オーク英雄物語   理不尽な孫の手(富士見ファンタジア文庫)



種族の誇りと名誉を守るため、そして童貞を捨てるため嫁探しの旅に出たオークの英雄の物語。
サブタイトルにある通り「忖度」が物語の中核を担っています。周囲から見れば主人公は寡黙でミステリアス。
そして、底知れぬ力と何らかの事情を持つ英雄なわけですが、実際のところ彼は嫁探しをしているだけ。
しかし、英雄の肩書きゆえに周囲は常に彼に忖度してしまい、すれ違いが発生してしまうわけですね。
とはいえ、彼が英雄としての実力と気質を兼ね備えていることは確かなので、自然に振る舞った結果として
英雄による世直しの旅にしかなっていなくても、悪人以外は損をしている者がいないわけで。
あえて言うなら、嫁がいつまでたってもゲットできない主人公が不幸ではあるんですけどね。
ラブコメ面は巻ごとのゲストヒロインにフラグこそ立つものの、すれ違いや勘違いで明確に結ばれるまではいかず。
というパターンで進んでいく様子。そも、嫁探しの旅なのに「長い旅になる」と書かれていますしね…

主人公は十二の種族を巻き込んだヴァストニア大陸の戦争で、ありとあらゆる敵を打ち倒し
「英雄」の称号を与えられた、全オークから尊敬と信頼を集めている最強の戦士。
援軍の要請をされたら、三日三晩寝ていなくても駆けつけてしまうほど真面目な性格で普段は寡黙。
オークにしては思慮深く、冷静沈着で器も大きく、主君への忠誠心も厚いなど、英雄の名に恥じぬ人格の持ち主。
勿論、闘いとなれば誰よりも勇猛果敢であり、いかなる敵が相手でも怯むことはない。
しかし、それゆえに英雄としての矜持もあって自分が童貞であることに悩みを抱いている。
旅の中で勉強中ではあるが、元々オークには恋愛という概念がないため、一般的な色恋沙汰には疎く鈍感。

ヒロインは勝気な新米騎士、エルフの大魔導、ドワーフの鍛冶師、ビーストの姫、戦友なサキュバス。
健気なオーガ、無垢なドラゴン、猪突猛進なデーモン
一番のお気に入りはエルフの大魔導にして千二百歳になる大英雄の一人、サンダーソニア。
サラサラろした腰まで届く長い金髪、切れ長の青い目、長い耳。顔は小顔で胸もエルフらしく小ぶりな美人。
責任感が強く、エルフ全体を家族のように思っており、皆の名前を憶えていて、と正にエルフの大婆ポジション。
普段は格好つけで意地っ張りゆえに威厳のあるエルフの英雄らしい振る舞いをとっているが
素は割とオヤジ臭く、どこか間も抜けており、口も軽い。一方で自分の色恋に関しては奥手。
常に結婚相手を探しているが、重鎮過ぎることと、主人公が原因である不名誉な噂のせいで未だ独身。
婚期に焦るがゆえに結婚相手は誰でもいいと思っているのだが、結婚後の理想は高い。

現時点(六巻)においての評価はC。
この手の誤解やすれ違いをメインにした話の主人公は、どうしても外面と中身の剥離が酷くなるものですが
この作品の場合は「童貞である」こと以外は大体外面通りなので、無理な展開が極力ないのがいいですね。
毎度発動する忖度にしても、お互いが善意で気遣いをしているだけなので不快感を覚えることもないですし。
だからこそ、最大の目的(嫁探し)を達成できない主人公の姿に笑いがこみ上げてくるわけですが。
いや本当、この主人公実力も人柄もガチの英雄だし、紳士的で他多種族への偏見も持っていなかったりと
オークであることがマイナス材料にならないくらいの男も女も惚れるイイ男なんですけどね。
実際、忖度ゆえに結ばれるところまでいかなかっただけでヒロインとのフラグ自体は立ちましたし…
本筋はドラゴンを撃退し、その後遂にプロポーズを成功させるも、意思疎通のすれ違いから童貞脱出はならず。
そして次なる目的地となるヒューマンの飛び地にはデーモン王復活を目論む暗躍者たちもやってくるようで…?