忘れさせてよ、後輩くん。   あまさきみりと(角川スニーカー文庫)



終わった初恋を、もう一度――片想いを埋め合う少年と先輩の、叶わぬ恋の三角関係物語。
大枠としては片思いを主題にした恋愛青春物語ですね。主要キャラが全員報われない片思いをしています。
恋敵が憎むべき自分の兄で、しかも彼は死去しているため好きな人の心に強固に残り続けている。
という、どう足掻いても己が望みを勝ち取れない立場にいる主人公が特に切ない。
好きな人のためにと思って動けば動くほど、彼女は自身の初恋に囚われてしまうわけですからね。
ラストは本当の初恋の相手である海果と再会を果たし、ハッピーエンド。
ラブコメ的にはラストの後に海果と結ばれそうですが、あとがきを読む限り実際にどう転ぶかは不明の模様。

主人公は大学進学で上京していた初恋の相手・広瀬春瑠と再会した高校三年生の少年。
かつてバスケ部のエースだったが、一年前に退部し、現在はただの受験生。
どちらかというと穏やかな性格で、陽気さこそないものの、コミュ力は低くなく、軽口も叩ける。
思い入れが重くなりがちで、誰かのために自分を平気で犠牲にできるタイプ。
子供の頃から春瑠に片思いしているが、彼女が自分の兄に片思いしていたのを知っており
それゆえに兄のことを嫌い、そしてバスケでも恋愛でも兄に劣っている自分に劣等感を抱いている。
顔は整っているほうであり、頭も悪くないこともあって女子人気は高めだが、当人は春瑠一筋。

ヒロインはお人よしな先輩、物静かな後輩、謎めいたJC。
一番のお気に入りは主人公が所属していたバスケ部のマネージャーである後輩、高梨冬莉。
細身の肩に毛先が触れるショートボブの、物静かな佇まいの美少女。
気遣いができ、真面目でお節介な性格。学年上位の成績を誇り、物静かに本を読んでいることが多いが
主人公の前ではクールなすまし顔で辛辣な台詞混じりによく喋る。そして、攻撃力は高いが防御力は低い。

評価はC。
少しのファンタジー要素と、ノスタルジーを感じさせる日常描写が素敵な透明感を醸し出している作品。
それぞれの片思いが丁寧に描かれており、それゆえの切なさの溢れっぷりがたまりません。
そして、すれ違いを乗り越えて、叶わない恋を清算し、前を向くという流れもエモさ抜群。
正直、主人公もヒロインたちも皆恋心が重いなんてものではないですが、読み味は割とサッパリしていたかと。
本筋はもう作中で主人公が言っていたように「恋愛に不思議な力はいらない」の一言に尽きましたね。
いやまあそれ言っちゃうとこの作品自体が成立しなくなるのは百も承知なんですが…
ただ、最終巻でメインヒロインが交代したのは意外な展開であり、同時に納得感もあって良かったです。
とはいえ、そのせいでタイトルの意味が薄れた感もありましたが。