実験SS
KANON+はやて×ブレード+Wind−a breath of heart−


はやて×KANON 〜バカの群れに飛び込もう〜







私立天地学園。

この学園には剣技特待生――通称、剣待生と呼ばれる特別な制度がある。

そこでは数々の乙女達が剣を手にその力を磨き、戦っていた。

そう、ここは女子校。

だが、今になって共学化しようという動きが出てきていた。

「というわけなので来年から共学にしましょう」

天地学園理事長にして剣待生序列一位、天地ひつぎは唐突に言った。

「それが俺をここに呼び出した理由か?」

一方、その目の前に立っている人物、相沢祐一はここにやってきた経緯を思い出していた。

二週間前。

唐突にクラスの男子全員に木刀が渡された。

担任の石橋は言った。

「取り敢えず、戦え」

誰もわけが分からなかった。

「勝てば金持ちになれる可能性があるぞ」

そこで何人かの目の色が変わった。

基本的に何かしようというにはお金が必要となる。

そのため、お金に困っているものはこの瞬間に必死になった。

そして始まった一週間にわたる抜き打ち勝ち抜き戦。

それこそ容赦なく小テストの最中に始まったり、生徒指導の教師の授業中に始まったりしたこともあった。

結果。

「相沢か。意外だったな」

祐一が勝ち残った。

「で、これでどうするんすか?」

「うむ。これから相沢には天地学園に行ってもらう」

そして、二時間後が今のこの現状なのである。

閑話休題。

祐一は意識を目の前のひつぎに戻す。

「ていうか、だ。何が“というわけ”なんだ?」

「あぁ…言っていませんでしたか」

言ってねえよ。

「来年から共学にしようと思うのでそのための研修という事で残りの半年をこちらで過ごしていただきます」

「ぉい」

「異存はないようですね。ではこれを」

どこまでもゴーイングマイウェイなひつぎ。

呆れる祐一だったが、目の前に二振りの剣と星が差し出されて閉口した。

「俺に剣待生の真似をしろっていうのか?」

「そのためにあなたには先程まで戦っていただいたのです」

「まぁ、ここに来た時点である程度は予想できたけどな」

言いながら星と剣を一振り掴む。

「あぁ、お待ちなさい。あなたには天地二刀で戦っていただきます。まぁ、刃友を持つのならそれで構いませんが」

天地学園の剣待生においては二人一組の刃友という形式で戦い――星獲りに挑む。その中で相手から星を奪う天の剣、天の剣を守って戦う地の剣。この二人で初めて剣待生は星獲りに参加できるのである。

だが、ひつぎは祐一に天地二刀で戦え、と言った。つまり、祐一に一人で二人分の働きをしろと言うのである。

「あなたが星獲りに参加できるようにあなたを剣技特別研修生、略して剣修生と呼ぶ事とします。あと、来年度からの転入を容易なものとするために女子生徒にも剣修生を採用できるようにしますので。大学部には川澄舞さん、中等部に丘野空さんを採用しています」

祐一は頭を抱えた。

一人、自分の友人が混ざっているではないか。

「あぁ…たしか相沢さんと川澄さんはお知り合いでしたね。だからというわけではないですがお二人が刃友となるのは禁止にしておきます」

先手を打たれた。祐一はそう思った。

「それから、すぐに退出なさい」

「は?」

「今すぐに星獲りを開始します。それをもってあなたの実力を測らせていただきます」
























祐一は外に出てすぐにAランク久我順、静馬夕歩ペアに遭遇した。

「君が会長の言ってた剣修生か。あ、でも相手はあたしたちじゃなくてあっちね」

順は自分と夕歩の間を空けるようにして後ろの二人組みを披露した。

「二万五千円ね」

「そうやって呼ぶなぁああああああっ!!」

二万五千円、もとい鈴木・相田ペア。

「まぁまぁ、あの人倒せば謹慎解除だって会長言ってたでしょ」

その言葉が引き金となった。

地の剣、鈴木が祐一に向かって駆け出した。

それを追って相田も駆ける。

鈴木が祐一の肩につけられた星を狙って剣を振るう。

「ちぃっ」

それを大仰にかわす祐一。

「逃げないで!!」

鈴木と相田がタイミングを合わせながら剣を振るう。

祐一は剣を抜かず、かわしながら少しずつかわすタイミングをギリギリのところまで粘るようにしていく。

「今だ!」

祐一は鈴木と相田の剣を振るう僅かな隙をついて鈴木の腰に隠された影星を打ち、そのまま駆け抜けるようにして相田と距離を開ける。

「え…?」

星を奪われた鈴木ではなく、まだ残っている相田が呆然としていた。

あのまま自分を狙う事もできたはずだった。だというのに、

「…我流」

目の前のこの男は…

「ふざけないで!!」

剣を下ろすなんて、どこまで人をバカにしているのか。

「水(すい)」

祐一は正面から上段に振り下ろされる剣の切っ先に自分の剣の切っ先をぶつけた。

見ているだけとなった鈴木も、傍観者となっている順と夕歩も冗談だと思った。

こんな漫画みたいな、空想のような現実。

だが、祐一の狙いは止める事ではなく、

「あ…」

相田の体が祐一の右側へと流れていく。

力を拮抗させるとお互いの動きが止まる。

祐一は止める事を優先しなかった。

そう、祐一は流す事を優先した。

「終わり、だ」

その言葉とともに、自分の真横に位置する星を、祐一は軽く小突いた。

「鈴木・相田組。天地両星脱落。勝者天地二刀、相沢祐一」

星獲りの判定を下す『“天地の眼”ジャッジ隊』が祐一の勝利を宣言した。

そして、鈴木・相田組の二人は何も言わなかった……

「あれはいいんですか!!逃げるようにしといてあそこで!!」

わけがなかった。

「一切の不正も反則も認められませんでした。よって天地二刀、相沢祐一の勝利は覆りません」

だが、ジャッジ隊の判定は変わらない。

たしかに、傍から見れば祐一の徹底的に避け続けるというのは逃げているととることもできるだろう。

それでも、剣技では通常の剣待生よりも劣る祐一がアドバンテージを握るには『避ける』ことしかなかった。

だからこそ祐一は、何よりも攻撃を受けない事を優先した。剣で受ける事すらも、迎撃する事も自分の行動から排除した。

避けて避けて避け続け、一瞬の隙をついて仕留める。

これは祐一が剣を握るきっかけを作った先輩――川澄舞が教えた唯一の教えだった。

剣で受けることでは、もしかしたら相手が動きを止める事を目的としていたら受けた瞬間に祐一は負けた事になる。

「何も剣を抜いて剣を剣で受ける事だけが戦いではありません」

ジャッジ隊のこの言葉を残し、この日の星獲りは終了した。
























「ひつぎさん。データの更新と順位の掲示完了しました。

次の予定ですけど…」

生徒会室でその日の祐一の戦いの映像を見ていたひつぎの元に、刃友である宮本静久がやってくる。

静久は生徒副会長としてもひつぎをサポートしている。

「今日の記録ですか」

「ああ。お疲れ様、静久」

ひつぎは静久を労うとすぐにモニターに視線を戻す。

「面白いわね。この彼。あの二人が想像を絶する雑魚だっていうのは分かっているけども、完全に弄ばれているわね」

「恐ろしく合理的な戦いをしますよね」

ひつぎと静久は互いに思う事を口にする。

モニターでは攻撃を避け続ける祐一の姿が映し出されていた。

「で、大学部と中等部の剣修生は刃友探しのために今回は出番無しね」

「はい。ですが、剣修生試験の記録を見ましたが」

静久が続けようとするのをひつぎは手で制した。

「わたくしも見ました。そうね、大学部の川澄舞とスタイルは似ているわね。でも、こちらの方が徹底しているわね」

「…おそらく、相沢さんはご自身の剣技にそれほどの自信を持っていないですね。だからこそ避けているのだとは思いますけども」

「ええ。たしかに、彼は剣技に自身は持っていないでしょうね。ですけど、基礎はできているし、体力も人並み以上にはあるでしょうね。でなければ、あのスタイルでも勝ち残ることはできなかったでしょう」

モニターの祐一は既に勝負を決めている。

「体力と眼。そして、判断力。この全てを総動員して戦っているのね。それでも、彼はすぐに勝ちあがってくるわ。それだけの力と闘争心を持っているもの」

「楽しみですか?」

静久は自身も笑みが零れそうになっているのも自覚しながら訊いた。

「静久と同じよ」

そして、その答えが全てだった。
























「で、どうしてここにいる?舞はいい。知り合いだから訪ねてきたっていうのはわかるから」

「だったら言わない」

ひつぎが用意していたアパートに祐一が帰ってくるとまず、舞がいた。

ここまでなら祐一は何も言わなかっただろう。

「どう?あたしの嫁は?」

祐一は何も言えなくなった。

舞の腕にぶら下がっているのは舞と刃友になったという少女――黒銀はやて。

はやては舞の事を『嫁』と呼んでいた。

(あぁ、こいつはあれだ。バカなんだ)

祐一はある程度事情を理解していた。

というか、はやてが限りなくバカをやった事を知っていた。

(こいつ、黒銀ナギじゃなかったけ?)

祐一ははやてが理事長室から退出したときに到着したのだから。

そして、この日遅れて入学してきた新入生の名前がはやてではなく、ナギだった。

(舞の苦労が見て取れるな)

そう思って取り敢えず黙る事にした。

「どう?どう?羨ましい?いいでしょ?」

だが、限りなく鬱陶しかった。が、ここにいるのはこの二人だけでもなかった。

「えっと」

もう一人の剣修生、丘野空がいた。

「君は確か…丘野空さん、だったっけ?」

「あ、はい。丘野空です」

空は祐一に向かって頭を下げた。

「どうしてここに?」

「はい、一度同じ剣修生ですから顔を合わせたくて突然ですけどやって来てしまいました。すみません」

「や、別にいいよ。あそこまでバカをやってくれなきゃ」

そこで視線が舞とはやての方を向く。

やたらと困った顔をしている舞と悪乗りしているはやての姿があった。

「それと、相沢先輩は刃友をどうするつもりですか?」

真面目な顔になって、空が祐一に訊ねる。

それが本来の目的だったのだろう。

「一応、一人でやる許可は貰ってるけど、このまま続けるのなら欲しいかな」

「先輩は紹介できそうな人っていないんですか?」

「ごめん。それに関しては役に立てそうにない」

祐一と空が真面目な話をする中で舞とはやては未だにじゃれあっている。

「それから、久我。俺の布団からさっさと出て来い」

祐一がそう言うと部屋の隅のベッドから順がもぞもぞと這い出してきた。

「え?」

空は呆然としていて、舞とはやてはそれどころではないようだ。

「何でそんなところにいた?」

「いやぁ、ここにいたら夜になったら遊んでくれるかなぁ、と」

順が笑いながら言うと祐一はすぐ傍のクローゼットを開けた。

「わ、先輩。それは危ないですよ」

空が止めようとするが祐一は何も言わない。

「そうだな。久我、今すぐ遊んでやるよ。真剣でな」

「わあステキー。うれしいわ。でもまた今度」

祐一がギラリと光る日本刀の刃を剥き出しにしながら順に黒い笑顔を向ける。

一方の順は冷汗を流し、後退りする。

「えと…先輩?」

空はこの状況でまともな人間が自分しか残っていない事を悟り、泣き出しそうになった。

どうしてこんなことになったのだろう。

自分は同じ剣修生に刃友についての相談をしに来ただけなのに。

「あ、そうだった。空ちゃんだったよね。あたしの同室の奴…無道綾那っていうんだけどね、空ちゃんの剣修生期間が終わるまでは星獲りに付き合ってもいいって言ってたよ」

「本当ですか!?」

その相談が突然無用になった。

「うん。本人にはあまりやる気はなかったけど、今回だけって」

空は本当に嬉しそうに順の手を握ろうとした。

「やめとけ。そいつ、根っからの変態だぞ」

その空を祐一が止めた。

「ど、どうしてそのことを!?」

言いながらも空の手を握ろうとする順。

「どうしても何も…」

そう言った祐一の後ろから夕歩が出てくる。

「迎えが来てるし」

「夕歩?何でここに?」

「綾那が自分の刃友の貞操を心配してたから…」

刃友であり、幼馴染でもある夕歩にすらここまで言われる順。

「ぅ…」

順は夕歩に言われて大人しくなった。

どうやら、順は夕歩には頭が上がらないらしい。

「取り敢えず、だ」

そんな時、祐一が口を開いた。

「お前等、全員帰れ」

そんな宣告とともに夜は更けていく。

















要望があれば長編化


















セナ「激しく暴走中」

祐一「これ、需要あるのか?」

セナ「暴走中」

祐一「おい」

セナ「勢いでやった。後悔はしていない」

祐一「待て。全力で待て」

セナ「と、いうわけで万が一にも続きが読みたいと思ったら掲示板にご一報を。長編化します」