紅蓮戦記 芝村裕吏(MF文庫J)
最弱の国に生まれた最強の天才が歴史に刻む、途方もない奇跡の物語。
大枠としては組織的に魔法が戦争に持ち込まれているファンタジー世界を舞台にした戦記ものですね。
主人公は物語開始時点で若き戦争の天才として名が通っており、指揮官としても魔導士としても優秀。
頼れる部下や王族の知り合いもいる、と恵まれているように見えますが、肝心の所属国が弱小で
国全体では連戦連敗で亡国一歩手前というハードモード状態から物語は始まります。
そんな劣勢の中、生き延びるために薄い勝ち目を目指して戦いの道を駆け抜けていく主人公の姿が熱い。
ラストは一騎当千な敵の王族と大軍を撃破するという大戦果をあげ、街をひとつ奪還。
l拠点を得て、故国の独立回復への第一歩を踏み出すのだったエンド。
ラブコメ的には主人公の心情的にメインヒロインのエメラルドを将来的に娶るのは確定っぽい。
主人公は敵から「虎のマクアディ」と呼ばれ恐れられている炎魔導士の少年。
わずか十四歳にして王国史上最高の軍功を誇る戦争の天才で、桁外れの個人戦闘力を誇っている上
大人の言葉を吟味するだけの知恵と、正しいことなら受け入れる度量を併せ持っている。
十歳の頃から最前線で戦ってきたからか、肝が太く達観した性格で、いつも飄々としており
死ぬことを恐れてはおらず、死んでも仕方がないと割り切ってもいるが、死にたがってはいない。
愛国心は然程持っていないが、義務や命令、仲間に対する責任感は強く、裏切りはしないタイプ。
ヒロインはツンデレ姫将軍、引っ込み思案な第一王女、聡明な第二王女、クールな侯爵令嬢。
特に際立ってお気に入りのヒロインはなし。
評価はD。
戦記ものの場合、主人公は智謀を巡らす軍師か一騎当千な武官のどちらかとして描かれることが多いですが
この作品の主人公はその両取りであり、作中ではその戦争の天才っぷりが如何なく発揮されています。
これで十四歳というのだから末恐ろしいなんてものじゃないですし、そりゃ敵から恐れられますわな。
ただ、義務と責任に忠実であるがゆえに戦いから逃げることもできないのは不憫でしたが…
とはいえ、毎度不利な戦況をひっくり返す指揮官とか、見ているだけなら楽しいのも確かだったわけで。
そういう意味では戦記ものとしては実に面白かったのですが、一方で戦争シーンばかりが目立っているせいで
主要キャラの掘り下げや関係性の説明などが不足し、感情移入がしにくいのが難点だったかと。
戦争自体も、主人公のいる戦場に限ってはピンチがピンチになっていないのでドラマ性に欠けていましたし。
本筋はほんの少しだけ状況が好転したところでの完結と、典型的な「俺たちの戦いはこれからだ」な打ち切り。
一応最後のほうにその後が簡易的に描かれていましたが、最終的にどうなったのかは不明のままですし
判明している部分だけで判断すると、むしろ戦乱は悪化したみたいな感じで読後感は正直微妙…