やがて僕は大軍師と呼ばれるらしい   芝村裕吏(MF文庫J)



無能の烙印を押されながらも、のちの世で大軍師として語り継がれる少年の異端の英雄譚。
人類が圧倒的な銃の力でファンタジー種族を滅ぼしゆく時代がこの物語の舞台となっているわけですが
そんな中であえて時代遅れの弓を使おうという主人公に浪漫と心意気を感じますね。
妖精を管制機のように使うという発想も面白い。でも、軍師なのに自分も直接戦ってばかりなのはどうなんだろう。
まあ、弓兵としても優秀なのは確かですし、ちゃんと節々で軍師たる智謀の片鱗も見せてはいるのですが。
ラブコメ面は主人公自身の価値が高まったことで縁談が舞い込むようにあるも、当の本人はどこ吹く風。

主人公は人間の身でありながらエルフの村で育つも、村の掟を破ったことで追放され
その後、金貨姫フローリンが治めるイントラシア領に身を寄せ、戦いに身を投じることになった少年。
物腰穏やかで冷静沈着、思慮深く頭が回り、我慢強い性格だが、超のつくレベルのお人好しであり
誰かを見捨てることを嫌い、たとえ戦場であっても相手を傷つけ、殺すことをよしとしない。
エルフに育てられた故に人間の常識を知らず、金銭欲や出世欲が皆無で身分にも頓着しないところがある。
泣いたり困ったり怯えたりしている娘を見ると母を思い出してぞんざいな口調になってしまう癖を持っており
また、基本的に温厚な気性ではあるが、家族愛ゆえに育ての母を侮辱されると激しい怒りを見せることも。

ヒロインは世話焼き好きな領主、武闘派な上司、忠義熱き人狼。サブに悪戯好きなピクシーやゴブリンな義娘など。
一番のお気に入りは金貨姫フローリンの重臣シンクロの娘であるハーフオークな上司、ナロルヴァ。
ポニーテールに大きめの犬歯が特徴的な、背の高い武人美少女。
良く言えば感情豊か、悪く言えば直情思考で短気な性格をしているが、武人としては忠義に厚く、潔い。
色恋には純情で、女扱いされると喜んだり、許嫁の一人もいないことを気にしていたりと結構乙女。

現時点(三巻)においての評価はC。
権能と呼ばれる特殊スキルやステータスウインドウなど、ゲーム的な設定が目立つ世界観ですが
戦乱の世になった経緯や種族ごとの社会の説明、戦争における武器の運用法などが上手く描かれているため
話に入り込みやすいのがいいですね。作品の方向性的にステータスウインドウはいらなかった気もしますが。
キャラに関しては「他者に優しすぎる」という戦記ものの軍師を務めるには致命的な権能を有しながらも
培ってきた知識と経験、そして欠点であるはずの優しさを武器として戦う主人公が印象的。
ヒロインたちも、戦場では凛々しくありながらも日常では一人の乙女としての可愛らしさを見せてくれますし。
本筋は敵国の大侵攻を見事な智謀によって撃滅するも、それによって大陸の情勢が動き出し…?