経営学による亡国魔族救済計画   波口まにま(ファミ通文庫)



ブラック企業の中間管理職だった社畜が経営学の力で亡国を改革せんとする英雄譚。
大枠としては異世界転生からの戦記ものですね。主人公は元中間管理職なので内政要素が多め。
主人公の勢力(魔族軍)は人間勢力と戦争中なので、勿論戦争シーンもあっさり風味ながらあります。
滅亡間近、食糧は枯渇、戦力は消耗し、残るは女魔族が七人と中級以下の魔物だけ、からのスタートと
サブタイトル通りのヘルモードですが、だからこそ主人公が社畜生活で培ってきた経営学の力で
亡国を改革して立て直し、効率的な組織を作り上げ逆襲に転じていく流れにワクワクが止まりません。
ラブコメ面は好感度高めな女魔族七人に囲まれ、一見するとハーレム環境ではありますが
実際は恋愛感情ありなのは現状一人。しかも、主人公自身も色恋に興味なしと桃色展開は皆無。

主人公は通り魔に殺されて異世界転生した後、魔王に任命された元ブラックな大企業の部長。
目的を達成するために会社組織が最大限に機能している状態そのものに快感を覚える変態。
良心や人情といった他人に左右されるような不安定で繊細な心は持っていない冷徹人間にして
究極の効率厨&全体主義者で、目的達成のために非道・残虐とされる手段をとることも厭わない。
また、己の美学ゆえに、いかなる環境であっても組織のためならば手を抜くことはしないし契約にも忠実。
人物鑑定眼と人心掌握能力に長けており、演技ですらないレベルで他人が望む通りに振る舞うことができる。

ヒロインは甘えたがりドMな傲慢、臆病な怠惰、面倒見のよい憤怒、幼児体形がコンプレックスな色欲。
美食家な暴食、全方位にヤンデレな嫉妬、知識欲が強い強欲。
一番のお気に入りは七人の魔将の一人にして「怠惰」の二つ名を持つ魔族、プリミラ。
どこか物憂げな美貌、水色のセミロングの髪、凹凸がはっきりしている扇情的な身体を有する美人。
その正体はケルピーと水の精霊が気まぐれにもうけた忌み子。
二つ名の通り、いかにも何事にも動じなさそうで無感情なクール系の無口っ娘を装っているが
本来の性格は極度の臆病であり、戦闘を含むあらゆる危険なことを避け、効率的に敵を倒すように
振る舞っていた結果、周りの魔族から優秀だと思われ「怠惰」とみなされるようになった。
実際、頭脳明晰であり、追い込まれれば、どんなポジションでも上手くやるタイプで非常に優秀。
根本的にコミュ障で非リスク志向だが「誰にも会わず、ただ一人、安全な場所でのんびりと過ごす」
という夢のためならばできる限りの努力はする。

現時点(一巻)においての評価はC。
主人公が実に良い味を出しています。社畜主人公は今時のラノベでは珍しくもない存在ではありますが
その大半は社畜であることを嘆き、辞められるものなら辞めたいと考えているのがテンプレ。
だから異世界に転生してもスローライフを望んだり、宮仕えを忌避したりがお約束なのですが…
この作品の主人公は自分が社畜であることに喜びを覚え、組織に奉仕することが大好きな異端者なわけで。
しかも、厄介な上司もマスコミも法律もない世界で、自分が強権を振るえるトップとして動けるのだから
そりゃハッスルしちゃっても仕方ないですよね。普通に有能だから味方からすれば救世主ですし。
彼に仕える女魔族たちもキャラの濃さでは負けていない面子揃いなので賑やかさも申し分なし。
本筋は魔王軍の立て直しは順調、勇者の排除や乾坤一擲の反抗作戦も成功と幸先は良いものの
敵の大国二国は健在、新たなる勇者も登場、外大陸からの侵攻もほのめかされていたりと前途多難。