疑心恋心   丸山英人(ガガガ文庫)


詐欺を憎んでいる少年が、詐欺を行っている(と決め付けた)少女に付きまとう話。
と書くとコメディ一直線にしか見えないこの作品ですが、大筋はハートフルストーリーです。
勿論コメディもシリアスも含まれていますが、目立つほどではないですね。
前半の主人公が実にショボいキャラをしてますが、ヒロインが巧くツッコミを入れてます。
おかげでテンポが出ていてガッカリ感が薄れているかと。

主人公はひょんなことから一人の少女をストーキングすることになった少年。
世の中は善意でできていると無条件に信じるほどの純朴な人格だったのだが、オレオレ詐欺にあってから一変。
詐欺行為を筆頭に、悪行に敵意を剥き出しにするようになってしまった。
更には、それが長じて視野の狭い行動を取ることもしばしば。
しかし、それでも善人然としたところは残っているようで、理不尽なことには敢然と立ち向かう気質の持ち主。
あと、無類の猫好きだったりする。

ヒロインは白髪の後輩、クラスメートな幼馴染。
が、幼馴染のほうはかませ犬どころか影薄なため、オンリーヒロインといっても過言ではない。
一番のお気に入りは、特異体質を持つ後輩少女、釣見朱鷺子。
俗信や疑似科学を自分の周囲限定で現実のものとするという能力を持っている。
白髪に整った顔立ちと、一見すると神秘的な風貌の少女。
しかし、口を開けば誰に対しても不遜な口ぶりで容赦なく毒舌を放ちまくる。
が、それは自身の特異から人を遠ざけるためのものであり、本来は素直でしおらしい良い娘。
「ゲームをやりすぎるとゲーム脳になる」という俗信から、ゲームをあまりやったことがなく、弱い。

評価はB。
満遍なく上手く纏まっていて、オチも綺麗に決まっていると思います。
難を言えば、突出した点がなく、全体的に薄味なことでしょうか。
まあ、作品のテーマを考えればこれは致し方ないところではありますが。
後は主人公の器のショボさが気になりましたかね。
後半は結構頑張っていましたが、前半の残念さ加減がなぁ。おかげであんまり感情移入できなかった罠。
対して、ヒロイン朱鷺子の可愛らしさは素晴らしかったですが。恋する乙女は無敵のくだりは胸キュン。
おそらく一巻完結かと思われますが、ネタ的に続巻いけそうな感じの作品ですね。
ところで地味に気になっているのですが、ヒロインの朱鷺子は今回が初恋なのだろうか?
だとすれば俗信である「初恋は実らない」が発動することになるわけですが。