千歳くんはラムネ瓶のなか   裕夢(ガガガ文庫)



新時代を告げるリアル「強キャラ系」青春ラブコメストーリー。
大枠としてはスクールカーストを題材にした学園青春ものですね。一巻では非リア充をリア充にするという
いわゆるリア充による成り上がり指南ものの要素がありますが、驚きなのは主人公がリア充サイドであること。
この手の話の主人公は陰キャオタクやぼっち、偏屈者など、学生社会における地位が低い人間がお約束ですが
対極のカースト上位者が主人公となり、陽キャ側の視点で学園生活が描かれていくというのが新鮮です。
リア充主人公。発想自体は誰もが一度は思い浮かべそうではあるものの、どう考えても読者受けしなさそう
という困難から逃げずに作り上げられたこの作品は正に新時代の旗手に相応しい面白さがあると思います。
ラブコメ面は立場とスペックが相まってかなりモテモテな主人公。後は恋を知るだけですが…

主人公は引きこもり生徒の更生を担任教師から依頼された学内トップカーストに君臨するリア充の少年。
ビジュアル、話術、学業、運動など、あらゆる面で高スペックな能力を持っており、異性にもモテモテだが
それ故周囲にやっかまれることも多く、学校裏サイトでの通り名は「ヤリチン糞野郎」
明るく気さくな性格で、硬軟織り交ぜた社交ができ、いつもシニカルに飄々とした態度をとっているが
根はお人よしのヒーロー気質で、常に皆の思い描く自分で在り続けなければならないと考えている。
リア充としては、自分が生まれながらに与えられているものと、それが周囲に及ぼす影響をちゃんと自覚し
適切にコントロールするタイプで、皆が楽しむことが優先であり、マウント取りや地位の維持には興味がない。
自身の美学として「美しく生きられないのなら、死んでいるのとたいした違いはない」を掲げている。
超えられそうにない壁にぶち当たった時、楽しくてつい笑ってしまう癖を持つ。
高校一年時の夏休みに野球部を退部しているが、それまでは県でも指折りの野球選手だった。

ヒロインは超天然男たらし娘、努力型リア充娘、さっぱり系スポーツ娘、女優タイプ娘、ミステリアスな先輩。
七巻にて優等生な後輩が参入。
一番のお気に入りはトップカーストである主人公グループの一員にして吹奏楽部所属の級友、内田優空。
サイドでひとつにまとめ、肩の前に流した長めの髪と、心持ちたれ気味の目尻が特徴の美少女。
元々は地味なほうだったが、徐々に垢抜けて高校一年生の途中から主人公たちと行動を共にするようになった。
優しく物腰穏やかで温かな性格。距離感の取り方が上手いが、それゆえに相手の歩調に合わせてしまいがち。
主人公の「正妻」を自認する柊夕湖に対し、「妾」扱いされることもしばしばだったりする。
料理をはじめとした家事の熟練度はベテラン主婦レベル。
たまに笑いのツボが人とズレることがあり、一回スイッチが入ると止まらなくなる。

現時点(八巻)においての評価はB。
スクールカーストものにおけるリア充というと、とにかく場の空気や対人関係の距離感に神経を使っていたり
露骨にカースト下位の人間を見下して王様を気取っていたりといけ好かないキャラが多いです。
主人公にも勿論少なからずそういう面はあり、非リア充側からだと理解不能な部分があるのは確かですが
敵役ではなく、物語の主役として描かれているだけあってそれらのマイナス要素を軽く吹き飛ばすだけの
パワーを持っており、リア充ならではの力で問題を解決していく様は格好いいですし爽快感も抜群ですね。
ヒロインたちもトップカーストお約束の女王様系がいないからか、嫌味さを感じることはないですし。
本筋は毒りんごと魔女の夜を経て、いよいよ学園祭本番へ。