八城くんのおひとり様講座   どぜう丸(オーバーラップ文庫)



ぼっちの達人とリア充たちが繰り広げる青春ラブコメストーリー。
大枠としてはリア充指南ならぬ、ぼっち指南をメインにした学園青春物語ですね。
この手のぼっちとリア充の交流が描かれている作品は、どうしても最終的にはリア充側が優位をとるというか
どんなにぼっち最高を主張している主人公でも、程度の差こそあれどリア充に歩み寄る形になりがちですが
当作品はリア充側がぼっち側に歩み寄り、ぼっちを知ることで世界を広げていくのが面白い。
否定せず相互理解しあい、リア充はリア充で苦悩や面倒があるんだとしっかり描かれているのもいいですね。
ラストは、ぼっちとリア充は相互不干渉となるも、手を貸しあうこともあるのだったエンド。
ラブコメ的にはリア充側ヒロインにフラグが立ちそうになるも、主人公には既に彼女がいるというオチで終了。
なお、彼女である寅野つぐみとは後々結婚し、子宝にも恵まれる模様。

主人公はリア充グループの人気者・花見沢華音にぼっち術を教えることになったぼっち高校生の少年。
図書委員で本好き。「皆で出来る事は、一人でも大体楽しめる」が信条。
ひとりを苦に思わない達観したぼっちで、別に無理して誰かといたいとは思っておらず、グループ行動が苦手。
とはいえ、リア充側を嫌っているわけではなく、リア充とぼっちの間に優劣などないと考えている。
その一方で、お人好しでお節介、面倒見の良い性格であるがゆえに、苦労を背負い込んでしまいがちなところも。
一人で過ごす時の行動の中に勉強が入っていることもあり、成績は学年十位以内と高め。
また、インドア派に見えて、自転車を乗り回すのや一人旅が好きだったりと、結構アウトドア派。

ヒロインは読書家な図書委員。サブに人気者なリア充娘、仲間想いなスポーツ娘、引っ込み思案な転校生。
一番のお気に入りはひとりが好きな図書委員にして主人公の恋人、寅野つぐみ。
セミロングの黒髪に、地味だが整っている顔立ちのザ・文学少女といった感じの美少女。
極端に言葉が少なく、表情もあまり変わらないため他者からはクールで動じない、確固たる自分を持っている
強い人間であると思われているが、無感動や無関心というわけではなく、頭の中では色々考えたり
気にしたりしているのに、考えすぎて言葉が出てこなくなるタイプなだけだったりする。
読書が好きで、物語ならなんでも読み、特に物語の流れを意識して読むのが好き。

評価はB。
ぼっちこそが正義であり最高! とまではいかずとも、ぼっちの生き方が肯定されている世界観なので
悪い意味でのスクールカーストを意識することなく読めるのが新鮮かつ軽妙で良い感じでした。
主人公も自分がぼっちであることに対する卑屈さがなく、信条にもブレがないので見ていて気持ち良かったですし。
意外というか、サプライズだったのは物語開始時点で既に主人公に恋人がいるという点。
てっきりメインヒロインである花見沢華音を主軸にしたラブコメになるのかと思っていたので意表をつかれました。
物語そのものにはほとんど関わらず、ぼやかされていた存在である恋人が別視点枠で主役に躍り出る構成は
ミステリーの種明かしを見るような快感がありました。フラグを叩き折られた華音&智風はご愁傷さまですが。
本筋は「リア充と非リア充が対立しなくなった世界の学園ラブコメ」が絶妙な塩梅で描かれていたと思います。
優しい世界、とまではいかずとも、こういう世界もアリだし、いいなと思える感じがよかったですね。