………俺、絶句。もぉ良心も悪の心も無かった。あの香里がここまで言うなんて。
イイッ!じゃないか。

「祐一さん」

プニッ!

「祐一」

ムニッ!

「「どっち(ですか)?」」

むぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜

「『プニッ!』も捨てがたいが『ムニッ!』かな……とりあえず」

「プニッ?」

「ムニッ?」

「アー、イヤ、その……背中と左腕のそれぞれの感触の違いというか、なんというか」

「そ、そんな事言う人……」

「栞。敗者は消え去るのみよ……ところで栞、何時まで祐一に負ぶさっているの?
 起きたのなら早く降りなさい。(ニッコリ)祐一だって大変なのよ」

口調と顔は優しいが、身にまとうオーラが語っていた。即ち
『調子にのりすぎね。ここいらで一つキツイオシオキをしないとね』と……
でもなぁ、そのオーラが何故か俺にも向いている気がするんだよなぁ、何でだ?
栞は、といえば俺から離れたら自分がどうなるのか悟ったらしく、より強く俺に引っ付く。

「え、え、だ、駄目です。何処かの誰かさんに『足腰立たなくなるまで攻められた』ちゃいました
 から降りられません。ね、祐一さん?」

「待て栞。その言い方は誤解を招くぞ!」

「ゴカイもミミズも無いです!このままだと私がピンチです、デンジャーです!
 祐一さん、今です!今こそ私の力になって下さい、私を護って下さい!」

「栞……すまん、この場合に限り俺はお前に何もしてやれない」

「ゆ、祐一さん、私を捨てるんですか?今ならお得なキャンペーン中につき、誤解じゃなくって
 真実にできちゃいますよ!?でも……優しくシてくださいね(ポッ)」

「火に油を注ぐような事を言うなぁ!」

「祐一……あなたにも聞きたい事があるの」

「ん、なんだ。(ビクゥ!)イ、イヤ……ナンデショウカ、香里サン」

俺と栞の加熱するやり取りを、絶対零度のごとき冷たいオーラで収める香里。
香里と組んでいる俺の左腕は、さっきからヤバイ悲鳴を上げている。最早『ムニッ』を
楽しむ余裕も無い。

「祐一は私を選んでくれた。嬉しいわ、本当に。」

「ソウデスカ」

「でも…………『とりあえず』ってどういう事?」

「ハイ?」

「さっき言ってたわね『『ムニッ!』かな……とりあえず』って。
 私の後に、栞にも手を出すってことかしら?」

あ、あれは言葉のあやと言うか、その……

(流石は『ハーレム王』さんですねー)

何処からか、谷間さんの声が聞こえたような気がする。

「あ、あれはだなぁ。その……栞!」

「えぅ、こ、コッチに振らないで下さい。折角矛先がそっちに行ったのに!」

「二人とも、近所迷惑よ」

「「…………」」

香里さん。こんな時にツッコミスキル発動ですか……

「もうすぐ家に着くわ。そこでじっくりと話し合いましょうね、今日は両親いないから。
 ……あなた達に黙秘する権利はありません、弁護士を呼ぶ権利もありません。良いわね?」

「「…………」」

「さ、いきましょう」

「栞……俺、最後まで笑っていられそうか?」

「祐一さん……私、最後まで笑っていられるでしょうか?」

「行くわよ」

「「ハイ……」」

逝きそうです……









幸せな毎日が帰ってきた。香里が、栞が笑って過ごせる日常が。

願わくば、この幸せが続かん事を…………

だけどもう少し、静かな日常になって欲しい事を(汗

俺達三人を照らす月に祈っていた…………













なぁ、香里。お前に妹はいるか?…………









えぇ、いるわよ…………







栞って言うの…………






私の自慢の…………







私の大切な…………








『妹』よ




〜完〜


後書き……というか言い訳というか(汗


え〜プロローグの後書きでも書きましたが

こんにちは。今回初めて(しかも未プレイの)「Kanon SS」を書きました

「うめたろ」といいます。(漢字で書くと梅太呂)



まず、最後まで読んでくださってありがとうございます。

こちらのHPの作品をはじめ、様々な方々のSSを読むうちに自分でも書いてみたくなり、

投稿させて頂きました。いかがでしたでしょうか?

製作中は

ネタを思いつく→追加する→話の展開に矛盾が出る→修正する→次が思いつかなくなる

という繰り返しでした。なんとか仕上がったものの、話のどこかにいまだ矛盾が潜んで

いるかもしれません(汗

見つけても、大目にみてくださいm(_ _;)m

また色々と至らない点も多々あるかと思いますが、こちらも大目に見てください。(汗


最後に

この作品を掲載してくださったHPの管理人様

最後まで読んでくださった皆さんに感謝して、短文ですが後書きとさせていただきます。


本当にありがとうございました

では。                              〜うめたろ



〜追記

このもう少し下に、今回のSSの後日の話というか、おまけのようなものを書きました。

宜しかったら、ご覧下さい。


































数日後……帰り支度をしていると名雪が話しかけてきた。

「祐一、今日百花屋に付き合って欲しいんだけど……」

「何だ?イチゴサンデーなら奢らんぞ」

「違うよ〜ただ一緒に来て欲しいんだよ。あのね、今日だけ特別に復活した伝説のメニュー……




 『オレンジ色のジャム』




 に挑戦するんだよ」




本当に終わり