鬱ゲー転生。   穂積潜(富士見ファンタジア文庫)



鬱展開を破壊せよ! あまりにも自由過ぎるギャルゲー転生物語。
大枠としては異世界(ゲーム世界)転生ものですね。ゲームの世界への転生というと、よくあるのは
剣と魔法のファンタジー、あるいはギャルゲーのどちらかで、この物語の場合は後者に当たるわけですが
この作品の特徴にして大問題なのは、ギャルゲーであると同時に鬱ゲーでもあるということ。
選択をミスすると、ヒロインたちは死んだり殺されたり人殺しをしたり、最悪の場合は世界崩壊したりと
正に鬱展開のオンパレードなわけです。転生者ゆえに原作知識のある主人公は、あらゆる手段を用いて
鬱フラグを破壊しようとするのですが、そりゃ誰だってそうする。でないとバッドエンド一直線ですし。
というか、ギャルゲー世界に転生したのに、主人公が全然ヒロインたちとの恋愛を考えてないのが笑えます。
ラブコメ面は今のところ進展なし。というか進展させたらかなりの確率で鬱フラグ発動なのが酷い。

主人公は鬱ゲーとして名を轟かせたギャルゲー「曇りなき空の下で(通称くもソラ)」の主人公に
転生してしまったがゆえに、あらゆる手段を使って鬱フラグ破壊を試みることになった元証券マンの青年。
前世の学生時代、上級ギャルゲーマーだったため「くもソラ」のことは裏設定まで知り尽くしている。
根は小心者でせっかちでクソ真面目だが、元社畜ゆえに強メンタルの持ち主であり、自分や世界の命運が
かかっている鬱フラグ潰しのためであるならば、思い切った行動をとることに躊躇がない。
ヒロインたちの裏設定や攻略過程におけるマイナス面を熟知しているがゆえに、色恋沙汰には消極的。
瞬間記憶能力を持っており、一度見たテキストならどんなものでも細部まで思い出すことができる。

ヒロインは嫉妬深い幼馴染、常識人な年上幼馴染、ツンデレお嬢様、戦闘狂な護衛。
素直な大人気アイドル、元気系俺っ娘、読書家な眼鏡娘、人懐っこい後輩、おっとり巫女、クールなメイド。
一番のお気に入りは「くもソラ」においてはツンデレ金髪お嬢様枠を務めるヒロイン、シエル。
お手本のような金髪ドリルが特徴の、イギリスからの帰国子女である美少女。
幼い頃から社交界を生き抜いてきたため、他人の視線や感情の機微には敏感で、性格も大人びているが
財閥特有の利害関係前提のドロドロした人間関係に憑かれているがゆえに、真の友情や恋愛に脆くてチョロい。
また、メルヘンチックな物言いを好んだり、基本自分に対し紳士だが、ここぞという時には感情的で
情熱のままに自分を攫いに来てくれるような衝動性も持ち合わせた殿方を求めていたりと、根は乙女。

現時点(一巻)においての評価はC。
鬱展開の破壊、というと悲劇の原因を解消するというのが王道ですが、この作品はその手段のスケールが凄い。
終盤でしか手に入らないチート能力を開幕入手したり、ラスボスを復活前に封印したり
更には現代の経済知識で荒稼ぎしてマネーパワーと人脈を得たりと力業&フリーダムっぷりが凄いw
まあ、原作自体が理不尽要素の塊のようなものなので、ある意味正しい対処方法ではあるのですが…
この主人公、結果的には世界を救っているわけですしね。そもそも介入しない=惨劇ですし。
しかし元ネタであるゲーム「くもソラ」が気になり過ぎる。本編中である程度はどんなゲームなのか
説明されていますが、実際にプレイしてみたい。まあ、鬱すぎて即ギブアップしそうですが。
本筋は突発的に発生した三つの鬱フラグを同時に捌ききり、次なるフラグ解決へ。