つるぎのかなた   渋谷瑞也(電撃文庫)



剣に全てを捧げ、覇を競う高校生たちの青春剣道物語。
大枠としては剣道を題材にしたスポ根系の雰囲気全開な部活動ものですね。ただ、メジャーで団体競技な
野球やサッカーと違い、マイナーで個人競技、主人公が物語開始時点で最強クラスということもあってか
仲間たちとの青臭い友情話はありますが「一緒に強くなろう!」みたいな切磋琢磨要素は薄め。
その分、ライバルの存在の強調と、命を賭して抜き身の真剣で戦うファンタジーもののバトルをも上回る
演出過剰なまでの濃厚なガチ勝負描写の熱量は申し分なく、読んでいて手に汗握ります。
勿論、年頃の学生たちが主役なだけに青春要素も多めなのでずっと読中肩肘張り続ける必要もありません。
ラストは念願の勝利を手にし、そして少年は遥か未来のつるぎのかなたへ、光の中を駆け抜けていったエンド。
ラブコメ的には二者択一の結果、ダブルヒロインの片割れである深瀬史織と結ばれて終了。
なお、もう一人のヒロインである乾吹雪は最後に勝てばよい理論で諦めていない模様。

主人公はかつて最強と呼ばれながら、ある事情からもう二度と剣を握らないと誓った少年。
数ある剣道大会の中でも最強を冠する蒼天旗六大道場大会を十四歳にして制した経験を持つ。
気づかいができて人当たりもよく、初対面の異性が相手であっても物怖じしないコミュ力の持ち主だが
実は剣と一部の人間のこと以外に対しては心の底では期待をしていないため冷めた見方をしており
また、強くなり過ぎてしまったがゆえに、負けてみたい、本気になりたいと願っている。

ヒロインは天邪鬼な後輩新米剣士、剣道一筋の剣姫。
一番のお気に入りは私立のお嬢様学校桐桜学院に通う剣道一筋の高校二年生、乾吹雪。
くりくりとした瞳、瑞々しい黒髪、真っ白で綺麗な肌、控えめな胸、そして整いすぎな小顔の美少女。
達観した兄と異なり「剣姫」と呼ばれるほどの強さを手にしてなお、より高みを目指し続けていて
剣に関してはどこまでもストイックかつまっすぐで我儘、自他共に厳しい性格だが
それ以外の部分は要領悪い子脳筋肉ちゃんな大食らいポンコツ娘であり、ほっとけない人をダメにする女。
自分を完膚なきまでに負かし、兄よりも強いかもしれないと感じた主人公に恋心を抱くようになった。
小さい頃の夢はおよめさん。

評価はA。
部活動ものという都合上、どうしても登場人物の数が多くなっているがゆえに描き分けに難があり
また、視点変更が頻繁に行われているため少々ごちゃごちゃし過ぎていて読みにくさを感じることもありますが
それがクライマックスでは盛り上がりを補助する役割を果たしていることも確かなので文章としては一長一短?
キャラに関しては主人公とそのライバルを筆頭に、剣士たちの剣に狂ってる感がとにかくインパクト大でした。
ヒロインたちも似たようなものではありますが、その分恋する乙女時の可愛らしさとのギャップが凄い。
まあ、一番主人公のヒロインをしているように見えるのはライバルの男子だったのですけどもw
本筋は勝負も恋愛もキッチリ決着をつけて、その上で続いていく未来を描いての完結と、読後感は完璧でした。
いやー、しかし作中のどの勝負も熱い名勝負ばかりでもう胸熱を通り越して胸やけ起こしまくりでしたね。