異端な吸血鬼王の独裁帝王学   藤谷ある(HJ文庫)



圧倒的能力と現代知識チートで荒廃した異世界を革命するファンタジー無双譚。
大枠としては異世界転生ものですね。主人公が元々は異世界の存在であり、異世界→現代日本→異世界と
二度転生しているという点が特徴。現代日本を経由しているのは現代知識チートのための模様。
その上で、吸血鬼王という異世界におけるチート存在でもあるのだからそりゃ無双して当然である。
主人公の目的は人類と吸血鬼の共存による再建、と平和路線なので応援しやすいのもグッド。
異世界自体は元配下だった吸血鬼たちが暴走、人間は乱獲されて絶滅の危機と悲惨な状況なのですが。
ラブコメ面はメインヒロインのリーナを対外的に嫁ということにしていますが、さて。

主人公は現代日本から異世界へと再転生を果たし、五千年の眠りから目覚めた吸血鬼王。
前世では重度の日光アレルギーにより外出もままならず、引きこもりながら医療知識を貪欲に集めていた。
吸血鬼としては珍しく、温厚で人間を見下しておらず、基本血を吸うことも好んでいない。
二度の生で蓄積した知識と、吸血鬼としての実力は優れているが、意識の優位性は日本で過ごしていた
十七歳の少年としてのものが上にあるため、やや思慮に欠けているところがあり、常識にも疎く
また、色恋絡みの異性との交流にも不慣れであり、不慮の事態への対応も下手。

ヒロインは健気なヴァンパイアハンター、忠心厚き愛剣。
一番のお気に入りは人の姿を取っている主人公の愛剣「魔剣ティルヴィング」こと、ティル。
精巧な人形のように整った顔立ち、白い肌、青い髪の十六、七歳ほどに見える美少女。
北の大地で囚われの身になっていた自分を救ってくれた主人公に忠誠を捧げており
常に彼のことを第一とし、主人が快適に過ごせるよう、日々、自身の能力の研究と向上に努めている。
人間の食事をご馳走されて以来、その美味しさに嵌ってしまった。

現時点(一巻)においての評価はC。
主人公は吸血鬼王と肩書きこそ大仰ではあるものの、日本ではただの十七歳の少年であったがゆえに
精神年齢や人格はそちらの色が濃いため、親しみやすさとギャップがあるのが良い感じです。
吸血鬼と人間の共存をなすための策が「輸血」というのも、元現代日本人ならではですし。
これが現代日本が舞台の創作なら、吸血鬼が輸血パックで血を摂取していても珍しくはないのですが
異世界でそのシステムを作り上げよう、という試みが面白い。知識チートとはかくあるべし。
本筋は街を脅かす吸血鬼を討伐し、一時の平穏を得た主人公たちですが…?