現実でラブコメできないとだれが決めた? 初鹿野創(ガガガ文庫)
ライトノベルに憧れた少年が現実をラブコメ色に染め上げる、異端の学園青春ラブコメストーリー。
義理の妹も、幼馴染も、現役アイドルな同級生も、ミステリアスな先輩も、男の親友キャラもいない。
そんな限りなくリアルに近い世界観の中で「ラブコメのような体験をしてみたい」というラブコメ好きならば
一度は頭に浮かべたことがあるであろうその願望を大真面目に実現させようと奮闘する主人公の話です。
普通に考えれば無謀極まりない野望ではありますが、この作品の主人公は「調査」「データ分析」「反復練習」
という、ある意味ラブコメの対極にある現実的な要素をふんだんに用いてラブコメを作り上げていきます。
その情熱には正直圧倒されますし、脱帽するほかないですね。正直憧れます。真似は絶対できないでしょうがw
ラストは現実をラブコメに塗り替えることに成功し、ラスボスを救って完全無欠のハッピーエンド。
ラブコメ的には主犯(ヒーロー)な主人公と共犯者(メインヒロイン)な上野原彩乃が結ばれて終了。
主人公はラブコメに全てを捧げ、現実でラブコメを実現しようとしている少年。
これといった特技を持たず、コミュ力、勉強、運動、容姿も普通。
ラブコメが何よりも大好きで、ラブコメ作品について語ったら相手にドン引きされるほどハイテンションになる。
何に対しても突き抜けた性格で努力家だが、一つの事に集中すると視野が狭くなり暴走しがちなのが玉に瑕。
想定済み・予測範囲内のことに関しては常に自信満々な態度を崩さず、間違いを犯さないが
不意打ちされたりイレギュラーに直面すると途端にポンコツになったりと、根はヘタレで不器用。
趣味は調査で、気になることがあれば調べないと気がすまない性分。
ヒロインはツッコミ役な共犯者、パーフェクトヒロイン、ヤンキー系ギャル、お祭り好きな先輩。
特に際立ってお気に入りのヒロインはなし。
評価はC。
とにかく主人公のラブコメにかける熱量が凄い。そのトンデモ発想と行動力は正に存在感の塊でした。
そのやる気を世のため人のために使えれば、というツッコミすら許してくれない狂気が心を鷲掴みにしてくれます。
自分自身を貫く。この言葉をここまで体現している主人公は他にはいないと評しても過言ではないでしょう。
冷静かつ客観的に見れば怖いし、端的に言えばキモイの三文字で済んでしまうんですけどね…
ヒロイン候補を含む「登場人物」候補たちにしても、一筋縄ではいかない面子揃いですし
ある意味、環境自体は整っていたわけで。まあ、だからこそ肝心のラブコメに持ち込むまでが長かったわけですが。
本筋は非現実の媒体(ラノベ)で「現実でラブコメする話」という、無茶苦茶極まりない、ある意味究極の
メタフィクションを見事に成立させ、駆け抜け切ったという一点でお見事としかいいようがありません。
まあ、ラノベらしくご都合主義もチラホラ見られましたが、テーマを考えれば逆に「それでこそ」でしたしね。
あえて難を言えば、ラブコメに拘るがゆえに、自然なラブコメらしさが薄くなっていた点ですが…
これは仕方ないですね。作中で主人公も言ってましたが、これは「ラブコメを作るラブコメ」なわけで。