学校の演劇部の部室から声が聞こえてきた。
「春原はとりあえず飲物を買ってきなさい」
「なんで命令なんですかねっ!」
「早く買ってこいよ」
「お願いなら聞いても良いかなって思うけどさ」
「えっ。だって主従関係は命令でいいんじゃないの?」
ビックリしたように杏が言う。
「僕たちは友達だろ!!」
「えっ」
「えっ」
杏と俺の声がきれいに重なった。
「ひどいですねっ。今まで僕のことをどう思ってたんだよっ」
「下僕・・・」
「パシリ・・・」
当たり前のように答える俺達。
「・・・ひどすぎる・・・」
春原は悲しみに満ちた目で椋と渚をみていた。
俺の胸がズキンと・・・するわけはない。
俺は春原とはそこそこ長い付き合いになるから春原のことは少しは分かる。
あいつの神経はこの程度ではびくともしない。
「渚ちゃんと椋ちゃんは僕のことをどう思っているのかな?」
部室が緊迫した空気に変わった気がした。
先に口を開いたのは椋だ。
「わ、私はクラスメートだと思ってます」
「ありがとう!」
春原が無理矢理椋と握手をしていた。
「でも友達ではなくてクラスメートなんだよね」
杏がぼそりと呟く。
「余計なこと言うなって」
俺は小さな声で杏に忠告する。
春原が握手したまま固まっている。
「うわぁぁぁぁん」
春原は脱兎の如く走り去っていった。
そんな晴れた日の放課後のお話。
『羽根に想いを託す』前編
演劇部の部室。
通称 「みんなのたまり場」
通称の方が長いのは見逃してくれ。
もう文化祭も終わり、毎日みんなで雑談を繰り広げている。
さて話しを戻そう。
帰ってきたかわいそうな春原に救いの手が差しのべられた。
「春原さんは友達ですよ」
「渚ちゃん・・・」
「みなさんも冗談で言ってるんですよね?」
人を疑うことを知らない純粋な目が俺達を見る。
俺と杏にすさまじい重圧が襲ってきた。
「くっ、・・・じゃあ誰が飲み物を買ってくるかは多数決で決めようか」
重圧に屈した俺は話題を元に戻す。
「友達とは言わないんですねっ!」
春原のつっこみはいつも通り聞き流す。
これは鉄則である。杏も聞き流し相槌を打つ。
「そうね。じゃあ春原に買って来て欲しい人」
みんなに聞こうとする杏を春原が止めてきた。
一体なんだと言うんだ。
「多数決は僕が不利だ」
まったくこいつは駄駄っ子だよな。
「しょうがないな、俺に妙案がある」
俺は必死な春原の肩を叩きながら言う。
「多数決を言い出したのは朋也だろ…」
「その妙案とは…」
「うわっ、無視された」
リアクションを取る春原を見る者はおらず全員の顔が俺を見ている。
「もういいです…」
春原も俺を見た。
では妙案を発表するかな。
「多数決で決めていいかどうか多数決を取ろう」
テンポ良く話し始める俺。
「じゃあ多数決で決めて良いと思う人」
決をとる。
春原以外の4人の手が上がる…
「じゃあ春原に買ってきて欲しい人」
決をとる。
春原以外の4人の手が上がる…
渚も椋も手を挙げているのが面白い。
「結局僕が買いに行くんですね…」
うなだれながら飲物を買いに行く春原の背中は哀愁が漂っていた…
・・・・・・10分後・・・・・・
「さて今日は何をする?」
俺がみんなに問いかける。
「鬼ごっこやろうぜ!」
息を吹き返した春原が提案した。
「却下。小学生じゃないんだから」
杏が即答する。
「むっ。じゃあ高オニやろうぜっ」
「却下。小学生じゃないんだから」
杏が即答する。
「むっ。じゃあ色オニやろうぜっ」
「却下。小学生じゃないんだから」
杏が即答する。
「むっ。じゃあ氷オニやろうぜっ」
「いいわよ」
杏が即答する。
「氷オニだけ許可される理由は何故ですかね」
「氷オニはやめとけ。お前が捕まっても誰も助けないから」
「さらっとひどいこと言いますね」
「で、でも鬼ごっことは懐かしいですね。小学生のころにお姉ちゃんと一緒に鬼ごっこ
とか探検したりしましたよ」
春原が可哀想に思ったか、話題を代えようと椋が懐かしそうに言った。
「杏が無理矢理連れてったんだろ」
「はいっ。い、いえ別に無理矢理ってわけじゃ…」
椋はとっさに言い直す。
杏が俺を睨んでいた。
俺は背中を冷や汗が流れているのを感じた。
身の危険を感じるので話しを逸らすことにした。
「そ、そういえばちっちゃい頃は探検とか冒険とかしたなぁ…」
俺は杏の視線から目をそらし、そのまま妄想の世界に旅立つことにした。
!! 敵が現れた。
朋也のターン
攻撃→素手
朋也の攻撃
敵に20のダメージを与えた。
杏のターン
特殊攻撃→投げる→英和辞典
杏は英和辞典を投げた。
クリーンヒット!!
100のダメージを与えた。
(つ、強い)
渚のターン
特殊攻撃→歌う
渚はだんご大家族を歌った
敵は頭からだんご大家族の歌が離れなくなった。
精神に8のダメージ
(精神っておい)
椋のターン
攻撃→??
椋はどうすればいいか分からない。
特殊能力発動!
杏が攻撃をすることになった。
杏の攻撃
杏は和英辞典を投げた
クリティカルヒット
200のダメージ!
春原のターン
・・・・・・
(攻撃系のコマンドが無い!?)
コマンド:地面に額をこすりつける
:自分の存在価値を考える
:人生の幕をおろす
俺は妄想の世界から帰ってきた。
「何故急に僕を蔑んだ目で見るんだよっ」
いかんいかん。哀れみの目で春原をみていたようだ。
「春原はヘタレだったからさ…」
「普通に意味不明ですけどっ!」
「あ〜〜、なにする?」
春原を無視し、話を元に戻す。
「自分から話を振っておいて無視かよっ」
「だんごゲームをやりましょう」
突然渚が元気良く答える。
「ルールは?」
嫌な予感がしながらも聞く。
「みんなでだんご大家族を歌います」
「・・・・・・・・・それだけ?」
「はいっ!」
「それではゲームじゃなくて合唱よ」
「ゲームってのは勝敗がなきゃな〜」
俺と杏が同盟を組み渚に対抗する。
微妙に椋が乗り気に見えるとこが気がかりだ。
「勝敗もありますよぉ〜。みんな勝ちです」
えへへと声が聞こえてきそうなぐらい幸せそうな顔をしていた。
渚の勝ちだった。
もはや俺達に拒否権は無い。
拒否すると女の武器(涙)が炸裂してしまうからである。
渚はだんご中毒のため理由もなく否定されると涙が流れてくるのだ。(過去に実証済み)
さらに椋はもうすでに渚と歌ってるし・・・
俺は杏を見ると杏もこちらを見ていた。
目で会話をした。内容はこうだ。
(おい歌うことが決定してしまったぞ)
(しょうがないわよ諦めて歌いなさい)
・・・数分後・・・
演劇部部室から元気の良い歌声が聞こえて来た。
『だんごっだんごっだんごっ……』
エンドレスで25分くらい歌った時、ドアが突然開いた。
「何をしている?」
長い髪で凛々しい顔の女が立っている。
すごく機嫌が悪そうな表情の彼女の名は智代。生徒会長だ。
「智代か〜どうした?」
みんな歌をやめて智代を見ている。
「生徒会に苦情が届いた。」
「苦情?」
「そうだ。最初は2、3人だったし内容もたいしたこともなかったからから我慢
してもらおうとしたんだが、だんだん苦情を言う人も増えてきてな・・・」
「合唱ぐらいで苦情かよ」
「それがなぁ、頭が痛いや吐き気がするや洗脳されるなど黙認できなくなったから止めに来た。」
これがだんご大家族の力か・・・。
「そ、それはすまなかったな。渚、そういうことだから合唱は終わりな」
「わかりました」
がっかりしたように渚が頷く。
「何故合唱などしているんだ?」
「あえて言うならばやることがないからかしら」
杏がそっけなく答える。
「それはちょうどいい。頼みがある」
「頼み?」
「そうだ」
「明後日に東北の○○工業高校が来ていろいろな部活と交流試合をするのは知っているな」
「知っているがそれで?」
話しがなかなか見えてこないので俺は単刀直入に言うように促した。
「では単刀直入に言おう。バドミントンをやってくれ」
「はぁ?何でそんなことやらなくちゃいけないのよ!」
杏が当然の疑問を口にする。
「実はいろいろな部活が交流試合をするんだが手違いでバドミントン部も交流試合をすることに
なっててな、もうこっちに向かっているんだ。しかし我が学校にはバドミントン部などない」
「だからって何で私たちなのよ!」
「すまない。協力してくれ」
智代は頭を下げた。
「ふっふっふ、ちゃんと誠意をみせてもらわないとなぁ」
春原が腕組みをしながら言う。
「お前こういう時ばっか強いのな」
「さて何をしてもらおうかな・・・」
「頼む朋也、お前たちの力が必要なんだ」
必死に頼む智代に春原が近づく。
「じゃあ缶ジュースを買ってきてもらおうかな」
「安心しろ。お前には頼んでいない」
「えっ」
硬直する春原を横目で見ながら俺は当然の回答をした。
「学校のためなら仕方ないか・・・日頃迷惑かけてるからたまには協力をしてやるよ」
「しょうがないわね」
杏も同意する。
「そうか、ありがとう」
智代の嬉しそうな笑顔を見せる。
「あの・・・私も参加するんですか?」
困ったような表情で椋と渚が聞く。
本当に困った表情だったので助け舟を出した。
「ん〜、応援に回ってもらうかな。智代、別にかまわないだろ?」
「ああ構わないぞ」
「僕も手伝ってやるよ」
春原も言う。
「「「別にお前はいいよ」」」
3人の声がきれいに重なった。
「ひどっ」
「で何人必要なんだ?」
俺は具体的な話しを促した。
「団体戦を行うから最低5人必要だな」
「団体戦?」
「そうだ。話によると最初にシングルスをやって次にダブルスを2つやって最後に
シングルスを2つやるそうだ」
「シングルス→ダブルス→ダブルス→シングルス→シングルスってことか?」
朋也が黒板に書きながら聞く。
「そうだ」
「でもこれだと7人必要じゃないの?」
杏が聞く。
「ダブルスに出た人はシングルスに出てもいいそうだ。でも最初にシングルスに出た
人はダブルスには出れないらしい」
「そうか・・・とりあえず杏と智代は決定として後は誰かめぼしい奴はいたかな・・・」
朋也は考えながら言う。
「僕も入れて欲しいんですけどねぇ」
「分かってるよ、お前は貴重な戦力だ」
「朋也・・・」
純粋に春原は運動神経はいい。頭は・・・
しかしそんなことは口にしたくない。
こいつが調子に乗るからな。
「学校のために死んでくれ」
「バドミントンってそんなスポーツでしたかねっ」
「ミスしたら1回に付き、杏と智代の付き蹴り1発な」
「のびのびやらせてほしいんですけどっ」
「私は蹴りなんてしたくないな」
「いいんだよ、こいつは蹴られると喜ぶから」
「僕は変態じゃないですけど」
「そうだよな、お前は変態じゃないもんな。ちょっと普通の人と趣味が違うだけだもんな」
「遠まわしに変態って言ってますけどっ」
「それならいいが・・・」
「あの〜、智代さん?」
智代は春原の声も聞こえなくなっているようだ。
どうやら冗談を信じたっぽいな。
「ちょっと、私がやるのに何で朋也は参加しないのよ」
杏が不満げに言う。
「俺は監督だからいいんだよ」
「よくない!参加しなさい」
杏は指をポキポキ鳴らしながら睨んでいる。
「杏、恐ぇよ・・・」
「やるわよね」
「・・・はい」
俺に選択権は無かった。
「でも俺は肩を壊してるから純粋に出来ないんだよ」
「そうなの?両肩?」
「いや、右肩だけだけど」
「じゃあ左手でやりなさい」
「できる訳無いだろうが」
「じゃあ死ぬ?」
「・・・頑張ります。でもよ、その○○工業高校のバドミントン部は強いのか?」
「私立じゃなくて県立だからそんなには強くないと思うぞ」
俺の疑問に智代が答えてくれた。
「ラグビー部は強いかな。野球とサッカーはそこそこ。後は分からない」
「ってことは肝心のバドミントン部は分からずじまいか」
情報はあるにこしたことは無いのだがしょうがない。
「まぁ試合をやれば分かるか。交流試合は確か明後日だよな?」
「ああそうだ。突然で本当にすまない」
「まぁいいってことよ。メンバーはこれで4人だが後1人はどうする?」
俺は全員に問い掛ける。
「そうね・・・運動部に所属してなくて運動神経の良い人なんてそうそういないわね」
「生徒会にもそんな奴はいないな」
「渚は知ってるか?」
「私も知らないです」
「椋は?」
「私も思い当たりません」
「困ったな・・・」
全員で考えてる時に俺は閃いた。
「1人いることはいるんだが・・・」
「だれよ」
歯切れの悪い俺ににいらいらしたらしい杏が急かしてきた。
「素早さはあるんだが運動神経が良いかはわからん。
まぁ、いまからそいつがいるところに行こう。詳しい話しは移動しながら言うよ」
続く
あとがき:初めまして、おるぴあと申します。
今回初めてSSを書いてみました。今の全能力を結集して書きました。
暫くたって読み直すといっぱい直したくなるでしょうけど。
一応ギャグ系のつもりなんで笑えなかったら終わりですかね・・・。
自分で書いてる文なんで自分は笑いませんが、果たして他の人が読んだら
笑ってもらえるか非常に心配です(汗
では後編で。
PS 良かったら感想を下さい。アドバイスも是非!
でも批判は勘弁を。凹むので(滝汗
PSのPS 椋のことを諒とか涼と間違ってごめんね。注:椋に向けて言ってます