放課後を急ぎ足で歩く5人。先頭を歩いている男以外はどこに向かっているかは
わからない。
「それでその生徒は運動神経がいいのか?」
急ぎ足で歩く集団の中の一人、智代は聞いた。
智代はこの学校で生徒会長をしている。
俺達の年下のはずだが言動、態度ともに春原を越えている。
「運動神経はしらんが素早いぞ」
集団の先頭を歩いていた俺が答える
「危険な香りがぷんぷんするわね。運動神経が良くなくちゃスポーツは出来ない
わよ」
俺の隣を歩く女が素直な感想をもらす。
この女は名前は杏。双子で妹の椋とは正反対の性格である。
今回の対抗試合では超戦力として期待しているので機嫌を損ねないように細心の
注意を払う必要がある。
「大丈夫だって。そもそも勝てなくたっていいんだろ。試合さえ出来れ」
「それは違うぞ、やるからには勝ちたいだろ」
智代が即反論してきた。
「そうか?別に俺はそうは思わないが…」
「お前はもっと勝ちに執着するべきだな」
「そうよ。でないと朋也までヘタレな男になるわよ」
ヘタレと言う響きがすごく嫌だ。何よりあいつと同レベルに評価されるのが苦痛だ。
「それはいやだな。俺までヘタレな男にはなりたくない。ヘタレは一人で十分さ」
俺に杏、智代の視線が一人のヘタレな男に注がれる。
「ヘタレな男って僕のことですかねっ」
「「「気づいてなかったのか」」」
「同時に言うなよっ」
そんな会話をしていると、目的地の空き教室に到着する・・・
こんなヘタレな男、春原でも大活躍出来るかも知れないお話が始まる・・・・・・
『羽根に想いを託す』中編
空き教室の前に着いた朋也達に迫る来る黒い影・・・・・・
冗談です(汗
気を取り直して。
空き教室の前に到着した俺は口を開いた。
「ここが俺の心当たりのある人物がいる場所だ」
「こんな所で何をやってるのかしら」
「ここで活動している文化部は無いはずだが」
「誰がいるんですか?」
「だんごっだんごっだんごっだんごっ」
口々に疑問を口にした。
一人だけ自分の世界にいる。よくよく記憶を辿ってみると、
智代が来てからもずっと口ずさんでいるぞ。
まぁいいや。
「まぁ会えばすべての疑問が分かるよ」
そう言うと俺はドアを開けた。
中には一人の女の子が何か作業に没頭している。
全員が教室に入っても気づく様子はない。
「気づいてないぜ」
春原は驚いている。
俺は黙って近づいて行き、女の子の背後に立った。2人の間の距離は1メートルもない。
「本当に気づいてないんでしょうか?」
俺以外のみんなは無視しているだけだと思っているようだ。
俺は女の子の肩を軽く叩いた。
「おい風子。いい加減気づけよ」
げんなりしながら俺は言う。
「はっ・・・変な人」
「変な人じゃない、朋也だ」
「ああ朋也さんでした。それで何の用ですか?風子はとっても忙しいんです」
しかし忙しいような雰囲気は全く出ていない。
「ぼーっとしていたから声を掛けたんだ」
「風子はぼーっとなんてしてません。ぼーっとしてるのは朋也さんです。」
「お前はいつも俺が悪戯してもぼーっとしてるから気づかないじゃないか」
「悪戯?朋也さんはいつも風子に何かしてたんですかっ!
やっぱり変態さんだったんですね」
「やっぱりって言うな。俺は変態じゃない!
まぁそれは置いといて、今度の交流試合の時にバドミントンをやるぞ」
うっかり悪戯のことをばらすとこだったぜ。
「全然良くないですっ。置いておけません。
それにバドミントンなんてやってる暇もありません。風子は忙しいんです」
風子はバドミントンをやる気が無いようだ。
これは最後の手段だったが仕方がない。
俺はとっておきの秘策を口にした。
「観客も集まるから参加すると星をいっぱい配れるぞ」
この言葉を聞いたとたん態度が豹変した。
「これは星じゃありません。がたまには運動するのも良いかなって気になったの
で風子も参加します」
風子は俺の出した餌に迷わずガブリと食いついた。
すごい食いつきだな。
「星じゃなかったら何なの?」
杏が風子に問いかけた。
「これはヒトデです。貴方にも差し上げましょう」
風子はヒトデを差し出す。
「ヒトデねぇ・・・」
杏は受け取るか迷っているようだ。
受け取ってもらわないと風子が参加しないと言い出しそうだな。
俺は受け取るように目で合図を送る。
「朋也、まばたき多すぎ」
「気づけよ!」
杏の天然に思わずつっこみを入れてしまったじゃないか。
いや本当に天然だったのか、わざと言ったのかどうかは知らないけどね。
「ありがとう。大切にするわ」
杏は素直に受け取ることにしたようだ。これで何とかメンバーは揃ったな。
「これで5人だな」
「そうだな。あとは誰がシングルスをやるかだが、どうすれば勝てるか・・・」
智代は本気で勝つつもりらしい。
俺に言わせると、素人が本格的にやってる奴に勝てるわけがないと思うのだが、
言うと俺の生命が危険にさらされる恐れがあるのでやめておく。
さてどうしようか。
1:命をかけて俺が言う
2:生命をかけて俺が言う
3:春原の生命を終わらせてやる
4:意表をついて渚に言わせる
5:杏に言わせてバトルを見学する
1と2は俺が死ぬので除外するとして、4だと俺の差し金とバレてしまう恐れがある。
5は貴重な戦力が共倒れする恐れがある。
じゃあ春原に言わせてみるか。
俺は小声で春原に話しかける。
「素人が本格的にやってる奴に勝てる訳がないってことを教えてやれ」
「おう。僕に任せろっ!」
ふっ。春原の運命はこの瞬間に決まったな。
死刑の決まった男が自分の死刑を執行するために、一歩一歩確実に歩き始めた。
「おいおい生徒会長さん。素人が毎日練習してる奴に勝とうなんざ無理なんだよっ!
頭おかしいんじゃないの」
典型的なザコキャラの言い回しだった。
これじゃ
「ひゃっほぅ。ここは通さないぜ!」
って言う人とたいして変わらないな。
「黙れ」
ドゴッ
智代の軽い(?)蹴りが春原にヒットした。
「あ、あべしっ」
ああ春原が動かない。
自分が仕組んだこととはいえ、ちょっとやりすぎたかな。
しかし春原はすぐに立ち上がった。
「僕は事実を言っただけじゃないかっ!」
やりすぎではなかった。
しかも懲りてないし。
「その志が気に食わん」
ドグシッ
「ひでぶっ」
さっきより威力が上がってるし・・・
さすがに春原がかわいそうなので助けることにしよう。
貴重な戦力だし。
「あんまり蹴るな。貴重な戦力が減るから」
「それはすまなかった。こんな奴でも戦力なんだな」
すまなそうな表情を見てると胸が痛くなるな。
「こんな時ぐらいしか役に立たないんだから利用しないと。」
杏もさらっと酷いことを言うな。俺も同感だけど。
ちなみに椋はこのやりとりを、おろおろしながら見ていたようだ。
渚は風子とヒトデトークに花を咲かせている。
ヒトデトークってなんか嫌だな・・・
「じゃあメンバーも揃ったことだし、少し練習をするか。」
気合いを入れ直して俺は言う。
なんだかんだ言っといて俺は結構楽しみである。
ラケットを振れるかどうか不安だが。
「そうだな。対抗試合は明後日だからな」
「でもどこで練習するのよ?みんな対抗試合に備えて練習してるわよ」
確かに杏の言う通り、どこの部活も練習をしているんだよな。
「そうだな〜。どこか練習出来る場所は無いのか?」
とりあえず智代に聞いてみることにした。
「学校なら校庭か体育館だが、体育館は他の部活が使用しているし、
校庭の場合、場所は確保出来るがネットを用意出来ない。
それに今日は風が吹いてるから校庭での練習は無理だな」
「じゃあどうするのよ」
「町の体育館を利用しよう」
「体育館なんてあったのか?」
なにっ。この町に体育館なんてあったとは。
「この町に住んでるんだからそれぐらいは当然分かるだろう」
どうやら俺の知らない場所がまだあったってことか。
「じゃあそこで練習しましょう」
杏は結構乗り気だな。以外だ。
絶対嫌とか言うと思ってたが。
「でも靴とラケットはどうするんですか?」
椋は疑問を口にした。
「靴は体育用のシューズを利用しよう。ラケットは私が用意する」
「智代は何本もラケットを持ってるのか?」
「ああ。親がバドミントンをやってるからな。今日も持ってきてある」
智代の親はバドミントンをやってるのか。メモしておこう。
俺はそのメモを心のタンスの引き出しにしまって置いた。
ちなみに保険には未加入なので盗難や災害にあっても保証はない。
つまり忘れてしまうってことだ。
「では行くとするか」
出発しようとすると渚が申し訳なさそうに発言してきた。
「私は用事があるので行けないです。すみません」
「そっか、用事があるならしょうがないな。
渚はマネージャーだから練習は参加しなくてもいいよ」
心優しい俺は渚に優しく声をかける。
というか、参加したくないと言ったとしても怒りはしない。
・・・・・・・・・・・・
体育館に到着した6人。
まさかこんな所に体育館があったとは・・・
「さっそく練習を開始しようぜ」
春原もやる気マンマンマンだな。
そんな春原がこの後どんでもないことになるとは思いもしなかった・・・。
「何にも起きないですからっ!」
「おまえ、俺の心が読めるのか!?」
まさか春原がテレパニストだったとは。
「声に出して言ってましたからっ!」
無意識のうちに声に出していたらしい。
気をつけないと。
そして練習が始まった。
結論から言おう。
みんな思ったよりうまい。
杏はスマッシュは早いが羽根・・・もとい、シャトルをうまく打ち返すことが出来ない時がある。
いわゆる初心者だ。
春原は結構うまい。だが本人に言うのは癪にさわるので言わないでおこう。
はたしてどこまで通用するのか。
せめてあと1ヶ月あればだいぶマシになるのだが・・・
智代もうまい。ビックリだ。
話によると親とちょくちょくやってるらしい。
家族サービスらしが、家族サービスって・・・。
風子は素早いだけだった(笑)
肝心の俺は自分で言うのもなんだが、春原と同じぐらいは出来ていたと思う。
肩も今のところ大丈夫だ。恐いので全力でラケットを振ってないので、
振ればどうなるかはわからないと思う。
今日は2時間ほど練習をしてお開きになった。
そして明日も練習することに決まった。
「さてみんなこれを見てくれ」
智代がみんなに本を見せてきた。
「何だこれは?」
「これはバドミントンのルールブックだ。必要最低限のルールは覚えて欲しい。」
「ルールぐらいわかるぞ」
・・・たぶんな。
「例えばサーブは必ずななめに出すんだぞ。」
「えっ。そうなの?」
春原よ・・・それぐらいは知ってろよ。
「どうやら春原はルールブックをしっかり読んだ方が良さそうだな。」
「そういう朋也は大丈夫なのかよ!」
「俺は問題なしだ」
心の中でたぶんと付け足す。
「では春原は帰ってからよく読んでおいてくれ。」
あとがき:読んで下さってありがとうございます。
前編後編で終わらすつもりが中編が間に入りました。(汗
いよいよ後編で試合をするのですが、どうやって試合を文章に
すればいいのか悩んでます。
俺に文才があったらなぁ・・・
PS:タイトルはバドミントンの話なので「羽根」で想いを込めるから問題なし!
だます気は無いですよ(汗