主人公にはなれない僕らの妥協から始める恋人生活   鴨野うどん(オーバーラップ文庫)



妥協から始まる焦れ焦れ甘々青春ラブコメストーリー。
タイトルにも入っている「妥協」がメインテーマとなっている学園青春物語です。
片思いの相手、つまりは本命の女の子がいるにも関わらず、妥協で恋人を作ってしまう主人公。
主人公に恋しているわけではないけれど、恋人がほしいので妥協で彼を恋人にしたヒロインの楠木乃菜。
妥協をしない。すなわち、ラブコメで言うところの純愛を貫くこと。それこそが王道であるとするならば
この物語は邪道であり、打算から生まれた偽りでしかない。それでも、たとえ切欠が不純であろうとも
お互いを知っていき、二人の時間を積み重ねていけばその絆は本物になる。うん、これも間違いなく青春ですね。
ラストは、妥協から始めた二人の恋人生活はまだまだ続いていくよエンド。
ラブコメ的には主人公とメインヒロインの楠木乃菜の双方に明確な恋愛感情が発生しないまま終了。
…と、思いきや、最後の最後で、実は乃菜のほうは物語開始前から恋心を抱いていたことが判明。
主人公のほうも恋人生活に満更ではないですし、語られない未来で二人は本当の意味で結ばれるのでしょう。

主人公はふとした冗談からの流れで腐れ縁な同級生・楠木乃菜と恋人同士になってしまった少年。
「人生はつまるところ妥協」が信条で、自ら不幸に向かっていく人間が許せない。
学校ではお調子者を演じているが、本当は内向的で人間関係が不得意であり、人と話すのが苦手。
自己評価もやたらと低く、お調子者という仮面を被ってしか、他人と関われない。
良く言えば要領がよく生き方にそつがないが、悪く言えば器用貧乏なタイプ。
過去、夢に家族全員が振り回された時、上手くやれずに家族がバラバラになったことを後悔している。

ヒロインは毒舌ぼっち娘。サブに天真爛漫な学校のアイドル。
一番のお気に入りは主人公と同じ図書委員に属する腐れ縁なぼっち同級生、楠木乃菜。
首元まで伸びる真っ黒なおかっぱ頭、長い前髪の下に据えられている目つきの悪い瞳が特徴の美少女。
パッと見はどのクラスにも一人はいる大人しそうな女子だが、臆面もなく冷徹な言葉を吐いたり
誰に話しかけられても無機質な表情を浮かべ素っ気なかったりと、人との関わりを嫌い、孤高に生きており
性格も我侭で不条理な捻くれ者。態度も大きく、そのくせ小心なところもあったりととにかく面倒くさい。
その一方で、好きなものを語る時に生き生きと早口になったりとオタク気質。そしてロマンチストなところも。
過去のことから人に裏切られることを怖がっており、それでいて一人が寂しかったりと実は心が弱い。
ファッションに興味がないこともあってか、致命的なレベルでファッションセンスがなかったりする。
実は高校一年の頃から、自分に話しかけ続けてくれた主人公のことが好き。

現時点(二巻)においての評価はC。
悪い意味で使われがちな「妥協」という単語と真剣に向き合っているところに、この物語の深みを感じました。
ただ、テーマを意味のあるものとする必要性ゆえか、シリアスな背景が主人公たちに存在しているため
読み味が重い部分も。とはいえ、シリアス一辺倒というわけではなく、ちゃんと新米の恋人同士だからこその
初々しいカップルっぷりも描かれていましたし、二人の掛け合いも中々に愉快なので読後感は爽やか。
キャラに関しては、本命がいるのに別の娘と付き合い始めた主人公に最初こそ良い印象が抱けませんでしたが
次第に乃菜に絆されていく姿が微笑ましく、ここぞという時に見せてくれる男気は好印象。
乃菜はてっきり内向的な文学少女タイプかと思いきや、結構自己主張が強いのが意外で萌えました。
本筋は二巻での打ち切り完結ということで、中途半端なところで終わったという印象が強いですが
本編中で明らかにされなかった大きな嘘が、最後のおまけ的に明かされた部分は良かったと思います。